女子をなご)” の例文
ひかる源氏の物語はいみじき物なれど、おなじき女子をなごの筆すさびなり。よしや仏の化身といふとも人の身をうくれば何かことならん。
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
女子をなごといふものは理が分らいで困るものぢや。——(菊枝に。)やいの、女子よ。南蛮寺が人を拉らふわけはしやほにおぢやらぬ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
ちごを静かに寝床にうつして、女子をなごはやをらたちあがりぬ。ざしさだまりて口元かたく結びたるまゝ、畳の破れに足も取られず、心ざすは何物ぞ。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あては女學校へも行かんしようむない女子をなごやけれど、物の理窟いふものは、教育があらうと無からうと、つゞまり同じ事やろと思ふとりまんね。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
何の御用と問はれて稍〻、躊躇ためらひしが、『今宵こよひの御宴のはてに春鶯囀を舞はれし女子をなごは、何れ中宮の御内みうちならんと見受けしが、名は何と言はるゝや』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そこで、とかく弱蟲よわむし女子をなごばかりが玩弄かまはれまするとけつかる。いや、おれは、野郎やらうをばはふし、女郎めらうをば制裁かまはう。
うちぢやお姉さんが早う死んだし、勝も長生きをせんやうに思はれるけれど、女子をなごは婆さんになるまで生きて居らん方が結句けつく仕合せなやうに思はれる。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
手に白刃を拔き持ちてかの女房を逐ひしりぞけ、大音に呼びけるやう。物にや狂ふ、女子をなご聖母マドンナいかでか汝がたすけを求めん。
お縫 お兄樣あにいさまが三年越し馴染んでおいでなさる吉原の遊女、大菱屋の綾衣とかいふのはのやうな女子をなごかえ。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
女子をなごは黙つてゐろ!」と、ダニーロはむつとして、「お前たちにかかづらはつたが最後、こちらまであまつ子にされてしまふ。おい、こら、煙草の火をかせ!」
けれども私は矢張矮人が恐しうございます。それから私は、あの空から現れて、静に其処此処をさまよひ歩く、丈の高い、腕の白い、女子をなごたちも怖うございます。
「何が妙や。……お前がまだ生れん先きから女子をなご狂ひしてた人と、んするのが妙やちふんかいな。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
『七日八日見ねえでるうちに、お定ツ子アぐつ女子をなごになつたなあ。』と、四辺構はず高い声で笑つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さアどうぞお泊りなされ、——おい、女子をなごはをらんかや、お客樣だよ」と奥へ聲をかけてくれた。
旅人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
若い男の所へ若い女子をなごが度々出入でいりしたら、そんな事は無うても、人がかれこれ言ひやすい、えですか、そしたら、間はとにかくじや、赤樫様あかがしさんと云ふ者のある貴方のからだきずが付く。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「然し今時いまどき女子をなごは、昔と違ふて油断が出来んけれ、御気を御付けたがえゝぞなもし」
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「この女子をなごは『ろおれんぞ』様の種ではおぢやらぬ。まことは妾が家隣の『ぜんちよ』の子と密通して、まうけた娘でおぢやるわいの」と思ひもよらぬ「こひさん」(懴悔)をつかまつた。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「何でもな、男には皆『ノ』の字が附くんぢや。ジワンノ。カラノ。ミギリノ。などと言ふ風にな。女子をなごぢやつたらジワンナ。カラナ。イザベリナ。と云ふやうに『ナ』が附くんぢや。」
いでやあれにあれしは敷島のうたばかりか、道徳すたれて人情かみの如くうすく、朝野の人士、私利をこれ事として国是の道を講ずるものなく、世はいかさまにならんとすらん、かひなき女子をなご
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
ぬしありながら岐道ふたみちかけて、瀬十郎ぬしと浅からず、ちぎりし罪の報い来て、いける地獄に堕ちにけん、世に薄命なる女子をなごはあれども、わが身に増るものあるべしやと、過来すぎこしかたを胸にのみ
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むね旅出立たびでたちわな/\震ふばかりなり宿の女子をなご心得て二階座敷の居爐裡ゐろりに火を澤山入れながら夏の凉しき事を誇る蚊がぬとて西洋人が避暑に來るとてれが今のさぶさを凌ぐたしにはならず早く酒を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
そこ通る女子をなごとらへてはだかにせう、といふたれば皆逃げてけるかも
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
孕み女子をなごになりやあした
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
送りけるが娘お幸は今年ことし十七歳となり尋常なみ/\の者さへ山茶も出端でばなの年頃なるにまして生質うまれつき色白いろしろにして眼鼻めはなだちよく愛敬あいきやうある女子をなごなれば兩親りやうしんは手のうちたまの如くにいつくしみ手跡しゆせき縫針ぬひばりは勿論淨瑠璃三味線も心安き方へ頼みならはせ樂みくらして居ける處に一日あるひ長八は淺草觀音へ參詣なし夫より上野の大師へ參らんと車坂くるまざか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我れを訪ふ人十人に九人まではたゞ女子をなごなりといふを喜びてもの珍しさにつどふ成けり、さればこそことなる事なき反古紙作り出でても今清少よ
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ゆるしたまれはいかばかりにくきものに思召おぼしめされて物知ものしらぬ女子をなごとさげすみたまふもいとはじ、れはかゝ果敢はかなきうんちて此世このようまれたるなれば
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ロレ まゝゝ、滅相めっそうなことをすまい。これ、をとこではないか? 姿すがたればをとこぢゃが、そのなみだ宛然さながら女子をなごぢゃ。狂氣きちがひめいたその振舞ふるまひ理性りせいのない獸類同然けだものどうぜん
「さあ、別嬪いふ程の事もおまへん。なあ、おりかさん、あてやつたらお米さんの方がええ女子をなごやと思ふが。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
女子をなごで月給取りになるのも、容易なことぢやあるまい。」と、母親は感じのない聲で獨り言のやうに云つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
女子をなごいのち只一たゞひとつの戀、あらゆる此世の望み、樂み、さてはいうにやさしき月花つきはなの哀れ、何れ戀ならぬはなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
『七日八日見ねえでるうちに、お定ツ子アぐつ女子をなごになつたなあ。』と四邊あたり構はず高い聲で笑つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
高綱 (六郎を見かへる。)女子をなごばかりの出迎ひは無禮であらう。そちもまゐつて御案内申せ。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「猪のはん、女護の島へ行きなはつた折の話しとくなはれ、猪のはんみたいな男でも、女子をなごはんが大勢で引ツ張らはりましたやろ。……皆かつゑてゐやはるさかい。おほゝゝゝ。」
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
今少し多く女子をなごに交り給へ。われ等はおん身を教育すべし。おん身の友と我夫とは、今その考古學の深みにまり居て、身動きだにせざるならん。いざ共に「フアレルノ」を飮まん。
菊枝 その揚句には親達も、男子おとな女子をなごも見さかい無う切り付くるのぢや……
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
草臥ぶれておのれ素直になりにけり酒やふふまな歌はせ女子をなご
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
殿とのにくしみにふべきほどの果敢はかなきうんちて此世このようまれたるなれば、ゆるしたま不貞ふてい女子をなごはからはせたまふな、殿との
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「……東京の女子をなご變梃へんてこな言葉を使ふぜ。一寸道を訊いても、ぺら/\と云うて何やら譯が分らん。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
女子をなごこそ世にやさしきものなれ。戀路はつに變れども、思ひはいづれ一つ魂にうつる哀れの影とかや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
『嘘だあでヤ。俺ア、酒でも飲んだ時アほか女子をなごさもぐども、其麽そんたに浮気ばしてねえでヤ。』
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
正親 おゝ、此頃の女子をなごは惡魔よりもおそろしいと、師匠の晴明どのが常々申されてゐるわ。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「太政官、あの年になつて女子をなご知らんのやてなア。何んぼえらさうにしてもあかんわい。人間に生れて來た甲斐があろまい。」と、材木屋の二男常吉はむづかしい顏をして言つた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
あゝ、モンタギューどの、このやうにおろからしううたなら、わしを蓮葉はすはなともおおもひなさらうが、巧妙じゃうず餘所々々よそ/\しうつくりすます人達ひとたちより、もそッと眞實しんじつ女子をなごになってせう。
こゝの隣房なる英吉利イギリス婦人の色蒼ざめて心冷なるは、我が堪ふること能はざる所なり。おん身も女子をなごを見ることをば嫌ひ給はぬならん。ゆるし給へ、こは我ながらおろかなる問なりき。
むらさきよとはやし立つる誠は心なしのいかなる底意ありてともしらず、我をたゞ女子をなごばかり見るよりのすさび、さればその評のとり所なきこと、疵あれど見えずよき所ありともいひ顕はすことなく
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
城ヶ島の女子をなごうららに裸となり見ればほと出しよく寝たるかも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あれでも女子をなごを見たら、何とか思ははるやろか。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ちごしづかに寢床ねどこうつして女子をなごはやをら立上たちあがりぬ、まなざしさだまりて口元くちもとかたくむすびたるまゝ、たゝみやぶれにあしられず
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
近いためしは今わたし等が擣つてゐる修禪寺紙、はじめは賤しい人の手につくられても、色好紙いろよしがみとよばれて世に出づれば、高貴のお方の手にも觸るゝ。女子をなごとてもその通りぢや。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「わしが二十四の年やさかいな、今から十六年前や、よいか。二十五まで背丈せたけは伸びるちう其の前の年や。五斗俵は樂に差し上げられるし、女子をなごは三四人……ぢや。其の頃天滿山官林に天狗さんがゐるちうでなア。……」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)