大人たいじん)” の例文
大人たいじん手足しゅそくとなって才子が活動し、才子の股肱ここうとなって昧者まいしゃが活動し、昧者の心腹しんぷくとなって牛馬が活動し得るのはこれがためである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
柾三氏もおっとりとした大人たいじんの風格があり、子供がないためだろうか、人の集まるのをよろこび、しばしば酒を出してもてなした。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
張蘊は眼を斜めにして、そういう孔明を見やりながら、わざとほかへ話をそらしては、大人たいじんを気どって、傲慢ごうまんな笑い方をしていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
型と、礼儀を、重んぜざる者に、大人たいじんとなり、君子となり、達人となり、名人となり、聖域に至るの人ありというためしを聞かない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日本の大人たいじんらのうちに、もし薬を持っている人があるならば、どうかお恵みにあずかりたいと彼は懇願するように言った。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そめ久松ひさまつがお染久松ぢや書けねえもんだから、そら松染情史秋七草しやうせんじやうしあきのななくささ。こんな事は、馬琴大人たいじんの口真似をすれば、そのためしさはに多かりでげす。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ゆゑいはく、これ大人たいじんろんずればすなはもつおのれ(七二)かんすとせられ、これ(七三)細人さいじんろんずればすなはもつて((己ノ))けん(七四)ひさぐとせられ
木石を拝する偶像信者なり、黄土の堆積を楽む守銭奴なり、しかして基督信者にはあらざるなり、聖アウガスチンいわく「大人たいじんの遊戯これを事業という」
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
根室では眼が赤くただれて、百姓然としていた金原も、見事な大衣を着て、俺の前にゆったりと腰かけているのを見ると、まるで中国の大人たいじんのようだった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
悠揚ゆうようせまらぬ楽天的な大人たいじんの風格をもちながら中々の毒舌家であるステファーノヴィチといふ会計課長だの
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
持って蒋介石がやって来たって、大人たいじんの方でも背水の陣を敷いてやるでしょう。どちらかというと、大人の方が、どうしても負けられない戦じゃありませんか。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
其頃そのころ諸侯方しよこうがたされ、長兵衛ちやうべゑ此位このくらゐ値打ねうちが有るといふ時は、ぢき代物しろものを見ずに長兵衛ちやうべゑまうしただけにお買上かひあげになつたとふし、此人このひと大人たいじんでございますから
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
喧嘩けんかに礼儀は、禁物である。どうも私には、大人たいじんの風格がありすぎて困るのである。ちっとも余裕なんて無いくせに、ともすると余裕を見せたがって困るのである。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大人たいじんには赤子せきしの心あり」と唐人も言っておるから、ロシア人は大人または哲人であるに相違ない。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「君等に大人たいじんの心がわかつてたまるものか」と村井はくわつ一睨いちげいせり「泥棒の用心するのは、必竟つまり自分に泥棒根性こんじやうがあるからだ、世に悪人なるものなしと云ふのが先生の宗教だ、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
二階の十畳の広間に引見した大人たいじんは、風通小紋ふうつうこもん単衣ひとえに、白の肌襦袢はだじゅばん、少々汚れ目が黄ばんだ……兄妹分の新夫人、お洲美さんの手が届かないようで、悪いけれども、新郎
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又はかの「天才」かの「英雄」或は大人たいじん超人てうじん、すべていまはしき異形いぎやうのものを敬せむや。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
一度三馬が下町の真ん中からぶらりとこの山の手の六樹園大人たいじんを訪れたことがあった。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
吝嗇者りんしょくもの日済ひなし督促はたるように、われよりあせりて今戻せ明日あす返せとせがむが小人しょうじんにて、いわゆる大人たいじんとは一切の勘定を天道様てんとうさまの銀行に任して、われは真一文字にわが分をかせぐ者ぞ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
他人の諫言かんげん忠告をいつでもれる心の態度を有する者は真の大人たいじん、君子、英傑である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
日本の神話(仏教渡来の頃までを含めて)で最大の巨人は大国主という大人たいじんだね。
「ああ、これは大人たいじん、ようこそ……こんな遠路をはるばると恐れ入りますな……」
ればおおいに立身して所謂いわゆる政治界の大人たいじんとならんか、是れもはなはだ面白くない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
三本ひげを蓄えた顔は、中国の大人たいじん風貌ふうぼうによく似ている。そして、顔の造作からだの格好に至るまで、日本の鯰に寸分違わぬのであるけれど、実はこれは鯰ではないのである。鱈であるのだ。
(新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
大臣もまたりっぱな人物でありながら大人たいじんらしい寛大さの欠けた性格であるから、一徹に目にものを見せようとされないものでもない、失敬である、もう絶交するというような態度をとられて
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
門を這入はいるとお寺かと思われるほどな規模で数棟の見事な建物が、白い砂の上に夢のように浮き上っていた。徐氏は如何にもこの国らしい老大人たいじん。愛息の徐廷権は拳闘家として知れていると言う。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「日本人だったら、大人たいじんは、なにか、わしに呉れるんですかい」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大人たいじん、私もお仲間になります」
鴉片を喫む美少年 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
柾三氏もおっとりとした大人たいじんの風格があり、子供がないためだろうか、人の集まるのをよろこび、しばしば酒を出してもてなした。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれど、晁蓋の大人たいじんふう、呉用の学識、公孫勝や林冲の英気などが、自然、下風かふうに映るものか、不平などは見たくも見られない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大人たいじんの莨の乏しいことは私たちも知っていると、彼は云うのである。実際、戦地では莨に不自由している。彼はさらに片言かたことの日本語で、こんな意味のことを云った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その翌日病み疲れた枕辺まくらべに立って——地団太を踏んでみたけれど、彼はどうしてもその人を憎む気になれなかった——沈勇にして大人たいじんの風あるムク犬は今も無事で
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
モンテエニュ大人たいじん。なかなか腹ができて居られるのだそうだが、それだけ、文学から遠いのだ。
子供と違って大人たいじんは、なまじい一つの物を十筋とすじ二十筋のあやからできたように見窮みきわめる力があるから、生活の基礎となるべき純潔な感情をほしいままに吸収する場合がきわめて少ない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此のうち恭太郎きょうたろうという弟子がございましたが、親方にも当人にも年の分らない、色気もなく喰い気一方の腑抜ふぬけな男でございます。金重は大人たいじんゆえおろかなものほど愛して居りました。
「安大人たいじん、お前は下山してしまっては、なつかしの父上に会えぬではないか」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けれど手前は、第一にまず大人たいじんが悪人でないことを認めました。第二に、ご計画の義兵を挙げることは、すこぶる時宜じぎをえておると存じます。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中々なか/\大人たいじんは知らんところ御来臨ごらいりんのない事はぞんじてりましたが、一にても先生の御入来おいでがないと朋友ほういうまへじつ外聞ぐわいぶんわるく思ひます所から、御無礼ごぶれいかへりみず再度さいど書面しよめん差上さしあげましたが
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ここのうちの姓はなんというかと重ねて訊くと、彼はそこらに落ちている木の枝を拾って、土の上に徐という字を書いてみせた。そうして、日本の大人たいじんらはそこへ何の用事でゆくのかときかえした。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「総統総統。ただいま、軍師の呉用大人たいじんと、先ごろ梁山泊りょうざんぱくへ入った関羽かんうの子孫の関勝かんしょうとが、二人づれで、戦場のご報告にとこれへ見えましたが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヘヽヽ御冗談ごじようだんばかり……へえ成程なるほど……えゝ予々かね/″\天下有名てんかいうめいのおかたで、大人たいじんいらつしやるとことぞんじてりましたが、今日けふ萬屋よろづやうちはじめてくのだから、故意わざ裏口うらぐちからお這入はいりになり
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
酒を愛し、郷人を愛し、いつも春風駘蕩たいとうといったような大人たいじん風な好々爺であったらしい。ぼくの母は子沢山の中の四女で、名は、いく子であった。
かんかぜに赤くひきしまっている顔は、どこか大人たいじんそうをそなえ、大きくて高い鼻ばしらからあぎとにかけての白髯はくぜんも雪の眉も、為によけい美しくさえあった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入れ代りに従者らしき男が一のう沙金さきんをおいて風の如くぷッと去ってしまった。なんたる大人たいじんぶり、いやきもッ玉だろう。てんで歯の立つ相手ではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうです、大人たいじんがたのお名前と、義挙の趣旨に賛同して、旗下に馳せ参じてきた者どもです」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「先日、群英ぐんえいの会で、よそながらお姿を拝していました。大人たいじんは鳳雛先生ではありませんか」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
救っていただいた上に、この大事な二品まで、自分の手に戻るとは、なんだか、夢のような心地がします。大人たいじんのお名前は、さきほど聞きました。心に銘記しておいて、ご恩は生涯忘れません
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この日、私は、三人の異相をた。岡潔氏もすこぶる異相な学者だが、佐藤春夫氏もまた文壇ではもっとも異相非凡に属するほうの大人たいじんである。それと総理の池田さんであるが、この人の耳がいい。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大人たいじんがお可哀そうでならないから……つい泣いてしまったのです」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
げに大人たいじんの風貌そなはる
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)