さか)” の例文
旧字:
「まあ、百二十人あまりからの同勢で、おまけに皆、血気さかんな人たちと来ています。ずいぶん無理もあろうじゃありませんか。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今口を極めて李陵を讒誣ざんぶしているのは、数か月前李陵が都を辞するときにさかずきをあげて、その行をさかんにした連中ではなかったか。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
オペラも芝居も休まずに居るであらうか。ベルンナイムの店で未来派の画家がさかんな戦争画の会を開いて居るかも知れない。
台風 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「なんだ。君のようなさかんな青年が六時半に朝飯を食って、ひるが来たのに食べたくないということがあるものか。うそだろう」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
近づく私を待ちうけて「この雪を見給え、さかんじゃないか」と顎を突き出して「如何だい」といったような顔付をする
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「人さかんなる時は、娘に勝ち、人衰うる時は女房が欲しい。……その意気だ。が、そうすると、話に乗ってくれるのに、また何が不都合だろう。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二葉亭の文学というは満身に力瘤ちからこぶを入れて大上段おおじょうだんに振りかぶる真剣勝負であって、矢声やごえばかりをさかんにする小手先こてさき剣術の見せ物試合でなかったから
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「あの剛情な藤蔓が、そんなに早くも醜く枯れたのは、彼をそんなに太くさかんに育て上げたと同じその太陽の力だ」
かくて、安直と、金十郎の行をさかんにすべき送別の宴は、夜の更くると共に、興が尽くるということを知りません。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第二に鈍液どんえきと名づくるのがある。これが逆かさに上ると神経がにぶくなる。次には憂液ゆうえき、これは人間を陰気にする。最後が血液けつえき、これは四肢ししさかんにする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一体この広大な建物の中には自分と同じようなどれほど多くの血気さかんな男たちが、この悪臭と熱気のなかに生きたその肉体を腐らせつつあるのだろうか
(新字新仮名) / 島木健作(著)
昼餉ひるげとうべにとて立寄りたる家の老媼おうなをとらえて問いただすに、この村今は赤痢せきりにかかるもの多ければ、年若くさかんなるものどもはそのためにはしり廻りて暇なく
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しみじみと諸君並に諸君のお父さんお母さんにお礼を申したいやうなこのさかんな出来事になつたのです。
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
火の燃えさかる中にカッと開いている蓮華のさまは、如何にもさかんで勇猛心に燃えているように思われてなりません。私は、近来殊にこの勇猛心を持っております。
どうするすべもあるまいと、人も思いましょうが、将軍は一世の英雄でありまた、お年もさかんなのに、なんたる意気地のない武士ぞといわれがちにきまっています。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此帝都このていとを去りて絶海無人ぜつかいむじんたうをさして去りぬ、さかんなるさまを目撃したる数萬すうまんの人、各々めい/\が思ふ事々こと/″\につき、いかに興奮感起こうふんかんきしたる、ことに少壮せうさうの人の頭脳づなうには
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
玄洋社は潰れても玄洋社精神は今日こんにちまで生きておって、国家のために益々さかんに活躍しおるのじゃ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こんなに差しつるべたのを一本くれたか、気の毒だな、こんなに心配しんぺいされちゃア済まねえ、此間こねえだあの馬十ばじゅうに聞いたゞが、どうも全体ぜんてえ父さまが宜くねえ、息子が今これさかんで
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すなわち、ねぎとまぐろの脂肪とをいっしょにして、すき焼きのように煮て食うのである。年寄りは、くどい料理としてよろこばぬが、血気けっきさかんな者には美味うまいものである。
鮪を食う話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
門内の楽声更にさかんになる。忽ち下手に人声。やがて嚮の老いたる男大なるかけやもちて出づ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
人といふものは二気あれば即ち病む、といふ古い支那のことわざにある通り(中略)宜しくたんさかんにし、飲食を適宜にし、運動を怠らずして、無所むしよ畏心ゐしんに安住すべきである。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ちひさい時分から覇気のさかんな、才気に溢れた、一時は東京に出て、まだ二十はたちにも足らぬ齢で著書の一つも出した渠——その頃数少き年少詩人の一人に、千早林鳥ちはやりんてうの名のあつた事は
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
調子を高くするだけなら、釈教歌から出た平安末・鎌倉初の歌人たちにもぼつ/\ある。調子をさかんにする事で、太みある発想を導くことは、「細み」の場合の様には行かない様だ。
教会の裏の方から、物悲しいさかんな歌声が湧き起った。歌詞は聞き取れず、声だけが聞えて来た。テノールが二人とバスである。皆がそれに聴き入ったので、庭先はしんとしてしまった。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
〈夏姫内に技術をさしはさむ、けだし老いてまたさかんなる者なり、三たび王后となり、七たび夫人となり、公矦こうこうこれを争い、迷惑失意せざるはなし、あるいはいわくおよそ九たび寡婦とならば
としこそ七十ぢかいとは申せまだまだおさかんな頃で、かねがね五山の学衆の、或いは風流韻事にながれ或いは俗事政柄せいへいにはしって、学道をおろそかにする風のあるのを痛くお嘆き遊ばされて
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
カイゼルの意気込のさかんなることは実に非常なもので、過般かはんハンブルグに於てなせる演説の一節にも、驚くなかれ、我が幼稚なる祖国の貿易が盛況を呈し来って、世界のある国々に花を咲かせたるを。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
四 まことに人心を動かした事件を尋ねれば、今より三千年前、初めて火星とこの世界と交通の開けた時代にさかのぼらねばならぬ。これ以来は何事も無いのだ。この交通の開始は実にさかんな手段であった。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
春夏のさかんな園のながめにも、落葉、こがらしの秋冬が来る。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さかんです。
と言って、嘉助は禿頭はげあたまでた。正太が結婚について、いかにさかんな式を挙げたかということは、この番頭の話でほぼ想像された。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
水が通じたというよりも、米友のしんが通じたのでしょう、たしかに見直した、もうこっちのものだ——という希望の光が、米友の意気をさかんにしました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殊に失明後の労作に到っては尋常芸術的精苦以外にいかなる障碍しょうがいにも打ち勝ってますます精進した作者の芸術的意気のさかんなる、真に尊敬するに余りがある。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
良兼の軍は馬も肥え人も勇み、よろひの毛もあざやかに、旗指物もいさぎよく、弓矢、刀薙刀なぎなた、いづれ美〻しく、掻楯かいだてひし/\と垣の如くき立てゝ、勢ひ猛にさかんに見えた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それは、輝く太陽よりも、咲誇る向日葵ひまわりよりも、鳴盛なきさかせみよりも、もっと打込んだ・裸身の・さかんな・没我的な・灼熱しゃくねつした美しさだ。あのみっともないさるの闘っている姿は。
夫を包む繃帯に似た雪とにお目をとめられて「これはさかんだ」とお独言のようにおっしゃった。
曹操は、問うも野暮といわぬばかりに、われ龐徳の出陣のさかんなるを悦ぶなり——と云った。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうも雲だか、煙りだか非常に濃く、頭の上へやってくる。さかんなものだ。ねえ、君」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんとその生活力のさかんなこと! 食欲は人の数倍も旺盛おうせいで、そのためにしばしば与えられた食物の争奪のためにつかみ合いが始まるほどであり——また性欲もおさえがたく強いらしく
(新字新仮名) / 島木健作(著)
としこそ七十ぢかいとは申せまだまだおさかんな頃で、かねがね五山の学衆の、或ひは風流韻事にながれ或ひは俗事政柄せいへいにはしつて、学道をおろそかにする風のあるのを痛くお嘆き遊ばされて
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
折角積上げた修業も水の泡に致してしまう事があります、さかんな宗達和尚、お竹の器量と云い、不断の心懸こゝろがけといい、実に惚れ/″\するような女、其の上侍の娘ゆえ中々凛々りゝしい気象なれども
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『兎も角さかんにやらうや。』と楠野君は胸を張る。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
正太は川向に住んだ時のことを思出すという風で、あの家へはよくさかきがやって来て、さかんに気焔きえんを吐いたことなどを言出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人の心をさかんにするけれども、日が全く没した時に、中に燈火の気配もなく、前に雨戸が立てきられるでもなく、白い障子紙がそのまま夜気を受けてさらされている色は
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
年はっても、気もちはさかんである。それだけに、なかなか、人のいうこともかない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ヤアさかんだな、オイ悪沢わるさわ悪沢、ひじり上河内かみこうち、アリャざるさ、ワッハッハッハッ」
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
処でおらの旦那がお世辞半分に新聞記者の天職をさかんなりと褒めて娘も新聞記者につもりだと戯謔面からかひづら煽動おだてたから、先生グツト乗気になつて早やむこ君に成済なりすましたやうな気で毎日入浸いりびたつてゐる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
寂照が願文がんもんを作って、母の為めに法華ほっけ八講はっこうを山崎の宝寺にしゅし、愈々本朝を辞せんとした時は、法輪さかんに転じて、情界おおいに風立ち、随喜結縁けちえんする群衆ぐんじゅ数を知らず、車馬填咽てんえつして四面を成し
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
竜騰虎闘りゅうとうことうの壮観があるだろうと予期した交渉はかくのごとく散文的なる談判をもって無事に迅速に結了した。主人のさかんなるはただ意気込みだけである。いざとなると、いつでもこれでおしまいだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行徳ぎょうとく!」と呼ばって入って来て勝手口へ荷をおろす出入の魚屋の声も、井戸端でさかんに魚の水をかえる音も、平素ふだんまさって勇ましく聞えた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)