嗚呼ああ)” の例文
嗚呼ああ、「ラプンツェル、出ておいで。」という老婆の勝ち誇ったような澄んだ呼び声に応えて、やがて現われた、ラプンツェルの顔。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
嗚呼ああ今の時、今の社会に於て、大器を呼び天才を求むるの愚は、けだし街頭の砂塵より緑玉エメラルドを拾はむとするよりも甚しき事と存候。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あはれ」は悲哀に限らず、嬉しきこと、おもしろきこと、楽しきこと、おかしきこと、すべて嗚呼ああと感嘆されるものを皆意味している。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それもなんらつかまえどころのない蔭口——ところが、現在ただいま、この拙者というものが確実にその正体をつかんでしまった! 嗚呼ああ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
嗚呼ああ! 何故あの時自分は酒をのまなかったろう。今は舌打して飲む酒、呑ばい、えば楽しいこの酒を何故飲なかったろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
嗚呼ああ大いなる燔祭よ! 悲しみの極みのうちにも私たちはそれをあな美し、あな潔し、あな尊しと仰ぎみたのでございます。
長崎の鐘 (新字新仮名) / 永井隆(著)
濛々もうもうたる軟泥はいつの間にか沈殿したものと見え、海水は硝子ガラスのように澄みわたっていた。そして嗚呼ああ、水戸はなつかしい者の姿を見たのであった。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
嗚呼ああ見苦しい事だ、自分の産んだ子ならば学問修業のめに洋行させるもよろしいが、貧乏で出来なければせぬがよろしい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
嗚呼ああ世人史を見ること真に此の如きか。在来国史の謬伝訛説多きは既に論ぜし所、少しく眼を史籍に注ぐものは何人も之を拒む能はざるの事実たり。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
嗚呼ああ、先生なんぞ予をあいするの深くしてせつなるや。予何の果報かほうありて、かかる先生の厚遇こうぐうかたじけのうして老境ろうきょうなぐさめたりや。
嗚呼ああこれ実に大聖ソクラテスの最後の一言であって、こは実に「その義務を果せ」という実践訓を示したものである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
されど同座より帰途、予がふと予の殺人の動機に想到するや、予はほとんど帰趣きしゆを失ひたるかの感に打たれたり。嗚呼ああ、予は誰の為に満村恭平を殺せしか。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これを聞くと紅矢は濃紅姫の事を思い出して、嗚呼ああこれをもし自分の妹が受け取るのだったら、どんなにか嬉しい事だろうと胸が一杯になりました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
嗚呼ああ今の当局もまた後日わずかにかの人々は宰相高官すら神社を滅却すればその罪の到来する、綿々として断えず
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
クリストフはふたたび一人残って、逝去せいきょのその日々に立ちもどってみた。一週間、もう一週間になっていた……。嗚呼ああ、あのひとはどうなったのだろう。
嗚呼ああ、私はどうしたら可からう! 若し私が彼方あつちつたら、貫一さんはどうするの、それを聞かして下さいな」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
釈迦如来の知らざるところ、親鸞上人の知らざるところなり、嗚呼あああに偉ならずや、予はなおおわりのぞんで一言せん。
絶対的人格:正岡先生論 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この骸骨が軍服を着けて、紐釦ぼたんばかりを光らせている所を見たら、覚えず胴震が出て心中で嘆息を漏した、「嗚呼ああ戦争とは——これだ、これが即ち其姿だ」
然り然り! のみならず嗚呼ああ巨万の富を蓄積することすら赤子の手をひねるがやうに容易であるにも拘らず
俵に詰めた大豆だいずの一粒のごとく無意味に見える。嗚呼ああ浩さん! 一体どこで何をしているのだ? 早く平生の浩さんになって一番露助ろすけを驚かしたらよかろう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
諸王は合同の勢あり、帝は孤立の状あり。嗚呼ああ、諸王も疑い、帝も疑う、相疑うや何ぞ睽離かいりせざらん。帝も戒め、諸王も戒む、相戒むるや何ぞ疎隔そかくせざらん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また、碑の正面は光圀の「嗚呼ああ忠臣楠子之墓ちゅうしんなんしのはか」の八文字でよいとしても碑陰ひいんの文がないのはさびしいといって、この事を老公に献言けんげんしたのも介三郎であった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嗚呼ああ。諸君の両親と同じ悲惨な生活を、この上にもなお、三十年も四十年も続けて行かなければならぬのか。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
蒲生君平高山彦九郎のはいをして皇室の衰頽を歎ぜしめ勤王の大義を天下に唱えしむるにおいて最も力ありしものは嗚呼ああれ忠臣楠氏なんしの事跡にあらずして何ぞや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
嗚呼ああ、慈愛深く、淑徳の誉れの高かった松雪院のような夫人でも、時にはこんなあやまちを犯すのであろうか。
例えば中国一たび亡びんか、日本も必ず幸いなし。何ぞそれく国家の旗を高くてるをまかせんや。嗚呼ああ君、われら、今彼らの滅種政策の下に嫉転えんてん呼号するもの。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
いま当時の日記を検するに、これは九月二十三日のことで、『嗚呼ああ、言葉はむづかし』と書いてある。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「竜神松五郎の娘。嗚呼ああ、あのお玉が海賊の娘かい……どうもこれは飛んでも無い事が出来て了った」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
私はクラクラとして前後を忘れ、人間の道義畢竟ひっきょう何物ぞと、嗚呼ああ父は大病で死にかかって居たのに……
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
朝夕聞慣れたエディンバラ城の喇叭らっぱ。ペントランド、バラヘッド、カークウォール、ラス岬、嗚呼ああ
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
おそらくは『洋外紀略』の「嗚呼ああ話聖東ワシントンは雖生於戎羯じゅうけつにうまるといえども其為人そのひととなりや有足多者たりておおきものあり」云々の一節であっただろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
嗚呼ああ、老いぬ」と歎じてみたとて、「これ誰のあやまちぞや」です。くり返していう。一大事とは、実に今日只今の心です。今日只今の心こそ、まさしく一大事です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
嗚呼ああ、この心憎き、羨望せんばうすべき時代錯誤よ。時代錯誤の麟鳳よ。永久に詩人的なるものよ。
嗚呼ああ、この心憎き、羨望せんばうすべき時代錯誤よ。時代錯誤の麟鳳よ。永久に詩人的なるものよ。
我が一九二二年:01 序 (新字旧仮名) / 生田長江(著)
嗚呼ああ盲目なるかな地上の人類、汝等なんじらは神の名においあやまちを犯せる人の子の生命を断ちつつある。
第三枚は、芝居の舞台で、舞台の正面には「嗚呼ああ明治文士之墓」といふ石碑が立つて居る。墓のほとりにはすみれが咲いて居て、墓の前の花筒には白百合の枯れたのがしてある。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いつになったら自分の識見で物を見、自分の舌で味を知ることができるのか。嗚呼ああ
フランス料理について (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
嗚呼ああ吾れ一たび神を見てしより、おほけなくもの一大事因縁を世に宣べ伝へんと願ふ心のみ、日ごとに強くなりゆきて、かも如何いかにして之れを宣べ伝ふべきかの手段に至りては
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
と。嗚呼ああ、大学の首章、誦しきたらば語々ことごとく千金、余また何をか言わん。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
嗚呼ああ博士よ、君にして幽霊ゆうれいを見るの望みあるならば、なんぞ墓場はかばに行くを要せん。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いはんや明日よりはまつたく人跡いたらざるの地をさぐるに於てをや、嗚呼ああ予等一行はたして何れの時かよく此目的をたつするを得べき、想ふて前途のこといたれば感慨かんがい胸にせまり、ほとんどいぬる能はざらしむ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
同じ作家の『婦人に寄語す』と題する一篇を読まば、英国の如き両性の間柄厳格なる国に於いてすら、くの如き放言を吐きし詩家の胸奥をうかがうに足るべきなり。嗚呼ああ不幸なるは女性かな。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぼくは憂国塾の空理空論をダンガイする、男子すべからく実行的であれとは古人の金言、ぼくあえて先生に宣言しよう、ぼく八田忠晴は身をもって女性解放運動の旗手とならん、嗚呼ああ。忠晴生
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
掛たら彼方はおどろききふ病人の診察みまひもどりと答へし形容ようす不審いぶかしく殊に衣類いるゐ生血なまちのしたゝり懸つて有故其の血しほは如何のわけやと再度ふたゝび問へば長庵愈々驚怖おどろき周章あわて嗚呼ああ殺生せつしやうはせぬ者なりえきなきことを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
並木の影涼しきところ木の根に腰かけていこえば晴嵐せいらん梢を鳴らして衣に入る。枯枝を拾いて砂に嗚呼ああ忠臣など落書すれば行き来の人吾等を見る。半時間ほども両人無言にて美人も通りそうにもなし。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうして彼等はこん度も亦易々と唯物史觀の首級をあげて凱旋したのである。嗚呼ああしかしながら、その首級は正眞まぎれもない唯物史觀のそれであつたか? 否それは彼等のイリュージョンであつた。
唯物史観と文学 (旧字旧仮名) / 平林初之輔(著)
うち湿しめり——嗚呼ああ午後ごご七時——ひとしきり、落居おちゐ騒擾さやぎ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
嗚呼ああ物古ものふりし鳶色とびいろの「」の微笑ほほゑみおほきやかに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
嗚呼ああ想界さうかいあらたなるいのちくる人もまた
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
嗚呼ああ、我らは黙してまんのみ。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)