)” の例文
魚屋がいている。可哀かわいそうだなあと思う。ついでに、私の咳がやはりこんな風に聞こえるのだろうかと、私の分として聴いて見る。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
一時は腰が抜けて起つことも出来ない。寝ていても時をしきってき上げて来て気息いきくことも出来ない。実に恐ろしく苦しみました。
そして彼はまた新たに激しく無性にきこんだ。グラチアはびっくりした。彼女はちょっと彼が無理に咳をしてるような気がした。
久しぶりに十兵衛は、父の血色に壮者のような紅味あかみを見た。しかし云い終るとすぐ、鬢髪びんぱつしもをそそげ立てて烈しくった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ステージに出る姿は、ほとんど二つ折になり、絶えずき続けていた。が婦人達はそれにもかかわらず、少しも彼に休息を与えなかった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
と、彼は軽くき入つた、フラ/\となつた、しまつた! う思つた時には、もうそれが彼の咽喉のどまで押し寄せてゐた——。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
こう云って激しくきこみ、そのまま向うへ去っていった。苦しそうな精のない咳のこえが、ずっと遠くなるまで聞えていた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それが政治家めいた笑ひ方であらう、彼は稍々やや細い身体を反り身になつて豪放に笑ふのだが、途中でいて、苦しさうに身体を曲げたりした。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
私が釣のお話を伺いに出ましたというと、当時同優は持病の喘息の烈しい時で、挨拶よりもきいる方が先で、気の毒なほど苦しそうであった。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
日が暮れるに随って、梢はぴったりと寄り添って、呼吸いきを殺して川のおもてを見詰める、川水はときどきむせぶように、ごぼごぼときこんで来る。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
M君は、風をくらうと、しばらくは激しくきこんだ。そのくせ、どっか家ン中か、木蔭こかげに入ろうと云ってもかなかった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
姉はまたき出した。その発作が一段落片付くまでは、さすがの比田も黙っていた。長太郎も茶の間を出て来なかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寝すごしたのだろうと思い、わしは自分で煙草盆たばこぼんを引き寄せ、マッチで煙管キセルに火をけ一二服吸い、き入ったが、その音でも奈世は起きて来ない。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
やい、このざまはどうしたのだ。と口なる手拭退けてやれば、お録はごほんとき入りて、「はい、難有ありがとうございます。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腰は二に崩れ、いたり痰を吐いたり、水ばなをすすり上げたり、よだれを流したり老醜とはこのことかむしろ興冷めてしまったが、何れにしても怪しい。
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
元来咽喉のどを害してゐた私は、手巾ハンケチを顔に当てる暇さへなく、この煙を満面に浴びせられたおかげで、ほとんど息もつけない程きこまなければならなかつた。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
病母のく声がする、父の鼾がつまりそうにしてまた大きく鳴る、国吉が寝言をいう、鼠が畳の上を駈け廻る。お小夜はそんな物音が一々耳にとまる。
新万葉物語 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「およし、ソーニャ、およし!」彼女は急ぎ込んで息を切らし、ごほんごほんき入りながら、早口にこう叫んだ。
部屋に戻ると、一間はなれた部屋の、菊之丞の、皺枯れた咽喉が軽くくのがきこえて、ポンと、灰ふきの音——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「まったく寒うござんすよ。」と、古河君はきながら答えた。「こっちには長く御滞在の御予定ですか。」
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
喘息ぜんそくき入りながら玄関に出て来て、松次郎がいないのを見ると、おや、今日きょうはお前一人か、じゃまあ上にあがってゆっくりしてゆけと親切にいってくれた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そいつを吐こうと思って、あごをグッと前に伸ばす途端とたんに、咽喉の奥が急にむずがゆくなってエヘンといたらば、ドッと温いものが膝頭ひざがしらの前にとび出してきた。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こんこん咳払せきばらいするのが癖で、「自分等の年をとったことはさ程にも思いませんが、弘さんや捨吉の大きく成ったのを見ると驚きますよ」と言って復たいた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夢うつつのうちに、こんこんとき込んで、そのうちに、ごろごろと、何か、胸の中で鳴るものがある。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼がき入つて叫んだ。明子が枕許まくらもとのコップを口に当てがつてやると彼は待ち兼ねたやうに二度目の多量の喀血かっけつをした。血がコップをあふれて明子の手の甲を汚した。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
多勢が四方から、き入る先生をなでるやら、さするやら、半暗はんあんのひとのうちが、ざわざわ騒ぎたったすきにじょうじて、お蓮さまはするりと脱け出て、廊下に立ちいでた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
見ると山羊髯のおやじは仕事が閑散だと見えて、大阪の新聞の経済欄を読みながら、朝日を吸ってはき入り、咳き入っては水ッぱなをすすり上げている。タヨリない事夥しい。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やっと立ち上がる。き込み、つばを吐き、息をつまらせ、眼がかすみ、頭がぼうっとする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
青年は、それに答えようとでもするように、身体からだを心持起しかけた。その途端だった。苦しそうにき込んだかと思うと、あごから洋服の胸へかけて、流れるような多量の血を吐いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
村子 ……(ノドを見せて、ウィスキイの口飲みをして)ウウッ! ウ!(く)
胎内 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
中将の書斎には、父子おやこただ二人、再び帰らじと此家ここでし日別れの訓戒いましめを聞きし時そのままに、浪子はひざまずきて父のひざにむせび、中将はき入るむすめせなをおもむろになでおろしつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
おどろいて笑いながら、つづけてきをした。そこは零下三十五度だった。雪が珍しいというのではなく、こんなに雪の降る、このモスクヷの生活が、伸子の予感をかきたてるのであった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と、行列は動き出したが、今度は信玄が先頭に立って蔵の中へ案内する。安置してしまうと行列は静かに蔵から外へ出る。この間少しも喋舌しゃべることは出来ない。くことさえはばかるのである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一頻ひとしきり病人のきあげるのを、爺さんは後方うしろから背を撫でてやつたりした。
ちゝ一昨年をとゝしうせたるときも、はゝ去年きよねんうせたるときも、こゝろからの介抱かいはうよるおびたまはず、るとてはで、がへるとては抱起だきおこしつ、三月みつきにあまる看病かんびやう人手ひとでにかけじと思召おぼしめしのうれしさ
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
き込みながら、二郎が非常な恐怖に撃たれて、あえぎあえぎ叫んだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこまで云った彼はまるで言葉にせ返るようにきこんだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
老人は鋭い痛ましい笑いとともにき込み、そして言った。
秋蘭はき上げて来た理論に詰ったように眼を光らせた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
何あに、反省を促す為めに、わざいたのだけれど。
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
女童めわらべしじき入る寒き夜を小糠こぬか小星こぼしも風に冱えにき
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
暗い外套の下で、ゆき子は、激しくきこんでゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
母親のほうはきこんで何も聞こえないのだ。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
彼は芦の茂みへ分けいり、きこみながら、浅い沼を渡った。石灰粉を深く吸いこんだために、咳はいつまでも止らなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お角はさうつてサメザメと泣くのです。次の間ではあの晩から風邪かぜを引いた幸三郎が、弱々しくもき込んで居ります。
命松丸がカユわんを下においてき込むと、雀は、彼の肩から兼好の肩へピラと移って、餌をネダるような媚態びたいを作る。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元来咽喉のどを害していた私は、手巾ハンケチを顔に当てる暇さえなく、この煙を満面に浴びせられたおかげで、ほとんど息もつけない程きこまなければならなかった。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは奥の部屋部屋から煙草の煙の波が絶えず流れ込んで、不幸な肺病やみの女をいつまでも悩ましげにき入らせるので、それを少しでも防ぐためだった。
激しくきこんだ。老婢ろうひのザロメが駆けつけてきた。彼女は老人が死にかけてるのかと思った。彼はなお続けて、涙を流しきこみ、そしてくり返していた。
彼女は、いくたびかはげしくきいりながら、虫のような声でくりかえしくりかえし歎願し、椋島の助命を頼んだのであった。しかし父博士は一言も口を開かなかった。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)