可哀かあい)” の例文
そして駅にはいにしえもかわらぬ可哀かあいい女がいただろうから、そこで、「妹が直手ただてよ」という如き表現が出来るので、実にうまいものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
田崎が事の次第を聞付けて父に密告したので、お悦は可哀かあいそうに、馬鹿をするにも程があるとて、厳しいお小言こごと頂戴ちょうだいした始末。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
大杉氏は言ふ、あの茶話に、今の大杉に香奠で無くて、百円とまとまつた金が入つて来るわけがないとあつたが、あれは可哀かあいさうだ。
もう消え消えな燈芯の灯の中に浮きだしている次郎吉の額へは、可哀かあいや物の怪にでもかれたかのようにベットリ脂汗が滲みだしてきていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ラランのやつにだまされたとづいても、可哀かあいさうなペンペはそのえぐられた両方りやうほうからしたたらすばかりだつた。もうラランのばない。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
うも可哀かあいさうな事をしましたな、わたしも長らく一緒しよつたがふ物もはずに修業しゆげふして歩き、金子かねためた人ですから少しは貯金こゝろがけがありましたらう。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
お婆さんは、可哀かあいそうに、眼が見えないものですから、一銭の苞の代りに、二銭の苞を取られたことに、気が付きません。吉公から、一銭受け取ると
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ただ可哀かあいそうなのはおまささんだ(節蔵せつぞう氏の内君)、ソレけは生きて居られるように世話をしてる、足下は何としてもう事を聞かないから仕方がない
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
大方おおかたこれは前世ぜんせの罪でもあったのでしょう。私はそうあきらめて居ります、といって居ったが実に可哀かあいそうであった
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そんなことを言出さうものなら、どんなにおこられるだらうと、それが見え透いてゐるから、漫然うつかりした事は言はれずさ、お前の心を察して見れば可哀かあいさうではあり
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ところがここにごく偏狭な陰気いんきな考の人間の一群があって、動物は可哀かあいそうだからたべてはならんといい、世界中にこれをいようとする。これがビジテリアンである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
波打際から随分遠い所に、波に隠れたり現われたりして、可哀かあいそうな妹の頭だけが見えていました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
己なんぞの目ぢやあ、色の浅黒いやせつぽちの小花より女ははるか兼ちやんが上だ、清こうはたしか二十五でお前には一つ二つの弟、可哀かあいがられて夢中になつた日には小花には気の毒なれど
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そのわたし可哀かあいさうにおもつて、親狐おやぎつねわたしふなりにそだてゝれましたとか。わたしひとふことなぞをかないで、自分じぶんのしたいことをしました。にはとりべたければ、にはとりぬすんでました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
気をつけて見れば見るほどどうも可怪おかしいようにも思われたので、私はいっそ本人にむかって打付うちつけただして、その疑問を解こうかとも思ったが、可哀かあいそうだからおしなさいと妻はいった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いそは、可哀かあいそうな人形を抱きあげて、ほおずりして喜びました。
博多人形 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
取られても知らずに居るのです。可哀かあいそうなものです。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
といひかけてわらことばなにとしらねどおほどこしとはお情深なさけぶかことさぞかし可哀かあいさうのも御座ございませうとおもふことあればさつしもふか花子はなこ煙草たばこきらひときゝしがかたはら煙管きせるとりあげて一服いつぷくあわたゞしくおしやりつそれはもうさま/″\ツイ二日計前ふつかばかりまへのこと極貧ごくひん裏屋うらやもの難産なんざんくるしみましてあに手術しゆじゆつ母子ふたりとも安全あんぜんでは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
可哀かあいや我故身形みなりかまはず此寒空このさむそらあはせ一ツ寒き樣子は見せねども此頃は苦勞の故か面痩おもやせも見えて一入ひとしほ不便に思ふなり今宵は何方いづかたへ行しにや最早初更しよや近きにもどねば晝は身なり窶然みすぼらしく金の才覺さいかくにも出歩行あるかれぬ故夜に入て才覺に出行しか女の夜道は不用心ぶようじんもし惡者わるもの出會であはぬか提灯ちやうちんは持ち行しか是と云も皆我が身のある故なり生甲斐いきがひもなき身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もう寂しくなって人も余り居らないこの旧都に残って居ります私に、可哀かあいそうにも恋死をさせるおつもりですか、とでもいうのであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「旦那様、亭主がながわづらひで食物たべものさへ咽喉を通らなくなつてります。可哀かあいさうだと思召おぼしめして、一度診てやつて下さいませ。」
此の重二郎はそれらの為にくまでに零落おちぶれたか、可愛かわいそうにと、娘気むすめぎ可哀かあいそうと云うのも可愛かわいそうと云うので、矢張やはりれたのも同じことでございます。
またいろいろ人からくれた物などがあると、殊に老人は可哀かあいそうですから沢山たくさん遣るようにして居りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それから多細胞たさいぼう羊歯しだ顕花けんか植物とう連続しているからもし動物がかあいそうなら生物みんな可哀かあいそうになれ、顕花植物なども食べても切ってもいかんというのですが
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
貧乏なお婆さんと見え、冬もボロボロのあわせを重ねて、足袋たびもはいていないような、可哀かあいそうな姿をしておりました。そして、納豆のつとを、二三十持ちながら、あわれな声で
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「おおおお可哀かあいそうに何処どこを。本当に悪い兄さんですね。あらこんなに眼の下を蚯蚓みみずばれにして兄さん、御免ごめんなさいと仰有おっしゃいまし。仰有らないとお母さんにいいつけますよ。さ」
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
僕が人にお前をられる無念はふまでも無いけれど、三年の後のお前の後悔が目に見えて、心変こころがはりをした憎いお前ぢやあるけれど、やつぱり可哀かあいさうでならんから、僕は真実で言ふのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
少女「まあ、可哀かあいそうね。兄さんどうしたらいでしょう」
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
『そりやさうだ。とにかく可哀かあいさうなやつよ。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
聴衆きゝてはそれを聞くと、どつと一度に笑ひ出した。可哀かあいさうに冷かしを言つた男は地獄の住民にされてしまつたのだ。
美しく可哀かあいらしいあの娘は、誰の妻になって、食事の器を持つだろう、御飯の世話をするだろう、というのだが、やはりつまりはおれの妻になるのだということになる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「喰べたくはないんだけれど、可哀かあいそうな納豆売のお婆さんがいるから。」と言いました。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
元来私どもの感情はそう無茶苦茶に間違っているものではないのでありましてどうしても本心から起って来る心持は全く客観的に見てその通りなのであります。動物は全く可哀かあいそうなもんです。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
然し内の浜路は困る、信乃にばかり気をもまして、余り憎いな、そでない為方しかただ。これから手紙を書いて思ふさま言つてらうか。憎いは憎いけれど病気ではあるし、病人に心配させるのも可哀かあいさうだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「母様、駒鳥は可哀かあいそうねエ」
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「まあ、可哀かあいさうに。こんなに縛られてゐて、どんなにか苦しからうよ。さあさあゆつくり息をつくといい。」
ほんとうに可哀かあいそうだねえ、穂吉さんは、けれども泣いちゃいないよ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
可哀かあいさうなはこの子でござい
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
わしが一日怠けでもしようもんなら、京の奴ら、悉皆みんなぐしよ濡れになるやらう。可哀かあいさうなもんや。」
「はい。」と床屋は腰骨こしぼねを蹴飛ばされたやうに、飛上つて帰つて来た。可哀かあいさうに床屋の耳には世界中が仙台平の袴になつたやうに、其辺そこらがきゆう/\やかましく鳴り出した。
可哀かあいさうに生埋にしたのださうな。」
可哀かあいさうに生活くらしむつかしいんだわ。」