まさ)” の例文
右はいずれも、人生の智徳を発達せしめ退歩せしめ、また変化せしむるの原因にして、その力はかえって学校の教育にまさるものなり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
新の相貌そうぼうはかくのごとく威儀あるものにあらざるなり。渠は千の新を合わせて、なおかつまさること千の新なるべき異常の面魂つらだましいなりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
故に荷を負うの巧馬にまさる。古ギリシアまた殊にローマ人、これを車に牽かせ荷を負わすに用いたが、近世大いに輜重しちょうの方に使わる。
「どうぞ先手せんての端にお加え下さい。そして父に代って、父にまさるてがらを立てなければ、父も九泉の下で浮かばれまいと思われます」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みづからにても容されたのは、たれにも容されんのにはまさつてをる。又自ら容さるるのは、終には人に容さるるそれが始ぢやらうとふもの。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
梵音海潮音ぼんおんかいちょうおんはかの世間の声にまされりという響が、耳もとに高鳴りして来たものですから、その余の声を聞いているいとまがありません。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
画に彩色あるは彩色なきよりまされり。墨画すみえども多き画帖の中に彩色のはつきりしたる画を見出したらんは万緑叢中ばんりょくそうちゅう紅一点こういってんの趣あり。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こういう女に多少の学問と独立出来る職業を与えたら、虚栄にあこがれる今の女学校出の奥さんよりは遥にまさった立派な女が出来る
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
もうどこをさして往って見ようと云う所もないので、只むにまさる位の考で、神仏の加護を念じながら、日ごとに市中を徘徊はいかいしていた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
基督もし大政治家たりしならば如何いかん、彼はシーザルにまさりシャーレマンに勝り、時の羅馬ろま帝国を一統し、奴隷を廃し、税則を定め
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
発句ほつくは十七音を原則としてゐる。十七音以外のものを発句と呼ぶのは、——或は新傾向の句と呼ぶのは短詩と呼ぶののまされるにかない。
発句私見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
門野の様な愛し方こそ、すべての男の、いいえ、どの男にもまさった愛し方に相違ないと、長い間信じ切っていたのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
未亡人は殺された夫にまさるしっかり者で、そのときまだ幼かった一人の男の子を抱きあげて、河内軍曹への復讐ふくしゅうを誓ったのです。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ感じの複雑なところは、あるいはまさっているかも知れぬ。「飛咲」という耳慣れぬような言葉も、この場合相当な効果を収めている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
青い麦の香をぐようなバアンズの接吻の歌も、自分の国の評判な俳優やくしゃが見せてくれる濡幕ぬれまくにもまさって一層身に近い親しみを覚えさせた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
凡そ外國とつくにの人などの此境を來り訪ふものは、これをその曾て見し所の景に比べて、あるまされりとし或は劣れりともするなるべし。
うて其上に山田と計て死骸をば泣々なき/\寺へはうむりけり不題こゝにまた其頃の北町奉行は大岡越前守忠相たゞすけというて英敏えいびん活斷くわつだん他人ひとまさり善惡邪正じやせい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何處どこを搜しても、チエスタ孃にまさる人はないと考へたのであつた、彼女は彼女が讀みながら泣いてゐた手紙を、『エイブラム師』に見せた。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
吾輩は猫として決して上乗の出来ではない。背といい毛並といい顔の造作といいあえて他の猫にまさるとは決して思っておらん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
シャビエルが云ったように、日本人は、文化や風俗習慣に関しては、多くの点において、スペイン人よりも遙かにまさっている。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それを味わうほどの雅量と想像力がなかったら、レコード道楽などは止すことだ。レコードはどんなによく入っても実演にまさる道理はない。
湖山はこの行を送って、「莫道羊腸行路険。也勝百折世途難。」〔フ莫カレ羊腸ノ行路険シク/またまさル百折ノ世途ノかたキニト〕と言った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかして近来、文化ますます進むにしたがい、自家において子女を教育する、はるかに学校にまされりとの説ますますさかんなり。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
僕が「大観」の一月号に書いた表現主義の芸術に対する感想の方が暗示の点からいうと、あるいは少し立ちまさっていはしないかと思っている。
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
六条院の諸夫人も皆それぞれの好みで姫君の衣裳いしょうに女房用の櫛や扇までも多く添えて贈った。劣りまさりもない品々であった。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
唐土もろこしには此火を火井くわせいとて、博物志はくぶつしあるひ瑯瑘代酔らうやたいすゐに見えたる雲台山うんたいさんの火井も此地獄谷の火のごとくなれども、事の洪大こうだいなるは此谷の火にまさらず。
そして要するに、ルイ十五世はクラウディウス皇帝より悪いとしても、デュ・バリー夫人はメッサリナよりもまさっている。
そこでアメノウズメの命が、「あなた樣にまさつて尊い神樣がおいでになりますので樂しく遊んでおります」と申しました。
かつてある学者のげんに男子の脳髄のうずい帰納的きのうてきなるも、女子は演繹的えんえきてきなりとあったが、女子は感情がまさっているから冷静に事物に接することがかたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼は、生え伸びた髪を無造作にわらで束ねた。六尺豊かの身体は、鬼のような土人と比べてさえ、一際ひときわ立ちまさって見えた。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
江戸にて此塔これまさるものなし、ことさら塵土に埋もれて光も放たず終るべかりし男を拾いあげられて、心の宝珠たまの輝きを世に発出いだされし師の美徳
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
意味も分らぬ言葉をもてあそんで、いや、言葉にもてあそばれて、可惜あたら浮世を夢にして渡った。詩人と名が附きゃ、皆普通の人よりまさってるように思っていた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私は芸術上の述作を読む場合にも芸術的趣味のまさったものよりは生活的実感の勝ったものを余計に好むようになった。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
元木にまさるうら木なしということわざを話して聞かせ、誰も何もいわんことにしてしばらく休んだら戻ってきてくれとやさしい声を出して帰っていったが
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
こう思うと自分がどれだけ花前はなまえまさっているか、いよいよわからなくなる。むしろどうか一でもよいから花前のような生活がしてみたくなってくる。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
美に色々あろうとも、健康にまさる美はあり得ない。なぜなら健康は常態だからである。最も自然な姿だからである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
子胎内にやどれば、母は言語立居たちいよりべものなどに至るまで万事心を用い、正しからぬ事なきようにすれば、生れる子形体正しく器量人にまさるとなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
幾先云ふ、只だ是れ君が記得熟す、故に五月を以てまされりと為すも、実は然らず、だ六月と云ふも亦た豈に佳ならざらんや、と。(老学庵筆記、巻二)
そんな立ちまさった量見りょうけんからばかりで、あの子を巴里パリへ置いときませんって、——巴里は私達親子三人の恋人です。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
年を経るにしたがって彼女は益〻美しくなり、自ら品位も立ちまさり、いかなる男も彼女の前ではあらがい難く思われるほどの、強い魅力を持つようになった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
多田院ただのゐん日光につくわう徳川家とくがはけ靈廟れいべうで、源氏げんじ祖先そせんまつつてあるから、わづか五百石ひやくこく御朱印地ごしゆいんちでも、大名だいみやうまさ威勢ゐせいがあるから天滿與力てんまよりきはゞかなかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
一時一処の国民性を擺脱はいだつせよと要求するの(其の要求の当否は別論として)之れを描けと要求するの殆ど無意味なるまさりて新意味あるを認めずばあらざるなり
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
山の端も、雲も何もない方に、目を凝して、何時までも端坐して居た。郎女の心は、其時から愈々澄んだ。併し、極めて寂しくなりまさって行くばかりである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
或は一個人が己自身をいさぎようする一人の善行よりも、たとい純粋なる善動機より出でずとするも、多数の人を利する行為の方がまさっているというのでもあろう。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
もう三、四年も前にちょっと耳にせぬでもなかったが、たといいかなる深い男があっても、自分のこの真情まごころまさる真情を女にささげている者は一人もありはせぬ。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
手前が金を拵え国へ帰り、一旦絶えた親の家を相続し、親よりまさって立派に家を立てろよ、身を立て道を行い、名を後世に揚げて父母をあらわすくらいのことは
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
第六 その質ノ軽キにこげまさル 故ニ冬時ノ蔬穀そこく裊脆じょうぜいナルヲ損セズ 却テ之ヲ擁包シテ寒ニやぶラルルヲ防グ
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そしてキク科植物は、他のいずれの科のものよりもまさってたくさんな種類を含み、はなはだ優勢である。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
旅や隠者や遊里の生活にもまさるものがあったろうと思うが、それにしたところでその情景をかねて心に貯えて、毎度程よき場合にこれを出して使ったということは
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は日本の看護婦のトレーニングにつきましては、どんなか少しも知りませんが、米国のトレーニング、スクールは、たしかに日本よりはまさって居ると思います。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)