とこ)” の例文
旧字:
(御宅の御新造さんは、わしとこに居ますで案じさっしゃるな、したがな、またもとなりにお前の処へは来ないからそう思わっしゃいよ。)
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伊「いゝとこがありますぜ、東京こちらから遠くはありませんがね、わしが行って頼んだらすげなくも断るまいと思うんで、あれなら大丈夫だろう」
それだけのことでさ。これぁなかなか気持のいい立派なとこにお出でですなあ。やあ、ジムがいるね! お早う、ジム。先生、御機嫌よう。
『待て待て。その仁三郎は待て。今俺が胸のとこをばあたって見たれあ、まだどことのうぬくごとある。まあだ生きとるかも知れん』
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『神戸の夷人ゐじんさんとこ。委しい事は阿母さんなんかに被仰おつしやらないけれど、日本で初めて博覧会と云ふものをさるんだつて。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
丁度あの木村さんの前ンとこなんで。手前てまえは初めは何だと思いました。棒を背後うしろかくしてましたから、遠くで見たんじゃ、ほら、分りませんや。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこでその過失の反理性的なとこに、どうかすると一旦堕落した女の、自業自得の禍からのがれ出る手掛かりもあるものだ。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
「有難うございます……それからあの、殿様、ただいま、お客様が、わたしンとこまで、おいでなすったでございます」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そんなに急ぐのかネ、花ちやん、たまのことだから、少しは遊んで行つてもいでせう、外のとこぢや無いもの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それに前にいった様に温雅な——むしろ陰気と言う方のたちだったから、あえて立派なとこへ嫁に行きたいと云う様なのぞみもない、幸いことは何よりも好きの道だから
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「——かりに眼エが悪いとしたら、このお地蔵さんの眼エに水掛けて、あろたら良うなるし、胸の悪い人やったら、胸のとこたわしで撫でたらよろしおますねん」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「実は——となりの勘五郎さんでございますが、其の——勘五郎さんとこの次郎さんが亡くなられまして——」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ぢやあ僕見てゝやらうや、にげてくとこを、かあちやん、いつかとうさまの入つしやる時、つりに来ようネ。
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
恐ろしい智恵者だと賞めるに、何だこんな事が智恵者な物か、今横町の潮吹きのとこで餡が足りないッてこうやつたを見て来たので己れの発明では無い、と言ひ捨てて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
珈琲こーひーのは濃く出して珈琲一合へ砂糖が二杯、牛乳を五勺ゼラチンを七枚入れて煮て水へ入れ冷して少し固まりかけたところへ泡立てた白身を三つ交ぜてすっかり固めます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
『引っ張るなったら、先刻さっきたがらいでとこさ来るづどいっつも引っ張らが。』とさけんだ。みんなどっと笑ったね。僕も笑ったねえ。そして又一あしでもう頂上に来ていたんだ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「お前があめの羽衣の隠してあるとこを教へたりなんかするから、おふくろつちまつたんだよ。だがの女はさすが天の者だけに子供の可愛いことを知らんと見える、人情がないね。」
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
と寄添った耳元に口を寄せ、「下谷のねえさんとこの若旦那なのよ。構やしないのよ。」
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その御婆さんのとこから今朝けさ貴女あなた、信太郎が大病でむづかしいと云ふてよこしたので御座います……まー其時の私の心は……………それで貴女、うちに居た処で何事なにも手に付きはしませず
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
「……七十五がうだい一、五がつくのなんて半とこがなくて馬𢈘ばかにいいよ。」
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「弁士さん、そったらとこさ立ってれば、足からのみがハネ上って行きますよ!」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
私宅うちだって金庫を備えつけて置くほどの酒屋じゃアなし、ハッハッハッハッハッハッ。取られる時になりゃ私のとこだって同じだ。大井さんは済んだとして、あとの二軒は誰が行くはずになっています
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
乱暴な事をする奴だと、その車の行った方を見送りながら、四隣あたりを見ると、自分は何時いつしか、こんな花園橋のとこまで来ているので、おかしいとは思ったが、私はその時にもまだよくは気が付かない。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
「見えん筈じゃ、此様こんとこるじゃもの、」
「浜屋のおばさんのとこへいきましょうね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あったかとこをお一つ。』と、勧むるにぞ
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
あら、ちよいと、そんなとこ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あれは何ちふとこだかね?」
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
舵のとこには壁画が見える
峰「なに車が利くし、道は出来てきにかれます、天狗坂てんぐざかてえのが少し淋しいが、それから先は訳はねえ、私のとこの旦那もくがの」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほかに理窟もなんにもない。この間も、尼さまンとこへ行って、例のをやってる時に、すっと入っておいでなのが、摩耶さんだった。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうしたらそのお医者の宗近むねちかどんが、戸惑とまどいをして私の家へ参りましたので「呉さんのとこだ呉さんのとこだ」と追い遣りました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あたしだって彼様あんな窮屈なとこくよか、芝居へ行った方が幾らいか知れないけど、石橋さんの奥様おくさんに無理に誘われてことわり切れなかったンだもの。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「こんなとこに僧正さまもめっかるめえからな。だが、この骸骨の寝方はどうだい? これぁ自然じゃあねえな。」
「エエ、殿様にお目にかかりたいんだが、こちらへ伺っては少々都合が悪いから、わたしンとこでお目にかかりたいって、殿様に申し上げてくれと頼まれて参りました」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
下唇したくちびるの厚いひささんは、本家で仕事の暇を、大尽の伊三郎さんとこで、月十日のきめで二十五円。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「こんなとこでも、つかう人は随分遣うわよ。まる一ト月居続けしたお客があったわ。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうしたからとて人並みでは無いに相違なければ、人並の事を考へて苦労するだけ間違ひであろ、ああ陰気らしい何だとてこんな処に立つてゐるのか、何しにこんなとこへ出て来たのか
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ほかへ行って見よう。野原のうち、どこか外のとこだよ。外へ行って見よう。」
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わしだ倉蔵これを急いで村長のとこへ持て行けと命令いいつかりましたからその手紙を村長さんとこへ持て行って帰宅かえってみると最早もう仕度したくが出来ていて、わし直ぐ停車場まで送って今帰ったとこじゃがの、何知るもんかヨ
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かね「居るとこが知れてるくらいなら斯様こんなに心配はしやアしない、おふざけでないよ、私もお前のような人のそばには居られないよ」
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
母様おっかさん!」といって離れまいと思って、しっかり、しっかり、しっかり襟んとこへかじりついて仰向あおむいてお顔を見た時、フット気が着いた。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瀝青チャンみてえに暑くって、仲間の奴らあ黄熱でばたばたたおれるとこにもいたことがあるし、地震で海みてえにぐらぐらしてる御結構な土地にもいたことがある。
手足をポキポキとヘシ折ったら、中味は灰色の土の肉ばかりで、骨のとこ空虚うつろになっていることがわかった。
微笑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼方あち此方こちも養蚕前の大掃除おおそうじ蚕具さんぐを乾したり、ばた/\むしろをはたいたり。月末には早いとこではき立てる。蚕室をつ家は少いが、何様どんな家でも少くも一二枚わぬ家はない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これじゃ未だ未だ途中だ。何にしても、文学を尊ぶ気風を一旦壊して見るんだね。すると其敗滅ルーインスの上に築かれて来る文学に対する態度は「文学も悪くはないな!」ぐらいなとこになる。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そこんとこをも少しよくならしてれ。いいともさ。おいおい。ここへ植えるのはすずめのかたびらじゃない、すずめのてっぽうだよ。そうそう。どっちもすずめなもんだからつい間違まちがえてね。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もうどうでも厭やに成つたのですからとて提燈ちようちんもちしまま不図わきへのがれて、お前は我ままの車夫くるまやさんだね、それならば約定きめの処までとは言ひませぬ、代りのあるとこまで行つてくれればそれでよし
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あんたのとこは誰も来ないのか。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
母様おつかさん!」といつてはなれまいとおもつて、しつかり、しつかり、しつかりえりとこへかぢりついて仰向あふむいておかほとき、フツトいた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)