おつ)” の例文
ちょうど、その昼過ひるすぎごろでありました。おつは、かおをあげて、おきほうますと、まごうかたなき、なつかしいふね姿すがたました。
幽霊船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
片腕のないところもまたおつでしょうけれど、あの男が片腕をなくしたわけを聞いてしまったらお前さん、三年の恋もめるでしょう。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きれいな顔をしておつに済ましたようなことを云ったって、人間ひと皮剥かわむけばみんなけだものさ、色と欲のほかになんにもありゃしない
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
通人つうじんめいた頭巾なんかかぶりやがって、丹三の野郎、おつに片づけやがったなと、まず坊主頭がせいぜいいきり立って突っかかった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかるにこうの政党とおつの政党とはその主義をことにするために仲が悪い、仲が悪くとも国家のためなら争闘も止むを得ざるところであるが
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そのうへ個人こじんには特殊とくしゆ性癖せいへきがあつて、所謂いはゆるきらひがあり、かふこのところおつきらところであり、所謂いはゆるたでむしきである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
助八 先棒をかさにきて、おつ大哥風あにいかぜを吹かすなら、おめえの亭主なんぞは頼まねえ。これからは兄貴とおれとが相棒で稼ぎに出るばかりだ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
主人は不満な口気こうきで「第一気に喰わん顔だ」とにくらしそうに云うと、迷亭はすぐ引きうけて「鼻が顔の中央に陣取っておつに構えているなあ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おつに気取った内容の空虚な処ばかりを取集めて高尚がった芸術で、それを又ほかの芸術に向かない奴が、寄ってたかって珍重するのだろう……
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
民衆にとって、僕はやはり、キザったらしくおつにすました気づまりの男でした。彼等は僕と、しんから打ち解けて遊んでくれはしないのです。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とか、てめえはてえそうきいたふうなことをぬかすのう。などゝ云うと、三馬さんば春水しゅんすいの人情本ではおつだが、明治の聖代に母親おふくろの口から出ては物凄い。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
新婦は杓子面しゃくしづらのおツンさんで、欠点をさがしだそうとする満座の眼が、自分に集中しているのを意識しながら、おつにすまして、はにかもうともしない。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
利かして、寝酒の一杯も、差し入れてくれそうなものだと思っていたのだよ——がらこそ不意気ぶいきだが、どこかこうおつなところのあるお人なんだから——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
……わたしは、あれほどおつに気どりました、うぬぼれの強い、ひとりよがりの男を、いまだかつて見たことがない。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
王仁とそのままでは済まないはずだが、木兵衛という奴、理知聡明、学者然、おつにすまして、くだらぬ女にれてひきずり廻されて、唯々諾々いいだくだくというのだが
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
すると南瓜のやつは、扇子で一つその鉢の開いた頭をぽんとやつて、「どうでげす。新技巧派の太鼓持たいこもちもたまには又おつでげせう」つて云ふんだ。悪い洒落しやれさね。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこへ行くと、先生は芸術家とか何とか言って、おつに構えてもいられる……大した相違のものだネ
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お勢は例の事を種にしておつうからんだ水向け文句、やいのやいのと責め立てて、ついには「仰しゃらぬとくすぐりますヨ」とまで迫ッたが、石地蔵と生れ付たしょうがには
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お前さんがの娘の得心するように旨く調子よく、そこは棟梁さんだから万一ひょっとして岡惚れしないものでもないよ、はい只今明けますよ…あの道は又おつなものだから…はいよ
その上ちよいとおつな喉で、流行唄などを聽かせて、お客樣をやんやと言せて居ります。
勝負は小勝負九度を重ねて完結する者にして小勝負一度とはこう組(九人の味方)が防禦ぼうぎょの地に立つ事とおつ組(すなわち甲組の敵)が防禦の地に立つ事との二度の半勝負に分るるなり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
カピューレット長者ちゃうじゃさきに、おなじく夫人ふじん乳母うばならびに下人げにんかふおついて出る。
「そんな寝言を聞く小六じゃない。貴様は若い侍とおつ気味きあじになったそうだが、この小六がなければ知らぬこと、無分別な浮気沙汰をいつまでもしていると、しまいには身の破滅だぞよ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マドロス・パイプをおつくわえ、落着いてけむりをくゆらす彼の態度にはなにか信用できるものがあって、ぼくはくれぐれもそのうわさを打消すように頼むと、こんどは、階段を飛ぶように降りて
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
べらぼうめ、南瓜畑かぼちやばたけおつこちたたこぢやあるめえし、おつうひつからんだことを
言文一致 (新字旧仮名) / 水野葉舟(著)
「咳払いがさ、お前の。佃もそんな、おつう気取ったような咳払いをするよ」
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「オヤ、こいつおつにからんだことをぬかしやがるな」
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
客の小山先ず一口あじわい「なるほどこれは妙な酒だ。まるで仙人の飲みそうなものだ。仙家せんけの菊水とでもいうようだね」小山の妻君も「私にも戴けますね、大層結構です」大原も「これはおつだ」と一口に飲み干さんとするを
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あれはあれでちよつとおつな味がしたぞ。
鳥料理:A Parody (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
「うふ、ふ」と、おつな笑いが聞えた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「矢っ張りあなたはおつの頭ね」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おつな桜の アラ ナントネ
祇園の枝垂桜 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
おつの調子で話すかた
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「いくらかんがえたってしかたがないことだ。おれたちははたらくよりみちがないのだ。」と、おつこうさとし、自分じぶん勇気ゆうきづけるようにいいました。
一本の釣りざお (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕がその裏を指摘して、こっちから見るとその君にもまた軽蔑すべき点があると注意しても、君はおつに高くとまって平気でいるじゃないか。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いえ、ひろってきたわけではないので。駒形の高麗屋敷の、とある横町を屑イ、屑イと流していますと、おつな年増が、チョイト屑屋さん……」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おつに絡んでじ返してくれた。吾れながら感心するくらい頭がヒネクレて来たもんだからね……ところが流石さすがは商売柄だ。これ位の逆襲にはへこまなかった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「癖にしてはあんまり性質たちがよくねえようだ、何かこっちに恨みがあってするようなおつな真似をしやあがる」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「姐さんがいないと思っておつう幅を利かすね」と、お若はお花のうしろ姿を見送って言った。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こいつを一つ十フランで買ってさ、うまく育てりゃ、アンタ、何千法に売れようてんだ。ものはためしだ、一つお買いなさいヨ。コルシカに象がいるなんてのもおつリキシャッポでサ
あるいは謄写とうしゃしたりして教師の目をくらますことである、それには全級の聯絡れんらくがやくそくせられ、こうからおつへ、乙からへいへと答案を回送するのであった、もっと巧妙な作戦は
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
清「左様なら旦那さま、斯様致しましょう、お料理を取換えましょう、ちょいとおよしどん、是をずっと下げて、何かおつな、ちょいとさっぱりとしたお刺身と云ったようなもので、えへゝゝ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やなぎせいか、うめ化身けしんか、声すずしく手は白く、覆面すがたに似合にあわないやさしいすがたの者ばかりで、こうおつへいてい、どのかげもすべて一たい分身ぶんしんかと思われるほどみなおなじかたちだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「フムおつう山口を弁護するネ、やっぱり同病相憐あいあわれむのか、アハアハアハ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ふん、おつに気取ってるよ、この人、なにさ、まさか大名の若さまでもあるまいし、こんなとこへ来て気取ったっておけらも笑やあしないよ。おれは気取ってなんかいやあしねえ、うるせえぞ。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夜番よばんものかふおつへい其他そのた多勢おほぜいパリスの侍童こわらは案内者あんないじゃにして出る。
あれはあれでちょっとおつな味がしたぞ。
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おつ洒落しゃれてるね」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ほんとうでございます。ほかにたのみになるひともおたがいにないのだから、たすわなければなりません。」と、おつこたえました。
自分で困った百姓 (新字新仮名) / 小川未明(著)
元来何だって、こんの無地のはかまなんぞ穿くんだい。第一だいちあれからしておつだね。そうして塩風に吹かれつけているせいか、どうも、色が黒いね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)