乃公おれ)” の例文
そして果せる哉、本統ほんとうに伊勢鰕のように真赤な顔になった。乃公おれは困ったと思うと、富田さんが突然いきなり乃公の手を捉えたのには喫驚びっくりした。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼等はきょうお金を握ると急に閻魔面になった。乃公おれは実際見るのもいやだ。金は要らない、役人もやめだ。これほどひどい屈辱はない
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
と云ふ詩なぞをかかげてゐるが、此れ等は何処となく、黙阿弥劇中に散見する台詞せりふ今宵こよひの事を知つたのは、お月様と乃公おればかり。」
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
朝鮮の忠臣柳成竜は之を見て、二十万なぞとは嘘だと云うと、「汝が国人がそう告げたのだから、事実は乃公おれの知った事じゃない」
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「風呂場で夫婦喧嘩めをとげんくわすると、乃公おれが困るやないか。……駒、お前一寸京子の番してて呉れ。定はん、そんなら一つ焚いてんか。頼む。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
丁度ちょうど自分の学校から出た生徒が実業について自分と同じ事をすると同様、乃公おれがその端緒たんちょを開いたと云わぬばかり心持こころもちであったに違いない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
などゝいふから、益々ます/\国王こくわう得意とくいになられまして、天下てんかひろしといへども、乃公おれほどの名人めいじんはあるまい、と思つておいでになりました。
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「スペンサア奴、しからん奴ぢや。早く邸から追ひ立ててしまふがよい。もつと読んで往つたら、乃公おれは身代限りをせざあなるまい。」
快活くわいくわつなる水兵すいへい一群いちぐんその周圍まわり取卷とりまいて、『やあ、可愛かあひらしい少年せうねんだ、乃公おれにもせ/\。』と立騷たちさわぐ、櫻木大佐さくらぎたいさ右手めてげて
ことに変わったのは梅子に対する挙動ふるまいで、時によると「馬鹿者! 死んでしまえ、貴様きさまるお蔭で乃公おれは死ぬことも出来んわ!」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
また乃公おれも、妙でないやうに、考へる処もあるなれば、いつそ外家ほかへ行つてくれた方が、かへつて世話がしよからふと、思ひ付いたからの事。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「ハハハハハ。無手むてで、このピストルに立向うつもりかい。いくら、日本の少年でも、そいつはいけねえ。乃公おれに降伏しろ」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
どうも乃公おれは、ときどき頭が変になるので困るよ。年齢としのせいでもあるまいのに、いろんなことを取り違えて困るのだよ。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
既にシャーターが宰相さいしょうに任ぜられた時分に、前の法王であったテーモ・リンボチェが、ああもう乃公おれの寿命もこれできわまったといったそうですが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
精を尚ぶことをせぬ徒の、やゝもすれば口にすることは、句讀訓詁の學なぞは、乃公おれは敢てせぬといふのが一つである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ピータ はて、樂人がくじんさん、何故なぜうて、いま乃公おれこゝろなかでは「わしこゝろ悲哀かなしみに……」がはじまってゐる最中さいちゅうぢゃ。
してやってれば、つけあがって、乃公おれに向って唇をそらすとはなんだ、乃公が黙ってれば、いい気になりやがって
陳宝祠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
近頃は文三に対しては気に障わる事而已のみを言散らすか、さもなければ同僚の非を数えて「乃公おれは」との自負自讃、「人間地道じみちに事をするようじゃ役に立たぬ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「そんな無茶を言うものでない。お前も坊主なら乃公おれも坊主だ。坊主同士だから仲よくしようじゃないか」
章魚の足 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
「いやじゃないが、」魚容は狼狽ろうばいして、「乃公おれにはちゃんと女房があります。浮気は君子の慎しむところです。あなたは、乃公を邪道に誘惑しようとしている。」
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
主婦が仙さんの素生すじょうを尋ねかけたら、「乃公おれに喧嘩を売るのか」と仙さんは血相を変えた。ある時やるものが無くて梅干うめぼしをやったら、斯様なものと顔をしかめる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
良人の其人も目は泣きながら、嬉しそうに首肯うつむかれたのでした。『乃公おれはもう何んにも思い置く事はねえよ。村に帰ったら、皆さんへ宜敷く云って呉れるがいい。』
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
外国人に対して乃公おれの国には富士山があるというような馬鹿は今日はあまり云わないようだが、戦争以後一等国になったんだという高慢な声は随所に聞くようである。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前後も知らぬ高鼾たかいびきで、さも心持さそうに寝ておりますから、めた! おのれ画板め、今乃公おれが貴様の角を、残らず取り払ってやるからにわ、もう明日あしたからわ角なしだ
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
然し、元はと言えば乃公おれあやまりさ。あれが来てから一年と経たない内に、もう乃公は飽いて了った。そのはずだろう——あれとは年も違い、考も違う。まるで小児ねんねえも同然だ。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
若山、君は家を造るさうだが、その設計は乃公おれがしてやるから一切任せろ、といふ文面です。
金比羅参り (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
ヤンガー・ゼネレエション拍手喝采かっさいというところであるが、発声撮影トーキーでないのが遺憾の極み。へん、当代太宰治の声色を使わせたら、活殺自在の舌さばき、まず乃公おれの右に出る者はあるまいて。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
そこは乃公おれも察しているから相談ずくで、新しい人形を一つお前たちに貸してやる、これは鎌倉の右大将米友公という人形で、形は小さいが出来は丈夫に出来ている、ただいまのお喋り坊主と違って
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何か他の方法といっても、乃公おれは『筆の上では筆耕生ひっこうせいにもなれないし、腕力では消防夫にもなれない』、別にどうしようもない」
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「中学校だつけね、乃公おれは子供を持つた事がねえから当節たうせつの学校の事はちつともわからない。大学校まで行くにやまだ余程よほどかゝるのかい。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
馬鹿言え、乃公おれは国に帰りはせぬぞ、江戸に行くぞと云わぬばかりに、席を蹴立けたてゝ出たことも、のちになれば先方さきでもしって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
気がついた時には、乃公おれ藁火わらびの傍に大勢に取巻かれていた。大方乃公が死んだと思って火葬にする積りだったのだろう。気の早い奴等だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
乃公おれなんかはちかうち大仕事おほしごとがあるのだ、その仕事しごとためいまこのみなとて、明後晩めうごばんにはまた此處こゝ出發しゆつぱつするのだが、その一件いつけんさへ首尾しゆびよくけば
手品師め、手品には失敗しくじつたが、うまい事を言つたもので、少将と蕃山と左源太とは、各自めいめい腹のなかでは、「その偉い器量人は多分乃公おれだな。」
ははは乃公おれか、乃公はそんな脆弱ひよわい身体でない。いはばこれも道楽の、好きでする仕事に、疲れなんぞ出るものなら、とうに死んでゐる筈なり。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「だって、本船には、最初からあんな老人が乗組んでなかったはずだ。……そ、それに、乃公おれア見たが、あの老人には、足が無かったようだぜ」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
どこそこの華族さんに今度お子達が出来たがそのお子達は生れながら乃公おれはどこの何というラマであるというたとか
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
『帰つたつていじやアないか。乃公おれは出るから』と言ひ放つて、何か思ひ着いたと見え、急速いそいで二階にあがつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「なんでもいいから早く社長を探してくれ。急ぎの原稿があるんだ。社長に早く見せないと、乃公おれくびになるんだ」
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
カピ長 南無三なむさん、やりをるわい。おもしろい下司野郎げすやらうめ! なんぢゃ、まきぢゃ? 乃公おれゃまた薪目まきめくらかとおもうた。……はれやれ、けたわ。
なにね新入しんまい乞食こじきまゐりまして、ソノ負傷けがをしたからお煙草たばこ粉末こないたゞきたいつて……。主「うか、乞食こじきか……ちな/\、いま乃公おれが見てるから……。 ...
そこで前田殿を除いては、といふ再度の質問が起つて、それに答へては乃公おれがと云つた。そこで又氏郷の眼中に徳川氏無きを訝つて、徳川殿はといふ質問が起つた。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
四十二の厄年が七年前に濟んだひつじ八白はつぱくで、「あんたのおとつつあんと同い年や」と言つてゐるが、父に聞くと、「やいや、乃公おれ四緑しろくで、千代さんより四つ下や」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
乃公おれがあのやぶきじうさぎをとったと云ったね、その時分じゃ、ある時、林の中へ往ってみると、昨日きのうまでなかった処に、土を掘りかえして、物を埋めたような処ができて
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「これは乃公おれの病気だからめられない」と、く御自分でも承知していらっしゃるのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いつまでもこのようなみじめな暮しを続けていては、わが立派な祖先に対しても申しわけが無い。乃公おれもそろそろ三十、而立じりつの秋だ。よし、ここは、一奮発して、大いなる声名を
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大いに面目を失いましたが、しかし心のうちでわ、まだ負惜しみという奴があって、おのれ生意気な画板め、余計な角をもって来やがって、よくも乃公おれに赤恥をかかせやがったな。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
又この間の鸚鵡の時のように、鏡を乃公おれから奪いに来たのか。鏡は最早もはやとっくの昔に受け取りの儀式を済まして、居間の壁に取り付けてあるぞ。それとも他に用事でもあるのか。早く云え
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「さあ、また乃公おれの出る幕になった」
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「中学校だっけね、乃公おれは子供を持った事がねえから当節とうせつの学校の事はちっとも分らない。大学校まで行くにゃまだよほどかかるのかい。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)