雲間くもま)” の例文
旅人なら、夕陽ゆうひの光がまだ、雲間くもまにあるいまのうちに早くどこか、人里ひとざとまでたどりいておしまいなさい——と願わずにいられない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さてその内に豪雨ごううもやんで、青空が雲間くもまに見え出しますと、恵印は鼻の大きいのも忘れたような顔色で、きょろきょろあたりを見廻しました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでいて、顔はふしぎに白くかがやいていました。まるで、雲間くもまにかくれたお月さまの弱い光にらされているようでした。
雲間くもまからもれたつきひかりがさびしく、なみうえらしていました。どちらをてもかぎりない、ものすごいなみが、うねうねとうごいているのであります。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
屋根は高く微かに雲間くもまに溶け込み、その微光は、月が、分けようとしてゐる水蒸氣に與へるやうな光であつた。
しばしありてその岩に手鞠てまりほどにひかるもの二ツならびていできたり、こはいかにとおもふうちに、月の雲間くもまをいでたるによくみれば岩にはあらで大なる蝦蟇ひきがひるにぞありける。
日の光雲間くもまをわけてあざやかにす花の野を、わが目かつて陰に蔽はれて見しことあり 七九—八一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
國府津こふづりたとき日光につくわう雲間くもまれて、新緑しんりよくやまも、も、はやしも、さむるばかりかゞやいてた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
弓弭ゆはず清水しみずむすんで、弓かけ松の下に立って眺める。西にし重畳ちょうじょうたる磐城の山に雲霧くもきり白くうずまいて流れて居る。東は太平洋、雲間くもまる夕日のにぶひかりを浮べて唯とろりとして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
鋳物いものの香炉の悪古わるふるびにくすませたると、羽二重はぶたへ細工の花筐はなかたみとを床に飾りて、雨中うちゆうの富士をば引攪旋ひきかきまはしたるやうに落墨して、金泥精描の騰竜のぼりりゆう目貫めぬきを打つたるかとばかり雲間くもま耀かがやける横物よこものの一幅。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
町子まちこよいごゝちゆめのごとくあたまをかへして背後うしろるに、雲間くもまつきのほのあかるく、社前しやぜんすゞのふりたるさま、紅白こうはくつなながくれて古鏡こきようひかかみさびたるもみゆ、あらしさつと喜連格子きつれがうしおとづるれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さよふけて雲間くもまの月の影みれば袖に知られぬ霜ぞおきける
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
此時このとき太陽たいよう雲間くもまれて赫々かく/\たるひかり射出いゝだした。
五 雲間くもまのぼりし 昨日きのう月影つきかげ
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
はつかにもれし雲間くもま
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あすは雲間くもまに隠るゝを
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
雲間くもまの塔は笑ふべし
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
たか雲間くもま宿やどりけり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
するとこのとき、雲間くもまからつきて、おたがいにかおかおとがはっきりとわかりました。たちまちみょうおとこおおきなこえ
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あすは雲間くもまに隱るゝを
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その時雲間くもまより
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あけぼの雲間くもまから
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
正吉しょうきちいえは、きゅうれとしてきました。くもったに、雲間くもまからひかりしたようにあかるくなってきました。
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
木枯こがらしのよるのことです。うえには、二、三にちまえった大雪おおゆきがまだえずにのこっていました。そらには、きらきらとほしが、すごい雲間くもまかがやいていました。
海からきた使い (新字新仮名) / 小川未明(著)
たとえば、ゆきや、あらしとたたかい、けっしてまけずに、ひる小鳥ことりこえき、よる雲間くもまほしかたるこのまつを、どうして、不幸ふこうといいきれるだろうかともおもいました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
つきひかりは、おりおり雲間くもまからかおして、した世界せかいらしましたけれど、そのひかりたよりにあるいてゆくには、あたりがしろで、方角ほうがくすらわからなかったのであります。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
つきが、雲間くもまからもれてなみおもてらしたときは、まことに気味悪きみわるうございました。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして太陽たいようが、たまたま雲間くもまからて、あたたかなかおつきで、れしくこのしろなかをながめますときは、おじいさんは、こまどりのはいっているかごをひなたにしてやりました。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
古酒こしゅのつぼがならべられてあり、うつくしいおんなは、はなのように御殿ごてんにいておうさまのお相手あいてをして、ことや、ふえや、たえなるものほがらかなうたこえは、よるとなくひるとなく、雲間くもまれたのであります。
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おりおりさむかぜかれて、ちいさなからだこごえるようでありましたが、一にちにちと、それでもくもいろが、だんだんあかるくなって、その雲間くもまからもれるひかりうえあたたかそうにらすのをますと
いろいろな花 (新字新仮名) / 小川未明(著)