道理ことわり)” の例文
人の聞かせしやうにこまやかなる声はあらねど、たゞものゝ哀れにて、げに恋する人の我れに聞かすなと言ひけんも道理ことわりぞかし。
すゞろごと (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見る時は不便心が彌増いやまほどこすことのすきなる故まうけの無も道理ことわりなり依て六右衞門も心配なしいつそ我弟が渡世とせい先買さきがひとなりはぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
瘤の中にさえ竜が居たなら、ましてこれほどの池の底には、何十匹となく蛟竜こうりゅう毒蛇がわだかまって居ようも知れぬ道理ことわりじゃ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鬱ぐも道理ことわり、そうして電車の動くままに身を任せてはいるものの、主税は果してどこへ連れらるるのか、雲に乗せられたような心持がするのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汝の憂ひに道理ことわりあらば、汝等の誰なるや彼の罪の何なるやをしり、こののちうへの世に汝にむくいん 一三六—一三八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
道理ことわりめし文角ぬしが、今の言葉にやつがれが、幾星霜いくとしつきの迷夢め、今宵ぞ悟るわが身の罪障思へば恐しき事なりかし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
勝手元かってもとには七輪しちりんあおぐ音折々に騒がしく、女主あるじが手づからなべ茶碗むし位はなるも道理ことわり、表にかかげし看板を見れば仔細しさいらしく御料理とぞしたためける。云云。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
昼もこの寺の前は、樹木茂り薄ぐらき所なり。ことさら夜分ゆえ、はなはだ怪しく見えしも道理ことわりなり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
頂上までほとんど一直線に付けられた巌石がんせきの道で、西側には老杉ろうさん亭々ていていとして昼なお暗く、なるほど道の険しい事は数歩さき巌角いわかどの胸を突かんばかり、胸突き八丁の名も道理ことわりだ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「一山三塔さんとうものへは慈円より、あらためて道理ことわりを明白に申し伝うびょう候と。——わかったか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忍藻おしも和女おことの物思いも道理ことわりじゃが……この母とていとう心にはかかるが……さりとて、こやそのように、忍藻太息といきくようでは、太息のみ吐いておるようでは武士もののふ……まこと
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
是や見し往時むかし住みにし跡ならむ蓬が露に月の隠るゝ有為転変の有様は、色即空しきそくくう道理ことわりを示し、亡きあとにおもかげをのみ遺し置きて我が朋友ともどちはいづち行きけむ無常迅速の為体ていたらく
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「父母を見れば尊し、妻子めこ見ればめぐしうつくし、世の中はかくぞ道理ことわり」、「つちならば大王おほきみいます、この照らす日月の下は、天雲あまぐも向伏むかふきはみ谷蟆たにぐくのさ渡る極、きこす国のまほらぞ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
もっとも、こう物騒な野郎ばかりが、つながって歩けねえのは道理ことわりなのだから、お前さんがこいつと思う野郎を名指しておくんなせえ。何も親分子分の間で、遠慮することなんかありゃしねえ。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
額をたたきあごを撫でて珍趣妙案の捻出に焦慮瘠身するも道理ことわり
除夜の集会あつまり人足ひとあしまれなるも道理ことわりなりけり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
打まもり又も玉なす涙のあめ聲さへ出ずすがより私も一所に死にたしと身をふるはして歎くさま道理ことわりせめて哀れなり九助もまぶた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勝手元には七輪をあふぐ音折々に騷がしく、女主あるじが手づから寄せ鍋茶碗むし位はなるも道理ことわり、表にかゝげし看板を見れば子細らしく御料理とぞしたゝめける
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼處かしこに、はるかに、みづうみ只中たゞなかなる一點いつてんのモーターは、ひかりに、たゞ青瑪瑙あをめなううりうかべる風情ふぜいがある。また、ふねの、さながら白銀しろがねしゝけるがごとえたるも道理ことわりよ。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道理ことわりかな。おぬしほどの力量があれば、城の二つ三つも攻め落さうは、片手業かたてわざにも足るまじい。」と云うた。その時「れぷろぼす」が、ちともの案ずるていで申すやうは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
球形のは水底に触るゝ時たゞ一たび其響き手に至るのみなれば、いと明らかにして好しと聞きぬ、如何にも道理ことわりあることにはあらずや、鉛錐は我が買ひ来しものこそ好けれと云ふ。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
もっとも、こう物騒な野郎ばかりが、つながって歩けねえのは、道理ことわりなのだから、お前さんが、此奴こいつだと思う野郎を、名指しておくんなせえ。何も親分乾児の間で、遠慮することなんかありゃしねえ。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「その驚きは道理ことわりでおじゃる。おれも最初はじめはそうとも知らず『何やらん草中にうめいておる者のあるは熊に噛まれた鹿じゃろうか』と行いて見たら、おどろいたわ、それがかの二方でおじゃッたわ」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
おもへば頼母たのもしいやうにもあり故郷こきやうかへるといふからしておやことおもはれますとうちしほるればそれ道理ことわりわたしでさへも乳母うばことすこしもわすれずいま在世いたならあまへるものを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
道理ことわりかな、肩を並べた奉教人衆は、天を焦がす猛火も忘れて、息さへつかぬやうに声を呑んだ。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
にも頼まれぬ世の果敢はかなさ、時運は禁腋きんえきをも犯し宿業は玉体にも添ひたてまつること、まことに免れぬ道理ことわりとは申せ、九重の雲深く金殿玉楼の中にかしづかれおはしませし御身の
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
見るに今夜こくに死する者がかくすこやかに有べき樣もなし如何なればおうが斯樣の事を云しかと不審ふしんするも道理ことわりぞかし然れば靱負は甚だ氣色きしよくそんじ居ける故主は昨日もらひし金子きんすにてさけさかな
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
妖物ばけもの屋敷と言合えるも、道理ことわりなりと泰助が、腕こまぬきてたたずみたる、頭上の松のしげりを潜りて天よりさっと射下す物あり、足許にはたと落ちぬ、何やらんと拾い見るに、白き衣切きぬぎれようのものに
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まことよ。仰せは道理ことわりにおじゃる。わらわとてなど……」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
このやすくねむらるべしなど言へるも道理ことわりにて、いそぎとりおろして庭草の茂みに放ちぬ。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おのれ人にあつければ、天主も亦おのれに篤からう道理ことわりぢや。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これが釣りの興も一しほ深かるべき道理ことわりならずや。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
真似の上手なるも道理ことわりよ、銀六は旧俳優もとやくしゃなりき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女主あるじが手づから寄せなべ茶椀ちやわんむし位はなるも道理ことわり、表にかかげし看板を見れば子細らしく御料理おんりようりとぞしたためける、さりとて仕出し頼みにゆきたらば何とかいふらん、にはか今日こんにち品切れもをかしかるべく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女主あるじづからなべ茶椀ちやわんむしぐらいはなるも道理ことわりおもてにかゝげし看板かんばんれば子細しさいらしく御料理おんりようりとぞしたゝめける、さりとて仕出しだたのみにゆきたらばなにとかいふらん、にはか今日こんにち品切しなぎれもをかしかるべく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)