“逆(さかさ)” の例文
世間の噂では、「ロボの頸(くび)に金環(かなわ)がついている。」とか、また、「かれの肩(かた)には悪魔(あくま)の仲間(なかま)である印として逆(さかさ)十字の斑点(はんてん)がある。」
彼女はどうしたものか、夜中に開かれた表向きの窓から、半身を逆(さかさ)に外へのり出し、丁度(ちょうど)窓と電気看板との間に挿(はさま)って死んでいた。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
残らず、薄樺色(うすかばいろ)の笠を逆(さかさ)に、白い軸を立てて、真中(まんなか)ごろのが、じいじい音を立てると、……青い錆(さび)が茸の声のように浮いて動く。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな余計な事まで云って、自分の目的とは反対な影を、お延の上に逆(さかさ)まに投げておきながら、彼はかえって得意になっているらしかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭はどうにか逆(さかさ)まにして染めるのでしたが、顔を染めるときはくちばしを水の中に入れるのでしたから、どの鳥もよっぽど苦しいやうでした。
林の底 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
この条件反射の現象を逆(さかさ)に応用したならば、犬が、どれくらいの音をききわけることが出来るかを、客観的に定めることが出来るのであります。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
一人の女は素手で絞め殺して、死骸を逆(さかさ)に煖炉の中にねぢ込んであつた。どうもこれは普通の殺し方ではないね。殊に死骸の隠し方が不思議だ。
逆(さかさ)まにしたような斑紋が現われる。感電死ほど解りいいものは無いよ。ところが——低圧の電気で死んだらどうなると思う
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
鬼貫は破れたる半屏風を逆(さかさ)に立てまはして、その蔭に這入る。その途端にお妙は傘も包みも投げ出して内へ駈けあがり、屏風を押倒して父の手に取りすがる。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
されどわがかく足を燒き逆(さかさ)にて經し間の長さは、彼が足を赤くし插されて經ぬべき時にまされり 七九—八一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
取て逆(さかさ)に捻上(ねぢりあげ)向うの方へ突飛すに大力のはずみなれば蜻蛉(とんぼ)返りを打て四五間先へ倒れたり是を見て雲助共は少し後逡(あとずさり)をなせしがイヤ恐しい奴(やつ)平氣な面(つら)をして居を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
銃を逆(さかさ)に担いだ印度人の巡査がお杉の顔を眺めていた。車座に蹲(しゃが)んだ裸体の車夫の群れが、天然痘の痕のあるうっとりとした顔を並べて、銅貨の面を見詰めていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
人通りの少い靜かな柳のかげで、雪袴(ゆきばかま)のやうなものを穿いた少年が柔軟(やはらか)な身體を種々に動かして見せた。兩足で首を挾む、逆(さかさ)に蜻※返(とんぼがへ)りする、自由自在にやりました。
嘘などを逆(さかさ)に立っても云いそうもない所等は却ってお久美さんに厭な思いをさせる許りで有った。
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
乾いた落葉が、遽(あわ)てゝカラカラと舞い奔(はし)る。箒を逆(さかさ)に立てた様な雑木山に、長い鋸(のこ)を持った樵夫(さきやま)が入って、啣(くわ)え煙管(ぎせる)で楢(なら)や櫟(くぬぎ)を薪に伐(き)る。海苔疎朶(のりそだ)を積んだ車が村を出る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
改まってお祖母(ばあ)さんにお辞儀しろと言われた事は滅多に無いので、死ぬと変な事をするものだ、と思って、おッかな恟(びっく)り側(そば)へ行くと、小屏風を逆(さかさ)にした影に祖母が寝ていて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いわゆるこれが顛倒衆生(てんとうしゅじょう)といって全く逆(さかさ)まな行いをして居る者であろうと思われる。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「ええ、逆(さかさ)に読んでもコイケケイコ……、憶えいいでしょ、ほほほほほ」
地図にない島 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
長吉には鉄棒から逆(さかさ)にぶらさがったり、人の丈(たけ)より高い棚の上から飛下りるような事は、いかに軍曹上(ぐんそうあが)りの教師から強(し)いられても全級の生徒から一斉(いっせい)に笑われても到底出来得(う)べきことではない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
背中の羽根を逆(さかさ)に撫(な)でたら、手の平に羽先(はさき)がこたへさうである。かう云ふ重々しい全体の感じは、近代の画にないばかりではない。大陸の風土に根を下(おろ)した、隣邦の画にのみ見られるものである。
支那の画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてその方法は変死者なれば屍体を逆(さかさ)にして、橋の袂か四ツ辻に埋めたものである。これはこうした場所ならばたえず人馬の往来があるので、死霊が発散せぬよう踏み固めると信じたからである。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
フラ/\と頭の上に漂うて、風を喰つた様に逆(さかさ)まに川原に逃げる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
これも逆(さかさ)に顎(あご)さきを立てた顔が捩(ね)じられた。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
沙塵の堆は深くして長く逆(さかさ)に立てる彼
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
ただ一雫(ひとしずく)の露となって、逆(さかさ)に落ちて吸わりょうと、蕩然(とろり)とすると、痛い、疼(いた)い、痛い、疼いッ。肩のつけもとを棒切(ぼうぎれ)で、砂越しに突挫(つきくじ)いた。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何よりも先だつのは、こっちの弱点を見抜かれて、逆(さかさ)まに相手から翻弄(ほんろう)されはしなかったかという疑惑であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しゅっこは、木の上で手を額(ひたい)にあてて、もう一度(ど)よく見きわめてから、どぶんと逆(さかさ)まに淵へ飛(と)びこんだ。それから水を潜(くぐ)って、一ぺんにみんなへ追(お)いついた。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
奇妙とも妖艶(ようえん)ともつかない婦人の金切声(かなきりごえ)が頭の上の方から聞えたかと思うと、ドタドタという物凄い音響がして、佐和山女史の大きな身体が逆(さかさ)になって転(ころが)り落ちて来ると
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし斯の危い戲れよりも安全で、もつと少年の私の心を喜ばせたのは、低い梯子から高い梯子へ昇らうとする中途の袋戸棚の上から、逆(さかさ)にでんぐり返しを打つことでした。
曲者は洗濯物でその口を塞(ふさ)ぎ、側にあつた前掛で口を縛つた上、お勝手に驅け込んで刺身庖丁を持出し、左逆(さかさ)に持つて、後ろから手を廻し、一氣に主人を殺して、ウメキ聲をとめさせた
長吉(ちやうきち)には鉄棒から逆(さかさ)にぶらさがつたり、人の丈(たけ)より高い棚(たな)の上から飛下(とびお)りるやうな事は、いかに軍曹上(ぐんさうあが)りの教師から強(し)ひられても全級(ぜんきふ)の生徒から一斉(せい)に笑はれても到底(たうてい)出来得(できう)べきことではない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
沖縄県では近年まで変死者をこうして取扱ったもので、内地の各地に逆(さかさ)に歩く幽霊が出ると云う話のあるのも、また辻祭や辻占と称して四ツ辻が俗信と深い関係を有しているのはこれが為めである。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
その善い事も逆(さかさ)まに悪事に言い立てて譴責(けんせき)を喰わせるとか罰せられるようにされるものですから、チベットの政府部内では法王を恐るると同時に、なおより多くネーチュンなる神下しを恐れて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
上へ返して押たる者と相見え爪印が逆(さかさ)に成て居るはコリヤ如何の譯なりやと云ければ九助はハツトばかりにて一言の返答(へんたふ)もなく只落涙(らくるゐ)に沈(しづ)み俯向(うつむい)て居たるにぞ理左衞門は迫込(せきこん)でコリヤ何ぢや御重役方よりの御不審(しん)なるぞ汝(おの)れ何心なく押たのか但(たゞし)指(ゆび)に痛所(いたみしよ)にても有て逆(ぎやく)に押たるやコリヤ何ぢや/\と迫(せき)立れど九助は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、いきなり居すくまった茸の一つを、山伏は諸手(もろて)に掛けて、すとんと、笠を下に、逆(さかさ)に立てた。二つ、三つ、四つ。——
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忘るべからざる二十四日の出来事を書こうと思って、原稿紙に向いかけると、何だか急に気が進まなくなったのでまた記憶を逆(さかさ)まに向け直して、後戻(あともど)りをした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いかにもその鷹やなにかが楊の木に嘴(くちばし)を引っぱられて、逆(さかさ)になって木の中に吸い込(こ)まれるのを見たいらしく、上の方ばかり向いて歩きましたし、私もやはりその通りでしたから
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
曲者は洗濯物でその口を塞(ふさ)ぎ、側にあった前掛で口を縛った上、お勝手に駆け込んで刺身庖丁を持出し、左逆(さかさ)に持って、後ろから手を廻し、一気に主人を殺して、ウメキ声をとめさせた
怪人の身体と機関車との間には、三十センチほどの間隙(かんげき)があきらかに認められました。前に兄が谷村博士邸で、天井に逆(さかさ)にぶら下っていたとき、私は下から洋書を投げつけたことがあります。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その黒髪の船に垂れたのが、逆(さかさ)に上へ、ひょろひょろと頬(ほお)を掠(かす)めると思うと——(今もおくれ毛が枕に乱れて)——身体(からだ)が宙に浮くのであった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叱りつけるほどの衒気(げんき)もなかった。ただ彼女が帰った後で、たちまち今までの考えが逆(さかさ)まになって、兄の精神状態が周囲に及ぼす影響などがしきりに苦になった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでみんなは、なるべくそっちを見ないやうにしながら、いっしょに下流(しも)の方へ泳いだ。しゅっこは、木の上で手を額にあてて、もう一度よく見きはめてから、どぶんと逆(さかさ)まに淵へ飛びこんだ。
さいかち淵 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「いや、一向判らない。淺井朝丸樣は、四角な文字も讀む方だが、この文句ばかりは讀む工夫(くふう)はないと言はれる。縱から讀んでも横から讀んでも、斜(なゝめ)に讀んでも、逆(さかさ)に讀んでも讀み下せないのぢや」
頭目は、ベールの中で、日を逆(さかさ)にかぞえているようであった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
中から圧(おさ)えたのも気が附かぬか、駒下駄(こまげた)の先を、逆(さかさ)に半分踏まえて、片褄蹴出(かたづまけだ)しのみだれさえ、忘れたように瞻(みまも)って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
約束的にせよ善に与(くみ)し悪を忌(い)み、美を愛し、醜を嫌うものが、単に作物の上においてのみ矛(ほこ)を逆(さかさ)まにして悪を鼓吹(こすい)し、醜を奨励(しょうれい)する態度を示すのは、ただに標準を誤まるのみならず
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
巨大な岩の身体が、天井に逆(さかさ)に釣(つる)されてしまったのだ。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
余り訝(いぶか)しければ、遥(はる)かに下流より遠廻りにその巌洞(いわあな)に到りて見れば、女、美しき褄(つま)も地につかず、宙に下る。黒髪を逆(さかさ)に取りて、巌(いわ)の天井にひたとつけたり。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこでもって家賃が滞(とどこお)る——倫敦(ロンドン)の家賃は高い——借金ができる、寄宿生の中に熱病が流行(はや)る。一人退校する、二人退校する、しまいに閉校する。……運命が逆(さかさ)まに回転するとこう行くものだ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
逆(さかさ)に温かな血の通うのが、指の尖(さき)へヒヤリとして、手がぶるぶるとなった、が、引込(ひっこ)める間もありません。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)