)” の例文
たばこ屋にくぼのある娘をおくように、小間物屋にこのていの男を坐らせておく商法の機微きびは、今も昔も変りないものとみえました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おちつきはらいながら表へ立って、ましげにほほえみながら、静かに指さしたのは庭一面、道一面を埋めつくしている深い雪です。
黒と赤との着物を着たイイナはジプシイうらないをしていると見え、T君にほほみかけながら、「今度はあなたのうんを見て上げましょう」
カルメン (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、もう一つあるんだ。その美枝子さんというのは、丸顔のひとで、唇が小さく、そして両頬にくぼのふかいひとじゃないかね」
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鏡台の前を少し離れて立って、自分の姿に見惚みとれているお君の眼には、先の涙が乾いてその代りに、淋しいみが漂うていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これを聞きて翁の目は急にみをたたえ、父上もさすがにこのたびは許したまいしか、まずまずめでたし、いつごろ立ちたもうや。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「おら初めて見ただよ」と五郎さんは意味ありげな一種の眼くばせを三人にした、「——まるでいまんだ柘榴みてえだっただ」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
細君ははしゃいだ唇に、ヒステレックな淋しいみを浮べた。筋の通った鼻などの上に、まだらになった白粉のあとが、浅井の目に物悲しく映った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
時には豪華な客間で、時には広大な庭園で、少年メンデルスゾーンの作品が初演された楽しさは、想像するだにほほましき限りである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
泰親はまだ眠らずに待っていたので、千枝太郎はすぐに師匠の前へ出て、今夜の使いの結果を報告すると、泰親はましげにうなずいた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
水夫たちは、みを浮かべて、火夫たちに挨拶あいさつしながら通った。それは、まるで、目をさました獅子ししの第一声のようでもあった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ザロメの広い顔は、満足げにみを浮かべていた。——最初彼女は、クリストフがやって来たのを見た時、当てが違ったような気がした。
鏡面で互いににっこりみ合うことがいかに幼い頃の悦びであったろうか——その忘れがたい瞳が、今力強く彼を襲って来ているのだった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
はだはうつくしくきとおるようですし、ながいまっ黒なまつ毛の奥には、ふかい青みをもった、貞実ていじつな目がやさしくみかけていました。
エリスはうちみつつこれをゆびさして、「なにとか見たもう、この心がまえを」といいつつ一つの木綿ぎれを取上ぐるを見れば襁褓むつきなりき。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この時雌鼠は恐る恐る黄金丸の前へひ寄りて、慇懃いんぎんに前足をつかへ、数度あまたたびこうべを垂れて、再生の恩を謝すほどに、黄金丸は莞爾にっこと打ち
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
水兵は快然とみつつ、「今日はね、おとうさま、楠正行くすのきまさつらの話よ。僕正行ア大好き。正行とナポレオンはどっちがエライの?」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕の時には絹布団を敷いてやるといったよと申しますと、誰れでもその手でやられるなあと按摩は会心のみをもらしました。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
蒼白な顔に、決意のみを浮かべた源三郎、やおら馬をめぐらして、土橋を渡り、葛西領かさいりょうの四ツ木村のほうへと向かって行く。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かすかな幽な声で転がすようにうたった。まさしく生ているおりなら、みくずれるほどに笑ったのであろう。唇をパクリとした。
その悲しみとその悶えとを俺に見せまいと押し隠し空々そらぞらしいみを顔にたたえて俺の方へ手を延ばすその柵を見たいのだ。早く柵を連れて来い!
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
兄は、兄自身のためにぼくの気持ちをさぐってみたにすぎないのだ。ぼくの返事を見て、今ごろはおそらくほくそんでいることだろう。——
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
頭を上げ、口もとにみを浮かべ、一種の輝きを顔に漂わせ、ゆったりとした額で、揚々たる目をしていた。彼もまた一睡もしていなかった。
其れがやわらかな日光にみ、若くは面を吹いて寒からぬ程の微風びふうにソヨぐ時、或は夕雲ゆうぐもかげに青黒くもだす時、花何ものぞと云いたい程美しい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「御目にかけてもよろしゅうございますが——」と私もそれについ釣込まれてほほみ出しながら、「——でも、御子様にして下さいますか?」
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
源氏の意はただおおまかに女ということであったが、入道は訳もなくうれしい言葉を聞きつけたように、みながら言う
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
妻はうち砕かれた花のようなみを浮べていた。……家へ戻ってから、ふと古びた小型のバイブルをとり出してみて、彼はハッとするのだった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
クララの父母は僧正の言葉をフォルテブラッチョ家との縁談と取ったのだろう、みかまけながら挨拶の辞儀をした。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
後になって、そのみが彼女の眼にまで拡がってきた時、私は何だかそれに応じて微笑ほほえめないようなものを感じた。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
葛岡氏はみを湛えた。「元々、人みしりをするようなたちでしたからねえ。それにしても、寿女さん、あの辺に知り合いでもあったんでしょうかねえ」
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
とばかりありて眼のさきにうつくしき顔のろうたけたるが莞爾につことあでやかにみたまひしが、そののちは見えざりき。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
景色けしきは晴れがましいうちに湿しっとりと調子づいて、長屋と長屋の間から、下の方の山を見ると、真蒼まっさおな色がみ割れそうに濃く重なっている。風は全く落ちた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやしくも文芸の道に一片の了解をいだく者の、会心のみを漏らさずには読み得ぬ一節ではあるまいか。
茶の本:01 はしがき (新字新仮名) / 岡倉由三郎(著)
わたしは、その強盗をした少女のことも、罪は罪としても、何だか、ほほましいものを感じるのでした。
地底王国の主人公、ちょびひげ紳士は、万能の名医のように、柔和な顔、赤いくちびるにおだやかなみをたたえて、じっとこちらの顔を見つめるのであった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
またとらえられたいっぴきの縞鯛しまだいが人魚の食膳にのぼりました。ほくそんでむしゃむしゃと生身なまみの魚をかじる人魚の口は、耳まで裂けているようにみえました。
人魚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
またこれを読んで会心のみをもらす人は、またきっとうらやむべく頭の悪い立派な科学者であろう。
科学者とあたま (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
をはつて、少年せうねんだまつて點頭うなづくのをましやりつゝ、三人みたりうながして船室キヤビンた。
「あッ、カムポス」と、思ったときは胸までもつかっている。カムポスは、一度は血の気のひいたまっ蒼な顔になったが、やがて、観念したらしくにこっと折竹に
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
夕暮が迫るにつれてだんだんとお客が集まって来たが、その一人一人にイヴァン・ペトローヴィチは例のみこぼれるような眼を向けて、こう挨拶するのであった。——
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いつもすべすべした生白い顔にはみをたたえて頭髪には油をこてこてと塗っていたのである。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と云って、老女はいじらしい子供だと云う風に、相変らずやさしいみを浮かべながら答えた。
わたくし足元あしもときたり、その無邪気むじゃきな、ほがらかなかおみをたたえて、したからわたくし見上みあげるのでした。
とうとう来たな——そう言いたそうな会心のみを浮べながら、丸万はしかし無言だった。よく来てくれた——と今にも言いそうで、それを丸万は口に出して言わなかった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
骨も埋もるるばかり肥え太りて、角袖かくそで着せたる布袋ほていをそのまま、ましげに障子のうちへ振り向きしが、話しかくる一言の末に身をらせて打ち笑いぬ。中なる人の影は見えず。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
町の曲がりかどで、急に車がまるとか、また動き出すとか、何か私たちの乗り心地ごこちを刺激するものがあると、そのたびに次郎と末子とは、兄妹きょうだいらしい軽いみをかわしていた。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ただやかましき旦那の指図に任せて、給金も指図次第、仕事も指図次第、商売の損得は元帳を見て知るべからず、朝夕旦那の顔色をうかがい、その顔にみを含むときは商売の当たり
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おくれをとらない忠盛のことだから、内心は、むしろほくそんでいたのかも知れないが
天皇は仲麿を見るたびにましくなるので、改名して、恵美押勝えみのおしかつと名のらせた。押勝とは、暴を禁じ、強に勝ち、ほことどめ、乱を静めたといふいさおしの、雄々しい風格の表現だつた。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
第三に、人生に寂寞じゃくまくを感じない。もしも世界中の人間がわれにそむくとも、あえて悲観するには及ばぬ。わが周囲にある草木くさきは永遠の恋人としてわれにやさしくみかけるのであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)