立昇たちのぼ)” の例文
いま餘波なごりさへもないそのこひあぢつけうために! そなた溜息ためいきはまだ大空おほぞら湯氣ゆげ立昇たちのぼり、そなた先頃さきごろ呻吟聲うなりごゑはまだこのおいみゝってゐる。
赤地あかぢ蜀紅しよくこうなんど錦襴きんらん直垂ひたゝれうへへ、草摺くさずりいて、さつく/\とよろふがごと繰擴くりひろがつて、ひとおもかげ立昇たちのぼる、遠近をちこち夕煙ゆふけむりは、むらさきめて裾濃すそごなびく。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たちま山岳さんがく鳴動めいどうし、黒烟こくゑん朦朧もうろう立昇たちのぼる、その黒烟こくゑん絶間たえまながめると、猛狒ゴリラ三頭さんとうとも微塵みじんになつてくだんだ、獅子しゝ大半たいはん打斃うちたをれた、途端とたん水兵すいへい
大王、彼処かしこに見ゆる森の陰に、今煙の立昇たちのぼる処は、即ち荘官しょうややしきにて候が、大王自ら踏み込み給ふては
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
とこした秋海棠しゅうかいどうが、伊満里いまり花瓶かびんかげうつした姿すがたもなまめかしく、行燈あんどんほのおこうのように立昇たちのぼって、部屋へや中程なかほどてた鏡台きょうだいに、鬘下地かつらしたじ人影ひとかげがおぼろであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
すると真白なけむり濛々もうもう立昇たちのぼった。どうやら強酸性きょうさんせいの劇薬らしい。なにをやっているのだろう。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かヽる人々ひと/″\瞋恚しんいのほむらが火柱ひばしらなどヽ立昇たちのぼつてつみもない世上せじやうをおどろかすなるべし。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
同時にまた川から立昇たちのぼにおいや水の匀も、冷たく肌にまつわり出した。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
蒼白く整った顔からは、芬々ふんぷんとして妖気ようき立昇たちのぼるような気がするのです。
真暗まっくらなところに麺棒めんぼうをもってこねた粉をのばしていると、傍に大がまがあって白い湯気が立昇たちのぼっていたり、また粉をふるっている時は——宅の物置のつづきのさしかけで、かどの小さな納屋の窓から
やまも、たにも、一時いちじ顛倒てんたうするやうひゞきともに、黒煙こくえんパツと立昇たちのぼる。猛獸羣まうじうぐん不意ふゐおどろいて、周章狼狽あわてふためいせる。
むらさき香煙こうえんが、ひともとすなおに立昇たちのぼって、南向みなみむきの座敷ざしきは、硝子張ギヤマンばりなかのようにあたたかい。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
つき世界せかいれば、に、はたに、山懷やまふところに、みねすそに、はるかすみく、それはくもまがふ、はたとほ筑摩川ちくまがはさしはさんだ、兩岸りやうがんに、すら/\と立昇たちのぼるそれけむりは、滿山まんざんつめたにじにしきうら
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
本艦ほんかんこれおうじて手始てはじめには八インチ速射砲そくしやほうつゞいて打出うちだ機關砲きくわんほうつきさんたり、月下げつか海上かいじやう砲火ほうくわとばしり、硝煙せうゑん朦朧もうらう立昇たちのぼ光景くわうけいは、むかしがたりのタラントわん夜戰やせんもかくやとおもはるゝばかり。
そいつも、ただてるんならまだしもだが、薬罐やかんうえつらかぶせて、立昇たちのぼ湯気ゆげを、血相けっそうえていでるじゃねえか。あれがおめえ、いい心持こころもちていられるか、いられねえか、まずかんがえてくんねえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)