眼付めつき)” の例文
まず下々しもじもの者が御挨拶ごあいさつを申上ると、一々しとやかにおうけをなさる、その柔和でどこか悲しそうな眼付めつきは夏の夜の星とでもいいそうで
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
医者らしい男の外に制服の警官たちが、険しい眼付めつきで私を迎えたその脚下には、蕗子が白い胸も露わにあけはだけたまま倒れています。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
甚あわれになった。天狗犬は訴うる様な眼付めつきをしてしば/\彼を見上げ、上高井戸にってかえるまで、始終彼にくっついてあるいた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
とうとう船全体が、動かす事の出来ない迷信にとらわれて、スッカリ震え上がらせられてしまった。乗組員の眼付めつきみんなオドオドと震えていた。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あんなところに……」とよし子が云ひした。驚ろいて笑つてゐる。この女はどんな陳腐なものを見てもめづらしさうな眼付めつきをする様に思はれる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
パリスカスは見慣れぬ周囲の風物を特別不思議そうな眼付めつきながめては、何か落著おちつかぬ不安げな表情で考えんでいる。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「えゝと、それでお前さんも自分の運命を聽きたいのかな?」と彼女は、その眼付めつきと同じやうにはつきりと、その顏と同じやうにきつい聲で云つた。
小使こづかい看護婦かんごふ患者等かんじゃらは、かれ往遇ゆきあたびに、なにをかうもののごと眼付めつきる、ぎてからは私語ささやく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
二人の眼付めつきは皆一様に、彼の身体に何物かをぎ込み、彼の身体から何物かを取出そうとするらしい。そう思うと抑え難き胸騒ぎがしてまた一しきり咳嗽込んだ。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
洋服男もあり、和服の人もあり、いずれも鋭い眼付めつきをして、道夫の方をじろじろと見るのだった。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
木曾きそ山地さんちそだつた眼付めつき可愛かあいらしい動物どうぶつがその博勞ばくらうかれながら、諸國しよこくはたらきにるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
俺はあれの前では、こんなせつなげな眼付めつきをしては居らない。愛子は俺の心を読む術を知つて居る。俺が黙つて居る間にも、俺が何を思念し欲求して居るかを看取してしまふ。
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
「ちょいと、わたし聞いて見るわ。」と突然立止たちどまった。中島は話の腰を折られ、夢から覚めたような眼付めつきをして、お玉がむかいの家の格子戸をあける後姿うしろすがたをぼんやり眺めていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女同志をんなどうしの愛を思はせる眼付めつき薔薇ばらの花よ、百合ゆりの花よりも白くて、女同志をんなどうしの愛を思はせる眼付めつき薔薇ばらの花、處女をとめに見せかけてゐるおまへの匂をおくれ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ぬばたまの夜の黒髪にすヒラヒラする銀紙の花簪はなかんざし、赤いもの沢山の盛装した新調の立派な衣裳……眉鼻口まゆはなくちは人並だが、狐そっくりの釣上つりあがった細い眼付めつきは、花嫁の顔が真白いだけに一層いっそうすごく見える。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
そして冷たいしつけるような眼付めつきで馬上の武士を見るといった。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼は酔つた眼付めつきを、じつとピチ公の上にすゑました。
金の猫の鬼 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
号室ごうしつだい番目ばんめは、元来もと郵便局ゆうびんきょくとやらにつとめたおとこで、いような、すこ狡猾ずるいような、ひくい、せたブロンジンの、利発りこうらしい瞭然はっきりとした愉快ゆかい眼付めつき
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
今にも飛びかかりそうな眼付めつきをしながらドアの蔭にひしめいていたものであるが、兼が「兄貴達も容赦してくれ」と云って頭をグッと下げた会釈ぶりが気に入ったらしく
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
顔付かほつきと云ひ、眼付めつきと云ひ、声のひくそここもちからと云ひ、此所こゝ迄押しせまつてた前後の関係と云ひ、凡ての点から云つて、梅子をはつと思はせない訳に行かなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしさすがに声はかけず、鋭い眼付めつきまたたき一ツせず車掌の姿に注目していた。車の硝子窓ガラスまどから、印度や南清なんしん殖民地しょくみんちで見るような質素な実利的な西洋館が街の両側に続いて見え出した。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ハヾトフは此時このとき少計すこしばかけて室内しつないのぞいた。イワン、デミトリチは頭巾づきんかぶつて、めう眼付めつきをしたり、ふるへあがつたり、神經的しんけいてき病院服びやうゐんふくまへはしたりしてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
気の所為せゐか、茶をはこぶ時にも、妙に疑ぐり深い眼付めつきをして、見られる様でならなかつた。然し三千代は全く知らぬ顔をしてゐた。すくなくとも上部うはべ丈は平気であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三四郎はいたけてある三越呉服店の看板を見た。奇麗な女がいてある。其女の顔が何所どこか美禰子に似てゐる。能く見ると眼付めつきちがつてゐる。歯並はならびわからない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ハバトフはこのときすこしばかりけて室内しつないのぞいた。イワン、デミトリチは頭巾ずきんかぶって、みょう眼付めつきをしたり、ふるえあがったり、神経的しんけいてき病院服びょういんふくまえわしたりしている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
うめ子がすゞしい眼付めつきになつて風呂場から帰つた時、代助はちまきひとつを振子ふりこの様にりながら、今度は
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
號室がうしつだい番目ばんめは、元來もと郵便局いうびんきよくとやらにつとめたをとこで、いやうな、すこ狡猾ずるいやうな、ひくい、せたブロンヂンの、利發りかうらしい瞭然はつきりとした愉快ゆくわい眼付めつきちよつるとまる正氣しやうきのやうである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あまいと云はんよりは苦痛である。いやしく媚びるのとは無論違ふ。見られるものの方が是非媚びたくなる程に残酷な眼付めつきである。しかも此女にグルーズの画と似た所は一つもない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其後そのご院長ゐんちやうアンドレイ、エヒミチは自分じぶん周圍まはりもの樣子やうすの、ガラリとかはつたことやうやみとめた。小使こづかひ看護婦かんごふ患者等くわんじやらは、かれ往遇ゆきあたびに、なにをかふものゝごと眼付めつきる、ぎてからは私語さゝやく。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
小倉こくらはかまをつけてまた出掛けた。大きな玄関へっ立って頼むと云うと、また例の弟が取次に出て来た。おれの顔を見てまた来たかという眼付めつきをした。用があれば二度だって三度だって来る。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)