ひさご)” の例文
仙台地方に流行するポンポコやり尖端せんたんに附いているひさごには、元来穀物の種子が貯えられたのである。これが一転して玩具化したのである。
土俗玩具の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
東坡巾先生は道行振の下から腰にしていた小さなひさごを取出した。一合少し位しか入らぬらしいが、いかにも上品ない瓢だった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
図210は蔓のあるひさごの形をしている。葉及び昆虫の翅のような平な面は、ござ編みで出来ているが、他の細部はみな本当の籠細工である。
竹のつつでもつぼえないこともないが、そう名づけるのにもっと適切な、或いはひさごのようなものをかつては利用していたのではなかったか。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
信一郎に、そう云い切られると、夫人はしばらく黙っていた。白いひさごの種のような綺麗きれいな歯で、下唇を二三度噛んだがやがて気を換えたように
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一方鉄拐仙人は、腰に大きなひさごを付け、両足の間に杖を揷み、左手で奇形な印を結び、すぼめた口からこれは黒気を、一筋空へ吐き出している。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あきにもると、山遊やまあそびをするまち男女なんによが、ぞろ/\つゞいて、さかかゝくちの、此處こゝにあつた酒屋さかやで、吹筒すひづつひさごなどに地酒ぢざけんだのをめたもので。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いま登って来たのだろう、二人とも酔っているとみえてひょろひょろしているし、一人は手に大きなひさごを持っていた。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
台所の柱に米が二升四合も入るぐらいのひさごをかけ、三方水で囲まれた粗末な小屋に芭蕉庵と名づけ嵐雪などと男世帯をもった三十七歳の桃青の心の裡は
芭蕉について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
足下あしもとには層をなして市街の屋根が斜めに重なり、対岸には珠江しゆかう河口かこういだいた半島が弓形きゆうけいに展開し、其間そのあひだひさごいた様な形で香港ホンコン湾があゐを湛へて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
両親はと見ると綿の出た破れた衣服きものを着ていたが、そこは土間の中で、ひさごと杖があるのみであった。曾は心で、自分は乞食の子であるということを知った。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
顔に灰を塗り片手にひさごの水入をげ、片手に鉄の火箸ひばしを持って居る裸体はだかの坊さんが沢山入り込んだということが、今もなおチベットの民間に伝えて居ります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あるときは白きひげゆるき衣をまといて、長きつえの先に小さきひさごくくしつけながら行く巡礼姿も見える。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かの空也上人の門流たる三昧聖の徒が、ひさごを叩いて念仏を唱えながら、これを瓢叩きといわずして、世間から「鉢叩き」と呼ばれているのも、ハチ叩きの意であろう。
賤民概説 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
これ多分一夜に育ちてたちまち頭上をおおえりというヨナのひさごの類であると思う。忽ちに成長して全園を蔽うに至り、その勢威人を驚かせど一度根を絶たば枯死して跡をとどめない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
草葺くさぶき屋根の家にからんでいるひさごの蔓の末が、離れて虚空こくうにある場合を捉えたものであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
取引が無事に済むと、玄知は腰にしたひさごをほどいて、花の下で酒を飲み出した。百姓が夕方野良から帰つてみると、玄知は花の下でいぬころのやうにいびきを掻きながら転寝うたゝねをしてゐた。
ぐるりの鴨居かもいには菅笠すげがさが掛つてゐる、みのが掛つてゐる、ひさごの花いけが掛つてゐる。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ひさごの種のような歯の間から、舌の先を動かすのが一際ひときわ愛くるしく見られた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今年私はひさご作りを楽しみに、毎朝起きるとすぐ畠へ出てゆく。
瓢作り (新字旧仮名) / 杉田久女(著)
「何だな! 時は春、ひさごまくらにいびきかな。成程、竹冷ちくれいだね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うち見にはひさご枕に仮寝してただにとろほろと人ぞしたる
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひさごの中から酌めたのは、味もそつけもありはせぬ
小町こまちの真筆のあなめあなめの歌、孔子様のさんきんで書いてある顔回がんかいひさご耶蘇やその血が染みている十字架の切れ端などというものを買込んで
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
多くの農家には関西でゲビツ、東北でケシネギツなどという糧米櫃ろうまいびつがあって、その中にはほぼその分量を盛るひさごまたは古椀ふるわんなどが入れてあった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
若党使僕こもの五人を連れ他に犬を一頭曵き、ひさごには酒、割籠わりごには食物、そして水筒には清水を入れ、弓之進はで立った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
てまえは太郎冠者というやつ、腰にひさごがあれば一さし御舞おんまい候え、といいたい処でがしたが、例の下卑蔵げびぞう
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下の方へ降って行きますとちょうどひさごの形をして居る池がある。それはその形によって「瓢池ひさごいけ」と名を命けて置いた。その池の周囲めぐりは恐らく半里位しかなかったろうと思います。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
で、芸術以外に宗教にも趣味を持って、殊にその内でも空也くうやは若い頃本山から吉阿弥の号をもらって、ひさごを叩いては「なアもうだ/\」を唱えていた位に帰依きえしていたのでありました。
我が宗教観 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
白いひさごの種のやうな綺麗な歯で、下唇を二三度噛んだがやがて気を換へたやうに
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ひさごや瓢やわれ汝を愛す、汝かつて愛すがん氏の賢を、陋巷ろうかうに追随して楽しみを改めず、なんぞ美禄を得て天年を終らざる、天寿命あり汝の力にあらず、功名また驥尾きびに付す、瓢や瓢やわれ汝を愛す
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
上三句重く下二句軽く、ひさごさかしまにしたるの感あり。ことに第四句力弱し。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そこには天から水汲瓢みずくみひさごが下って来るだろう。仙女たちは一度羽衣を盗まれてから、りてもう降りては来ない代りに、ひさごで水を汲んで天上で浴びている。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(とおだやかに、百合に向って言い果てると、すッと立って、ひさごさかさに、月を仰いで、ごッと飲む。)
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孔子様のさんきんで書いてある顔回のひさご、耶蘇の血が染みてゐる十字架の切れ端などといふものを買込んで、どんなものだいと反身になるのもマンザラ悪くは有るまいかも知らぬ。
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
隣医ひさご花活はないけに造り椿つばきを活けて贈り来る滑稽の人なり
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
たゞし菊には元来甘いと苦いとの二種あることひさごの如くであつて、又あたかも瓢の形の良いのには苦性にがだちのものが多くて、酒を入れると古くなつてゐても少し苦味を帯びさせるが如く
菊 食物としての (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ふところにして来る信州東筑摩辺の風習、新仏は墓地を去ることがむつかしいからといって、ひさごを携えて往って代りに墓処に置いて来る岩手県の慣行の如き、共に幼い考え方ではあるが
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
頬白ほおじろ山雀やまがら雲雀ひばりなどが、ばらばらになって唄っているから、綺麗きれいな着物を着た間屋のむすめだの、金満家かねもちの隠居だの、ひさごを腰へ提げたり、花の枝をかついだりして千鳥足で通るのがある。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頬白ほゝじろ山雀やまがら雲雀ひばりなどが、ばら/\になつてうたつてるから、綺麗きれい着物きもの問屋とひやむすめだの、金満家かねもち隠居いんきよだの、ひさごこしげたり、はなえだをかついだりして千鳥足ちどりあしとほるのがある
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひさごの盛んに用いられた時代を推測し、許由以来の支那の隠君子等がこまを出したり自分を吸込ませたり終始この単純なる器具を伴侶はんりょとしているには、何か民俗上の理由があるらしいことを
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「蟹は甲らに似せて穴を掘る……も可訝おかしいかな。おなじ穴の狸……飛んでもない。一升入のひさごは一升だけ、何しろ、当推量も左前だ。誰もおきまりの貧のくるしみからだと思っていたよ。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)