)” の例文
それは、かれているというより、られている形だった。青は、二歩歩いては立ちまり、三歩歩いては立ち停まるのだった。
狂馬 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
清逸が学問をするためにき起される近親の不幸(父も母もそのためにたしかに老後の安楽から少なからぬものを奪われてはいるが)
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これも後でたずね合せて見ると、母親の術であるらしく、ほんのちょっとした口叱言くちこごとを種に、子供の同情をかんための手段であった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何か渾沌こんとんの気があって二二ガ四と割切れないところに心をかれるのか、それよりももっと真実なものがこの歌にあるからであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
伴藏の女房おみねは込上こみあが悋気りんきの角も奉公人の手前にめんじ我慢はしていましたが、或日あるひのこと馬をいて店先を通る馬子を見付け
家の者もそれを怪しんで、県の役所へいてゆくと、犬はその庭に伏して又しきりに吠えつづけた。その様子をみて、役人もさとった。
公爵家の紋章で美々びびしく装われた三十三頭の牛が、羅馬の街上に、その尨大な石材をいて、ノメンタナ街のやしきへ練り込みました。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
モーツァルトやベートーヴェンやシューベルトが光輝ある一生を託したウィーンの魅力はブラームスを強くきつけたのであろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
その折左衛門尉は自分が毎朝馬で馬場先を運動する事を話したので、石黒氏は父親てゝおやかれてあさはやくから馬場先に出掛けて往つた。
僕は先に立ちて暗きはしごを登りゆくに、我は詞もあらでその後に隨ひぬ。僕は戸外の鈴索れいさくいたり。内よりぞやといふは女の聲なり。
梅花うめはもう眼をる所に咲いていた。けれど山峡やまあいの冷気が肌身にみて、梅花に楽しむよりも、心は人里にばかりかれていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
離るるとも、ちかいさえかわらずば、千里を繋ぐつなもあろう。ランスロットとわれは何を誓える? エレーンの眼には涙があふれる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最後に小泉孤松こいずみこしょうの書いた「農家のうか義人伝ぎじんでん」の中の一篇によれば、平四郎は伝吉のいていた馬に泥田どろた蹴落けおとされたと云うことである。(註三)
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この事が桑田の好奇心をきはじめた初まりで、次に桑田は二人の食事をする茶ぶ台には飯茶碗だけは二ツ別々にしてあるが
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
私が彼にかれて居る間は、冷淡に放って置いて、こちらが落付くと、哀願やら感傷的辞句で私をサレンダーさせようとする。
梢の切れ目に隠顕いんけんする湿地帯の彼方を、バンカを水牛にかせて三四人の男達がそれに乗りゆるゆると動いて行くのが見える。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
憎まれるという場合はもちろん、さげすまれるという場合でも、まだ彼は相手にとってはその心をくに足りる一つの存在であるのだから。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
その後ちブルガンデー州(Burgundy)でも、小児を殺した豚を法廷にき出して審問、弁論の上、これを絞罪に処したことがある。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
信州では辻の道祖神どうそじんの祭をこの日行う例も多い。藁苞わらづとの馬に藁苞の餅を背負わせて、道祖神の前までいて行って置いて来る。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかしその様子を知りたくもあったのでじっと見て居りますと、ヤクはとぼとぼとただかれて行くその後の方から二人で押して来るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「私がですか」兵衛は眼をみはり、「私が木登りを——あの子供がやっているあいつを」こう云って急に屠場とじょうかれる羊のような声をだした
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その列国を往来するや、駒をき鷹をし、従者おおかた一百人、まことに堂々たるものであり、その権式に至っては武将大名と等しかった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
親らしい男は馬をいて、其小供の群に声を掛けて通り、姉らしい若い女は細帯を巻付けたまゝで、いそ/\と二人の側を影のやうに擦抜すりぬけた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼の好んで読書し文章を書く廊下の硝子窓は、甲州の山に向うて居る。彼の気は彼の住居すまいの方向の如く、彼方あっちにもかれ、此方にも牽かれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その美貌びぼうとかの方へかれがちなため、彼女の魂の美しさを物語る遺文がともすれば、好事家こうずか賞玩しょうがんにのみゆだねられてゐることではあるまいか。
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
二十四、五かと思われる屈強な壮漢わかもの手綱たづないて僕らの方を見向きもしないで通ってゆくのを僕はじっとみつめていた。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
たまたま一童強くその尾をいたので、さては露われたか定めて棗売りの仕返しだろうと早合点してその童子の側を通り
飼主や村の青年にかれる牛は、もう、うおうと唸って、その声は遠方からきこえてくる。既に殺気立っている前景だ。
越後の闘牛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
彼もそれは承知の上だったが、いっぽう彼の方でもやはり、何かの力にかれて女の方へおびき寄せられるのであった。
彼は時々芳太郎の気分を、数学や英語の方へきつけようと力めた。その結果、彼は時々思ひのほか苛辣からつな言葉を口へ出さなければならなかつた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
この二つの珠は、「相く珠」といふ名で呼ばれてゐる、この世にたゞ二つしかない、不思議な力をもつた珠です。
虹色の幻想(シナリオ) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
かうした淋しいやうな、なつかしいやうな、一種絶望的な、あるひは落ちつき払つた考が私の心を私の歩みにつれていた。次第に私の眼には涙が浮んだ。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
杖頭こづかいがないのでしかたなしに通りすがりのカフェーやおでんやのに心をかれながら帰っているところであった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
を弾きながら山を彷徨さまようた。勿論、このはかりごとは成就した。山の夜更けの三味の音は、甚七の注意をくに充分であった。
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
轔々りんりん蕭々しょうしょう行人こうじん弓箭きゅうせん各腰にあり。爺嬢やじょう妻子走って相送り、塵埃じんあい見えず咸陽橋かんようきょう。衣をき足をり道をさえぎこくす。哭声ただちに上って雲霄うんしょうおかす。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
歴々としてなお閻王えんおうの法廷にかれて照魔鏡の前に立たせられたるに異ならず、しかして今しも吹くる風、怪しくも墓の煙を彼が身辺に吹きよせたり
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
陣容が漸く整うて世人の注目をくようになったのは実に此の『俳人蕪村』を以って始まると言っていいのである。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
わが死によりてこのこよなき喜び汝に缺けしならんには、そも/\世のいかなる物ぞその後汝の心をきてこれを求むるにいたらしめしは 五二—五四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すべての分子が上下左右前後から、同じ力でかれてりますけれど、液の表面におきましては、其処そこにある分子は、裏側からは液体の分子によって牽かれ
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
脱穀小屋のひさしの下に、貯蔵庫から玉蜀黍のそりをいて来た二ひきの馬が、首を垂れてだまって立って居ました。
耕耘部の時計 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
長い材木の頭と尻とにそれを一つずつかせたような恰好かっこうに材木を積み上げ、その前の橇を馬がくのである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
祇園林ギヲンバヤシ・松囃子・林田楽ハヤシデンガクなどのはやしが、皆山の木を伐つて、其を中心にした、祭礼・神事のき物であつた。
万葉集研究 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
正道はなぜか知らず、この女に心がかれて、立ち止まってのぞいた。女の乱れた髪はちりまみれている。顔を見ればめしいである。正道はひどく哀れに思った。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ぢゃによって、こひかみ御輦みくるま翼輕はねがるはとき、かぜのやうにはやいキューピッドにもふたつのはねがある。あれ、もう太陽たいやうは、今日けふ旅路たびぢたうげまでもとゞいてゐる。
まず、イゾンゾ方面に、兵力集結の偽装をおこない、そうして、伊軍の注意を、その方面にきつけておいて、そのかんに、こっそり攻勢の準備を整えていた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
鶴見に取ってはそこに出てくる、今の言葉でいえば、分析とか弁証とか超克とかいうものは、ただそれだけのものとして、そう深くは心をかされていない。
拝殿の観覧席には相沢知吉の顔が見えた。彼の持馬も出場したのである。相沢は例のカーキ色のズボンをはいて来たが、馬には乗らずにいて来たのだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
〔評〕南洲を病む。英醫偉利斯いりす之をしんして、勞動らうどうすゝむ。南洲是より山野に游獵いうれふせり。人或は病なくして犬をき兎をひ、自ら南洲を學ぶと謂ふ、なり。
「起きる、ああ、今起きる。さあ、起きた。起きたけれど、手をいてくれなければ僕には歩けませんよ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それにもかかわらず、何となく心をかれる俳句であり、和歌の恋愛歌に似た音楽と、蕪村らしい純情のしおらしさを、可憐かれんになつかしく感じさせる作である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)