爛々らんらん)” の例文
一人の歩哨ほしょうが見るともなくこの爛々らんらんたる狼星ろうせいを見上げていると、突然、その星のすぐ下の所にすこぶる大きい赤黄色い星が現われた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その手をしずかにあげて、覆面をパッと取ると、その下には大きな眼だけが、爛々らんらんとして光っていた。おお、紛れもない「岩」だ。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
主膳はこう言って、三眼爛々らんらんとして、西洋婦人の豊満な肉体美をながめているうちに、その女のかおかたちがだんだんお絹に似てくる。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、どこから登つて来たか、爛々らんらんと眼を光らせた虎が一匹、忽然こつぜんと岩の上に躍り上つて、杜子春の姿を睨みながら、一声高くたけりました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
惜しい夜もけた。手をきよめに出て見ると、樺の焚火たきびさがって、ほの白いけむりげ、真黒な立木たちきの上には霜夜の星爛々らんらんと光って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
爛々らんらんたるお互いの眼は、相見て、相見えぬ眼ざしだった。籠手こて、乱髪、膝がしら、満足な五肢を持つ者はひとりもない。——と、そのとき
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次の瞬間自分の方から逃げ隠れるように傍の家の煙突の後ろにぴったりと体をすりつけて、息をころし目を爛々らんらんと光らして大通りの方を睨んだ。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
そして、りんほのおが燃えるかと疑われる、爛々らんらんたる四つの眼が薄闇うすやみに飛び違い、すさまじい咆哮が部屋の四壁をゆるがした。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
がかれは爛々らんらんたるほのおの鏡に射られて目がくらんだ、五色の虹霓こうげいがかっと脳を刺したかと思うとその光の中に画然かくぜんとひとりの男の顔があらわれた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それを想うとき、彼は疲れ切って夜中の寝床に横わりながらでも闇の中に爛々らんらんと光る眼を閉じることが出来なかった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
海老茶色えびちゃいろのカーテンのかげに、六尺ゆたかな大男、木下大佐が、虎のような眼を爛々らんらんと光らせて立っているのだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
坊主は、欄干にまが苔蒸こけむした井桁いげたに、破法衣やれごろもの腰を掛けて、けるが如く爛々らんらんとしてまなこの輝く青銅の竜のわだかまれる、つのの枝に、ひじを安らかにみつゝ言つた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鉤形かぎがた硬嘴こうし爛々らんらんたるその両眼、微塵みじんゆるがぬ脚爪あしつめの、しっかと岩角がんかくにめりこませて、そしてまた、かいつくろわぬ尾の羽根のかすかな伸び毛のそよぎである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
爛々らんらん烱々けいけいと目を光らしながら、今、梅丸竹丸両名が竹棒の上にのぼるまえ、そこの板の上に残しておいた石灰の粉末のたび跡の大きさを、じいっと見調べました。
ことに、横蔵の眼は爛々らんらんと燃えて、今にも全世界が、彼の足下にひれ伏すのではないかと考えられた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
眼を爛々らんらんと光らせた犬がうろうろしていて、まことに、なんというかさかんな光景を呈するのである。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
血の色が少しもないと云ってよかった。眼だけは、平素いつものように爛々らんらんと、光っていたが、その光り方は、狂人の眼のように、物凄ものすごしかも、ドロンとして力がなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ランスロットはかぶとひさしの下より耀かがやく眼を放って、シャロットの高きうてなを見上げる。爛々らんらんたる騎士の眼と、針をつかねたる如き女の鋭どき眼とは鏡のうちにてはたと出合った。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかれどもその眼彩爛々らんらんとして不屈の色あり。余、もとよりこれを異とし、ことごとく志す所を以てこれに告ぐ。生大いに喜び、これより事を謀るや、勇鋭力前、おおむね常に予を起す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
わたくしただちに統一とういつめて、いそいで滝壺たきつぼうえはしますと、はたしてそこには一たい白竜はくりゅう……爛々らんらんかがや両眼りょうがん、すっくとされた二ほんおおきなつのしろがねをあざむくうろこ
すなわち頭髪かみは肩まで生い身長の長きこと二じょう余り、足は板敷を踏みながら首は天井の上まで懸かり、尚その低きをいきどおるが如く大眼かっと見開いて下界を爛々らんらんにらんでいる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同時にガブリエルは爛々らんらんと燃える炎の剣をクララの乳房の間からずぶりとさし通した。燃えさかった尖頭きっさきは下腹部まで届いた。クララは苦悶のうちに眼をあげてあたりを見た。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
怒気と恐怖とを含んだ目? 敬二郎は爛々らんらんと目を輝かしながら、正勝をじっと見詰めた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
想像は忽ちひるがへつて、医学博士磯貝きよし君の目が心に浮ぶ。若いやうな年寄つたやうな、蒼白あをじろしわのある顔から、細い鋭い目が、何か物をねらふやうな表情を以て、爛々らんらんとしてかゞやく。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
探偵が近づくや否や、私は立上って低声ですべての出来事を彼にささやいた。彼の顔色は見る見る蒼ざめて、眼は爛々らんらんと光りだした。彼はスックと立ったまま、前の老翁をじっとにらんだ。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
川上の方へ「シャスタ」が、白い炎を爛々らんらんと光らして、汽車の窓から、大抵は右に見えるが、「左富士」のように、左に見えることもある、それほど川は、S字の環をつなぎ合っている。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ここまではひと通りの挨拶であったが、彼女かれはたちまちに血相けっそうをかえて飛び付くように近寄って来て、主人の若旦那の左の腕をつかんだ。その大きい眼は火のように爛々らんらんと輝いていた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
足の構えは、鰐足わにあしになった。目は爛々らんらんときらめき全身に強烈な、兇暴の気が漲った。まるで、おおかみが、いけにえに最初の一撃を与えようとして、牙を現し、逆毛を荒立てたかのようである。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
背は低い方、肉付も極度に節約して骨と皮ばかり、顔はしわだらけのくせに、眼と口だけが人並以上で、わけても爛々らんらんたる眼には、人を茶にしたような、虚無的な光さえ宿っているのです。
彼は爛々らんらんと眼を輝かせて、暫く部屋の隅々を眺めていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
好奇にみちた彼の眼は素晴らしい発見に爛々らんらんと燃えて
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
爛々らんらんたる火焔かえんはきすっくたったる
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
爛々らんらんと昼の星見えきのこ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
と、どこから登って来たか、爛々らんらんと眼を光らせたとらが一匹、忽然こつぜんと岩の上におどり上って、杜子春の姿をにらみながら、一声高くたけりました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼等の背後に、恐ろしい悪魔が、爛々らんらんたる眼を輝かせ、鋭い牙を剥いていようとは、古い言葉だが、神ならぬ身の、それと知るよしもなかった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
怪物の両眼は、昼ながら、二つの青い燐光のように、爛々らんらんとかがやいている。彼がいかに昂奮こうふんしているかを語るものだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
米友の円い眼が爛々らんらんと光り出します。この男はついその生れ故郷の隣国まで来てしまったことを今はじめて教えられた。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして左ので傷口を押さえ、鬼丸包光を右の片手使いに持って、まなこ爛々らんらん、ジリ、ジリ、と片足さがりになって行く。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爛々らんらんとして燃えて大蛇おろちの如し……とハッとするまに、目がない、鼻もない、何にもない、艶々つやつやとして乱れたままの黒髪の黒い中に、ぺろりと白いのっぺらぼう。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は、部屋の一隅の籐椅子とういすに腰を下していたが、その白い顔は、はげしい憤怒ふんぬのために、充血していた。彼は、爛々らんらんたるひとみを、恨めしげに母の上に投げていたのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鷲のような眼を爛々らんらんと光らせ、じっと前方をみつめたまま、清君を、見向きもしない。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
社長の顔にはさっと驚駭きょうがいの色が流れたが、すぐに無言で彼女に飛びかかってきた。彼女は本能的に身を退いた。社長はすぐ迫ってきた。目は爛々らんらんと輝いて、淫欲と凶暴の相が物凄ものすごひらめく。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
白いひげがまだらに伸びて、頬骨のいたましく尖った顔に、くぼんだ眼ばかりを爛々らんらんとひからせて、彼は玉藻の白い襟もとをじっと見つめていた。相手が執念深いので、千枝太郎はいよいよいた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
髭荒く、牙鋭く、頭毛逆立ち、眼光爛々らんらんとして、高く上半身を起した。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
その目は爛々らんらんと火のように輝いていた。唇がわなわなと顫えていた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
レヴェズの眼が爛々らんらんと輝き出して
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
爛々らんらんあけの明星浮寝鳥うきねどり
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
大小二剣の尺と、両腕をいっぱいにひろげた尺とを合わせると、彼の爛々らんらんたる双眸そうぼうを中心として、かなり広い幅になる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう思って見ると、上の方から三つの眼で爛々らんらんと見つめるところの肥った首筋に、髪の毛がほつれている、その首の色がまた乳色をして、ばかに白い。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
薄闇うすやみの中に、きばのようなまっ白な歯が、浮き出して見えた。二つの燐光が油を注いだように、爛々らんらんと燃え立った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)