濛々もう/\)” の例文
それむかぎしいたとおもふと、四邊あたりまた濛々もう/\そらいろすこ赤味あかみびて、ことくろずんだ水面すゐめんに、五六にん氣勢けはひがする、さゝやくのがきこえた。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うして龕燈がんどう横穴よこあな突出つきだして、内部ないぶらしてやうとしたが、そのひかりあた部分ぶぶんは、白氣はくき濛々もう/\として物凄ものすごく、なになにやらすこしもわからぬ。
多の市は覺束おぼつかなくも言ひ切ります。その間にも、修驗者の道尊坊は、護摩の煙を濛々もう/\となびかせながら、みに揉んで何やら祈り續けて居るのでした。
どんぶりすしや蜜柑のやうなものが、そつち此方こつちに散らばつて、煙が濛々もう/\してゐた。晴代は割り込むやうにして、木山の傍に坐つたが、木山は苦笑してゐた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
このごろあたしの書いた小説の揷繪にも、肩からきぬのぬげおちようとしてゐるところ——これは湯上りといへないが——濛々もう/\たる湯氣の中に立つた姿もある。
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
有志之士、不堪杞憂きいうにたへずしば/\正論讜議たうぎすと雖、雲霧濛々もう/\がうも採用せられず。すなはち断然奸魁かんくわいたふして、朝廷の反省を促す。下情壅塞ようそくせるより起ると云ふは即是也すなはちこれなり
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
館内は、土間どまも二階も三階も、ぎっしりと客が詰まって居るらしく、し暑い人いきれで濛々もう/\と煙って居た。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昨夜来さくやらいしきりにり来る雨は朝に至りて未だれず、はるかに利根山奥をのぞむに雲烟うんえん濛々もう/\前途漠焉ばくえんたり、藤原村民の言の如く山霊さんれい果して一行の探検たんけんを拒むかとおもはしむ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
濛々もう/\と煙が立ち昇つてゐる刑場に近づくと火葬場の煙の如き異臭が風に送られて来る。
いとをあやつる老妓あれば、此方こなたにどたばたひまくられて、キヤツと玉切たまぎ雛妓すうぎあり、玉山くづれて酒煙濛々もう/\、誠にあしたに筆をして天下の大勢を論じ去る布衣ふい宰相諸公が、ゆふべの脚本体なりける
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
蒲団の隙から這ひ出した煙が部屋の中に濛々もう/\と立ちのぼつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
濛々もう/\たる香煙かうえんを日光にみなぎらす如し。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
護摩ごまけむり濛々もう/\と壇をこめて、東海坊の素晴らしい次低音バリトーンだけが、凛々りん/\と響き渡るのです。やがて
白井氏しらゐしのレインコートのすその、にからんで、あふるのを、濛々もう/\たるくも月影つきかげおくつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二日ふつか午後ごごけむり三方さんぱうながら、あきあつさは炎天えんてんより意地いぢわるく、くはふるに砂煙さえん濛々もう/\とした大地だいち茣蓙ござ一枚いちまい立退所たちのきじよから、いくさのやうなひとごみを、けつ、くゞりつ
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
室内しつない一面いちめん濛々もう/\としたうへへ、あくどい黄味きみびたのが、生暖なまぬるつくつて、むく/\あわくやうに、……獅噛面しかみづら切齒くひしばつた窓々まど/\の、隙間すきま隙間すきま天井てんじやう廂合ひあはひから流込ながれこむ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
昨夜ゆうべやとつた腕車くるまが二だいゆきかどたゝいたので、主從しうじうは、朝餉あさげ支度したく匇々そこ/\に、ごしらへして、戸外おもてると、東雲しのゝめいろともかず黄昏たそがれそらともえず、溟々めい/\濛々もう/\として、天地てんちたゞ一白いつぱく
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
みねあり、てんさへぎり、せきあり、とざし、うますゝまず、——うますゝまず。——孤影こえいゆきくだけて濛々もう/\たるなかに、れば一簇いつそうくも霏々ひゝとしてうすくれなゐなるあり。かぜたゞようてよこざまにいたる。れぬ。
花間文字 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)