流行はやり)” の例文
「あんたもいま云ったこと忘れないで」とおそのは云った、「肌の手入れとお化粧、もう少し髪の流行はやりに気をつけること、よくって」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
相手がたがひ巴里パリイツ子同士、流行はやり同士であり、其れが右様みぎやうの事情のもとに行ふ決闘であり、その上当日の決闘ぶりが非常に壮烈であつたので
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それが流行はやりとなって、佐竹ッ原でも、代地だいちでも、本願寺裏でも、食えない撃剣家が小屋掛けをして、試合の呼び出しに落語家を使ったり
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉英さんはそうした流行はやりの風をしていられた。私も束髪を結ったことがあります。それに薔薇の花簪など揷したものでした。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
日記をつけることは、またこのごろの流行はやりのようになっていますが、それについても考えなくてはならないことがあります。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
力蔵りきぞうはほしいものは、なんでもってもらいました。流行はやりのおもちゃも、きれいなほんも、いろいろのものをっていました。
星の世界から (新字新仮名) / 小川未明(著)
辰公たつこうの商売は、アナ屋だ。当節流行はやりの鉄筋コンクリートに、孔を明けたり、角稜かどを欠いたりする職工の、夫も下ッ端だ。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
そのなかから流行はやりのフロツクコートも一着こしらへたが、出発間際になつて風邪を引込んで、延々のびのびになつてゐるうち、つい沙汰止さたやみになつてしまつた。
物干には音羽屋格子おとわやこうしや水玉や麻の葉つなぎなど、昔からなる流行はやりの浴衣が新形しんがたと相交って幾枚となく川風に飜っている。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これは帽の一方のへりを高くり立たしめる事、昔流行はやりし帽の頂から緒でその縁を引っ張るため縁に穴あり、緒の端に付けたボタンを通して留めた
折りますから。流行はやりのようにだってできますよ。襟は銀被せのぴかぴかしたホックで留めることにいたしましょうね。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
一とくさり、當時の流行はやり歌を唄つた眞珠太夫は、そのまゝ、親方の女房のお六の三味線につれて、翩翻へんぽんと踊るのです。
矢張やはり我々は同じに見えるかも知れないと思ったからさ、緑色のドレスは今年の流行はやりで、大抵の若い女は着るからね。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しかりとすれば、蔵石ざうせき流行はやりたる頃なれば、かのかじまやがはなしに北国の人一室いつしつをてらす玉のうりものありしといひしは
婆「誠にねどうも、流行はやりですから生憎あいにくお馴染が落合ってさ、う折の悪い時は仕様がないもので、立込んでね」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「こりゃア、このせつ流行はやり縁起えんぎまわしの大黒絵じゃありませんか。……これが、いってえ、どうだというんです」
又自分の手柄は君等にしろ、無論僕にしろ、成るべく多くの人に知らせたいものだよ。流行はやり言葉もつかつて見たしな。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
渦巻の模様の中心となった流行はやり俳優やくしゃ——ニコポン宰相の名を呼ばれ、空前とせられた日露戦争中の大立物おおだてもの——お鯉の名はいやが上に喧伝けんでんされた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ある日、薄い色の洋傘こうもりを手にしたような都会風の婦人が馬場裏の高瀬の家を訪ねて来た。この流行はやりの風俗をした婦人は東京から来たお島の友達だった。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それからそれへと目ざましく発展するので、この頃では横浜見物も一つの流行はやりものになって、江戸から一夜泊まりで見物に出かける者もなかなか多かった。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おときと、もう一人米子につれて行かれると云ふ女が、二人とも島田に結つて立働いて居た。おときよりも年上の女は、三味線を彈いて流行はやり唄をうたつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
裕福とみえて、せいの高いからだを、凝った流行はやり衣裳いしょうで包んでいるのが、芝居に出る侍のようであった。帯刀の金の飾りが、ちらちらときらめいていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けれども、四五年後の今日に至って見ると、もう軍神広瀬中佐の名を口にするものもほとんどなくなってしまった。英雄ヒーロー流行はやりすたりはこれ程急劇なものである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
石川氏は既に一流の大家であって、堂々門戸を張っている当時の流行はやりですが、それでいて言葉使い、物腰、いかにも謙遜けんそんで少しも高ぶったところがない。
「その代り、銀座でも、連れて歩いたら、何奴どいつのも、皆、流行はやり女優の似顔をしていてうんざりするだろう。」
ロボットとベッドの重量 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
また陵墓りようぼまへいしつくつた人間にんげん動物どうぶつぞうならべてかざりとすることが流行はやりだしましたが、日本につぽんでもまたふる前方後圓ぜんぽうこうえん古墳こふんつくられた時分じぶんにははかまへなどに
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
一體八景といふのは隨分長い間の流行はやり言葉であつて、何八景かに八景、しまひには吉原よしはら八景、辰巳たつみ八景とまで用ゐられて、ふけて逢ふ夜は寢てからさきのなぞと
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
山本勾当こうとうの三絃に合わせて美声自慢のお品女郎が流行はやりの小唄を一くさり唄った。新年にちなんだめでたい唄だ。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そんなのが流行はやりだそうです。こっちへ来ている女にも、もうだいぶ大きいのをかぶったのがありますよ」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
春になっても不規律な新年宴会が流行しますし、知名の紳士が海外へ往復するとおたがいに迷惑を感じながら時の流行はやりで料理屋楼上に送別会とか留別会とかを開きます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それが流行はやりだと云ふことになると、どんなに不思議な、妙な、変てこな衣裳でも、髪の形でも、お化粧の仕方でも、その当時の人にはそれが美くしく見えたのである。
東西ほくろ考 (新字旧仮名) / 堀口九万一(著)
夏なんか洋傘こうもりがさが買えなくって頬かむりをしては楽屋入りしたものですっかり色が黒くなって、お前、流行はやりの海水浴に行ったのかと冷やかされたこともよくありました。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それが近ごろ流行はやりの主義者かぶれ(社会主義思想の信奉者)で、いやに解雇工員の肩を持つんです。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
「あの、う言ってましたよ。どうせ伯母さんが拵えたんだから流行はやりにはおくれているって。けれども石と地金は良質いいんですってね、ですから拵え直して貰うんですって」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
余り身勝手過ぎるぢやありませんかネ——それにネ、着物だの、何だのも、此頃ちかごろ斯様かう云ふのが流行だなんて自分で注文するんですよ、何処どこ流行はやりかと思へば、貴嬢
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
三十年も過ぎると流行はやりというものは再び戻って来るものでしょう。私の目に残っている智恵子はよく藤色矢絣やがすりのお召の着物を着ていました。それがまたよく似合いました。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
と怪しきふるへ聲に此頃此處の流行はやりぶしを言つて、今では勤めが身にしみてと口の内にくり返し、例の雪駄の音たかく浮きたつ人の中に交りて小さき身躰は忽ちに隱れつ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
思うに、人事において流行はやりすたりのある如く、自然においても旧式のものと新式のものが自らある、空中飛行機におどろく心は、やがて彗星をあやしむ心と同一であると云えよう。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
落人おちうどの借衣すずしく似合いけり。この柄は、このごろ流行はやりと借衣言い。その袖を放せと借衣あわてけり。借衣すれば、人みな借衣に見ゆるかな。味わうと、あわれな狂句です。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
流行はやり唄の末尾のように意味を成さないまま、わななきふるえつつ消え失せた……と思う間もなく、喰い縛った歯の間からこがらしのような音を立てて、泡まじりの血を噴き出した。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
公荘夫婦は、允男のかえりがおそくでもあると「まさかそんなことはないと思うけれど」「一つの流行はやりだからな」と息子が赤になることを警戒し、息子の書斎をしらべたりする。
山本有三氏の境地 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
何がさいわいになるか判らないもので、「赤外線男」に抱きつかれたダンサーというので、いままでアブれちだったのが急に流行はやりになって、シートがぐんぐん上へ昇っていった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
後者はよく「岐阜団扇」の名で通りました。漆塗うるしぬりの紙を用います。今に流行はやりませんが油団ゆとんも和紙のものとして忘れ難い品であります。何枚も紙を貼り合せ油または漆をひきます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
まうけ夫婦の喜悦よろこび假令たとふるにもの無くてふよ花よといつくしみそだつうちに間も無つまのお久時の流行はやり風邪かぜ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
遠い神仏しんぶつを信心するでもなければ、近所隣の思惑おもわくや評判を気にするでもなく、流行はやりとか外聞がいぶんとかつきあいとか云うことは、一切禁物で、たのむ所は自家の頭と腕、目ざすものは金である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お初がまだ赤坊の頃、お父つぁんは流行はやり病いで亡くなった、と母にはきかされていたが、親類のものたちの話し合うているのをきけば、朝鮮あたりへ出稼ぎに行っている様子であった。
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
今はどうか知らないが、私の郷里には好く流行はやり神様と云うものが出来た。昨日まで何もなかった野原や畑の間に、急に小さな祠が出来て、それに参詣する者が赤や白の小さな幟をあげた。
村の怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして喜んで己の命を聴く役人共の手に金をわたした。どこへ往つてもたつぷり金を賭けて、博奕をして、土地の流行はやり衣服きものを着て、その外勝手な為払しはらひをするに事足る程の金をわたした。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
……どうしてだろう、こんなはずじゃァなかったがと思うことだって、この四五年たび/\あるようになりました。——でも、それは、ものゝ流行はやりすたりはどんなものにだってあります。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
この頃、江戸の流行はやりで、そなたのような秀れた芸道の人が、口にあてた盃の、お客が持ち帰るのが、慣わしとなっている。そなたも、御息女さまに、お願いして、そのお盃を、お持ち帰りを
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)