ふさ)” の例文
朝からぢつとふさぎ込んで、半日位は口をきかない様なこともある。さう云ふ時に限つて、女の様子は一面にそはそはして居るのであつた。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
既往こしかたおもいめぐらしてふさぎはじめましたから、兼松がはたから種々いろ/\と言い慰めて気を散じさせ、翌日共に泉村の寺を尋ねました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
気がふさぐのは秋である。もちと知って、酒のとがだと云う。慰さめられる人は、馬鹿にされる人である。小夜子は黙っていた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを知りたいばかりに喜久井町の家でふさぎこんで湿っぽい日を暮しているものの、そこにいたって所詮しょせん分るあてのないものとなればどこか他の
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
彼女は、誰が何と云っても黙りこんで重くふさいでばかりいた。時々いかにも堪え兼ねたと云ったように、わあと急に泣き出したりするのであった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
などと、こうしたなかでも、相互に口だけは、人並みにきけたんだが、ヘッスラーの奴は、苦い顔をしてふさぎ込んでる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
こう言って喬介は、何か失望したらしく首をうなだれてふさぎ込んでしまったが、やがて何思ったか元気で顔をげると
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
たゞこのころやうふさいでたら身體からだためるまいとおもはれる、これはいそがぬこととして、ちと寄席よせきゝにでもつたらうか、播摩はりまちかところへかゝつて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「お前さん此頃このごろは何だかふさいでばかり居るね。平生ふだんから陽気な人でも、矢張やっぱり苦労があると見えるんだね。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「藤岡なんぞあれで一時大いにふさぎ込んだからね」と私の方を見て冷笑する、私は思わず顔をあからめた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
全然まるで師範校時代の瀬川君とは違ふ。の時分は君、ずつと快活な人だつたあね。だから僕は斯う思ふんだ——元来君はふさいでばかり居る人ぢや無い。唯あまり考へ過ぎる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おむかうの菊石あばたづらわかだんな。おほゝゝゝ。なにをそんなにおふさぎなの、大抵たいていあきらめなさいよう。いくらかんがえたつて、みつともない。だい一そのおめんぢやはじまらないんだから
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
それをてめえ、有り難えと思わず、ふさいで、さアあったという段になってから、じぶくるなんざあ吾儘わがまますぎるッてもんだぞっ。俺たち夫婦を、板ばさみにして、腹癒はらいせする気かっ
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいえ、お話は御免遊ばして……」とナヂェージダは、ラエーフスキイの歔欷すすりなきに耳を澄ましながら答えた、「あたくし、気がふさいでなりませんの。おいとまさせて頂きますわ……」
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
終日ふさぎ通して、例の蒼白き顔いよいよ蒼く、妻のお糸はいへば更なり、たなの者台所の飯焚女まで些細なる事にも眼に角立てらるれば、アアまた明日は大阪行かと、呟くもあれば
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
お鈴はいつになくふさぎこんだまま、「そうだったわね」などと返事をしていた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いつでもなさけないとおもひ/\してたのをかんがして、すこふさいで俯向うつむいた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
清岡は三十六歳のその日まで、夢にも見なかった事実を目撃し、これまで考えていた女性観の全然誤っていた事を知って、嫉妬しっとの怒りを発する力もなく、唯わけもなくふさぎ込んでしまった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その危難にあったことが精密ではないが、薄々は忍藻にも聞えたので、さアそれが忍藻の心配の種になり、母親をつかまえてふさぎ出すのでそこで前のとおり母親もそれをさとして励ましていた。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
いや、重たい、くびの骨が折れて了ひさうだ。ところでればかりじやない、其處ら中に眼に見えぬはりがあつて、始終俺をつついて、いらつかせたり、いきどほらせたり、悶々させたり、ふさがせたりする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
私は全く誰かの言葉にたがはず、確かに低能児であると思ひ、もう楽しみの谷川の釣も、山野の跋渉ばつせふも断念して、一と夏ぢゆうふさぎ切つて暮した。九月には重病人のやうにあをざめて寄宿舎に帰つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
貴方小遣がりますから沢山は無いが少しばかり手許へ置いてきますから、何ぞ好きなものを買って遠慮なしにお上んなさい、気のひどふさぐ時は
「ハハハハくだらぬ事を気にしちゃいけない。春は気がふさぐものでね。今日なぞは阿父おとっさんなどにもよくない天気だ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日がな一日陰気にふさぎ込んでばかりいた私は、その夜も、ついそこらをちょいと散歩して来るといって、水道町の通りをぐるりと一と廻りして帰って来た。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
今夜こんやうであらうかんかなと機嫌きげんたまふに、貴郎あなた何故なぜそんなやさしらしいことおつしやります、わたしけつしてそのやうなことうかゞひたいとおもひませぬ、ふさときふさがせていてくだされ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
茫然ぼんやりふさいでおりますと、書生は今までお若のいた庵室を片付け、荷物を晋齋のとこへ運んでまいりましたので
もとより精神に異状を呈しているには相違なかろうが、ちょっと見たって少しも分らない。ただ黙ってふさぎ込んでいるだけなんだから。ところがその娘さんが……
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少なからずさびしい気持になって、せめてこのふさいだ心を慰めるには、明るくあたたかい感じのする、行きとどいた旅館に往って泊るのが何よりよいと思ってその家へ投宿した。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
身請ばなしが始まりましてから花里はふさぎ切って元気がない、只だ伊之吉が来ると何かひそ/\話をするばかり、それも廊下の跫音あしおとにも気をおいて居ます。
「私には女でいっこう分りませんが、何だかふさいでばかりいるようで——こちらの一さんにでも連れ出していただかないと、誰も相手にしてくれないようで……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな思いをして毎日じっとしてふさいでばかりいるよりは、当てのないことでも、往ってさがしてみる方がいくらか気を慰めると思って、私は、十二月のもう二十九日という日に
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ムヽウわたし随分ずゐぶんをとこですな。近「ウン……。梅「わたしくらゐ器量きりやうつてゐながら、家内かない鎧橋よろひばし味噌漉みそこしげてつた下婢をんなより悪いとは、ちよいとふさぎますなア。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
その翌日あくるひ、たしかに当てにはならぬが、もしか今日は来はせぬかと、また一日外へ出ぬようにして心待ちに待ちながら、不安と疑いとに悩まされてふさぎ込んでいると、二、三時ごろになって
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
使い早間はやまには何うせ遊んでいるからと安吉を附けて置き、政七も仙太郎も重三郎も折々来ては、小三郎の心を慰めることを申しまするが、小三郎は只々ふさいで居まして
それからまた懊悩おうのうと失望とに毎日ふさぎ込みながらなすこともなく日を過していたが、もし京都の地にもう女がいないとすれば、去年の春以来帰らぬ東京に一度帰ってみようかなどと思いながら
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と見ると屏風びょうぶの外に行燈あんどうが有ります。その行燈の側に、ふさいでむこうを向いて居るから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
新吉の居場処いばしょも聞いたがうっかり逢う訳に参りません、段々だん/\日数ひかずかさなると娘はくよ/\ふさぎ始めました。すると或夜日暮から降出した雨に、少し風が荒く降っかけましたが、門口かどぐちから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たまにはおつしゃくることがあるを花里はひどく辛く思ってふさぐ上にも猶ふさぐ。左様そうされると元々自分に真実つくしている女の心配するんですから、気の毒になって機嫌の一つも取ってやるようになる。
とくよ/\ふさぎまして見世を引いて居りますから、朋輩は
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と大きに失望をいたしてふさいでいます。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
或旅宿あるやど亭主ていしゆふさんで、主
(和)茗荷 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
いつもと違ってふさいでいる故