日数ひかず)” の例文
旧字:日數
そして、どれほどの日数ひかずがたったかわかりませんが、二人のうちの一人が、病気かなんかで、死んでしまったのにちがいありません。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それが、日数ひかずがたつにつれて、それらの野菜やさいは、ふとったり、また、まるまるとえたり、大粒おおつぶみのったりしましたからね。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
日数ひかずのたつに従い、しずかに考えて見ると、姉の家が居づらいのではなくて、それは別の事から起って来る感情の為である事に心づいて来た。
或夜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わびたりとて肯くべきにあらず、しおしおと引返す本意ほいなき日数ひかずこそ積りたれ。忘れぬはわがために、この時嬉しかりし楓にこそ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「十五夜の晩以来、だいぶ日数ひかずは経っておりますが、証拠がためのつくまではと、工夫をらして、死体蔵したいぐらにとってあります」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学校の授業が始まるにはまだ大分だいぶ日数ひかずがあるので鎌倉におってもよし、帰ってもよいという境遇にいた私は、当分元の宿にまる覚悟をした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、息子が行きがた知れずになってからもうかなり日数ひかずもたっていることとて、誰ひとりそれを知る者もなかった。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
日数ひかずへて、私は、その面影の生気と、私自身の生気とに区別がつかなくなつてゐた。私は追はれるやうに旅に出た。煤煙に、頬がくろずんでゐた。
寝たまま便を取らせたり、痛い水銀灌腸かんちょうをとにかく聴きわけて我慢するほどに、子供が病室にらされるまでには、それから大分日数ひかずがかかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おかしな事に、肋膜で病らったあの大病のあとの、短い日数ひかずのうちに、あたしは竹柏園ちくはくえんへ入門していることだ。
ああとてもあの山は越えられぬとはらの中で悲しみかえっていたが、一度そのこころを起したので日数ひかずの立つうちにはだんだんと人の談話はなしや何かが耳に止まるため
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ところが、日数ひかずが経つに従って、一つの已みがたい熱望が彼等をとらえた。それは陸地に対する憧憬あこがれであった。
「これは大きい。よっぽど大きな男のお子さんに違いない。日数ひかずもいくらか延びてお生れになるでしょう」
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
木賃宿の主人が迷惑がるのを、文吉がなだすかして、病人を介抱しているうちに、病附やみつきの急劇であったわりに、九郎右衛門の強い体は少い日数ひかずで病気に打ち勝った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その秘密は、十六日という日数ひかずにあるのでは無くて、金曜日というところにあるのではないかしら。僕は、金曜日という日には、奇妙に思案深くなる男だったのだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
此話このはなし雪国の人すらしんじがたくおもへども、つら/\思量おもひはかるに、十月の初雪より十二月廿五日までおよその日数ひかず八十日のあひだに五尺づゝの雪ならば、廿四丈にいたるべし。
段々日数ひかずも立って七日目の事ゆえ、伴藏は寺参りをして帰って来ると、召使のおますという三十一歳になる女中がにわかにがた/\とふるえはじめて、ウンとうなって倒れ
「話が先だ」と喜兵衛が云った、「おれはこの土地へ来てもう九十余日になる、まだ九十余日しかならないともいえるが、この九十余日という日数ひかずを覚えておいてくれ」
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日数ひかずいくつか重ねて駿府すんぷの町へ入りました。お君は駿府の二丁目を流して歩くと案外にも多くの収入みいりがありましたから、これから二三日はかせがなくてもよいと思いました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なにしろ、そのズウフラから剣術の師匠が殺されたというのだから、ひと詮議しなけりゃあならねえ。早く聞き込むと好かったのだが、ちっと日数ひかずが経っているので面倒だ。
私はただ運を天に任せて看病大事と昼夜番をして居ましたが、さいわいに難症でもなかったと見えて日数ひかずおよそ二週間ばかりで快くなりましたから、いよいよ大阪へ出掛けると日をめて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その内に追い追い日数ひかずが経って、とうとう竜の天上する三月三日になってしまいました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
旅の日数ひかずのたつのは早かった。親方が刑務所けいむしょから出て来る日がずんずん近づいていた。船がだんだんツールーズから遠くなるにしたがって、わたしはこの考えに心を苦しめられていた。
巴里パリイを立つ時倫敦ロンドンを短い日数ひかずで観て歩くには住み慣れた日本人に案内して貰ふ必要があらうと思つて居たが、自分達は地図とベデカアを頼りにしただけで格別まごつく事も無かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
百年の相識に別れた如くなにとなく心さびしかッたが……それも日数ひかずままに忘れてしまッたのに、今また思い懸けなく一ッ家に起臥おきふしして、折節は狎々なれなれしく物など言いかけられて見れば
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼はこれから長い日数ひかずを海上に送らねば成らないことを思い、倫敦を発つ時にはまだ外套がいとうを欲しいくらいの五月初旬の陽気でも国に帰り着く頃の旅仕度も考えて行かねば成らないことを思い
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いいや、ちがう。グアム島へいくのには、もっと日数ひかずがかかるはずだ」
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そよそよ風の手枕たまくらに、はや日数ひかずしけふの日や
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
それにはずいぶん沢山の日数ひかずがかかりました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
日数ひかずへて我にりたる秋簾あきすかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そのときから、三月みつき日数ひかずがたったのであります。しじゅうからは、むべとかえでのことをおもして、んできたのでした。
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)
「病院で暮らしたのも、つい昨日今日のようだが、考えて見ると、もうだいぶんになるんだね」と云って指を折りながら、日数ひかず勘定かんじょうし出した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
の写生があるし「堀川百首」には——五月雨さみだれ日数ひかずふれども渡の辺の、大江の岸はひたさざりけり——などの景観も見える。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六郎氏は平田一郎の脅迫状を作製すると、適当な日数ひかずを置いて、一度一度違った郵便局からその封書を送りました。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
日数ひかずれどももとを忘れず、身をへりくだりてよくつかうるまたなき心を綾子は見て取り、一夜あるよそば近く召したまいて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その週間の残りの日数ひかずだけはどうやらこうやら、長吉は学校へ通ったが、日曜日一日をすごすとその翌朝あくるあさは電車に乗って上野うえのまで来ながらふいとりてしまった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其の車夫は以前長脇差のはてで、死人しびと日数ひかずって腐ったのをぎ附け、んでも死人に相違ないと強請ゆすりがましい事を云い、三十両よこせと云うから、やむを得ず金を渡し
金匁きんせんろんぜず、ことさらに手際てぎはをみせて名をとらばやとて、うみはじめより人の手をからず、丹精たんせい日数ひかずて見事に織おろしたるを、さらしやより母が持きたりしときゝて
清姫様をさとして言うことには、わしはこれから熊野権現くまのごんげんへ行く身だからけがれてはならぬ、その代り帰りには、きっとお前の望みをかなえて上げるから、日数ひかずを数えて待っていて下さいと
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母も即座にうなずいていたが、やがて日数ひかずへて、いつ結婚するか、という。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
半七は胸算で日数ひかずをかぞえた。そして、江戸には勝蔵の身寄りか友達でもあるのかと訊くと、かれは江戸の深川に寅吉という友達がある。さしあたりはそれを頼って行ったらしいと、三五郎は答えた。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
又使を遣ると云うことも、日数ひかずが立てば立つ程出来にくくなった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
日数ひかずがたつと、三びきのねこは、ははねこのおなかしたからはいして、こおろぎや、かえるなどをいかけたのであります。
ねこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
これはいくら日数ひかずを経過しても取去る訳には行きませんが、片方にある必要のが、自然それを抑えつけるほど強くなって来た事もまたたしかであります。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その週間の残りの日数ひかずだけはどうやらかうやら、長吉ちやうきちは学校へかよつたが、日曜日一日をすごすと翌朝あくるあさは電車に乗つて上野まで来ながらふいとりてしまつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
幸「お前は余りペラ/\喋るからいけないんだ、旅だアな、此様こんな処で探偵にでも捕まって調べられると日数ひかずがかゝるよ、四万でも二週間程余計に逗留したじゃアねえか」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、藤左衛門は、ほぞちかった。血を見たら、衆は衆を呼ぶだろうし、駅路の規定にも触れ、吉良方に加担かたんの役人でも出たら猶更なおさらの事だ。遅れた上にも、日数ひかずに暇どってしまうだろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そとうしろより小さき手に目隠めかくしして戯れたりし、日数ひかずもなく、小六は重き枕に就きつ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竜之助が悠々と、途中で道場荒しなどをやって、日数ひかずを多くかけて京都まで来る間に、兵馬は新徴組と共に、一直線にこっちへ来ていたので、京都の経験は兵馬の方が一月の余も上であります。
人間にんげんというものは、どんな不幸ふこうあっても、日数ひかずのたつうちには、だんだんわすれてしまうものであったからです。
一本の銀の針 (新字新仮名) / 小川未明(著)