ぶち)” の例文
白勝ちの赤毛のぶちで、顔の至って平めなのが特徴であったが、今以てぶちの在り処まで略々同じ猫が、次から次へと代を重ねて居る。
どら猫観察記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
但し弾機ばね一個不足とか、生後十七年、灰色のぶちある若き悍馬かんばとか、ロンドンより新荷着、かぶおよび大根の種子とか、設備完全の別荘
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
小姓がふすまを静かに引くと、白髪しらがまじりの安井の頭と、月代さかやきに赤黒いしみがぶちになっている藤井又左衛門の頭とが、並んで平伏していた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あたいもまだ見たことないわ、じゃ、あたい、そろそろお友達を買いにいってくるわよ、黒いのやぶちなのや、それから、めだかも。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一匹のぶち猫が人間の真似をして梅の木にのぼって花を嗅いでみました。あの枝からこの枝、花から蕾といくつもいくつも嗅いでみましたが
梅のにおい (新字新仮名) / 夢野久作香倶土三鳥(著)
青い赤い銀色のぶちを持つた三四尺ばかりの蛇は、小さな首を持ち上げながら草の上をするすると気味わるく動いて行つてゐた。
磯清水 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
金壺眼かなつぼまなこふさがねえ。その人がまりを取ると、三毛のぶちが、ぶよ、ぶよ、一度、ぷくりと腹を出いて、目がぎょろりと光ッたけ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
んちはもうお立ちだしたで。何んやら急な用やいうて。」と、白粉のぶちになつた口元に微笑を寄せつゝ、女は言つた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
鼻尖はなさきから右の眼にかけ茶褐色のぶちがある外は真白で、四肢は将来の発育を思わせて伸び/\と、気前きまえ鷹揚おうように、坊ちゃんと云った様な小犬である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
向うが見えるようになって居りますから、左の方を見たいと思うと右のほゝばかり洗って居りますゆえ、片面かたッつらあかぶちになっているお人があります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おぼれる時、彼方此方へ打つかつたんですね。兩國の橋げたとか、百本ぐひとか、こんなぶちを拵へるものが澤山ありますよ」
「ね、の黄とだいだいの大きなぶちはアメリカからかにりました。こちらの黄いろは見ているとひたいいたくなるでしょう。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いくら自分の女房でも、横町の黒やぶちを殺したのとは譯が違ふからね。おまへさんも勘太郎の二代目になりたいのかえ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
隣りのぶちはこうであった。向うの白はこうであった。どこそこの犬はこうであったの経験が重なると、すべての犬はこうであったとまとまって参ります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二つは白、二つはぶちで、そうしてもうピヨピヨと言わなくなって、ガヤガヤというようになった。蓮池は彼等を入れるにはもうあまりに小さくなった。
鴨の喜劇 (新字新仮名) / 魯迅(著)
竹のまだ青々した建仁寺垣のめぐらされた庭の隅には、松や杜松ひばまじって、ぶち入りの八重の椿つばきが落ちていて、山土のような地面に蒼苔あおごけが生えていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なにょう! きさまなんざ、ひげそうじのしみったれ野郎やろうの、ぶちの、阿呆たわけの、腹ぺこの、ねずみとりじゃねえか。
のち呉山にき終る所を知るなしとある(『大清一統志』一二四)。バートンの『東阿非利加アフリカ初入記』五章にエーサ人の牛畜各名あり。ぶち、麦の粉などいう。
縁日えんにちでよくあかをしたかわいゝ、しろぶちのうさぎをつてゐるのを、みなさんも、たびたびごらんになつたでせう。しかしやまには褐色かつしよくのうさぎがゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
お前が死ぬまで出て行かないからさう思へ! 紫色のぶちになつてお墓へ行け! 坊主に払ふお布施も無いや。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
その背なかの黒いぶちは、なんだか私には、さまざまな見知らぬ牧場の地圖のやうに懷かしく見えるのです。
匈奴の森など (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
それと見た一頭の黒い牝牛は尻毛を動かして、塩の方へちかづいて来る。眉間みけんと下腹と白くて、他はすべて茶褐色な一頭も耳を振つて近いた。もうと鳴いてこうしぶちも。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「それだからつい見かけないと言ったのさ。金無垢きんむくで目と歯が銀の、ぶち赤銅しゃくどうか。出来合にはこんな精巧なものはない。この歯は一本々々後から植えたもんだぜ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いちばんしまひには張子の倉のなかから小さな米俵をくはへだして積みあげるのをやつた。茶のぶちや、まつ白なのや、いりみだれて走りまはるのが可愛くてならない。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
最後に一匹少し大きい茶のぶちの強そうな犬は、わんわんと吠えて、中々傍へ来そうになかったが、森君は例の可愛かわいい白い犬をおとりにして、とうとう傍に来させて捕まえた。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
黒い合羽には、雪が白くぶちとなって凍りついているのを頭から被って、足には足袋も穿かずに片方だけしか草履ぞうりも穿かない女が幽霊のように身をすぼめてもぐり込んだ。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一同喜び、狐の忍入った雞小屋から二羽のとりを捕えて潰した。黒いのと、白いぶちある牝鶏めんどり二羽。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
娘は馬鹿にせられたのに気が付いて頬の上に大きい真つ赤なぶちが出来た。その様子が如何にも際限なく、あはれつぽいので、男の子等が却て自分達のした事を恥かしく思つた。
白毛と黒毛がぶちになつてゐる大きな猫が、揉みに揉みぬかれ、よれ/\になつた図体を莫迦長く伸ばしてしまひ、シェパードが前肢をつんと立てて此方を眺めてゐる顎の下に
薄暮の貌 (新字旧仮名) / 飯田蛇笏(著)
それは始終よだれに濡れた、ちょうど子持ちの乳房ちぶさのように、鳶色とびいろぶちがある鼻づらだった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その途中、彼にはあの葬儀社の黒ぶちの猫も、あの警官の眼も気にはかからなかった。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
灰色と茶のしまのようなぶちのあるのとで、前のを「あか」あとのを「おさる」と名づけていた、おさるは顔にある縞がいわゆるどこかさるぐまに似ていたからだれかがそう名づけたのである。
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
白と黒のぶちで、白地に、雲の形をしたようなのや、島の形をしたような模様がついているのである。人間ならば、中肉中背とでも云うところだろうか。どちらかと云えば、大柄の方である。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
形は見馴れると少し違いますがよく似ていますから急に分りません。ソーダの方はマンダラよりも幅が広くって背中のぶちが青白いものです。マンダラは少し細い方で斑がまるく黒ずんでいます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
目的めあては間の岳にある、残んの雪は、足許の岩壁に白いぶちを入れている、偃松はその間に寸青を点じている、東天の富士山を始めて分明に見ながら、岩や松を踏み越えて、下りると、誰が寝泊したのか
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「ところが、旦那、その狗つてえのが、お宅のぶちなんでげす。」
真白な毛並に赤のぶちがある、円々と肥った仔犬だった。
悪夢 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
別品さんが、五月にはお内の猫のようにぶち
それからまわりがまっさおになって、ぐるぐるまわり、とうとう達二は、ふかい草の中にたおれてしまいました。牛の白いぶちおわりにちらっと見えました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それときまっては、内所ないしょの飼猫でも、遊女おいらんの秘蔵でも、遣手やりて懐児ふところごでも、町内の三毛、ぶちでも、何のと引手茶屋の娘のいきおい
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まず第一に彼等はうまやを見に行った。そこには二頭の牝馬がいて、一方はぶちのある灰色あおで、一方のは鹿毛であった。それから栗毛の種馬が一頭いた。
それは長さ一尺に近いけものの毛で、大体は青黒いような色であるが、ところどころに灰色のぶちがあるようにも見える。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「第一番に、お前の父親の死骸に、全身のぶちがあつたといふ噂を聽いたが、あれは本當のことか」
まるが、ついていた?」と、しょうちゃんは、ねんしました。まるというのは、ペスのしろ脊中せなかあかのまるいぶちがあったので、みんながそういっていたのでした。
ペスをさがしに (新字新仮名) / 小川未明(著)
つづいて、額の広い、目付の愛らしい赤牛や、首の長いぶちなぞがぞろぞろやって来て、「御馳走ごちそう」と言わないばかりに頭を振ったり尻尾しっぽを振ったりしながら、塩の方へ近づいた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
香木の弓に孔雀の羽の矢を背負しょった、神様のような髪長彦かみながひこが、黒犬の背中に跨りながら、白とぶちと二匹の犬を小脇にかかえて、飛鳥あすか大臣様おおおみさま御館おやかたへ、空から舞い下って来た時には
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
演技場の真中には今、中位の象かと思われる巨大な白葦毛あしげの挽馬が、手綱も鞍も何も着けずに出て来て、小さなぶちのテリア種の犬と鼻を突き合わせて何かひそひそ話をしているていである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「六条お牛場うしば」というのが割り込んでいて、汚い牛飼長屋だの、牛小屋だのが、部落みたいに散在している上に、空地には野放しの牛が、白いのだの、ぶちだの、茶だの、随所に草を喰っていて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おかしいなと思って、他の犬を調べて見たが、一匹だけ、ホラ、茶のぶちのお寺の犬の脚の裏にベットリと同じインキがついているんだ。白い犬と斑犬ぶちいぬは親友らしく、いつも一緒にふざけているらしい。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
名は「ぶち」とかや、善き名なり
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)