)” の例文
毛と云う毛は悉く蛇で、その蛇は悉く首をもたげて舌を吐いてもつるるのも、じ合うのも、じあがるのも、にじり出るのも見らるる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手紙を三四行読みかけた時、お文がこんなことを言つたので、源太郎は手紙の上にうつぶいたなりに、首をぢ向けて、お文の方を見た。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
毛といふ毛はこと/″\く蛇で、其の蛇は悉く首をもたげて舌を吐いて、もつるゝのも、ふのも、ぢあがるのも、にじり出るのも見らるゝ
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
惣太はかおの色を失って荷田の手を押し払って、それを拾い取って懐中へじ込もうとしますから、いよいよ嫌疑けんぎが深くなるわけです。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼らのひげ根は、水に洗われていよいよかぼそく白く、生きもののようにふるえ、しかも川筋をさえぎりじ曲げる力をもっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
亭主は吸ひつけられたやうに小判の顔を見てゐたが、暫くすると忘れてゐたやうに慌てて承知の旨を答へて、小判を懐中ふところぢ込んだ。
青磁の皿 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
襖のあく音を聞くなり、彼女はそれを逆手に持って胸を刺そうとした、然し主馬はそのひじつかみ、烈しくじ上げながら懐剣を奪った。
山椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
二人はそれでも負けず劣らずじ合いました。あまりに咄嗟とっさの出来事で、遠ざけられた近習達が、駆け付ける暇もなかったのです。
それと同時に、日ごろ頑固かたくなな叔父の鼻をじ折ったような一種の愉快をも感じた。彼は口の上の薄い髭を撫でながらほくそえんだ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この上に生きた物でも戴せて、瓦斯のコックを開いて電気のスイッチをじると、取りあえず瓦斯が飛び出して窒息させてしまう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼はあわてて紙幣束を懐中にじ込んだ。持ちつけない額なので、く目算は出来なかったが少くとも五百円はあるらしかった。
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ごとごとと溝板を踏み乍ら、勝手の方から濡れ手を拭き拭き駈けて来た下女のおすめが周章あわててランプの心を馴れた手付きでじ細めた。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
煙突は斜めにじられ、平坦へいたんにして長き胴体が波を破って進む形、それらの集合せる艦隊のレヴュー風の行進、大観艦式の壮大なる風景
そして、しばるのが商売の目明し万吉、あべこべに孫兵衛のためにじつけられ、両手両足、ギリギリ巻きにくくられてしまった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、じれた寒い気流が無数の層を造って鉄の中から迫って来た。高重は棉の粉を顔面に降らせながら、傍の女工を指差していった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
畜生ちくしょう。)といったが馬は出ないわ。びくびくとうごめいて見えるおおき鼻面はなッつらをこちらへじ向けてしきりに私等わしらが居る方を見る様子。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金力と云ったものが、丸切り奪われている父が、黄金魔と云ってもよいような相手から、赤児あかごの手をじるように、苛責いじめられる。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこをロイドは、いきなり頭をつかんで、やにわに股の間へじ込んでしまった。そしてしばらく満身の力でおさえつけていた。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
力をこめてじって見た。金が腐っていたのであろう、何んの苦もなく捻じ切れた。とたんに鉄の扉がギーと開いて冷たい風が吹いて来た。
それ故にネヂソデまたはネヂッコとも謂うのである。中国地方から東では是をモヂリまたはムヂリ、ムジルというのもじることであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は、自分の唐突な説が、私の上に影響したであろう反応を見きわめるために、身体からだじ向けて、私の顔を下から仰いだ。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
立ててんだ多分養父ではない実父だったのであろう何ぼ修行だからと云って年歯も行かぬ女の子をさいなむにも程がある
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と呶鳴るにも構わず小平は拳を固めて力まかせに打落せば、提灯は地に落ちて燃え上り、小平は多助をじ倒し、乗りかゝって続け打にする。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其鴨みたいに、首をじちぎられて、何も訣らぬものになったことも。こうつと——姉御が、墓の戸で哭き喚いて、歌をうたいあげられたっけ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
彼は順じゅんに骨牌札に賭けると、果てしもなく勝ってゆくので、その金貨を掻きあつめ、紙幣をポケットにじ込んだ。
そして、彼等が折重なって、今や賊をじ伏せようとした時である。どうしたというのだ。彼等はアッと叫んで、タジタジとあとじさりをした。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何の気なしに押した無尽の請判で百円といふ大金を支払はされるのだと聞いて小半年の間世話人のところに文句をぢこんで手こずらせたこと
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
その薄気味のわるい顔を、早く動かすとこわれるおそれがあるとでもいうように、山城守はソウッと客のほうへじ向けた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
死体は、そのほとんど右はずれに俯臥うつむけの姿勢で横たわり、右手は、背の方へじ曲げたように甲をしりの上に置き、左手は寝台から垂れ下っていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
両人が相手の顔をじて天井へ向けたときに、そこにぴったり吸いついている前夜のトランクを両人が同時に発見した。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
悪漢の手をぢあげてほうりだし「ざまあ見やがれ」と云ひ、懐手にてゆうゆうと上手に入るところすつきりとしてよし。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
わたしがそばへ行くと、彼女は片手をわたしの頭にのせて、いきなりかみをつかむと、ぎりぎりじ回し始めた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
勇は反動をつけて飛び起き、ミチの髪を片手に、片手を腕にかけてじ伏せ様とした。二つの若い肉体はぶつかり合い、もつれ、折重なり、息が乱れた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
ふすまと廊下を隔てて向側にある事務所は電話の叫喚と足音に入り乱れ、人間が人間をじ伏せたり、人間が人間をでまくる、さまざまのアクセントを放つ。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
またその試験というのが人工的に無闇むやみに程度を高くじり上げたもので、それに手の届くように鞭撻べんたつされた受験者はやっと数時間だけは持ちこたえていても
アインシュタインの教育観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
蒲田屋かばたやおくかざつてあるやうな本當ほんたうのを、おもくてもかまいはしない、やつちよいやつちよいわけなしだと鉢卷はちまきする男子をとこのそばから、れではわたしたちがつまらない
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
アメリカでは樹枝の分れ目に細い鉄の棒をじ込み、それの両端を止めて置くのである。かくすればもし降雪があって、枝に雪の重量がかかっても、枝は割けない。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
根が貴族的に生立おいたった人だから、材料がいつでも素直すなお温和おとなしい上品なウブな恋であって、深酷な悲痛やじくれたイキサツや皮肉な譏刺きしが少しも見られなかった。
というのは、兄貴とルピック氏が、彼のじくれた足のゆびを見て、へんてこな戯談じょうだんをいったからだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「ああ、すこしありますよ」女房は入口の方へ体をけて、客をすかすようにしたが、障子の陰になって客の姿は見えなかった。が、それでも、「いらっしゃいまし」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すこし暑いと肌ぬぎで銀ぐさりをかけて、紺の腹掛と、真白い晒布さらしの腹巻、トンボほどな小さな丁字髷ちょんまげが、滑りそうな頭へ、じ鉢巻で、負けない気でも年は年だけに
僕はなんということなしに恐怖の観念にられながら窓をしめて、鍵をかけて、その上に僕の頑丈なステッキを真鍮の環の中へ通して、丈夫な金物が曲がるほどにうんとじた。
お銀はそれから、親類の若い男と一緒にそこへじ込んで行ったことなどを話した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある褐色カプシン猴はよく竈箒かまどほうきの柄をじ入れまた捻じ戻した。最初柄の孔に合わぬ端を孔に当て正しく捻じ廻したがはいらぬを見て、他の端に振り替え孔に当て正しく捻じ初めた。
「おや、富士。」と呟いて、私の背後の長押なげしを見あげた。私も、からだをぢ曲げて、うしろの長押を見上げた。富士山頂大噴火口の鳥瞰てうかん写真が、額縁にいれられて、かけられてゐた。
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
ただ一揉みに屑屋くずやを飛ばし二揉み揉んでは二階をじ取り、三たび揉んでは某寺なにがしでらをものの見事についやくずし、どうどうどっとときをあぐるそのたびごとに心を冷やし胸を騒がす人々の
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
カチリと電燈をじる響と共に、きいろい光が唐紙からかみの隙間にさす。先生はのそのそ置炬燵から次の間へ這出はいだして有合ありあ長煙管ながギセルで二、三ぷく煙草を吸いつつ、余念もなくお妾の化粧する様子を眺めた。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
揉みはじめたのだがその足裏は、どうしたことかひどく硬くてへこまない。どうやら大きな胼胝たこらしい。博士は、今度はもう少し足を持ちあげて、そのおや指の尖端さきを灯の前へじ向けるようにした。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
話が外れていきそうなので、サト子は、あわててじもどした。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『本当がね。』と目を輝かして、懐にじ込む真似をしたが
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)