にな)” の例文
旧字:
彼は偉大なるドイツの哲学者たちならびに彼らによってになわれた弁証法の記憶を荒れたる折衷主義の沼のうちに溺死せしめたのは
科学批判の課題 (新字新仮名) / 三木清(著)
己の光栄だろうか。己はその光栄をになってどうする。それがなんになる。己の感情は己の感情である。己の思想も己の思想である。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人形箱を梶子とにない、宿の廊下まで出たところを、三十郎と一味とに襲われて、衆寡敵せずこのありさまと、面目なげに物語った。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かすかなる墨痕ぼっこんのうちに、光明の一きょを点じ得て、点じ得たる道火どうかを解脱の方便門よりにないだして暗黒世界を遍照へんじょうせんがためである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そも、袁紹は何を考えだしたか、二十万の兵に工具をになわせて、人工の山を築かせたのである。十日も経つと、完全な丘になった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私がどこへ行こうと、あなたたちはいつも私といっしょにいる。私をおぶってくれたおかあさん、私は今あなたを自分のうちにになっている。
たとえば仁義じんぎのために死するとか、国家の責任を双肩そうけんになって立つとか、邦家ほうかのためには一身をかえりみず、知遇ちぐうのためにはいのちおとすとか
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
個々の成員にになわれて存在するのであって、それ自体で超越的に独立している共同体というようなものもないということである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
かれは山にり、水に臨み、清風をにない、明月をいただき、了然たる一身、蕭然しょうぜんたる四境、自然の清福を占領して、いと心地ここちよげに見えたりき。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
信子は女子大学にゐた時から、才媛さいゑんの名声をになつてゐた。彼女が早晩作家として文壇に打つて出る事は、ほとんど誰も疑はなかつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それも直接消火ひけしの用を足すというよりは、屋根に登って働いている仕事師の身体を濡らすに用いた位のもの……ゲンバというおけを棒でにな
一貫目余のたけのこを二本になって往ったり、よく野茨の花や、白いエゴの花、野菊や花薄はなすすきを道々折っては、親類へのみやげにした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
若い男というのは、土地の者ではありましょうが、漁夫とも見えないような通りがかりの人で、肩に何かになっていました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「人は同時におのれの重荷たりおのれの誘惑たる肉体を身に有す。人はそれをにない歩きしかしてそれに身をゆだぬるなり。」
恭三の家とは非常に懇意にして居たので、此処こゝを宿にして毎日荷物を預けて置いて、朝来てはそれをになって売り歩いた。
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
老イタル者ハからかさにな竿さおヲ擁シテ以テおのレガ任トナスといひ、於戯ああ翠帳紅閨すいちょうこうけい、万事ノ礼法異ナリトイヘドモ、舟中浪上、一生ノ観会かんかいレ同ジ
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
荷物炭は、艀から、本船へ、長いあゆみ板をかけ、その上を登り降りして、振りわけにしたになかごで、積みこむのが通常だ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そんなわけで、わたしはあゆを汽車で京都から運ぶ際ににない桶をかついだまま汽車に乗り込ませ、車中でちゃぷんちゃぷんをやらせたものであった。
インチキ鮎 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
春信はわが工芸史上、彩色板刻術の完成者たる名誉をになふと共に、また浮世絵画面の大きさを決定したる功績を有す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
実に彼は死よりもつらき不面目をにないつつ、折角せっかく新調したりし寒防具その他の手荷物を売り払いて旅費を調ととのえ、ようやく帰京のにはつき得たるなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
信心においても強烈、国民すべての不幸を一身にになわれて、行くべきところまで行く激しい情熱の御方だったと思われる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ただそこに居る君だけが、その神聖なる使命をになうべく選まれて、吾々の前に差遣さしつかわされた唯一、無上の天使である。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これはただ博士号を得るに足るだけの教科書に自由自在に通じて居るというただそれだけではこの名誉はになわれない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
買つて戻つた天秤棒で、早速翌朝から手桶とバケツトを振り分けにになうて、汐汲みならぬ髯男の水汲みと出かけた。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
富籤の札が当ればこそ千両ですが、それは何万枚に一枚の幸運をになった札で、あとは紙っくずの足しにもなりません。
さて、この村からすじ浄法寺じょうほうじへとぬける街道がある。今でもそうだが、多くの者がわんだとか片口かたくちだとか木皿だとかをになって市日いちびへと出かけてゆく。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
どうして頼政よりまさがそういう名誉めいよになうようになったかともうしますと、いったいこの頼政よりまさは、あの大江山おおえやまおに退治たいじした頼光らいこうには五だいめのまごたりました。
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
其故如何となれば、彼は暗々裡に仏国想フレンチ・アイデアになひ入れて、奇抜は以て人を驚かすに足りしかども、遂に純然たる日本想の「一口剣」に及ばざるを奈何いかにせむ。
カムデン卿(Lord Camden)等の諸大家は、代る代るにこの空しき光栄をになわしめられたのであった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
だがそれをどうしても話してしまわなければ、僕は何だか大きな負債をになっているような気がしてなりません。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
半蔵はそれを「せいた」に堅く結びつけ、半蓑の上から背中にになって、日ごろ自分の家に出入りする百姓の兼吉らと共に、チラチラ雪の来る中を出かけた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その最奥の内容は説くべからずとするも、その内容をになえる人格は、我々の前に明らかに提示せられている。我々はいかなる人格が道元を鍛錬したかを見た。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
日本科学協会々長の栄誉をになっているばかりか、英国のローヤル・ソサエティーの名誉会長であり、米国のスミゾニアン・インステチュートの名誉顧問であり
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
気がついて見ると、私は何時の間にか趙の銃を(砂の上に倒れていたのを拾って)彼の代りにになっていた。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
対他性上の区別である渋味と甘味とは、それ自身には何ら一定の価値判断をになっていない。価値的意味はその場合その場合の背景によって生じて来るのである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
ことに心ひかれるのが東宝映画の争議だった。同じ文化のになである親近感は、生きて動いている人たちの息吹いぶきが熱く頬にかかってくるような思いがした。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
内地から渡って来たばかりの元官吏でまだ朝鮮やその文化の事情にうとい彼は、最初に近寄って来た玄竜こそ、彼の言葉の通りに朝鮮文壇を実際にになう小説家であり
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
手桶ができてあとならばバケツというものも考えだされようし、棒で両方に下げるになおけを、男にかつがせることも始まるであろうが、それがもしふつうであったら
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
老人は、何か長い丸いものを風呂敷に包んで、鉄砲をになったような具合に、細い紐で背負っていた。
再度生老人 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
しかも大きな長持を一ちょうになわせて、その黒い影の塊りが左右四方から厳重に守りつつ現れたのです。
やがておおいなる古菰ふるごもを拾ひきつ、これに肴を包みて上よりなわをかけ。くだんの弓をさし入れて、人間ひと駕籠かごなど扛くやうに、二匹前後まえうしろにこれをになひ、金眸が洞へと急ぎけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
最近は、鉱毒問題以外にはあまり議会で意見を吐きたくないという心境だったし、今この案に反対する以上は自分として言責をどこまでもになわねばならぬことを思った。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
中老漢ちゆうおやぢは岩の上に卸した背負籠をになつて、其儘そのまゝ歩き出さうとして居たが、自分に尋ねられて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
わたしは、それでも、ある偉人とある名士とに連れ立って、大通りを散歩する光栄をになった。
ニ、そして、「組織」「闘争」——この初めて知った偉大な経験をになって、漁夫、年若い雑夫等が、警察の門から色々な労働の層へ、それぞれ入り込んで行ったということ。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
書生はいつもそれをにないあるいて、かれを担生たんせいと呼んでいたが、蛇はいよいよ長大になって、もう担い切れなくなったので、これをはん県の東の大きい沼のなかへ放してやった。
其名独逸ドイツ建国の歴史をぶる巨人ビスマルクの如きに候ふく、普仏戦争に際して、非常の声誉と、莫大の償金と、アルサス、ローレンスと、烈火の如き仏人の怨恨とをになふて
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そしてあたしは花聟といつしよに踊るのではなく、棺に入れてになつてゆかれるのだつて。
大岩魚はそのあたりの谷川にたまたまいることがあると云われているもので、頭から尻尾しっぽまでが五尺ばかりもあった。人びとはそのあご藤葛ふじかずらをとおして二人がかりでになって来た。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おぼろげに感得していたものの、先きは人も知った人格者であり、とうといあたりへも伺候して、限りない光栄をになっている博士なので、もし葉子の嬌態きょうたいに魅惑された人があるとしても
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)