御利益ごりやく)” の例文
天皇を利用することにはれており、その自らの狡猾こうかつさ、大義名分というずるい看板をさとらずに、天皇の尊厳の御利益ごりやくを謳歌している。
堕落論〔続堕落論〕 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「ええええ、差支えのある段ではございませぬ、人の世で見放されたものをも、お拾いなさるのが観音様の御利益ごりやくでござります」
三人は人数の少いだけ御利益ごりやくも多からうと、胸をわく/\させてゐると、程なく汽車は夜通し駆け廻つてだらけきつた身体からだ廊下プラツトフオームへ横たへた。
御兩親ごりやうしん御利益ごりやくで、まだ、まあうやつておほまかなところは、くもかすみと、見分みわけのきまするのが、つけものでござります。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
祐天ゆうてんなぞでも、あれだけの思いつきがあれば、もう少しハイカラにできる訳だ。不動の御利益ごりやくが蛮からなんじゃない。
彼女はある雪の晩に、貰い風呂から帰る途で、暗い地蔵堂の縁の下に子供の泣き声をきいて、これはテッキリ地蔵様の御利益ごりやくに違いないと思った。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
「そうまでおっしゃるなら、お止めしません。せいぜい初午詣をして日頃の不信心の帳消しをするこってすな、なにか御利益ごりやくがあるかもしれねえ」
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「お稲荷さまの御利益ごりやくで、どうかまあ、ちっとも早くその子供の安否が知れるようにして上げたいと、わたくし共も蔭ながらお祈り申しております」
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「山谷の聖天樣、——むづかしく言へば歡喜天くわんきてん樣、——降魔招福かうませうふく、歡喜自在の御利益ごりやくがあるといふ、てえした佛樣だ」
御利益ごりやくを持ちまして日本にっぽんへお帰しを願います…おや旦那彼処あすこ高坏たかつきのような物の上に今坂だか何だか乗って居ります、なんでも宜しいお供物くもつを頂かして
生意氣なまいき謂ツてゐら………」と投出なげだすやうに謂ツて、「して、何かえ。其の、お百度の御利益ごりやくがあツたのかえ。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「そう思うでしょう? わたしもわからなかったの。でもよく考えてみたらね、御利益ごりやくがあらわれたわけなのよ」
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それから後は、立山に参詣さんけいする人が、草鞋を持って登れば、特に大きな御利益ごりやくを授けることにしたといっております。(郷土研究一編。富山県上新川かみにいかわ郡)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いいえ、はなすものか、江戸中えどじゅうに、おんなかずほどあっても、おもめたのはおまえ一人ひとり。ここでえたな、日頃ひごろねがもうした、不動様ふどうさま御利益ごりやくちがいない。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
たくさんの人々にとりかこまれた古いサンマルティンの尊像がしずしずと近づいて来ていたのです。その御利益ごりやくで二人の病気はもうなおり始めていたのです。
かたわ者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
田村麻呂たむらまろ今更いまさらほとけさまの御利益ごりやくのあらたかなのにつくづく感心かんしんして、天子てんしさまからいただいたおかねのこらず和尚おしょうさんにあずけて、おてらをりっぱにこしらえました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「多加ちゃん? 多加ちゃんはもう大丈夫ですとも。なあに、ただのおなかくだしなんですよ。あしたはきっと熱がさがりますよ」「御祖師様おそしさま御利益ごりやくででしょう?」
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ところが栗栖君は生写しだと言うんだ。何か御利益ごりやくがあるかと思って、参詣の序に撫ぜて行くんだって」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御利益ごりやくうたがいなく仮令たとい少々御本尊様を恨めしきように思う事ありとも珠運の如くそれを火上の氷となす者にはもとより持前もちまえ仏性ほとけしょういだし玉いて愛護の御誓願ごせいがんむなしからず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
従って、こういう連中の間では、精霊との談話が大いに行われ、——そして、それには、決して明瞭になっては来なかったたくさんの御利益ごりやくがあったのである。
松本喜三郎の西国三十三番観音の御利益ごりやくを人形にして、浅草で見世物にしたのなど流行った。何時いつだったか忘れたが、両国の川の中で、水神祭というのがあった。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
これは、賽銭さいせん寄進物きしんぶつの多少によってその御利益ごりやくの程度を暗示して、利得を計ったものと思うが、どうか?
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「おれはかえって、こうなった方が、石神様の御利益ごりやくだと思う。そう考える方が本当だ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅草の観音菩薩かんのんぼさつは河水の臭気をいとわぬ参詣者さんけいしゃにのみ御利益ごりやくを与えるのかも知れない。
水のながれ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このうわさが伝わると、そこいらじゅうの信心家が、あとからあとから押しかけて来て「お不動様」の御利益ごりやくにあずかろうとしたので、家の中は夜通し寝ることも出来ないようになった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
殿様始めおもな家来たちが東京住いになりました頃、御殿をさがったお藤さんは清水さんの奥さんにおなりになったものですから、これはきっと神様の御利益ごりやくだったろうといわれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そうすればきっと御利益ごりやくに与って、忌まわしい幻を打ち拂うことが出来るだろう。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何しろ、神様の金だから、あらたかな御利益ごりやくはあるに違ひない。神は残酷ざんこくなほど公平だ……。雨樋からあふれるやうな雨音を聞いてゐると、富岡は、一晩ぢゆうでも酒を飲みたくなるのだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
大敵多勢を持つ身に、用意の月日をあたえて下さること、一に神仏の御利益ごりやく——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
これが幸福のうわおいぐつからさずけてもらった御利益ごりやくのいっさいでした。
これは東雲師の彫った大黒の御利益ごりやくだといって三枝家の親類の人たちは目出たがって、自分たちもあやかりたいものだと、二軒の御親類から、また、大黒を頼まれたが、この方は御利益があったか
「気違さんもこの風には弱つたと見えますね。もういつもきつと来るのに来ませんから、今夜は来やしますまい、何ぼ何でもこの風ぢや吹飛されてしまひませうから。ああ、ほんに天尊様の御利益ごりやくがあつたのだ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そりゃ神様だもの、拝めば何でも御利益ごりやくがあるさ」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
御利益ごりやくと、岩殿いわとのかたへ籠を開いて、中へ入れると、あわれや、横木へつかまり得ない。おっこちるのが可恐こわいのか、隅の、隅の、狭いところちいさくなった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬「いえさ、わたくしの友達がお祖師様の御利益ごりやくで横根を吹っ切りましたから、其のお礼のことづかりを云ってる処で」
「貴様はそれだからいけねえ。あれも勘定ずくでやっている仕事なんだ。いまに御利益ごりやくあらわれるから見てろ」
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「こいつア弱った。こう見えても、わたしは信心のいいほうなんですが、いっこうに御利益ごりやくがありません」
「しかしこうして今日こんにち御眼にかかれたのは、全く清水寺きよみずでらの観世音菩薩の御利益ごりやくででもございましょう。平太夫一生の内に、これほど嬉しい事はございません。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ハイありがとうござります、彼めが幼少ちいさいときはひどい虫持で苦労をさせられましたも大抵ではござりませぬ、ようやく中山の鬼子母神様の御利益ごりやくで満足には育ちましたが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どうで縛るならば、繁昌の地蔵さまを縛った方が御利益ごりやくがあるだろうと云うわけでしょう。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「この方々はみんな海で難船した人達ぢやが、平素ふだん神様御信心の御利益ごりやくで、不思議にも生命拾いのちひろいをなすつたぢや、その御礼とあつて、こんなにして額をあげて御座るのぢや。」
「他でもない。お前の方の八幡様は贋物にせものだって話だが、矢っ張り御利益ごりやくがあるのかい?」
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そうでしたか、それこそ朝日権現の御利益ごりやくというものですね、つまり朝日権現のあらたかな御光というものが、わしの身を通してお前さんの身にとおったというわけなのですよ」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
太陽が無事に東から出て、無事に西へ入るのも全く実業家の御蔭である。今まではわからずやの窮措大きゅうそだいの家に養なわれて実業家の御利益ごりやくを知らなかったのは、我ながら不覚である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手を延ばしてその首をおさえなどしたりという。村にありし薬師の堂守どうもりは、わが仏様は何ものをもそなえざれども、孫左衛門の神様よりは御利益ごりやくありと、たびたび笑いごとにしたりとなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
田村麻呂たむらまろ自分じぶんがこれほどの名誉めいよけることになったのも、清水きよみず観音様かんのんさまにおいのりをした御利益ごりやくだとおもって、みやこかえるとさっそく清水きよみずにおまいりをして、ねんごろにおれいもうげました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
これも大方、日頃から信心の、八幡宮の御利益ごりやくだろう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
私はまア斯様こんなにお前さんの介抱を受けようとは思いませんかったが、不思議な縁で連に成ったのも矢張やっぱり笈摺を脊負しょったお蔭、全く観音様の御利益ごりやくだと思います
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御利益ごりやくで、怪我けがもしないで御堂おどうからうらはうへうか/\と𢌞まはつて、ざう野兎のうさぎ歩行あるきツくら、とちんかたちくと、たちまのちらつくくらがりに、眞白まつしろかほと、あを半襟はんえり爾側りやうがはから
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こうなると友蔵夫婦も鼻を高くして、これも成田さまの御利益ごりやくだろうとお常はいう。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)