いほり)” の例文
離れて涅槃ねはんの道に引導すべければ是より我がいほりに參られよとて夫より上新田村の無量庵へ同伴どうはんなし懇切ねんごろに弔ひければ安五郎はあつく禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いほりのなかはさつぱりと片附かたづいてゐました。まんなかに木の卓子テーブルがあつて、椅子いすが四つ並んでゐました。片隅かたすみにベッドがありました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
僅かに垣を隔てゝ建つた林中のいほりで、これが不思議なことに、下屋敷の中にある離屋と一對になつた、恰好と言ひ、場所の關係に
年とつた良寛さんは、五合庵ごがふあんといふ小さないほりに住むことになつた。その庵は、故郷こきやう出雲崎いづもざきから少し離れた、国上くがみといふ山の中腹にあつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
一の峰を成す、この峰カートリアと呼ばれ、これが下にはたゞ禮拜らいはいの爲に用ゐる習なりし一のいほりきよめらる。 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
慮外りよぐわいながら此のわたりのいほりに、近き頃さまへて都より來られし、俗名ぞくみやう齋藤時頼と名告なの年壯としわかき武士のおさずや』。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ただ、承久四年に書かれた僧慶政の随筆、「閑居友かんきょのとも」に——建礼門院おんいほりにお忍び御幸の事、という短文がある。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藝人の名を書いたいほり看板の並んでゐるのをチラと見て、お文は其の奧の善哉ぜんざい屋の横に、祀つたやうにして看板に置いてある、大きなおかめ人形の前に立つた。
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ここより百ばかり浜の方に、あさおほく植ゑたる畑のぬしにて、其所そこにちひさきいほりして住ませ給ふなりと教ふ。
あとにたのむは老人夫婦らうじんふうふこれまた補陀落山ふだらくさんからかりにこゝへ、いほりむすんで、南無なむ大悲だいひ民子たみこのために觀世音くわんぜおん
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「昔思ふ草のいほりよるの雨に涙なそへそ山ほととぎす」これは「盧山雨声草庵中」といふ句のある白楽天の漢詩を日本風に訳したものだと言ふ。この方は翻訳でない。
詩の翻訳について (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
亞尼アンニーは、いまは、眞如しんによ月影つきかげきよき、ウルピノ山中さんちうくさいほりに、つみもけがれもなく、此世このよおくつてことでせうが、あのにくむべき息子むすこ海賊かいぞくは、矢張やはり印度洋インドやうなみまくら
ささやかながらいほりを結んで、時折渡りになやむと見えた旅人の影が眼に触れれば、すぐさまそのほとりへ歩み寄つて、「これはこの流沙河の渡し守でおぢやる。」と申し入れた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「だつて好いぢやありませんか。開けて下さいましよ。それともわたくしがあなたのいほりの窓の外で、あなたが御祈祷をして入らつしやる最中に、凍え死んでも宜しいのですか。」
ロミオ そもじには安眠あんみんが、そもじむねには安心あんしん宿やどるやう! あゝ、その安眠あんみんとも安心あんしんともなって、きみうつくしいむね宿やどりたいなア!……これから上人しゃうにんいほりて、今宵こよひ仕合しあはせをはなしたうへ
これが嵯峨のいほり主人あるじであつた。そしてその口にする所は奈何いかん。「跌蕩不量分。功業妄自期。意謂身顕達。竹帛名可垂。」そして此主人に侍してゐたものは誰か。わかい弟惟長只一人であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しづかなるいほりやと観て仰ぐ眼にまろまろとよしあかる枇杷の実 庭に小亭あり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「山深くなんにかいほりを結ぶべき、心の中に身はかくれけり」で、何にも鎌倉へ引込むの、何々のと、場所を引込むのではないが、うるさい仕事を減じて、一、二年聖人の書を読む余裕が欲しいと思うている。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
われなくて草のいほりは荒れぬともこの一ことは枯れじとぞ思ふ
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
能因法師のいほり
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そのうはさは、たちまち町中にひろがりました。たいへんなさわぎになりました。町中の人たちが、上人さまのいほりの方へおしかけてきました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
「それぢや、たつた二つ私の願ひを聽いて下さい、——一つは、その林の中のいほりの繪圖面を引いて見せること、一つは——」
芸人の名を書いたいほり看板の並んでゐるのをチラと見て、お文は其の奥の善哉屋の横に、まつつたやうにして看板に置いてある、大きなおかめ人形の前に立つた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
彼は一たん跫音あしおとを立てて向かふへいつてしまつたが、すぐ跫音をしのばせて、いほりの方へもどつて来た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
畷道なはてみちすこしばかり、菜種なたねあぜはひつたところに、こゝろざいほりえました。わびしい一軒家いつけんや平屋ひらやですが、かどのかゝりになんとなく、むかしのさましのばせます、萱葺かやぶき屋根やねではありません。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
君の御前を退て和ならず山に分け入りぬれば、自ら世をのがると人はいふめれど、物うき山のすまひしばいほりの風のみあれて、かけひならでは露おとなふものもなし……(中略)
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝鳥あさとりこゑおもしろく鳴きわたれば、かさねて一三七金剛経こんがうきやうくわん供養くやうしたてまつり、山をくだりていほりに帰り、しづかに終夜よもすがらのことどもを思ひ出づるに、平治の乱よりはじめて、人々の消息
とふらふこそ誠の安樂あんらく成んとて幡隨院ばんずゐゐんの弟子となり剃髮ていはつ染衣ぜんいに状を變名を自貞じていと改め淺草あさくさ今戸にいほりを結び再法庵さいほふあんと號し母諸共におこなひ濟し安く浮世をすごせしとかやいほりの壁に種々いろ/\和歌わかありけるが其中に
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しづかなるいほりやと觀て仰ぐ眼にまろまろとよしあかる枇杷の實庭に小亭あり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
愚僧ぐそういほりは嵯峨の奧にあれば、此わたりには今日けふが初めて。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
山がつのいほりけるしばしばも言問ひ来なむ恋ふる里人
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
山深くなにいほりむすぶべき心のうちに身はかくれけり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いほり平太郎が殺されたことに就ては何んの心當りもなく、今朝小僧の梅吉が見付けて大騷動になつたといふだけのことです。
岩山のがけによせかけるやうにしてたてられた粗末ないほりで、表の戸はしまつてゐて、海の方に小さな窓が一つ開いてゐて、中はひつそりとしてゐます。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
道のわきに小さいいほりがあつたので、亀田先生は、つかつかと庭へはいつていつて
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
信濃国大川原の深山みやまの中にいほりして住みはべりける谷間たにあひの月をみて〔李花集雑〕
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草枕はるけき旅路のいたはりにもあらで、一九観念修行くわんねんしゆぎやう便たよりせしいほりなりけり。
住みつかぬ山のいほりはけうとけどまだそぞろなり一日ひとひ二日ふたひ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
移し植ゑて思ひ乱れぬ女郎花浮き世をそむく草のいほり
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
兎も角もいほり平太郎のとむらひを出し、騷ぎが一段落になつて、家の中は久し振りに靜かになつた、四日目の夕方のことでした。
風そよぐ板屋楓いたやかへでの二三もとここのいほりも夏いたりけり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もう一人はかゝうどの若い浪人者、いほり平太郎といふ人が八王子まで搜しに行つて見付けて來たお舟といふ娘ですがね。
林の中のいほりは大きな屋敷と垣一つへだてただけで、日頃二三人の武家と、凄いほど美しい女と、下女が二人居るだけ。
平次は八五郎に案内されて、板屋家の塀の外の、若隱居主水のいほりを訊ねました。