山城やましろ)” の例文
紀元千四百五十四年(西暦七九四)、第五十代桓武くわんむ天皇は、山城やましろ葛野かどの宇太野うだのに都をさだめられた。これが平安京、現在の京都である。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
しかもその酢売は和泉いずみの国と名乗り、薑売は山城やましろの国と名乗つて居る処を見ると、これらの処が酢または薑の産地であつた事もわかる。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして、山城やましろ木津川きつがわまで行きますと、建波邇安王たけはにやすのみこは案のじょう、天皇におそむき申して、兵を集めて待ち受けていらっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そうしてその顔を白く塗ってすべてこれを地蔵と名づけ、花を立てて食べ物を供えて、町から来た人に拝ませました(山城やましろ四季物語)。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は、七ヵ国にわたる大道路の改修や架橋かきょうに着手していた。美濃、尾張、三河、伊勢、伊賀、近江おうみ山城やましろをつらぬく国道である。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人はかね顔馴染かおなじみの警視庁強力犯係ごうりきはんがかりの刑事で、折井おりい氏と山城やましろ氏とだった。いや、顔馴染というよりも、もっと蒼蠅うるさい仲だったと云った方がいい。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この話は、たちまち幾百里の山河さんがを隔てた、京畿けいきの地まで喧伝けんでんされた。それから山城やましろの貉がける。近江おうみの貉が化ける。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たとへば山城やましろの「サガラ」はもつともこれにちかおんいうする相(サング)樂(ラー)の二によつてあらはされたのが、いまは「ソーラク」とませてをり
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
この水車を山城やましろの淀川の水車にたとえて、淀橋という名が出来たのだという説もありますが、嘘か本当か存じません。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
美しい青田の山城やましろ平野、それに続く摂津せっつ平野の向うに、くっきり播但ばんたんの山脈が見えるようになると、野原にき散らされた家の数がだんだん多くなる。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
山城やましろの王城の地を想わせて、詩人でなくとも、これにまず「小京都」といった風情ふぜいを感じ得られたかもしれません。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたくしどもはけっして変化へんげでも、おにけたのでもありません。一人ひとり摂津せっつくにから、一人ひとり紀伊きいくにから、一人ひとり京都きょうとちか山城やましろくにからたものです。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
山城やましろ相楽郡木津さがらぐんきづ辺の或る寺に某と云う納所なっしょがあった、身分柄を思わぬ殺生好せっしょうずきで、師の坊のいましめを物ともせず、いつも大雨の後には寺の裏手の小溝へ出掛け
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
ここで近畿きんき地方というのは便宜上、京都や大阪を中心に山城やましろ大和やまと河内かわち摂津せっつ和泉いずみ淡路あわじ紀伊きい伊賀いが伊勢いせ志摩しま近江おうみの諸国を包むことと致しましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その大彦の命が越の國においでになる時に、穿いた女が山城やましろのヘラ坂に立つて歌つて言うには
でも、そちらの方には深い高地があって、その遠い連山の間に山城やましろから丹波たんばにまたがるいくつかの高峰があるという日本人の説明を聞くだけにも満足するものが多かった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
連れし小者こものの買はんとせしに、これは山城やましろ伏見ふしみにて作りし物にて、当店の看板なればと、迷惑顔めいわくがおせし事ありしが、京より下り来し品も、江戸に多くありけるものと見えたり。
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
てもてましものを山城やましろたかつきむらりにけるかも 〔巻三・二七七〕 高市黒人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
いままをした天皇樣てんのうさま御陵ごりようはたいてい大和やまとから河内かはちなどにありますが、天智天皇御陵てんちてんのうごりよう山城やましろくに京都きようとひがしほうにありまして、四角しかくつか上部じようぶまるくなつてゐるといふことであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
山城やましろ愛宕あたご権現も勝軍地蔵を奉じたところで、それにつづいて太郎坊大天狗などという恐ろしい者で名高い。勝軍地蔵はいつでも武運を守り、福徳を授けて下さるという信仰の対的たいてきである。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
戦艦『長門ながと』『陸奥むつ』『日向ひゅうが』『伊勢いせ』『山城やましろ』『扶桑ふそう』『榛名はるな』『金剛こんごう』『霧島きりしま』。『比叡ひえい』も水雷戦隊にかこまれているぞ。『山城』『扶桑』は大改造したので、すっかり形が変っている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
二十日正月までにこしらえる事に相成ったが、の國綱は存じてるであろうが、鬼丸同作であると云うは、北條のもとめによって國綱山城やましろの粟田口より相州そうしゅう山の内にきたり、時頼ときよりの為にきたえたる鬼丸
つきとめようという気もなかったのであるがその御殿の遺跡は山城やましろ摂津せっつのくにざかいにちかい山崎の駅から十何丁かの淀川よどがわのへりにあって今もそのあとに後鳥羽院を祭った神社が建っていることを
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
岸は二三度うねりを打って、音なき水を、とどまる暇なきに、前へ前へと送る。かさなる水のしじまって行く、こうべの上には、山城やましろ屏風びょうぶと囲う春の山がそびえている。せまりたる水はやむなく山と山の間に入る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山城やましろの深草山、稲荷山いなりやまなどの土が最上。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
翁の名は、伏見掾ふしみのじょうといい、山城やましろの生れだが、この地方へ下り工匠たくみとして移住してからは、単に野霜の翁とか、野霜の具足師ぐそくしとよばれている。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大和やまとの国内は申すまでもなく、摂津の国、和泉いずみの国、河内かわちの国を始めとして、事によると播磨はりまの国、山城やましろの国、近江おうみの国、丹波たんばの国のあたりまでも
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
旗艦陸奥むつ以下長門ながと日向ひゅうが伊勢いせ山城やましろ扶桑ふそうが、千七百噸級の駆逐艦八隻と航空母艦加賀かが赤城あかぎとを前隊として堂々たる陣を進めて行くのであった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とても生きてはいられないと言って、途中の山城やましろ乙訓おとくにというところまでかえりますと、あわれにも、そこの深いふちに身を投げて死んでしまいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
いわば日本国の歌の景は、ことごとくこの山城やましろの一小盆地の、風物にほかならぬのであった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私の妻の祖母は——と云って、もう三四年前に死んだ人ですが——蔵前くらまえ札差ふださしで、名字帯刀御免みょうじたいとうごめんで可なり幅をかせた山長——略さないで云えば、山城やましろ屋長兵衛の一人娘でした。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あの山城やましろの皇居を海に近い武蔵むさしの東京にうつし、新しい都を建てられた当初の御志おんこころざしに変わりなく、従来深い玉簾ぎょくれんの内にのみこもらせられた旧習をも打ち破られ、帝自らかく国々に御幸みゆきしたまい
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山城やましろけ、トリヤマよ。
そのお途中で、山城やましろ宇治野うじのにお立ちになって、葛野かづのの方をごらんになりますと、そちらには家々も多く見え、よい土地もどっさりあるのがお目にとまりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
是には自分はただ上代のすえかた、たとえば山城やましろの京への都遷みやこうつしが企てられ、これに伴のうての幾つかの政治改革が進みまたは押し返されていた期間に、国の中央の言語のうえにも
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「御案内たのむ。しゅうと殿にお目見得いたそう。山城やましろどのには、いずれにおわすかや」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はかわいたように車の窓を開け放ち、山城やましろ丹波たんば地方の連山の眺望ちょうぼうを胸一ぱいに自分の身に迎え入れようとして行った。大阪から京都まで乗って行く途中にも、彼は窓から眼を離せなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山城やましろ筒木つつきみや
町々には地子銭じしせん免除(減税令)の高札とともに軍令をかかげ、また万一を思い、山城やましろ摂津せっつ方面のうごきに対し、そのおさえには明智家の属城勝龍寺の城へ、重臣の溝尾庄兵衛みぞおしょうべえを入れておくなど
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逢坂山おうさかやま山城やましろの京の境、奈良坂は大和の京の境であるから、道饗みちあえの祭をしただけで、そこが峠の頂上であったためではなかろう。「たうげ」もまた「たわ」から来た語であるかも知れぬのである。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
摂津せっつ山城やましろ和泉いずみには、からくもお味方が点在しておるが、一歩播州ばんしゅうへ入ってごらんあれ。織田家になびくか、毛利につくか、などと考えている者は恐らくこの黒田官兵衛ぐらいなものでしょう。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子安という単語のこしらえかたは異例であり、しかもこの語の存在は神も貝も、ともに山城やましろの京の初期にまでさかのぼり得られる。そうして宝貝という本名の方は、かえって中華ちゅうかからの引継ぎかもしれない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
極く近い地では、山城やましろ乙訓郡おとくにごおり青龍寺の城に、岩成主税介いわなりちからのすけ
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)