尻尾しっぽ)” の例文
そうしてソンナ連中の遺産を一人で掻き集めて栄耀栄華えいようえいがにふけりながら、よく、尻尾しっぽを押えられずに来られたもんだなあ、お前は……
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鮎子が右に左に通せんぼうをするのを、たくみにかいくぐって、尻尾しっぽの二郎美少年をつかまえる遊戯だ。陸上の「子を取ろ、子取ろ」である。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あるひはまた廷臣ていしんはなうへはしる、と叙任ぢょにん嗅出かぎだゆめる、あるひは獻納豚をさめぶた尻尾しっぽ牧師ぼくしはなこそぐると、ばうずめ、寺領じりゃうえたとる。
とお十夜は、一角の尻尾しっぽについて、同じ川岸へ向った周馬をののしりながら、自分は、原士の四、五人をらっして反対の向う岸へ廻った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、尻尾しっぽをつかみ、銃床じゅうしょうで、首筋を、何度となく、これが最後、これがとどめの一撃かと思われるほど、激しくどやしつけた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そりゃまあ、仮りに証拠は必要だとしてもいいですが、しかし証拠というやつは、あなた、大部分両方に尻尾しっぽを持っているのでしてな。
それが不思議なことには死んだボーヤの小さい時とほとんどそっくりでただ尻尾しっぽが長くてその尻尾に雉毛きじげの紋様があるだけの相違である。
ある探偵事件 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
怖がって尻尾しっぽをまいて逃げるほどなら、白柄組が巣を組んでいる山の手へ登って来て、わざわざ喧嘩を売りゃあしねえ。こっちを
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白い尻尾しっぽが左右に動いているのが見える。私が近づくと彼女は妖魔ようまの如く、音もなく高く飛び上って、また次のしげみへ隠れて私を待つ。
とにかくこうして先生の原稿の頭と尻尾しっぽは手に入ったのですが、胴中を思いがけなく古田の手から、木村君にしてやられました。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
証拠がないので尻尾しっぽをつかめないんですが、どうでしょう、君があすこへ寝るのを幸いに、気をつけて見てくれませんか、食堂ですから
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
私が御案内をしますからとって、爺さんに暫らく目をつぶらせ尻尾しっぽにつかまらせて、その小さな穴から鼠の屋形やかたに入って行くのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
蝉取りの妙味はじっと忍んで行っておしいくんが一生懸命に尻尾しっぽを延ばしたりちぢましたりしているところを、わっと前足でおさえる時にある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
音楽長は背の曲がった大きな老人で、白髯はくぜん尻尾しっぽのようにあごにたれ、り返った長い鼻をし、眼鏡をかけて、言語学者のような風采ふうさいだった。
ツイ其処に生後まだ一ヵ月もたぬ、むくむくとふとった、赤ちゃけた狗児いぬころが、小指程の尻尾しっぽを千切れそうに掉立ふりたって、此方こちら瞻上みあげている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
すなわち、牛蒡丸抜安ぬきやすの細身の一刀、これをぶら下げた図というものは、尻尾しっぽじゃないが、十番越に狸穴まみあなから狸に化かされた同様な形です。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尻尾しっぽを押えられるようなことはなしにここまで来たが、昨夜はついに、辻番と検視の役人の前に立たねばならなくなりました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
房々ふさふさとした尻尾しっぽがひどくゆたかな穂のようにぴんと立って、それがついと闇に消えた。野の狐がまよいだしていたのであろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
しょうわるで有名な柏源かしげんさんまで手玉にとるところなんかさ——玉藻前たまものまえじゃないけれど、いまにきっと尻尾しっぽを出すからみてごらん
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一本の混じり毛もない、全身まっ白な小さな猫で、片方の目が金色で、片方の目が銀色で、長い尻尾しっぽの毛がふさふさとして、白狐しろぎつねのようです。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
第三が『火を軽べつすべからず。』これは私共のこん助があなたのおうちへ行って尻尾しっぽを焼いた景色です。ぜひおいで下さい。
雪渡り (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
これだけの隊員が一度にドッと飛びかかれば、流石さすがの妖怪たちもたちま尻尾しっぽを出してしまうことであろうと、大変たのもしく感ぜられるのでした。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一ぴきは、靴をもってくる、一ぴきが顔を洗ってやれば、一ぴきは、れている顔を、じぶんの尻尾しっぽでふいてやりました。
さもなければこっちが尻尾しっぽを巻いて逃げ出すほかはないような、頭の悪いひねくれた哲学を振りまわしはじめるのだった。
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
よく牛がひものような尻尾しっぽで背のあぶを追いながら草を食っていた。彼はそこ以外ではいけないと思った。彼はそこでのことをいろいろに想像した。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
見ると、耳のとがった、尻尾しっぽの上に巻き揚がった猟犬をも連れている。こいつはその鋭い鼻ですぐに炉ばたの方の焼餅のにおいをかぎつけるやつだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それを見た白の嬉しさは何と云えばいのでしょう? 白は尻尾しっぽを振りながら、一足飛いっそくとびにそこへ飛んで行きました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
阿諛あゆ追従ついしょうてんとして恥じず、ぶたれても、きゃんといい尻尾しっぽまいて閉口してみせて、家人を笑わせ、その精神の卑劣、醜怪、犬畜生とはよくもいった。
頭のうしろに馬の尻尾しっぽのようなものをブラさげ、十六七の娘のような見せかけをしていたので、相手のツケこむすきがあったが、おとなの髪型になり
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
花田 ただし尻尾しっぽを出しそうな奴は黙って引っ込んでいるほうがいいぜ。それでは俺たち四人は戸部とともちゃんとに最後の告別をしようじゃないか。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「どうにもこうにも保ちそうもなかったら、その辺で詰め込んで帰るとしようよ。魚の尻尾しっぽかじっている犬なんか見て、浅ましい心を起しちゃならねエ」
あきらめて又外の事を考えておると、頭の調子が空想に乗って快よく流れ出したと思われた時、又考えの尻尾しっぽを見失って私は段々いらいらして来始めた。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
彼女は、その封筒の端をソッと、醜い蠑螈いもり尻尾しっぽをでも握るように、つまみ上げながら、父の部屋へ持って行った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
尻尾しっぽへ火を付けてボンベイとセイロンの間を走ったという話がありますが、そのハンマンなどいうものを見聞きする事などが楽しみだったり、面白いので
我が宗教観 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
そんなことを思わずつぶやきながら、彼はうす暗い木立の中をあわてて尻尾しっぽを脊なかにのせて走り去ってゆく粟鼠を、それの見えなくなるまで見つめていた。
ルウベンスの偽画 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
とろは、親になったものの帯につらなって大勢の子がいる。人とり鬼になったものが、どうにかして末の、尻尾しっぽの方の子をとろうとするのである。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
寒いときには、彼は毛皮の帽子をかぶり、その上にきつね尻尾しっぽをなびかせているので、すぐに見分けがついた。
つのも生えて居なければ尻尾しっぽのある者でもない、至極しごく穏かな人間だと云う所からして、段々懇親になったと云うその話は、程経ほどへて後に内々嶋津から聞きました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
卵の積りで陶物やきものの模型卵を呑んで、苦しがって居るのだ。折から来合わして居たT君が、尻尾しっぽをつまんで鶏小屋から引ずり出すと、余が竹竿たけざおでたゝき殺した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もちろんこれは尻尾しっぽをつかまえられないように御自身の言葉による肯定を避けられたわけではありません。
すると、出された方では、尻尾しっぽひもを縛りつけられた犬のように、むやみにグルグル回ったり、飛びはねたりして、その仕事から免れようと狂うように働くのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
と、蛇は尻尾しっぽの切れた青くなまなました傷痕きずあとを見せながら姿を消してしまった。武士は気がいたようにひげったあとあおあおとした隻頬かたほおに笑いを見せながら歩いた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それに、もしそれが人間の遺骨ではなく猫とか犬とかいったような動物の骨であるとすれば、焼跡にはきっと尻尾しっぽの骨が魚の骨のような形で残っているはずだった。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
どこから出て来たのか老犬は、おびえ切った様子で尻尾しっぽを振りながら倒れた家のまわりをかけ廻っていた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
いかにもみじめに尻尾しっぽを巻いて、土をひっかくようにして必死で逃げて行く小さな犬に対してであった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
頭の先から尻尾しっぽの先まで厄介になりながら、いい様に掻き廻すものをどうして置くわけがあるんですい。若し、恭二がかれこれ云う様なら二人一度に出すまでの事さ。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
(こんなことから尻尾しっぽを出し、民弥の父親の松浦勘解由を、この俺が討って取り、民弥が俺を父のかたきとして、狙っているということなど、知られようものなら一大事だ)
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
尻尾しっぽの毛は大鳥毛のようで高く巻き上がってふっさりしており、ももの前にも伴毛ともげが長い、胴は短くつまって四足細く指が長く歩く時はしなしなする。頭が割方わりかた大きく見ゆる。
と見れば、豆板屋、金米糖こんぺいとう、ぶっ切りあめもガラスのふたの下にはいっており、その隣は鯛焼屋、尻尾しっぽまであんがはいっている焼きたてで、新聞紙に包んでも持てぬくらい熱い。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
基督キリストがゴルゴタの山上で、かの非命ひめいの最期をげたごときも、世人せじんは、あの男もとうとう尻尾しっぽを現して、あのざまの死に方をしたとか、表向きには君子顔くんしがおをしておっても
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)