小柄こづか)” の例文
今後ふたたび心得違いをいたさぬように貴様の眼だまをつぶしてやると言って、小柄こづかをぬいてわたしの両方の眼を突き刺しました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いい渡すと小次郎は、何思ったか、小柄こづかでそこの樹の皮を削りだした。又八の頭の上に、削られた松の皮が落ちて、えりの中まで入った。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と廊下づたいに参り、ふすま建附たてつけ小柄こづかを入れて、ギュッと逆にねじると、建具屋さんが上手であったものと見えて、すうといた。
その時は、もう小柄こづかを投げても及ばない時で、もちろん弓の弦をかけ直したり、替弓を取寄せたりする余裕はありませんでした。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
即ち豫め病と称して宿に引き退さがり、小柄こづかを以て眼球の組織を破壊した後、その傷痕の癒えるのを待って始めて出仕したと云う。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、茅野雄は腕を延ばしたが、グルグルと神像の首を捲いて、右手で刀の小柄こづかを抜くと、神像の眼をえぐりにかかった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
五兵衛の脾腹ひばらに突きささっている一本の小柄こづか。手裏剣に用いるものだ。刃の根元まで突きこんでいるが出血は少い。
矢つぎばやに小柄こづかの雨を集中させていましたが、それを右へ左へあざやかに、ひらりひらりと右門が身をかわしながら、激しい下知を与えましたので
それで片足土間に降りて片手を畳の上についたところを小柄こづかみたいなもので、何のことはない手の甲からズカツと畳まで刺しつけて動けんやうにした。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
床下、花道のスッポンからせり上って小柄こづかを投げる、男之助みごとに受ける、団蔵その息の巧さに心から感服して、「やっぱり成田屋は役者が違う」と。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
半十郎は駆けながら、小柄こづかを抜いてサッと振りあげました。曲者くせものとの距離は僅かに二十歩、あと五六歩詰めさえすれば、間違いもなく首筋が縫えるでしょう。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
吾助は得たりと太刀たち振上ふりあげたゞ一刀に討たんとするやお花は二ツと見えし時友次郎がえいと打たる小柄こづか手裏劍しゆりけんねらたがはず吾助が右のひぢに打込みければ忽ち白刄しらは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かねて所持せし徳乗とくじよう小柄こづかを、坂下の唐物屋とうぶつや十左衛門じゅうざえもん方へ一両二分にて売って得た金子には相違なけれども、いまさらかかる愚痴めいた申開きも武士の恥辱。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたしはもう今日けふ限り、あなたとも御つきあひは御免ごめんかうむりませう。古伊万里こいまり甲比丹かぴたん小柄こづか伴天連ばてれん亀山焼かめやまやき南蛮女なんばんをんな、——いえ、いえ、それどころではありません。
長崎小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「細川の手の者が隣の羅刹らせつ谷に忍んでいる。ここは間もなく戦場になるぞ。そなたも早く落ちたがよい。俺も今度こそは安心して近江へ往く。これを取って置け」と小柄こづか
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
そう云うかと思うと主膳は小柄こづかいて起ちあがり、いきなりお菊の右の手首を掴んで縁側に出て、その手を縁側に押しつけて中指を斬り落した。お菊は気絶してしまった。
皿屋敷 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
というのは、一度ならず二度、三度までも、例の小柄こづかが泰軒栄三郎の身辺に近く飛んで来て、ひとつは、栄三郎の腰なる武蔵太郎の鞘をいで落ちたことさえあったことだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
取り上げて見れば小柄こづかであつた。更に熟視すれば、𣠽上はじやうの象嵌は関帝であつた。遺失者を訪ぬる道もないので、榛軒は持つて帰つた。此小柄は後請ふ人があつて譲り与へた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と言つて、有合せの小柄こづかを褒美に取らせられた。主人あるじは殿様のおめに預かつたのだからといつて、その日は一日屋根を這ひ廻つて、日の暮方くれかたまで下りて来ようとしなかつた。
供に連れて、右の茅屋あばらやへお出向きになると、目貫めぬき小柄こづかで、お侍の三千石、五千石には、わかいうちれていなすっても、……この頃といっては、ついぞ居まわりで見た事もない
長常という彫物師は類なき上手なり、円山主水応挙も絵の上手なりしが、智恩院宮諸太夫樫田阿波守あわのかみという人長常に小柄こづかを彫りてよ、応挙の下絵を書かせんとあつらえければ長常うべないたり。
れをかって来て洗水盥ちょうずだらいあらって、机のこわれたのか何かをまないたにして、小柄こづかもっこしらえるとうような事は毎度やって居たが、私は兼て手のきがいてるから何時いつでも魚洗さかなあらいの役目に廻って居た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ちひさいとき祖父ぢゞいからいたはなしに、あるさむらひうまつて何處どこかへ途中とちゆうで、きふこの早打肩はやうちかたをかされたので、すぐうまからんでりて、たちま小柄こづかくやいなや、肩先かたさきつてしたため
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのころの掟では妖怪などが屋敷の内にいると思われると武士の恥になっていたのですから、多門はすぐ門の中へ這入りました。——門番は行燈あんどんのかげで小柄こづかといしに当てて磨いていました。
ゆめの話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そのつばといいその小柄こづかといい黄金を装い宝玉をちりばめ、意気揚々として市中を横行するのときにおいては、道傍の人たれもあっぱれ貴人なりと指さし語るを見てみずから得意となすがごとく
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そして、小柄こづかで、袴を切り裂いて、手早く、手拭で太腿をきつく縛った。いつの間にか、腓から、向う脛も、探ると、べっとりと、指が粘って、脚絆の上へも、微かに血が滲み出していた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
といいながら、また一歩ふみだそうとすると、千鳥のくような鋭いそら鳴りがして、どこからともなく飛んできた一本の小柄こづか、うしろざまに裾をつらぬき、ピッタリと前裾のところを縫いつけた。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その松陰は、江戸からすぐ又、長崎へ向って立つと聞いたので、清麿は、自作の小柄こづか一本を餞別せんべつにと持って、翌日、象山の家を訪うと
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、とうとう小柄こづかを抜いて自分の耳を切り裂いて逃げたと言いますがねえ、その耳の附いた板が、今でもあのお山に宝物となって残っているそうです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
心配ご無用。見りゃ刀のどの小柄こづかにも血の曇りはねえし、察するところ、今まで震えていたなあ、ゆうべそのぱっちりとあいている目で、何か変なことを
それから水を含んだが、かたく食いしばった広太郎の歯、容易なことでは開こうとしない。気がついて抜いたのは小柄こづかである。歯の間へソロソロとう。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひるむところを付け入って、とどめの一刀、胸元深く刺そうとすると、何処どこから飛んで来たか、一挺の小柄こづか、千代之助の小鬢こびんをかすめて後ろの柱に深々と立ちます。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「細川の手の者が隣の羅刹らせつ谷に忍んでゐる。ここは間もなく戦場になるぞ。そなたも早く落ちたがよい。俺も今度こそは安心して近江へ往く。これを取つて置け」と小柄こづか
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
なにひとはね疝気せんきおこつていけないツてえから、わたしがアノそれは薬を飲んだつて無益むだでございます、仰向あふむけにて、脇差わきざし小柄こづかはらの上にのつけてお置きなさいとつたんで。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは阿部権兵衛が殉死者遺族の一人として、席順によって妙解院殿の位牌の前に進んだとき、焼香をして退きしなに、脇差の小柄こづかを抜き取ってもとどりを押し切って、位牌の前に供えたことである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小柄こづかを以て両眼をえぐりましたのでござります、と申しましたら、暫く何のお言葉もござりませなんだが、やゝあって仰せられますのに、それは近頃珍しき所行じゃ、しかしつら/\考えるのに
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
小さい時祖父じじいから聞いた話に、あるさむらいが馬に乗ってどこかへ行く途中で、急にこの早打肩はやうちかたおかされたので、すぐ馬から飛んで下りて、たちまち小柄こづかを抜くやいなや、肩先を切って血を出したため
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父の野良犬を追うとき、小柄こづかでも投げるように、小石は犬にあたった。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうして顔などを引っ掻かれることなどがあったそうですが、武士などになると、そっと傘を手許に下げておよその見当をつけ、小柄こづかを抜いて傘越しにかわうそを刺し殺してしまったということです。
江戸の化物 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
金象嵌きんざうがん小柄こづか伴天連ばてれんに)どうしたものでせう? パアドレ!
長崎小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
受け継ぐ人々 ほほう、小柄こづか祐乗ゆうじょうですな。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、逸早くその手はサッとうしろへ逃げて、万太郎の短気、あわや、自分の小柄こづかで自分の喉笛のどぶえを切ってしまうところでありました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ついに面倒になったものと見えて、主膳は小柄こづかを抜きました。その小柄でブツリブツリと縄を切ってしまいました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そうなんです! そうなんですよ! 袈裟御前を突き刺したあのでけえ雄ざるなんですよ! しかも、血まみれの小柄こづかを一本持っていたといいますぜ」
ムヽウ禁厭まじなひかい。弥「疝気せんき小柄こづかぱら(千じゆ小塚原こづかつぱら)とつたらおこりやアがつた、あとから芳蔵よしざうむすめ労症らうしやうだてえから、南瓜たうなす胡麻汁ごまじるへつてえました。長「なんだい、それは。 ...
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
股の附け根の奥の方から、円く曲げられた膝頭まで、何んと張り切った健康じょうぶそうな肉が、ムックリ盛り上がっていることだろう。そこへ小柄こづかを落としたなら、ピンとね返るに相違ない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
児太郎は、その小柄こづかようなものを差し出して見せた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その横顔へ、ぐさっと、一本の小柄こづかが突き立った。武蔵が、身を運んで救うにいとまがなく、投げたものであることはいうまでもない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いいつつ腰のものの小柄こづかに、そっと片手がかけられたと見えると、目にも止まらぬ名人の名人わざでした。
水車のように廻した棒の七三のあたりへ、カッシと立ったのは刀の小柄こづかであります。それを受けとめるべく米友は、前のような惨憺さんたんたる苦心に及びませんでした。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)