やっこ)” の例文
やっこ、万盛庵、梅園、来々軒、一仙亭、透きなく並んだ両側の提燈の記名は間もなくそう「活動写真」から「飲食店」に移って行った。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「隠したって駄目だよ、証拠は銀流しのかんざしだ、柳橋で芸妓げいしゃやっこを殺したのを手始めに、四人まで手にかけた、お前は鬼のような女だ」
生まれ変わったような恋のやっこの役に満足して、風流男らしくよいあかつきに新夫人の六条院へ出入りする様子をおもしろく人々は見ていた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
引摺ひきずるほどにそのやっこが着た、半纏はんてんの印に、稲穂のまるの着いたのも、それか有らぬか、お孝が以前の、派手を語って果敢はかなく見えた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「惚太郎のおやじ、——やっこさんは、あれでなかなか大した芸人なんですぜ、今じゃお好み焼屋のおやじでくすぶっているですがね」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「ところで、おれにあいつの銃をおくれよ。」そしてまた付け加えた。「やっこさんの方は君にあげるが、俺は道具の方がほしいんだ。」
右側はやっこ天麩羅てんぷらといって天麩羅茶漬ちゃづけをたべさせて大いに繁昌をした店があり、直ぐ隣りに「三太郎ぶし」といった店があった。
そいつが、白羽二重のちゃんちゃんこを一着におよんで、床屋の下剃りやっこのはくような、高さ一尺もある一本歯の足駄をはいて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
芳町よしちょうやっこ嬌名きょうめい高かった妓は、川上音次郎かわかみおとじろうの妻となって、新女優の始祖マダム貞奴さだやっことして、我国でよりも欧米各国にその名を喧伝けんでんされた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
御承知のやっこうなぎ、あすこの鰻めしが六百文、大どんぶりでなか/\立派でしたから、芝居がえりの人達はあすこに寄って行くのが多い。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此方から参ったのは剣術つかいのお弟子と見えてやっこじゃの傘をさして来ましたが、其の頃町人と見るとひどい目に合わせます者で
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
供待ち部屋にいる“やっこさん”と、もひとりのお供が、なぜ俺たちも座敷へ通さんかと、当りちらして、手がつけられないというのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜になって家へ帰ると、やっこさんは僕を折檻せっかんしようというんだよ。それからのちの冒険については、君は僕自身と同様によく知っているはずだ
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
ルピック氏——こね野郎やろう! それじゃお前、戦争が始まって、プロシャ人に勝てるかい、やっこさんたちの言葉も話せないで……。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
オット、やっこさんたしかに階段を登って来るらしいぞ、さあこうなるとパイプの詮議立てなんかしているより面白くなるて……
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
逃亡を企てて捕えられたやっこに、父が手ずから烙印やきいんをするのをじっと見ていて、一言も物を言わずに、ふいと家を出て行くえが知れなくなった。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
結局、美しく飾り立てられたやっこさんが、自分の方から正直者をお笑い草にするまで、一生懸命に真相を打ち消しているのだ。
ひきつづき、二人の子供のために、絵師は筆を揮って、たちまちに雲竜うんりゅうやっことを描き上げた腕前は、素人しろうとの米友が見てさえキビキビしたものです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「てめえにききゃあしねえ、すっこんでろ」とどなりながら、義一は立って万吉のほうへ来た、「やいやっこ、うぬあつんぼか」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
見に行ったりしたんでね、やっこさんたち、映画と支那飯は僕におごられるものときめてしまって、昨今は僕としちゃ相当の負担になって来たしね
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おれの血のめぐりもちっとばかり鷹揚おうようかもしれねえが、これに気がつかねえたア粂五郎もちゃちな野郎だね。さあ来い、やっこ! もう逃がさねえぞ
喜助は、唐辛とうがらしでえぶせば、やっこさん、我慢が出来ずにこんこん云いながら出て来る。出て来た処を取ッちめるがいいと云う。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
諸役人は騎馬で市中を往来すると見えて、鎗持やりもちのやっこ、その他の従者を従えた馬上の人が、その広場を横ぎりつつある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのままのそのそと、もと来た方へ引き返そうとすると、赤いマントを持った組下くみしたやっこが前や後ろへ廻って砂地のまん中へ、まん中へと誘い寄せる。
たき惣之助を慕い駈落してかねに落ち合い、たきは若衆姿に化けて関所を通り、両人とも江戸へ著いたとがやっこにされ
『義務は義務だ。』ってやっこさんはよく言う。またそれにゃあちげえねえ。お前もうあの船長に近よらねえようにしろよ。
やっこさん正気がついたらしいや、おい、△△君、あっちへ連れて行ってどこかへ寝せてやるといいよ」と叫んだ。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
世の物語に天狗のカゲマとふことありて、ここかしこに勾引こういんさるゝあり。或は妙義山にて行かれてやっことなり、或は讃岐さぬきの杉本坊の客となりしとも云ふ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
後に聖武しょうむ天皇が自ら三宝さんぼうやっこと宣言せられたような、主権者の権威を永遠の真理によって基礎づけるところの決然たる言葉はここには用いられていないが
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ところが、いくら勧めても飲むまいと思いきや! どういう風の吹き廻しか、やっこさん顔を顰めながらも渋々と
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
揃いの水色の衣装に粗製のやっこかつらを冠った伴奴ともやっこの連中が車座にあぐらをかいてしきりに折詰をあさっている。
箱根熱海バス紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
やっこさん、宮岡警部に写真酷似そっくりに変装してやがった。二人宮岡警部が出来ちゃって、どっちが真物ほんものだか分らなかった。そのために遂々捕え損ったんだそうだよ
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
やったものだろう。坊主に嘲弄ちょうろうされるのは当然だ。だがあの調子では、やっこさん別にうしろ暗いところがあるようでもない。どうも、やっぱり訳が分らないな
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
……江戸をって甲州路、府中の宿へかかった頃から、後になったり先になったり、稀有のやっこが附いて来た。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
威厳といい、上品ぶったところといい……やっこさんの顔に何ひとつ不足しているものがあるだろうか? 絵筆をとって肖像を描いたら、*3プロメシュースだ。
と、女は情夫との媾曳あいびきの場所を見られた腹立ちまぎれに怒鳴どなりだした、するとやっこさんむらむらとして来た。
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何でもない話がつい長くなってしまったので、必ずしも菊のやっこたる主が得々として菊作りの苦心を語るというが如く、菊に即して考える必要はなさそうに思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
やっこさん何か興奮しているんでしょう。それに僕がちょいちょいのぞきに行くもんで。しかしあれじゃ駄目だと思いますね。梢さん僕にびていましたけれど。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「手を出す心は乞食の心」と乃公が言うと、やっこさん本気にして手を引込めたから、乃公は又「引込む心は河童の心」と大きな声を出した。店の者はみんな笑っていた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
寺のやっこが、三四人先に立って、僧綱そうごうが五六人、其に、大勢の所化しょけたちのとりいた一群れが、廬へ来た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
おまえたち成金のやっこの知るところでない。ヤキモチ。いいとしをして、恥かしいね。太宰などお殺せなさいますの? 売り言葉に買い言葉、いくらでも書くつもり。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「あははは、とうとうやっこさん、あんなに威張っていたけれど、西洋人にかかっちゃあ意気地がねえね」
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
凧の種類には扇、袢纏はんてんとびせみ、あんどん、やっこ三番叟さんばそう、ぶか、からす、すが凧などがあって、主に細工物で、扇の形をしていたり、蝉の形になっていたりするものである。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
いんにゃ文だ。文にちげえねえ。すると——こうっと——何だか、きさつが少し変だぜ。うん、そうか、やっぱりそうか。するてえとやっこさん、驚ろいちまってからに……
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
評判の惣髪そうはつやっこびんに剃り落して商人に化け、備中つれ島の三宅定太郎を頼って、さしづめ別宅の鉄物店に番頭と称して居ることになったがその後一年ばかり、本人手記によると
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
賤民とは一家をなさずして他に隷属するやっこすなわち奴隷の徒を指し、良民すなわち百姓に属してしかも一家を為すところの部曲の民は当然間人なるべきものであったに相違ない。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
黒い長い髪がもつれてひらひらしてたんだぜ、それが手に吸いついて、髪が指にからまっちまったもんだから、やっこさん驚いたの、驚かねェの、青くなって、それっきりしちまった。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
のっそり十兵衛と口惜くやしい諢名あだなをつけられて居るやっこでござりまする、しかしお上人様、真実ほんとでござりまする、工事しごとは下手ではござりませぬ、知っておりますわたくしは馬鹿でござります
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どうかするとやっこさん泣き出しちまうんです。私もね、つい鼻を啜るんですがね。……いや火を燃すに限るですよ。泣くなんて余りいい気持ちのものじゃねえ。どうも泣くのはいけねえや。
田原氏の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
としからいえば五つのちがいはあったものの、おなじ王子おうじうまれたおさななじみの菊之丞きくのじょうとは、けしやっこ時分じぶんから、ひともうらやむ仲好なかよしにて、ままごとあそびの夫婦めおとにも、きちちゃんはあたいの旦那だんな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)