ぢよ)” の例文
無暗にそれが気になつて、ぢよの心持は妙な寂しさに覆はれました。哀愁とでも云ふやうなうら悲しさが心に迫つて来るのでした。
美智子と歯痛 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
あめのつれ/″\に、ほとけをしへてのたまはく、むかしそれくに一婦いつぷありてぢよめり。をんなあたか弱竹なよたけごとくにして、うまれしむすめたまごとし。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此年の暮れむとする十二月二十五日に、広島では春水が御園みその道英のぢよじゆん子婦よめに取ることを許された。不幸なる最初の山陽が妻である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かのぢよは氷峰を「兄さん」と呼び、渠はかの女を「お君」と云つてゐる。義雄には、も早や、北海道流のさいが親しんでしまつた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
それを世間一般は、どう云ふ量見か黙殺してしまつて、あのあはれぢよ主人公をさも人間ばなれのした烈女であるかの如く広告してゐる。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其れから與謝野夫人に見せたかつたのはエレンヌ・リセルとエミル・アルネルとこの二人のぢよ詩人の詩集だなどとヌエは云つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かう合せながらも、Kはそれも矢張かのぢよがゐないためではないかと思つた。Tも矢張さう思つてゐるのではないか。
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
せんぢよさんが寂しく暮してゐるが、女といふものは男と差し向ひでゐる時よりも、寂しく一人で暮してゐる時の方がずつといゝ事を考へたり、たりするもので
呉起ごき衞人也ゑいひとなりこのんでへいもちふ。かつ曾子そうしまなび、魯君ろくんつかふ。齊人せいひとむ。呉起ごきしやうとせんとほつす。呉起ごきせいぢよめとつてつまし、しかうしてこれうたがへり。
あゝ、ぢよは實に遊ぶ事が好きであつた。青空さへ見れば何處までも歩く。合乘の車がなければどんな遠道をいかほど疲れても私と手を引合つて歩く方がよいと云つた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
一時を驚動せしぢよの所在こそきかまほしけれなど、新聞紙上にさへうたはるゝに至りぬ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
座敷ざしきつくり、此中このなかに三ぢよらしめた。
かのぢよは初めよりわが味方なりき。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かのぢよには——これも如何にもだ! ——詰らないだらうが、こちらには何よりも重大な問題をおのづから語つたのであつた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
越後国高田の城主榊原式部大輔政永のぢよ、黒田筑前守治之はるゆきの室である。治之は是より先天明六年十一月二十一日に福岡で卒し、崇福寺に葬られた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
氏の崇拝者は欧洲の諸国にわたつて漸次ぜんじ増加してく様である。巴里パリイではヷランティイヌ・ド・サンポワン女史が氏の高弟と称すべきぢよ詩人である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かのぢよがここに来たのは、今から一時間も前であるが、その時にも線香に火をつけてやりながら寺の上さんは
百合子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「ちよいと、兄さんの顔を御覧なさい! あゝ可笑しい、/\。」と云つて笑つたかと思ふと、ぢよは何と思つたか、スルリと横の方に身をそらしました。
心配な写真 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
例へば第二巻所載侠女けふじよの如きも、実は宦人くわんじん年羹堯ねんかうげうぢよが、雍正帝ようせいていを暗殺したる秘史の翻案に外ならずと云ふ。
思返すとたれにも換へがたい程戀しい懷しい。それほど戀しく懷しい追懷が、どうして妻と呼ぶべき現實のぢよに對して、過去の通りの恍惚を感ぜしめぬやうになつたのであらう。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
しるしいしあをきあり、しろきあり、しつなめらかにしてのあるあり。あるがなか神婢しんぴいたるなにがしのぢよ耶蘇教徒やそけうと十字形じふじがたつかは、のりみちまよひやせむ、異國いこくひとの、ともなきかとあはれふかし。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それは昨日きのふも言つた通り、須磨子は島村抱月氏の歿後、故人が愛と製作の対象としていたはつたぢよ自らの生活なり、芸術なりを、自分の手一つで完成するに相違ないと思つた事だ。
「なか/\親切な旦那さんです、な」などと冷かされながらも、お鳥自身は病院内でなか/\持てるので、その點はかのぢよも愉快らしかつた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
霊台院はかみに云つた如く、正倫の継室津軽信寧のぶやすぢよ、比左子である。十四年四月十二日、竹亭は七十九歳にして歿した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
夫人の左には詩の評をする某夫人、右には二十はたち前後のぢよ詩人が三四人並んで居た。僕のあとから日本でなら小山内おさない兄妹きやうだいと云つた様な若い詩人が妹の手を取つてはひつて来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ぢよにとつてかはらぬ人生であり、真実であるのを思はぬ訳にかなかつたらう。
なんと、と殿樣とのさま片膝かたひざきつてたまへば、唯唯ははおそれながら、打槌うつつちはづれさふらふても、天眼鏡てんがんきやう淨玻璃じやうはりなり、ぢよをつとありて、のちならでは、殿との御手おんてがたし、とはゞからずこそまをしけれ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
筆持つまゝ驚き振り返る間もなく、廊下の足音と共に、濕つて張紙の弛んだ障子を無理に引明け、机の上のランプの光の僅かにとゞく座敷の片隅に、思ひもかけない、ぢよの姿が現れた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
これは何かぢよは悲しい思ひに駆られて——たゞでさへ、わけもなくたゞわけもなく、月見れば涙、花咲けば涙、お星様よ何故泣くの、すゝりなくヴヰオロンの音、あゝ悲しき星よ! ——で
美智子と日曜日の朝の話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
支那に路上春をひさぐのぢよ野雉やちと云ふ。けだし徘徊行人かうじんいざなふ、あたかも野雉の如くなるを云ふなり。邦語にこの輩を夜鷹よたかと云ふ。ほとんど同一てつに出づと云ふべし。野雉の語行はれて、野雉車やちしやの語出づるに至る。
「うちの子供を見て下さい——一號から六號まであるのですよ」と云ひながら、かのぢよは六名の子供を順番に並べて見せた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
明州みんしうひと柳氏りうしぢよあり。優艷いうえんにして閑麗かんれいなり。ぢよとしはじめて十六。フトやまひうれひ、關帝くわんていほこらいのりてあらずしてゆることをたり。よつて錦繍きんしうはたつくり、さらまうでてぐわんほどきをなす。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
相談がつくものならいいがと、何氣なく立ちどまると、かのぢよはこちらの心は知らないで、同じ歩調をつづけて行つた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「さア、どうですか」と、かのぢよはにが笑ひして、心配さうな、しをれた顏つきをしてゐる。その樣子が、どうも、當り前の兄妹のする樣子ではない。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
試みに、そのあツたかい胸から、渠は自分の一方の腕をのせてゐたのをやはらかに外すと、かのぢよは逃げるものを追ふやうに、兩の手を空しくさし延べた。
「へい——」かのぢよはきよとんとして、所天の突然な太い大きな聲を出した顏を見守つてゐたが、飛び出たやうな眼をわざとらしく横にらして、「お金なんかありません!」
「わたしやそんなこと知らない、わ。」かのぢよは恥かしさうに笑ひながら云ふ。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
「來たよ」と、かのぢよは半身を枕からもたげて、こちらを恨めしさうに見た。
「早くかのぢよに行くに限る!」心でかう叫んで、家を出ようとすると
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
然し、餘り自分ばかりで行くのもかのぢよ並びにその家へきまりが惡い樣だから、義雄は今一文なしで困つてゐる氷峰をつれて行つてやらうといふ氣になり、薄野すすきのからの歸り足をまたかれの下宿へ向けた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)