仕業しわざ)” の例文
その時分、桑の枝に小蛙が突き刺されたまま干からびているのは、あれはもずがやった仕業しわざだ。と私らは村の人から聞かされていた。
探巣遅日 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
ときどき手を合せて拝みたい気もちのするのも、しき情慾の奴隷どれいとなって、のたうち廻った思い出のなせる仕業しわざとのみはいえまい。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
もしそうならば、あの辺に住む悪旗本か悪御家人などの仕業しわざである。相手が屋敷者であると、その詮議がむずかしいと半七は思った。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いかにも人の不幸のところへ心ない遊蕩児ゆうとうじ気紛きまぐれな仕業しわざと人に取られるかも知れなかったが、思う人には何とでも思わせておいて
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
同時に彼等の持前とする殺戮さつりくと兇暴なたちも、野に返った野獣と同じで、とても人間の仕業しわざとは解し得ないことを平然とやって歩いた。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからまたルーヴルの中庭に大砲を据えるなどということをする。そういうことばかりが今の時代の無頼漢どもの仕業しわざじゃないか。
「殺されたのは、新堀の廻船問屋、三文字屋の大旦那久兵衞さんだ。たくらみ拔いた殺しで、恐ろしく氣の長い奴の仕業しわざですぜ、親分」
これはきっと腹の中の悪魔あくま仕業しわざだろうとは思いましたが、二月の末までと約束したのですから、今更いまさら取返しはつきませんでした。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「ともかく、駿三に深刻な恨みをもつている奴の仕業しわざとすれば、少くもひろ子、さだ子、伊達の仕事としちやちよつとおかしいな」
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
殺人の方法が余り異様なので、これを単なる盗賊の仕業しわざだとは誰も考えなかった様だが、順序として、一応盗難品の有無が調べられた。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その場には東国の大小名始め、京の者、或は元平家の家人だった者も大勢いたが、余りのみっともない宗盛の仕業しわざに眉をひそめていた。
「二人をこんな目に会わせて、故郷を立退かせるようにしたのもそいつの仕業しわざなんだ、早くさがし出してあかりを立ててみてえものだ」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
源助どん、お前は一番古く此のお屋敷にいるし、年かさも多い事だから、これは孝助どんばかりの仕業しわざではなかろう、お前と二人で心を
彼は最初の一回だけでは、それが確かに、あののそ/\した愚かな女の仕業しわざにちがひないと考へた。しかし彼女は正直であつた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
銃劒が心臓の真中心まッただなかを貫いたのだからな。それそれ軍服のこの大きなあなあな周囲まわりのこの血。これはたれわざ? 皆こういうおれの仕業しわざだ。
わたくしはひとまずあなたのお手紙をお返し申しますが、どうぞ不躾ぶしつけ仕業しわざとお怨み下さりませぬよう、幾重にもお願い申します
必定ひつぢやう悪魔波旬はじゆん仕業しわざ。……(忽ち南蛮寺の門に気付きて)あれ、此処は邪法の窟宅くつたく、南蛮寺の門前なるよな。さてこそ必定邪法の手練てれん……
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
たゞ何事なにごとはづかしうのみありけるに、しもあさ水仙すいせんつくばな格子門かうしもんそとよりさしきしものありけり、れの仕業しわざるよしけれど
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それどころか僕を、到頭とうとう犯罪狂だといって、気違い病院へたたき込んだんです。……屹度きっとあいつらの仕業しわざなんだがね……それが昨日ですよ。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「これは私でなくては図星ずぼしを指す者は居ないのでございますが、この犯人は、かの憎むべき奇賊烏啼天駆の仕業しわざでございます」
そうして死体の着物を奪って、その身元を知れないように、工夫した点からかなりに頭の働く人間の仕業しわざであると思いました。
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「おかみの眼をかすめて金貸しをしながら、それは番頭いちにんの仕業しわざであるじ喜四郎がなにも知らぬ、ということも奉行には理解できない」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ああ艇長の死体を艇から引き出したのは、かねて伝説に聴く海魔ボレアス仕業しわざでしょうか、それともまた、文字どおりの奇蹟だったのでしょうか。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかるに、今宿へ戻ってしらべてみると、庄左衛門は他人の金品まで持ち逃げしている! これは下司げす下郎げろう仕業しわざで、士にあるまじきことだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
赤坊を殺したのは笠井だと広岡の始終いうのは誰でも知っていた。広岡の馬をつまずかしたのは間接ながら笠井の娘の仕業しわざだった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
児戯に類する仕業しわざや張り合いのない気紛れがあまり多すぎた。女特有の曖昧あいまいな性質が、病的な無分別な性格が、ときおり現われてきた……。
して夫の世話をしたり子供の面倒を見たり弟の出入に氣を配つたりする間にる家庭的な婦人の仕業しわざとしては全くの重荷に相違ありません。
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
之は新聞にも業々ぎょうぎょうしく伝えられて警察非難の声も挙った位だから、知っている人もあろうが、ある兇暴な団体(事実は何人なんぴと仕業しわざか分らないが)
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
すべての女房たちの仕業しわざの悪かったことに基因しているのであると思った。さまざまに大姫君が煩悶はんもんをしている時に源中納言からの手紙が来た。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
数十年の間山中にくらせる者が、石と鹿とを見誤みあやまるべくもあらず、全く魔障ましょう仕業しわざなりけりと、この時ばかりは猟をめばやと思いたりきという。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
とき/″\北山や西山あたりへお出ましなされ、鷹狩や鹿狩をなされましたので、何者の仕業しわざか、一条の辻に札を立てゝ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そこですよ。妙な宣伝をしやがるから癪に障る。わしが大地震の時に人を殺したなんて、途方もないことを言い触らしたのも彼奴あいつ仕業しわざですぜ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あとのは、天狗てんぐ、魔の仕業しわざで、ほとん端睨たんげいすべからざるものを云う。これは北国辺ほっこくへんに多くて、関東には少ない様に思われる。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
驚いたことに、この墓じるしはグリゴリイの仕業しわざであった。これは彼が自腹を切って、気の毒な『憑かれた女』の奥津城おくつきの上に建てたものである。
「あなたはこれらの出来事を化け物の仕業しわざでないという、たしかな説明がお出来になりますか」と、彼は反駁はんばくしてきた。
そして、それがにんじんの仕業しわざとは気づかず、運命の避け難き兇手きょうしゅが、わが身に降りかかったものと思っているがいい。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
絶体絶命の性慾のさせる仕業しわざである。それをいたずらに観念の上でもてあそんではいられない。鶴見はそう思ってひとり憮然ぶぜんとする。
これは自分の仕業しわざであって決してテーモ・リンボチェ即ち自分の主人の命令でやった訳でないと強情ごうじょうを張ったそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
昨年の秋鳥部寺とりべでら賓頭盧びんずるうしろの山に、物詣ものもうでに来たらしい女房が一人、わらわと一しょに殺されていたのは、こいつの仕業しわざだとか申して居りました。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おくみ『これはまた、どうした運やら。たとえ狐狸の仕業しわざとあっても、わたしゃ悦んでだまされよう。のう源兵衛さま』
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おれの血管を毒薬で満たしたのも、おまえの仕業しわざだ。おまえはおれを自分と同じような、憎むべき厭うべき死人同然なみにくい人間にしてしまったのだ。
その筆法で、全てを道鏡自身の陰謀の如くに作為するとすれば、女帝と道鏡を結ぶヒモがない。そのヒモは正史を作為した自分たちの仕業しわざによるのだ。
安吾史譚:02 道鏡童子 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
はじめ朝日島あさひじまづるとき櫻木大佐さくらぎたいさ天文てんもん觀測くわんそくして、多分たぶんこの三四あひだは、風位ふうゐ激變げきへんからうとはれたが、てん仕業しわざほど豫知よちがたいものはない。
その爆破事件も狙撃一派の仕業しわざということになって——というより彼らがそうした余罪全部をひっかぶって、そして俺たちに沈黙を命じて死んで行った。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
いずれ末世における売僧まいす仕業しわざであるが、質屋の壁で風に吹かれている有様は、涅槃会ならぬ日の事と解したい。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
し途中の様子、敵の仕業しわざに因って、高清水に着くのが日暮に及んだなら、明後日は是非攻め破る、という軍令で、十八日の中新田の夜は静かに更けた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あれは人霊じんれいのみでできる仕業しわざでなく、また海神かいじんのみであったら、よもやあれほどのいたずらはせなかったであろう。
お浦は秀子を虎の穴へ閉じ込めて殺そうとまでたくらんだ女ではないか、併しまさかに女の手で、幾等大胆にもせよ斯様な惨酷な仕業しわざは出来ようとも思われぬ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その若草という雑誌に、老い疲れたる小説を発表するのは、いたずらに、奇を求めての仕業しわざでもなければ、読者へ無関心であるということへの証明でもない。
雌に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
「それならどんな力のない男でも、少し動きさえすれば楽にやれますね。じゃ一体、それは幽霊の仕業しわざか、それとも人間の仕業か、ということになりますね」
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)