不埓ふらち)” の例文
それだけにしばしの不埓ふらち容赦ようしゃされたいというのが、せめてもの彼の願いであった。そして、ひまさえあれば、足は柳島の方へ向った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「なにッ、賄賂止めとは何を申すかッ。この制札が賄賂止めとは何ごとじゃッ。不埓ふらちな暴言申さば、御直参たりとも容赦ござらぬぞッ」
意趣喧嘩いしゅげんかをして、高家を斬ったというか。馬鹿なっ、何というたわけ者だ。しかも、勅使登城の目前に不埓ふらち至極しごく但馬たじまを呼べっ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにを考えておる、押掛け出府は筋でないぞ、急用あらば格別、さもなくして軽々しく国許を明けるとは不埓ふらちであろう、新九郎どうだ」
蕗問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しも貴下こなたが、世間せけんふやうに、阿呆あはう極樂ごくらくひいさまをれてかっしゃるやうならば、ほんに/\、世間せけんとほり、不埓ふらちことぢゃ。
また常楽院天忠となると、坊主の癖に不埓ふらち千万、先住の師の坊を殺したあげく、天一という小坊主をさえ殺したのだからな。
首頂戴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
喧嘩けんかでもしたか、不埓ふらちな奴だ、出世前の大事の身体、殊に面体めんていに疵を受けているではないか、わたくし遺恨いこんで身体に疵を付けるなどとは不忠者め
其方義夫傳吉の留守中るすちう昌次郎と奸通かんつう致しあまつさへ傳吉歸國きこくせつ密夫みつぷ昌次郎に大金をかたりとら旁々かた/″\以て不埓ふらちに付三宅島みやけじま遠島ゑんたう申付る
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
塾の書生に何とも仕方しかたのない放蕩者があって、私が多年衣食を授けて世話をしてるにもかかわらず、再三再四の不埓ふらち
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なるほど紀州第六の若様は源六郎殿とおおせられるが、いまだ御幼年ながら聡明叡智そうめいえいちのお方で、殺生禁断せっしょうきんだんの場所へ網をおろすような不埓ふらちはなさらんぞ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
不埓ふらちにも寺の財産を女房の里に送り、そのうえ寺の財産を有らん限り持って田舎へ指して逃げて行ったとは、人は見掛けによらぬものだと実に驚いたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
貴樣の居る仁王小路が俺の監督範圍ぢやから、俺は赤髯(校長)のお目玉を喰つたのぢや、けしからん、不埓ふらちぢや。其處で俺は三晩つづけて貴樣に尾行した。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「当節の若いものは……約束の刻限をたがえることを、なんとも思うとらん……不埓ふらちな! ふらちな!」
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
権兵衛の所行は不埓ふらちには違いない。しかし亡父弥一右衛門はとにかく殉死者のうちに数えられている。その相続人たる権兵衛でみれば、死を賜うことは是非ぜひがない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
だれかを、人間にんげんのたくさんんでいるまちへやって、しらべさせてみたいものだ。そして、よくよく人間にんげんが、不埓ふらちであったら、そのときは、復讐ふくしゅうしよう……そうでないか?
あらしの前の木と鳥の会話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は闇夜やみよの中でとつぜん光明を失ったような気持になって、また決心がにぶり、茜にすすめられて、今日のような不埓ふらちなまねをいたしましたが、でも、もう大丈夫です。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その意味は、官軍先鋒せんぽう嚮導隊きょうどうたいなどととなえ当国へまかり越した相良惣三さがらそうぞうらのために周旋し、あまつさえその一味のもの伊達だて徹之助に金子二十両を用だてたのは不埓ふらちである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ひげのかうえた部長ぶちやうさんだつていふ可怖おつかねひとでがしたがね、ぬすまつたなんてとゞけしてゝさうして警察けいさつ餘計よけい手間てまけて不埓ふらちやつだなんて呶鳴どならつたときにやどうすべかとおもつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
不埓ふらちをんなめツ」とわたくしくちびるんだ、が、悲哉かなしやわたくし其道そのみちにはまつたくの無藝むげい太夫たゆう
そのたたりだといわれていましたが、それならば不埓ふらちを働いた当人、即ち池袋の女に祟ればよさそうなものですが、本人にはなんの祟もなくて、必ずその女の使われている家へ祟るのだそうです。
江戸の化物 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
不埓ふらちです! 人の妻たる身で夫を欺いて、それでかまはんとは何事ですか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
誠意は凋み——信頼はほろぼされてしまつた! ロチスター氏は最早私には以前の彼ではない。何故なら、彼は私の思つてゐた彼ではなかつたのだから。私は不埓ふらちを彼にはさうとは思はない。
「三年のやつは不埓ふらちだ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
不埓ふらち者っ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ため筋により不埓ふらちの行動をした者は、その趣意が藩家お為にかなった場合、不埓の行動による罪を赦免されることがある。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「これ、そこな武士、無礼といおうか、不埓ふらちといおうか、無断で我らの腰の物を持ち去るとは何事じゃ! 出て来い! 出て来て謝罪いたせ!」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
士「言訳をするのに巴屋はなか/\旨く食わせるなどとは不埓ふらち申分もうしぶん、やい其処そこに転がっているのは供か連れかなんだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と申すはほかでもないが、当大和田のごうに、みめよき女子と見ればよからぬ病の催す不埓ふらちな旗本がひとりおるのじゃ。
其方儀養子やうし又七にきずつけあまつさへ不義の申かけ致候樣下女きくに申つける段人にはゝたるのおこなひにあら不埓ふらち至極しごくつき遠島ゑんたうつく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『この阿女あまめ、長年、御恩のあるお出入先に、何んな不埓ふらちをしやがったのか。よくも、親の面に泥を塗ったな』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴様の居る仁王小路が俺の監督範囲ぢやから、俺は赤髯(校長)のお目玉を喰つたのぢや、けしからん、不埓ふらちぢや。其処で俺は三晩つづけて貴様に尾行した。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
打明けずにさえおけば、いつでも兄とした約束を真実ほんとうにすることができるというゆとりがある。不埓ふらちでも、狡猾ずるいのでもない、俺はただそのゆとりが欲しかったのだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
……それから不埓ふらちにも傷痍しょうい軍人になりすまして、茜と二人でほうぼう逃げ廻りました。やって見ると、思いがけなく困難な仕事でしたが、私たちは元気をなくしませんでした。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
手前てまへぞんじをりまするは是限これぎり。内祝言ないしうげん乳母うば承知しょうちはず何事なにごとにまれ、われら不埓ふらち御檢斷ごけんだんあそばれうならば、餘命よめい幾何いくばくもなき老骨らうこつ如何いか御嚴刑ごげんけいにもしょせられませう。
お前が乃公のとこへ来てくれた時分は、乃公もあれを喜ばせたいばっかりに事業しごとをした。この節はあれを忘れよう……忘れようで事業をしているのだ。あれの不埓ふらちは乃公も薄々知ってはいた。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
不埓ふらちなっ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
お直参の名を恥ずかしめたる不埓ふらちの所業の罪、切腹しても足りぬ奴じゃが、早乙女主水之介、同じ八万騎のよしみを以て、涙ある計らいを致して進ぜる。
と云うのはあなたがやりそこない、中納言様の弑逆しいぎゃくに、失敗したからでございますよ。不埓ふらちな八重梅! 無能者め! などとおっしゃってでございます。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
権右衛門が不埓ふらち無道むどうなればこそ懇談をいたし、彼より賄賂金五両を取って汝八百助には五十叩きをくらわした、なんとなれば、かかる明白なる事実を訴えるのみか
そして蔡瑁が階下に拝をなすや否、頭から襄陽の会の不埓ふらちをなじって武士たちに、彼を斬れと命じた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其方儀天一坊身分しかと存ぜずとは申ながら常樂院にたのまれかり住居の世話申候段不埓ふらちに付重追放申付る
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何事とは不埓ふらちな奴だ、汝がとくより我が召使國と不義姦通いたずらしているのみならず、明日みょうにち中川にて漁船りょうせんより我を突き落し、命を取った暁に、うま/\此の飯島の家を乗取のっとらんとの悪だくみ
……なんぢゃ? 下司奴げすやっこめが、道外假面だうけめんおもてかくして、この祝典しゅくてん蹈附ふみつけにしようとは不埓ふらちぢゃ! カピューレットの正統しゃうとうたる權利けんりもって、彼奴きゃつめをば打殺ぶちころしても、おれ罪惡ざいあくとはおもはぬわい。
不埓ふらちだ。校長を屁とも思つて居らぬ。』
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『どういたしまして、御領主様の凶変に、なかなか金儲かねもうけなどという不埓ふらちな考えは出もいたしませぬ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大事なことがあるというのに、先ず先におもい人京弥が風邪を引いたか引かないかをきいておいて、漸く思い出すのですから、恋持つ者は不埓ふらちながらもいじらしいのです。
不埓ふらち!」と宗三郎眼を怒らせた。「拙者御岳にいる限り、そういう殺生は断じてさせぬ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なんともかとも重々面目次第もない、斯様かようなる不埓ふらちな奴とも心得ず、三年以来このかた連れ添ってる手前へ対し、斯様などうもなんとも申そうようござらぬ不人情な奴でござる、母へしょくを与えず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
不埓ふらちだ。校長を屁とも思つて居らぬ。』
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「われら、御前のむくろや新墓検分にいばかけんぶんに参ったのではない。不埓ふらちな振舞いいたすと容赦はせぬぞ!」