不便ふびん)” の例文
いきどおりを感じましたが、お手討ちにいました忍びの男には却って不便ふびんを催しましたので、たしかその明くる日のことでござりました。
と態と暴々あら/\しいことを云うのも此処の義理を思うからで、腹の中では不便ふびんとは思いましたが、よんどころなく政七は妹の手を引いて出てまいる。
あまり熱心でございますから、私も不便ふびんになりまして、御病気のあなたをわずらわすのは恐れ入りますが、一応お尋ね申す事にいたしました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
たとえ木綿たりとも花美高価のものを取扱い致すまじく、相背く者これ有るにおいては不便ふびんながら政事には替え難く、急度きっと申渡す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかかれ自分じぶんからはなはだしくいつゝあるらしいのをこゝろたしかめてひては追求つゐきうしようといふ念慮ねんりよおこなかつた。勘次かんじたゞ不便ふびんえた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さげられしが此事一應加役方へ掛合の上ならでは吟味ぎんみに取掛りがたき儀なれどもかれが申し立て如何いかにも不便ふびんなりと思はれしかば大岡殿の英斷えいだん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
犬ぶりに由て愛憎を二つにしない二葉亭は不便ふびんがって面倒を見てやったから、犬の方でも懐いて、二葉亭が出る度毎たんびに跟を追って困るので
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
然し、全然まるまる蹈むのもさすがに不便ふびんとの思召おぼしめしを以つて、そこは何とか又色を着けて遣らうさ。まあまあ君達は安心してゐたまへ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そういう人間がこの哀れむべき有様を見て不便ふびんとも思わずに笑って居るのを見まして、私は実に人情の軽薄なることをそぞろに感じたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
共倒れが不便ふびんだから、剣突けんつくを喰わしたんだが、可哀相に、両方とも国を隔って煩らって、胸一つさすって貰えないのは、お前たち何の因果だ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
利章も成長してから、筑前守には不便ふびんを加へられてゐる。それがどうして此訴を起したかと云つて、内藏允は涙をこぼした。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
早く行けと言ったが、三人ながら、源兵衛ひとりを置くを不便ふびんに思い、一緒に追いまくって一緒に逃げようと言ったら
したが、マンチュアへはあらためて書送かきおくり、ロミオがおやるまでは、ひめ庵室あんじつにかくまっておかう。不便ふびんや、きたむくろとなって、死人しにんはかなかうもれてゐやる!
それを見ていた側の者たちはしきりに不便ふびんがっていたが、私は何処までも自分を守り通して拒絶したので
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
老いたる侍 ……不、不、不便ふびんながら其方の命は、父御ててごに代りこの叔父が……え、思ひ知れ、天の罰ぢや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
その不便ふびんさが、二十数年間わたくしの心の底に深く蔵されていたに相違ない。そうしてそれが、その兄の結婚談と一緒にわたくしに思い出されたものでもあろう。
幽香嬰女伝 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
ただこの一の色をかほど扱いあぐむ心根を不便ふびんがり、さしもわが身よりも惜しんだ寵姫を思い切ってアに賜いし、それ自ら制して名工を励ました力の偉なる、ペルシャ
これが又一層不便ふびんを増すの料となつて、孫や孫やと、その祖父祖母の寵愛はます/\太甚はなはだしく、四歳よつ五歳いつゝ六歳むつは、夢のやうにたなごころの中に過ぎて、段々その性質があらはれて来た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
あれにまさる妻をとも思ったが。今ではただ気のどくだ不便ふびんだということばかり脳にあって。ちっともそんなことはかんがえん。アーなんだか咄しが理に落ちたじゃアないか。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
山野のところへ嫁入よめいりした時などは、本当に短刀を懐中ふところに入れて、あなたに逢いに行ったことさえある。己はそれ程思いつめていたのだ。少しは不便ふびんに思ってくれてもいいだろう
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この六年むとせの歴史はわが受けし精神上教育の歴史なり。この教育は人の師たるを好むものゝことさらに設けたる所にして、不便ふびんなる我はこれを身に受けざること能はざりしなり。
のみならず、親の心からは、相續の子よりも反つてさうした次男三男の方に一段の不便ふびんも増さう。それを思へば、一生親の胸を傷め、かた/″\不幸なものはその數を知らない。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
当家こちらのお弟子さんが危篤ゆえしらせるといわれ、妻女はさてはそれゆえ姿をあらわしたかと一層いっそう不便ふびんに思い、その使つかいともに病院へ車をとばしたがう間にあわず、彼は死んで横倒よこたわっていたのである
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
「イエス・クリストよ、神の子よ、不便ふびんなる罪人つみびとに赦し給へ。主よ不便なる罪人に赦し給へ。」こんな唱事となへごとを続けさまにしてゐる。心のうちでしてゐるばかりでなく、唇まで動いてゐる。
一筆書き残しまいらせそろ。よんどころなく覚悟をきわめ申し候。不便ふびん御推ごすいもじ願い上げまいらせ候。平田さんに済み申さず候。西宮さんにも済み申さず候。お前さまにも済みませぬ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
与市の母や兄も律義者で、主人の指図を大事に心得ているばかりでなく、彼らは不具の少女に不便ふびんを加えて、心から親切に優しくいたわっているらしいので、妻もいよいよ安心して帰った。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大きくなるに従って物を知りたがり、卓布にこぼれた水が干上がるとどうなるかなどと聞いた。内気でそして涙もろく、ある時羊が一匹むれに離れて彷徨さまよっているのを見て不便ふびんがって泣いたりした。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
不便ふびんながらも、お前の命は貰ったぞ! 何事もおしゅうのためと観念して、一足先に行ってくれい。それがお前にとっても一番いい道かもしれない、そのはらに宿ったという不幸な子どものためにも!
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
パジョオルがいう——「一匹から上になると、哺乳器ってやつをあてがわにゃならん。薬屋で売ってる、ああいうやつさ。長くは続かねえ。母親が不便ふびんがるだよ。もっとも、艶消つやけしにしとくだ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
カテリーナ・イワーノヴナは、彼がひどく狼狽ろうばいしている様子を察して、彼に不便ふびんをかける気持から、そのときは始めからしまいまでドミトリイ・フョードロヴィッチにばかり話しかけたのであった。
貴い母神様、レア様が、不便ふびんがって下さらぬと、その弶に
不便ふびんの王妃、我に聞け、アカイア水師おとづれて
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
はなはだ不便ふびんなりというべきだといっている。
跛のためか、不便ふびんであった。
老人と孤独な娘 (新字新仮名) / 小山清(著)
わたしはあまり不便ふびんに思い、こう云う賤しい男でもこれほどのなさけは知っているものを、自分は何と云う邪慳なことをしたのだろう
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山「さア/\今度は私に遣らしてくれ、可愛かあいい忰が不便ふびんの死を遂げたも此奴こいつの為、また娘を斬殺きりころしたのも此奴のわざ、此奴め/\」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
送るさま側眼わきめで見てさへ不便ふびんなるに子の可愛かあいさの一筋に小半年ほどすごせしが妻のお久が病中より更に家業も成ぬ上死後しご物入ものいり何ややに家財雜具を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「茸だと……これ、白痴たわけ。聞くものはないが、あまり不便ふびんじゃ。氏神様のお尋ねだと思え。茸が婦人おんなか、おのれの目には。」
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「よい。そんなら不便ふびんじゃが死んでくれい」こう言って五助は犬を抱き寄せて、脇差を抜いて、一刀に刺した。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女房ニモ助ケラレシコトモアッタ、ソレカラハ不便ふびんヲカケテヤッタガ、ソレマデハ一日デモ、オレニ叩カレヌトイウコトハ無カッタ、此ノ四五年、にわカニ病身ニナッタモ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私は児供たちに「魔子ちゃんのお父さんの咄をしてはイケナイよ、」と固く封じて不便ふびんな魔子の小さな心を少しでもいためまいとしたが、怜悧れいりな魔子は何も彼も承知していた。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
猴神子なき女を不便ふびんがる余り、自ら手を付けて生ませた後胤か、不審に堪えぬ。
使徒と聖母とは不便ふびんなる人類のために憐を乞はんとて手をさし伸べたり。死人は墓碣ぼけつを搖り上げてたんとす。惠に逢へる精靈は拜みつゝ高くかけり、地獄はそのあぎとを開いて犧牲を呑めり。
わたくしはもうこれぎりの身と思い、自分の事なんぞはとうから諦めておりますが、ただ一しょにいる此娘がこのままではあんまり不便ふびんで、なんとか為様しようはあるまいかと思って居りました。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
不便ふびんだんべぢやねえかねえ不具かたわおひのことをねえ、保證ほしようつたくれえ身上しんしやうつぶれるつち挨拶あいさつなのさ、ねえこれ、年齡としとつちやこつちのおとつゝあんさきみじけえのに心底しんてえのえゝものでなくつちや
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今夜この場のお前の分別ふんべつ一つで、お前の一生の苦楽は定るのだから、宮さん、お前も自分の身が大事と思ふなら、又貫一が不便ふびんだと思つて、頼む! 頼むから、もう一度分別を為直しなおしてくれないか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その筋道がよく判りませんで、妹が何かの濡衣ぬれぎぬでも着るようでございますと、妹は気の小さい女でございますから、あんまり心配して気ちがいにでもなり兼ねません。それが不便ふびんでございまして……。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わしゃ、不便ふびんでならん。うちのもんがみんなで、いじめるんだろう
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
まあ、我々不便ふびんな奴は死ぬるのでございますね。565
あゝ不便ふびんなり、などてわれ不老不死なる汝らを
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)