一寸ちょいと)” の例文
「おや、此所ここにいらっしゃるの」と云ったが、「一寸ちょいと其所そこいらにわたくしくしが落ちていなくって」と聞いた。櫛は長椅子ソーファの足の所にあった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私が新銭座に一寸ちょいと住居すまいの時(新銭座塾にあらず)、誰方どなたか知らないが御目に掛りたいといっておさむらいが参りましたと下女が取次とりつぎするから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
方々探しても、何うしても分らなかったから、口髭ひげなんか剃って了って、一寸ちょいと見たくらいでは見違えるようにして、私の故郷くにに行ったの。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
喜「恐入りました、御家老様からお洒落がお菓子で出たから、可笑おかしな洒落と云うのをやろうかね、さアと云うと一寸ちょいと出ないものでげすが」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一寸ちょいと、其の高楼たかどの何処どこだと思ひます……印度インドの中のね、蕃蛇剌馬ばんじゃらあまん……船着ふなつきの貿易所、——お前さんが御存じだよ、私よりか
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と私のかおを見て微笑にッこりしながら、一寸ちょいと滑稽おどけた手附をしたが、其儘所体しょていくずして駈出して、表梯子おもてはしごをトントントンとあがって行く。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
『それから指環は。』彼女が一寸ちょいと手を動かした時、指環が目についたので、お葉は少しもゆるがせにしては不可ないといふやうに、また看護婦の顔を見た。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
はすの浮気は一寸ちょいとれ」という時は未だ「いき」の領域にいた。「野暮な事ぢやが比翼紋ひよくもん、離れぬなか」となった時には既に「いき」の境地を遠く去っている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
一度も談話はなしした事もなく、ただ一寸ちょいと挨拶をするくらいに止まっていた、がその三人の子供が、如何いかにも可愛かあゆいので、元来が児好こずきの私の事だから、早速さっそく御馴染おなじみって
闥の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
私の実見じっけんは、ただのこれが一度だが、実際にいやだった、それはかつて、麹町三番町こうじまちさんばんちょうに住んでいた時なので、其家そこ間取まどりというのは、すこぶれな、一寸ちょいと字に書いてみようなら
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
漸々ようよう二人が近寄ってつい通過とおりすぎる途端、私は思わずその煙草たばこを一服強く吸った拍子に、その火でその人の横顔を一寸ちょいと見ると驚いた、その蒼褪あおざめた顔といったら、到底とうてい人間の顔とは思われない
青銅鬼 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
「うん、あれは俺も一寸ちょいとおどろいた。——何をいい出すかと思った。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
花「海上さん、すまないがね、今一組あがったから一寸ちょいと顔を出してくる間まってゝ下さいよ、ほんとにょうがないことねえ」
露国に止まることを勧むれから或日あるひの事で、その接待委員の一人が私の処に来て、一寸ちょいとこちらに来てれろといって、一間ひとまに私を連れていった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ありゃ、細君にするなんて、初めから其様な気はなかったんだろう。一寸ちょいと家を持つから来てくれって、それから、ずる/\にあゝなったんだろう。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「まあ、挨拶あいさつもしないで、……黙然だんまりさん。お澄ましですこと。……あゝ、此のあいだはとにばツかり構つて居たから、お前さん、一寸ちょいとかんむりが曲りましたね。」
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「まだあるのよ。一寸ちょいと」と針を離れぬ糸子の眼は、左の手につんとつまんだ合せ目を、見るけて来て、いざと云う指先を白くふっくらと放した時、ようやく兄の顔を見る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ジュウジュウと音を立てて暗くなって来た、私はその音に不図ふと何心なにごころなく眼が覚めて、一寸ちょいと寝返りをして横を見ると、アッ吃驚びっくりした、自分の枕許まくらもとに、痩躯やせぎすひざ台洋燈だいランプわきに出して
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
一寸ちょいと見ると何だか土方のような奴で、其奴そいつがこう手を背後うしろへ廻しましてな、お宅の犬の寝ているそばへ寄ってくから、はてな、何をするンだろう、と思って見ていますと、彼様あん人懐ひとなつっこい犬だから
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
『あ、草履を持って来ませうね、一寸ちょいとおまちなさい。』
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
賤「なに気が詰るどころじゃア無い、さっくりわかった人だよ、私を娘の様に可愛がって呉れるから一寸ちょいとお寄りな、ねえ作さん」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私の母は女ながらもつい一口ひとくちでも芝居の事を子供に云わず、兄もまた行こうと云わず、家内中かないじゅう一寸ちょいとでも話がない。夏、暑い時の事であるからすずみには行く。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「……誰れか来やしないか。……一寸ちょいとお待ちなさい。……そら誰れか其処にいるよ……」手真似で制した。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
宿屋のすずりを仮寝の床に、みちの記の端に書き入れて、一寸ちょいと御見ごけんに入れたりしを、正綴ほんとじにした今度の新版、さあさあかわりました双六すごろくと、だませば小児衆こどもしゅも合点せず。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、気迷きまぐれに一寸ちょいと結ってみたかったの」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新「仕様がねえな、うも己が殺したという訳じゃアねえが、それは、困って仕舞ったなア、一寸ちょいと手伝ったのだ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
内へ帰ると早速、夕餉ゆうげすまし、一寸ちょいと着換きかへ、糸、犬、いかり、などを書いた、読本どくほんを一冊、草紙そうしのやうに引提ひっさげて、母様おっかさんに、帯の結目むすびめトンたたかれると、すぐ戸外おもてへ。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「本当に? そりゃ一寸ちょいと何てえ方なの」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お前にお世話に成って是なりに別れるのも甚だ何うもわしの気が済まんから何処どっかへ往って一杯遣ろう、エ、一寸ちょいと一ぱい
しかし、うつかりして、少々大事なことを饒舌しゃべつたんだから、お前さん聞いたばかりにして置いておくれ。誰にも言つては不可いけないよ。一寸ちょいといだ酒をうしよう。ああ、いゝ事がある。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
伴「そりゃア笹屋は料理屋だからんでもあるが、寝酒ねざけを飲むんだから一寸ちょいと海苔のりでも焼いて持って来ねえな」
ある晩私は背戸せどすえ風呂から上って、椽側えんがわを通って、わきの茶の間に居ると、台所を片着かたづけた女中が一寸ちょいとうちまでってくれと云って、挨拶をして出て行く、と入違いれちがいに家内は湯殿に行ったが
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と勧められるから新吉は、幸い名主に逢おうときましたが、少し田甫たんぼを離れて庭があって、かこいは生垣になって、一寸ちょいとした門の形が有る中に花壇などがある。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うすると、弟が柔かな足で、くる/\遊び廻る座敷であるから、万一の過失あやまちあらせまい為、注意深い、優しい姉の、今しがた店の商売あきない一寸ちょいと部屋を離れるにも、心して深く引出ひきだしに入れて置いた
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まだ遺書かきおきは母の手にはいらんようだからいと心得、また元のように手紙を引出の間へ入れて、一寸ちょいと其処そこまでく振りをしてうちを出て、西浦賀の陣屋へと急ぎました。
「……余りつつしんでは居ないわね……一寸ちょいと、お話の中へ出ておいで。」
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
庄「なアにわしが落した煙草入と違っている、紋は実の花菱と云ったが、一寸ちょいと出して見な」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「蔵屋の方は構ひません。一寸ちょいと、私が行つて断つて来て上げます。」
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お店はちいさくってキチンとしていても一寸ちょいと箱の蓋を取ると金目の物が有ったり、ちょいと立掛けて有るお品でも千両二千両ッてんでげすから、此のくらい結構な御商売は無いと思います
一寸ちょいと四辺あたりみまわして又唇に。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
角「おめえさんとぼけたって無益だめだよ、おかめ此処へ来て一寸ちょいとお目にかゝれ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは(煙草入を懐より出し)実は洋服持の煙草入でげすが、黒桟くろざん一寸ちょいと袂持たもともちの間に此の鉈豆なたまめ煙管きせるが這入って、泥だらけになって居るのを拾ったんで、掃除をして私が大切に持って居りますが
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
余りい月だによって、縁先で見るのが至極宜しい、これは妙だ、此の辺は一体隅田川の流れで……あれに見ゆるのは橋場の渡しの向うかえ、如何いかにも閑地かんちだから、斯ういう処は好いの、えゝ一寸ちょいと秋田屋を
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三「おっかさん何か一寸ちょいと飯物まんまものを色取りして何うか……」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小増「左様そうさ、一寸ちょいと顔を見せておりなさいよう」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一寸ちょいと一服いたし次席でたっぷり申し上げましょう。
若「なにね一寸ちょいとそこまで」