餓鬼がき)” の例文
孟子、老子、五経、論語と、十八公麿の学業が目ざましい進み方で上がってゆくのを見て、寿童丸じゅどうまる餓鬼がき大将にする学舎の悪童連は
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その娘っ子と餓鬼がきはつかまったのかしら? ああ、あすこに連れられて来る、姉っ子がつかまえたんだよ……きかんぼうだねえ!」
権太郎は四角張った顔をまっ黒にくすぶらせて、大きな眼ばかりを光らせている様子が、見るからに悪戯そうな餓鬼がきだと半七は思った。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
盗みに行った奴があるてえ話は、餓鬼がきの時分からずいぶん聞いてはいましたが、そいつがその柿の木泥棒という奴でござんしたかい
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
『何だ。この餓鬼がきめ。人をばかにしやがるな。トマト二つで、この大入の中へおまえたちをんでやってたまるか。せやがれ、畜生ちくしょう。』
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「やれやれ、餓鬼がきどもを片づけて身が軽うなった」と言って、宮崎の三郎は受け取った銭をふところに入れた。そして波止場の酒店にはいった。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「いつまでひとを使いくさる。小んまい餓鬼がきまで千よ、千よ、ぬかしくさって——育てられた恩はもう差引してつりがらあ!」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
一つの混同は外聖霊ほかしょうりょう、土地によって無縁とも餓鬼がきとも呼ぶものが、数多く紛れ込んで村々の内輪の団欒だんらんき乱すことであった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
イヤ又た一つ出来た、今度は男の心意気よ『工場の夜業でかゝあが遅い、餓鬼がきはむづかる、めしや冷える』ハヽヽヽ是れぢや矢ツ張りり切れねい
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
罵詈ばりもまた奨励の一手段 として畜生、豚、乞食、餓鬼がき驢馬ろば、親の肉喰犬にくくらいいぬというような荒々しい罵詈ばりの言をはなってその子供を教育する。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しつこくたかってくるはえ餓鬼がき共もうるさい。いもがおで左利きの、太物の許生員は、とうとう相棒の趙先達に声をかけた。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
この四人の山の餓鬼がきは、いま最後の鉱山にむかって疾駆をつづけている。火のついたような期待と科学者の熱情が一分間も四人を休ませない。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たゞ金のためにこんな処に縛られてゐて、貴重な青春をむざ/\色慾の餓鬼がきのために浪費されてしまふのが堪らないんだよ。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
この世はほんとに餓鬼がき地獄じゃ! さあさあ握飯むすびをやるほどに早く一つずつ取るがよい……才蔵才蔵その袋から握飯を取り出してやるがよいぞ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「なんだい、この餓鬼がきアッ! またこんなところに灰をまきゃアがって! ほんとに、ほんとに性懲しょうこりのねえ野郎だよ。ちゃんにそっくりだッ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この餓鬼がき! あたいは見世物じゃねえぞと、ミチに怒鳴られ、なぐられはしまいかとはらはらしながら子供達を叱り、その体を抱きかかえるのである。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
および真正しんしょうを信ぜず、殺盗して罪をつくらば、畜生ちくしょう餓鬼がきの中に堕在し、つぶさに衆苦しゅくを受け、地獄を経歴せん、ゆえに塚塔中にあらずといわん
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
(がっかりする。考える)あゝわしは餓鬼がきだ。少しの食物を得るためにどんなにあさましいことをしなければならないか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
さういふ不具の手を慣して器物を扱つてゐるので、一応は何気なく見えるが、よく見ると手首は器物に獅噛しがみついてゐた。まるで餓鬼がきの執著ぢや。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そんなとき公園の樹木の面倒を見ている松つぁんという植木屋さんに見つかると、「この餓鬼がきッ。」と大喝一声された。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
やがて骨ばった指で、あたらしいお墓にながいつめをかけました。そうして餓鬼がきのように、死がいのまわりにあつまって、肉をちぎってたべました。
恩知らずの川村の畜生め! 餓鬼がき時分からの恩をも忘れちまいやがって、俺の頭をち割るなんて……覚えてろ! ぶち込まれてから吠面ほえづらくな……。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
「宗匠、後ばかり見ねえで、まア先手さきての川上をお見なせえ。羽田の漁師町も川の方から見ると綺麗だ。それに餓鬼がきどもが飛込んで泳いでるのが面白い」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
火がついたような泣き声は、こんなところに赤ん坊がいるのかという奇異感とダブって俺を驚かせたが、なーに、近くのダルマ舟の船頭の餓鬼がきなのだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
餓鬼がきが死んでくれたんで、まあ助かったようなもんでさあ。山神さんじんたたりには実際恐れをしていたんですからね」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あ、親分ですかえ、こいつはいけねえ、又町内の餓鬼がき大將が、作り聲でからかつてゐるのかと思つて、——」
「行かないよ。誰が行くもんか、そんなに邪魔にされて。……赤んぼがほしいが聞いてあきれら、自分の餓鬼がきひとりだって傍に置いたこともないくせに……」
死児を産む (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
彼は自分に子供がないせいか、非常な子供好きで、よく近所の子供を集めては、餓鬼がき大将となって遊んでいた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
殊にくびが細かったの、腹がれていたのと云うのは、地獄変じごくへんからでも思いついたのでしょう。つまり鬼界が島と云う所から、餓鬼がきの形容を使ったのです。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「重右衛門がこんな騒動さわぎ打始ぶつぱじめようとは夢にも思ひ懸けなかつたゞ。あれの幼い頃はおたげへにまだ記憶おぼえて居るだが、そんなに悪い餓鬼がきでも無かつたゞが……」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
本来餓鬼がきのようなもので、死人の心を噉食かんしょくしたがっている者なのであるが、他の大鬼神にかなわないので、六ヶ月前に人の死を知り、先取権を確立するものであり
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その人は誰ぞ、踏海とうかいの失敗者、野山の囚奴しゅうど、松下村塾の餓鬼がき大将、贈正四位、松陰神社、吉田松陰なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あるもあるも四、五間の間は透間すきまもなきいちごの茂りで、しかも猿が馬場で見たようなやせいちごではなかった。嬉しさはいうまでもないので、餓鬼がきのように食うた。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「おい、餓鬼がきめ、て!」と、かれは、どなるとほとんど同時どうじに、子供こどもうしろえりをつかまえました。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
童子連わらしづれ何条なじょういうて他人ひとの畑さ踏み込んだ。百姓の餓鬼がきだに畑のう大事がる道知んねえだな。う」
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
養育院から、貧民の餓鬼がきを預つた方が増しな位だつた。だがあの人は弱かつた。生れつき弱かつた。ジョンはまつたく父親似てゝおやにではなかつた。私はそれが嬉しかつた。
まるで猿みたいな奴だなんていわれてたくらいで——高いところの仕事にはもって来いの餓鬼がきです。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
お坊ちゃん育ちの餓鬼がき大将のようにも取れるが、案外そうでない一面もあって、醍醐帝と此の大臣とがひそかにはかって世間のおごりを戒めたと云う話なども伝わっている。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
子供らしい可愛かわいさなどの何一つない子供で、マセていて、餓鬼がき大将で、喧嘩けんかばかりしていた。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「いめいめしいこの餓鬼がきやあ、何たら学校学校だ。この雨が見えねえか! 今日は休め!」
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そういう感情の動くままに、狂奔きょうほんしていた自分のあさましさが、しみじみ分かったような気がした。船を追って狂奔した昨日の自分までが、餓鬼がきのようにあさましい気がした。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
地獄の絵に、天女が天降あまくだったところを描いてあって御覧なさい。餓鬼がきが救われるようでとうとかろ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
餓鬼がきらめが、くそッ! どこへうせやがったんだい! ド骨を叩き折って呉れるぞ!」
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「此のなけなしの中へ、餓鬼がきまで産むとは気のきかねえ、これだから素人の女房は困る」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「出て行けッ、ママんでもねえ餓鬼がきだ、お客になんかねだりゃアがって、二度と店へ入って来やがったらたたき殺……ヘッへッ、へ……いらっしゃいまし、どうもママんでもない粗相そそうを……」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
あひおもはぬひとおもふは大寺おほてら餓鬼がきしりへにぬかづくごとし 〔巻四・六〇八〕 笠女郎
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
早い話が未荘の田舎者は三十二枚の竹牌ちくはい(牌の目の二面を以て成立った牌)を打つだけのことで、麻将マーチャンを知っている者は偽毛唐だけであるが、城内では小さな餓鬼がきまでが皆よく知っている。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
然るに、この貫一はどうか! 一端いつぱし男と生れながら、高が一婦いつぷの愛を失つたが為に、志をくぢいて一生を誤り、餓鬼がきの如き振舞ふるまひを為て恥とも思はず、非道を働いて暴利をむさぼるの外は何も知らん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ヘヘヘ。そのうちかかあが出来たり餓鬼がきが出来たり何かしてマゴマゴしている中にコンナに頭が禿げちゃっちゃあモウ取返とりけえしが付きやせん。まあまあナマクラ者にゃ似合い相当のところでげしょう。
悪魔祈祷書 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分じぶん餓鬼がきのことおめえ全然まるつきりどうなつてもかまあねえたあおもへねえよこんで
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)