顔色かおつき)” の例文
旧字:顏色
ここへ、台所と居間の隔てを開け、茶菓子を運んで、二階から下りたお源という、小柄こがらい島田の女中が、逆上のぼせたような顔色かおつき
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五六日つと大津定二郎は黒田の娘と結婚の約が成ったという噂が立った。これを聞いた者の多くは首を傾けて意外という顔色かおつきをした。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
トお勢を尻目しりめにかけてからみ文句であてる。お勢はまた始まッたという顔色かおつきをして彼方あちらを向てしまう、文三は余儀なさそうにエヘヘ笑いをする。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
大抵の職人なら最上等のお得意様が出来たと喜んで、何事をいてもすぐに飛んでまいるに、長二は三吉の口上を聞いて喜ぶどころか、不機嫌な顔色かおつきで断りましたから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
顔色かおつきが悪い。眼の濁っているのはその心の暗いことを示している。妻や子供や平和な家庭のことを念頭に置かぬではないが、そんなことはもう非常に縁故が遠いように思われる。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ええ情ない、どうかして虚飾みえでなしに骨を折ってもらいたい、仕事にあぶらを乗せてもらいたいと、さとせば頭は下げながら横向いて鼻で笑われ、叱れば口に謝罪あやまられて顔色かおつきに怒られ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おやそうと急にすゝまぬ顔色かおつき、それでもお馴染だと思ってさと婢が云えば、儂はあの方だと思って、無理に幹事さんに頼んで貰って来たの、どんな方と尋ねるにこう/\とつげる婢の詞が
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ちょいと皆様に申上げまするが、ここでどうぞ貴方がたがあッと仰有おっしゃった時の、手附、顔色かおつきに体の工合ぐあいをお考えなすって下さいまし。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうか、諸君もやったのか、驚ろいた、その昔はみんな馬鈴薯党なんだね」と上村はおおいに面目を施こしたという顔色かおつき
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
お勢もまた昇が「御結構が有ッた」と聞くと等しく吃驚した顔色かおつきをしてすこし顔をあからめた。咄々とつとつ怪事もあるもので。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「大変遅くなって……」と言って、座敷と居間との間のしきいの処に来て、半ば坐って、ちらりと電光のように時雄の顔色かおつきうかがったが、すぐ紫の袱紗ふくさに何か包んだものを出して、黙って姉の方に押遣おしやった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
偉大の男はそれを見て、笑いもせねば褒めもせぬ平然たる顔色かおつき
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人品ひとがらくって、やせっこけて、心配のありそうな、身分のある人が落魄おちぶれたらしい、こういう顔色かおつきの男には、得て奇妙な履歴があるものです。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軽躁けいそうと心附かねばこそ、身を軽躁に持崩しながら、それをしとも思わぬ様子※醜穢しゅうかいと認めねばこそ、身を不潔な境にきながら、それを何とも思わぬ顔色かおつき
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「君が?」とさも不審そうな顔色かおつきで井山がしょぼしょぼまなこを見張った。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
少時しばらく——主税ももう口を利こうとは思わない様子になって、別に苦にする顔色かおつきでもないが、腕をこまぬいたなりで、夫人の一足後れにいてく。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうかの?」と倉蔵は不審な顔色かおつきをして煙草を吸い初めた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
眉をひそめながら、その癖恍惚うっとりした、迫らない顔色かおつきで、今度は口ずさむと言うよりもわざと試みにククと舌のさきで音を入れる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠慮なく、はしをとっていて、二人とも揃って箸を置いたが、お悦さんの方は一口飲み込むと、酒は一滴もけないおんなの、白く澄ました顔色かおつき
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引込ひきこまれて、はッと礼を返したが、それッきり。御新姐ごしんぞの方は見られなくって、わきを向くと貴下あなた一厘土器いちもんかわらけ怪訝けげん顔色かおつき
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「在原の夫人おくさまばかりでは何にも売れはいたしませんよ。」「ナニ、まさか。」と口にはいえど、さもあらんという顔色かおつき
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
保険か何ぞの勧誘員が、紹介人と一所に来たらしい風采ふうつきなのを、さも恋路ででもあるように、老人感に堪えた顔色かおつき
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若い時の大毒は、女と酒じゃ。お酒はあがりそうにも見えぬけれど、女には、それ、可愛がられそうな顔色かおつきじゃ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よう、という顔色かおつきにて、兀頭はげあたまの古帽を取って高く挙げ、しわだらけにて、ボタン二つ離れたる洋服の胸を反らす。太きニッケル製の時計のひもがだらりとあり。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕はまたひげがさ、(水上みなかみさん)て呼ぶから、何だと思って二階からのぞくと、姉様ねえさん突伏つっぷして泣いてるし、髯は壇階子だんばしご下口おりぐち突立つったってて、憤然むっとした顔色かおつき
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年はうしろむきに、山をながめて、おつきあいという顔色かおつき。先生の影二尺を隔てず、窮屈そうにただもじもじ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おかみさんの? そうですかね。」とちとおもわくのはずれた顔色かおつき。こんなのはその手に結んだべに毛糸の下に、賤という字を書いてはってあろうも知れぬ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから……水中に物あり、筆者に問えば知らずと答うと、高慢な顔色かおつきをしてもいんですし、名を知らない死んだ人の戒名かいみょうだと思っておがんでもいんですよ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、照子さん。飛んだ事ですねえ。」とせんを取られていそそくれ、「え。」と照子は希有けぶ顔色かおつき
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
呼ばれて目を上げると、笠はやぶれて、紙をかぶせた、黄色にくすぶったほやの上へ、眉の優しい額を見せた、頬のあたりが、ぽっと白く、朧夜おぼろよに落ちたかずらと云う顔色かおつき
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ありッたけくちばしを赤く開けて、クリスマスにもらったマントのように小羽を動かし、胸毛をふよふよとゆるがせて、こう仰向あおむいて強請ねだると、あいよ、と言った顔色かおつきで、チチッ
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここを話して聞かせた時のウイスキイ天狗の顔色かおつきを御覧なさい。目がキラキラと光ったんです。
と、親仁がもっともらしい顔色かおつきして、ニヤリともしないでほざくと、女どもはどっと笑って、線香の煙の黒い、吹上げのしぶきの白い、誰彼たそがれのような中へ、びしょびしょと入ってく。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔色かおつきが、ぐっすり寝込んだ処を、今ので呼覚よびさまされて、眠いに迷惑らしい様子もないので
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほんとうに女形がかつらをつけて出たような顔色かおつきをしていながら、お米と謂うのは大変なものじゃあございませんか、悪党でもずっと四天よてんで出る方だね、私どもは聞いてさえ五百円!
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とにかく、路傍みちばただし、ほこりがしている。裏の崖境がけざかいには、清浄きれいなのが沢山あるから、御休息かたがた。で、ものの言いぶりと人のいい顔色かおつきが、気をかせなければ、遠慮もさせなかった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黙って額着ぬかずくと、鴨川大人は御自慢の細君、さもあらんという顔色かおつき、ぐッと澄して
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「は、それは活きていましょうとも。草でも樹でも花でも、みんな活きてるではありませんか。」という時、姫芥子の花は心ありげにたもとに触れてひらめいた。が、滝太郎はねたような顔色かおつき
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前後に同一おなじような、あわせ三尺帯の若衆わかいしゅは大勢居たが、大将軍のような顔色かおつきで叱ったのは、なまずの伝六といって、ぬらくらの親方株、月々の三十一日みそかには昼間から寄席よせを仕切って総温習そうざらいを催す
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それではモルヒネ……お前目分量で飲ましてくれるか。」「お安い御用です、いつでも。」「そうしたらあのことを新聞へは出さないだろうね。」と念を推せば、思いも寄らぬ顔色かおつきにて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それだ、と門口で断らりょう、と亭主はその段含ませたそうな気の顔色かおつき
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と答えて、頭のあたりをざぶざぶと、あおいで天にじざる顔色かおつきでありました。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年は火箸ひばしを手にして、ぐいぐい灰に突立てながら、不平なる顔色かおつきにて
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婦人おんなは流るるような瞳をめぐらし、人だかりがしたのを見て、得意な顔色かおつき
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明前あかりさきへ、突立つったってるのじゃあございません、脊伸をしてからが大概人のしゃがみます位なんで、高慢な、澄した今産れて来て、娑婆しゃばの風に吹かれたという顔色かおつきで、黙って、おくびをしちゃあ、クンクン
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小一の顔色かおつきが青瓢箪を俯向うつむけにして、底を一つ叩いたような塩梅あんばいと、わしども家内なども申しますので、はい、背が低くって小児こども同然、それで、時々相修業に肩につかまらせた事もござりますが
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先生様が言わっしゃるには、伝もない、おしえもない。わしはどうした結縁けちえんか、その顔色かおつきから容子ようすから、野中にぼんやり立たしましたお姿なり、心から地蔵様が気に入って、明暮あけくれ、地蔵、地蔵と念ずる。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弥吉は親方の吩咐いいつけに註を入れて、我ながらうまく言ったと思ったが、それでもなお応じないから、土間の薄暗い中をきょろきょろとみまわしたが、そっと、かまちに手をついて、及腰およびごしに、高慢な顔色かおつきで内をすか
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
硝子戸がらすどの外からのぞいてた、わしが方を仰向あおむいての、仰向くとその拍子に、がッくり抜けた島田の根を、邪慳じゃけんひっつかんだ、顔色かおつきッたら、先刻さっき見た幽霊にそッくりだあ、きゃあッともいおうじゃあねえか
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小間使が老実立まめだっていうのを聞いて、滝太郎は恐入った顔色かおつき
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)