)” の例文
爺いさんは焼鍋やきなべを出して、玉葱でこすつて、一寸火に掛けて温める。ドルフとリイケとは林檎を剥いて、心をけて輪切にしてゐる。
もろいと申せば女ほど脆いはござらぬ女を説くは知力金力権力腕力この四つをけて他に求むべき道はござらねど権力腕力はつたない極度
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
第一の準備として、囚人一同は毎日受け取る食料のパンを、少しづゝけて置いて、それを集めてワシリの携帯糧食にする事にした。
フットライトの中に浮き出してあでやかに笑いまわる舞姫の鼻の表現のわびしさは、絶対に拭いける事の出来ないものでしょうか。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「この山車だしが皆徳川時代のものばかりです。近郷近在から雲霞くもかすみと人が出てその盛んなこと京都の祇園祭をければ恐らく日本一です」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
する馬鹿はないから、お蔭でお六は下手人の疑ひから取りけられたやうなもので、——隨分嫌なことをする惡黨ぢやありませんか
白井はこの機会をのがさずふやうに折屈をりかゞんで、片手を常子の額に載せて見た。ていよくけられるかと思ひの外常子はにつこり微笑み
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
何故息をいたかといふと、こんな式位で噂に聞いた大蛇おろちの祟りが無事にけられるものか、うか疑はしかつたからである。
政府はこの弊をめるがために神仏混淆を明らかに区別することにお布令ふれを出し、神の地内じないにある仏は一切取りけることになりました。
いわゆる特殊部落民であるというただ一つの理由をもって、ほかのあらゆる条件を顧ることなく、ただちにけ者にせられるのであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
犯そうとするのではない、自分はお前たちがけ者だ、外道げどうだ、と言っている者の友となり、これらの者を救おうとしているのだ
外から見かけたこの貧寒さを取りけるためには、少なからざる虚栄心の濫費らんぴをしなければ西欧に追っつけるものではなかった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
いつも母の世話になるので、晴代は二十六日の法要の香奠かうでんにする積りで、自分の働いた金のうちから、一円二円とけておいた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
体中からだぢう珠数生じゆずなりになつたのを手当次第てあたりしだいむして、りなどして、あしんで、まるをどくるかたち歩行あるきした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「どうもその女だけけものにされているらしい。村の人にきくとあの女はしようがありませんと云って、てんで相手にならないんだ。」
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あのごつごつした岩の上へ、己は花を咲かせて見る事も出来る。あのそらに漂っている白い雲を己は追いけてしまう事も出来る。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
ところへ後の横町から突然け出して来た一人の男が、敬太郎を突きけるようにして、ハンドルへ手をかけた運転手の台へ飛び上った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし、つまらない事情であなたと私と喧嘩したぐらいでは、なか/\あなたのこの影響は私からけ切れるものではありません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
遅参の一人や二人はけ者にして、すぐに歌留多に取りかかるのであるが、今夜にかぎってどの人も石川の来るのが待たれるような心持で
妖婆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仏道から言えばいっさいのことは院の御念頭からけられてよいわけではあるが、さすがに悲しみにぼけたふうには人から見られたくない
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「……私の汚れ物を皆入れてありますから、それをける間、ちょっとお母さまのおへやでお待ちしてくださいませ、すぐり除けますから」
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
乳母を職業としている者にでも対するような挨拶あいさつには、彼女はもちろん愉快ではなかったが、しかしそれをすら押しけて
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
Bはこぶしを固めて突っ立った。体がわなわなと顫えている。しかし恐怖の影はおもてに漂っていた。彼は、Kを押しけて出口の方に行こうとした。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
ひとりこの姉をけ者にして芝居に誘わなかったことが、何だか意地悪をしたようで、済まなく感ぜられて来るのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
投げた脇差は、傍輩はうばいと一しよに半棒で火を払ひけてゐる菊地弥六の頭を越し、えりから袖をかすつて、半棒に触れ、少し切り込んでけし飛んだ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
またそのなかりさうなおくはらけやうとしてあたまつてるところました——それからまたしんなにいてるやうにもえました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しかし完全な結晶というのはまれであって、色々の形の汚い結晶が混っているので、それを取りけるのが一骨ひとほねであった。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
『右手鳥居なかの一本は奥州仙台伊達政宗公。赤いおたまやは井伊かもんの守』こういうことを幕無しに云ってけた。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
まけにそれを洒々落々しゃしゃらくらくたる態度で遣ってける。ある時ポルジイはプリュウンというくだものの干したのをぶら下げていた。
その人をけものにしておいて、他人にそのうわさをさせて平気で聞いていることはどうしても彼にはできないと思った。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何よりも不思議でならないのは、私をけては、この家にゐる誰一人として、彼女のやることに氣を留めたり、いぶかつたりする者の無いことであつた。
ああ浮世はらいものだね、何事もあけすけに言ふてける事が出来ぬからとて、お倉はつくづくままならぬをいたみぬ。
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夫人はその青年のために、座席シートを取って置いたかのように、自分の右に置いてあった小さいトランクを取りけた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そういうわけで長じてからは三人の兄から何かにつけてけ者にされ、中学生のとき、父もママ母も死んでからは、彼にとっては面白くもない家だった。
淪落の青春 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
木曾が呆然としてしまったのは、そのためだった。なんだか自分だけが、け者にされたような激しい失意に、一瞬、打ちのめされてしまったのだった。
宇宙爆撃 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
正三は床を片寄せて、机の上のスタンドのカバアをけようとした、すると純子が急いで正三の手を押えながら
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「車にお乗り。」そして彼は胸をとどろかしながら彼女の肩に手をかけた。彼女はもう一度鋭く彼を見詰め、それから不意に彼の胸を押しけて駈けだした。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
たいへんなことが始まっているんですから、ボクさんだけをけて、皆んなですぐここへやって来てちょうだい。
「ところが、大儲けですよ。あんな大儲けをした殺人事件は、この数年来ありませんな。おまけに賊は悠々とってけたのです。それは私が保証します」
誰一人それをそうと見るものはない。今夜は何の話にも僕等二人はけものにされる始末で、もはや二人は全く罪あるものと黙決されてしまったのである。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
分類の方法にもいろいろの案はあろうが、だいたいに発生の時の順序を追うて、まず最も新しい「分割地名」というものを、取りけてみることができる。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
また、非常に何か怖いと思う虫が手の平にのっていて、それを、いくら払いけようとしても、どうしてもとれない夢を見る。そんな夢は私の怖い夢である。
触覚について (新字新仮名) / 宮城道雄(著)
夫は我家に入りて菜籠なかごかたよせかまどに薪さしくべ、財布の紐とき翌日の本賃もとでをかぞえけ、また店賃たなちんをば竹筒へ納めなどする頃、妻眼を覚し精米の代とはいう。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
返辞を与えぬ代りに、玉枝は、さらに次の木箱の蓋を取りけた。主水の顔は、見るまに、まっ蒼になって
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愈々いよいよ変です。そこで彼は思切って、力まかせにその天井板をはねけて見ますと、すると、その途端、ガラガラという音がして、上から何かが落ちて来ました。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手を上げて掻きけたその拍子にツルリと袖が腕を辷り、露出した白い二の腕一杯桜の刺青ほりものがほってある。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
くさむらの中からぬっとり出して来て笠をけ、脇差わきざしを抜いて見得を切るあの顔そっくり。その顔で癇癪玉かんしゃくだまを破裂させるのだから、たいがいの者がぴりぴりした。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
そんな知識はけて子供みたような心持になって、いかにもその萍の花から雲に乗れそうに思えたのを、そのまま句にしたところにかえって妙味があるのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
煙突をかけ上るようなことになりそうなんだ! 赤いお家の人は、おそらく、われわれをけた世間一般の人達にとっては、一向こわくもなんともない人らしい。
男はにくらしげにそう言って、こんどはガラスの箱のふたをけたのでした。すると一時に向う岸からして来た唄が、このガラスの箱の中から起ってくるのでした。
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)