道連みちづれ)” の例文
あるがんの中へ身を片寄せて二三げんあとに成つて居る和田さんと良人をつととを待ち合せた時、幼い時に聞いた三途さんづの河の道連みちづれの話を思ひ出すのであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
旅は道連みちづれが、立場たてばでも、また並木でも、ことばを掛合ううちには、きっとこの事がなければ納まらなかったほどであったのです。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれは盗賊に殺されたのか道連みちづれに殺されたのか、それらの事情も判然しなかつたが、彼女かれのふところには路銀ろぎんらしいものをたくわへていゐなかつたので
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
また、銘々は、自分の二人の道連みちづれの肉眼に対してと同様に、彼等の心眼に対しても、ほとんど同じくらいたくさんのものを纒って自分を隠していた。
いつの時代でも富豪かねもちといふものは、土蔵へ入る時のほかは、秀れた芸術家と道連みちづれになるのが好きなものだ。
つげて江戸屋へかへり頓て其年もくれ正月にもなり家々の年禮もすみしかば半四郎は幸ひよき道連みちづれなれば當春たうはるは江戸表へいでて無刀流劔術の道場をひらかんと思ひ立當地の道場を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
伯父をぢさんにいて東京とうきやうとうさんの道連みちづれには、きちさんといふ少年せうねんもありました。きちさんはおとなりの大黒屋だいこくや子息むすこさんで、てつさんやおゆうさんのにいさんにあたひとでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それじゃ一緒に来いと云て、れから私の荷物は同藩の人に頼んで、道連みちづれは私と岡本、もう一人ひとり備中の者で原田磊蔵はらだらいぞうと云う矢張やはり緒方の塾生、都合三人の道中で、勿論もちろん歩く。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
伊豆は天産物の豊かな上によく細かな所にまで気をつけて人々がその徳を獲ようとする、と云った数年前天城を越す時道連みちづれになった年若い県技手の話を私は端なく思い出した。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
青年は意識が帰つて来ると、此のかりそめの旅の道連みちづれの親切を、しみ/″\と感じたのだらう。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そうして酒徒しゅととしての私にはやや差し障りそうな道連みちづれではあったが時とするとあなどり難い小さな監督者であろうも知れぬが、だが、私自身にもむしあるいはそれを望んだ心もちもあった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかし今私の道連みちづれの者どもの心を動かしたのは、その木の大きさではなかった。それは、その拡がった樹蔭の下のどこかに七十万ポンドの黄金が埋めてあるということであったのだ。
たび道連みちづれなさけといふが、なさけであらうとからうと別問題べつもんだいとしてたび道連みちづれ難有ありがたい、マサカひとりでは喋舌しやべれないが二人ふたりなら對手あひて泥棒どろぼうであつても喋舌しやべりながらあるくことが出來できる。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
このズク・ニョンがある時新教派のラマと道連みちづれになったことがある。その時にズク・ニョンはみちに小さな石があるのを見て、その石をばわざわざけて遠くを廻って向うの方に行ったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「おれを引き渡すなら引渡せ。そうなりゃあ貴様も地獄の道連みちづれだぞ」
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同じ役所に勤めているので、三度に一度位は道連みちづれになる。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
己に道連みちづれをくれた。それがもう手放されぬ
たび道連みちづれが、立場たてばでも、また並木なみきでも、ことば掛合かけあうちには、きつことがなければをさまらなかつたほどであつたのです。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すてていまだ一面識めんしきならぬ他の女と道連みちづれになり人の爲にころさるゝ者が有べきやシテ梅は如何いかゞせしぞ汝公儀の役人をいつは重惡者ぢうあくものめとしかられしにぞ憑司は今更大息おほいきつき頭を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
初めて欧羅巴ヨーロッパの土を踏んだ岸本は、上陸した翌日、マルセエユの港にあるノオトル・ダムの寺院おてらを指してがけの間のみちを上って行った。その時は一人の旅の道連みちづれがあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
青年は意識が帰って来ると、かりそめの旅の道連みちづれの親切を、しみ/″\と感じたのだろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
女は教会へくにも、地獄へ落ちるにも道連みちづれたるを失はない。真実ほんとの事をいふと、始終しよつちゆう一緒に居ても厄介なものだが、さうかと言つて、離れても居られないのが女の取柄である。
見なさる通り、行脚あんぎゃとは言いながら、気散じの旅の面白さ。蝶々蜻蛉とんぼ道連みちづれには墨染の法衣ころもの袖の、発心の涙が乾いて、おのずから果敢はかない浮世の露も忘れる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大切に失ひ給ふなとくしを傳吉にわたしお身金子なく共彼の惡者と明日一所に道連みちづれにならんこと危し今夜の八ツのかね相※あひづに立ち給へとて間道ををしへて一人立せける彼金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
道連みちづれ可笑をかしな事を言ふとは思つたが、相手があの通りの巧者人の事なので
眼鏡を懸けて刀を選出えりだし、座を構え、諸肌脱ぎ、皺腹しわばらつばをなすり、白刃しらは逆手さかてに大音声、「腹を切る、止めまいぞ、邪魔する奴は冥土めいど道連みちづれ、差違えるぞ、さよう心得ろ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
破毛布やぶれげっとまとったり、頬被ほおかぶりで顔を隠したり、中には汚れた洋服を着たのなどがあった、四五人と道連みちづれになって、笑いさざめき興ずるていで、高岡を指して峠を下りたとのことである。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道連みちづれになつた上人しやうにんは、名古屋なごやから越前えちぜん敦賀つるが旅籠屋はたごやて、いましがたまくらいたときまで、わたしつてるかぎあま仰向あふむけになつたことのない、つま傲然がうぜんとしてものないたち人物じんぶつである。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道連みちづれになった上人しょうにんは、名古屋からこの越前敦賀えちぜんつるが旅籠屋はたごやに来て、今しがた枕に就いた時まで、わたしが知ってる限り余り仰向あおむけになったことのない、つまり傲然ごうぜんとして物を見ないたちの人物である。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と友達も、吃驚びっくりしたような顔でみまわすと、出口に一人、駒下駄こまげたを揃えて一人、一人は日傘を開け掛けて、その辺の辻まで一所に帰る、お定まりの道連みちづれが、ひとしく三方からお妙の顔をみまもって黙った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)