)” の例文
信じているが、私は臆病者だと自分で認めている、この違いは大きいんだぞ、かね、私はこの違いにけて、討手の役を願い出たんだ
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「一丁目の勝太郎と申す、やくざな男で、男つ振りは一人前ですが、年中けごとに浮身をやつしてゐる、厄介な男でございます」
かれは元来、理性にとみ、部下の意地にのって、伝来の財、田地、官職——まちがえば生命までをけるような迂愚うぐではなかった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よくいらしってね。その間着あいぎのよくお似合いになる事。春らしいいい色地ですわ。今倉地とけをしていた所。早くお上がり遊ばせ」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
随分ずいぶん撃ってみてもよいが、何かけるか」と甚五郎が言うと、蜂谷が「今ここに持っている物をなんでも賭きょう」と言った。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ノロ甚」は、にたついて、鉈豆なたまめ煙管をひねくりまわしている。この将棋には、いくらかかっているので、どちらも、真剣だ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「君それより何かあの女に贈物をしたらいいでしょう。僕はけでもするが、君はまだこのことを考えもしなかったに違いない」
なんでもみなみくにおうさまが、このくすりくにけておさがしになっているということをいて、いまってゆく途中とちゅうにあるのです。
木と鳥になった姉妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
実際、私どもは命がけの投機やま仕事をしていたので——骨を折るかわりに命をけ、勇気を資本もとでにしていた、というわけですね。
争うとか格闘するということは、自分を偶然の方へけることだから、彼はもう偶然などは俺にはいらないという悟りをひらいているのだ。
骰子さい転ばしをするもあれば花をもてあそぶもあり、随分立派な人でも喰物くいものけ位はやって居る。それが非常に愉快なものと見える。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
某国政府当局は、国運をけたこの怪計画のために、特によりすぐった特務機関隊を編成して、丁度ちょうど一年前からわが国に潜入させたのだった。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あるいは金をけて志願者を買うことにして、毎年八月の朝、ひとりの少女を蛇の穴へ供えると、蛇は生きながらにかれらを呑んでしまった。
『新古今』の華麗妖艶は、定家にとってはまことに数寄ではなくして、その二十代三十代の生活をけたものであった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
彼はそれを見てとらない。彼は女のように自分の生活全部を担保として、愛の上にけたのではない。彼の生活は他のほうで満たされている……。
実に兵庫の開港はアメリカ使節ペリイがこの国に渡来した当時からの懸案であり、徳川幕府が将軍の辞職をけてまで朝廷と争って来た問題である。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しめた! 少しご機嫌きげんが直って来たようだ。けてもいい、この先生の、外套がいとうえりの蔭の頬が、ゆるんだに違いない。
渡り鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
魔性の手が脅威の矛先ほこさきを向ける。それが絶間なくかれを苦しめる。その苦悩をもしのいで、なお法悦を見出そうとして、かれは一生をけてしまった。
双六すごろくつてけませう。わたしほかことなんにもらねば……して、わたしけましたら、其切それきり仕方しかたがありません。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小心な男ほど羽目を外したおぼれ方をするのが競馬の不思議さであろうか。手引きをした作家の方があきれてしまう位、寺田は向こう見ずなけ方をした。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
伝授にしてからが、素手すでじゃあ息が合いませんから、何ぞけやしょう、コマを売りやすから、張ってごらんなさい
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「巴里留学は画学生に取っていのちをけてもの願いだ。それを、おれは、青年時代に出来なかった。だから、おれの身代りにも、むす子を置いて行く」
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
然し確証の無いことを深刻に論ずるのは感心出来無いことだ、はゞかるべきことだ、田原藤太をひて、何方どちらけようかと考へた博奕ばくちうちにするには当らない。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
全裸の男性の拳闘けんとう、レスリング、そして、その勝負に金銀、宝石、はては貞操をさえけたこともあります。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あまりに大きなものがけられているようにわたしには思われたのでした。むろん、父のむなしいけれども大きな計画がわたしにあったわけではありません。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「お前の容色きりょうなら一躍スタアになれるに違いないが、その代り貞操をけなきゃならないんじゃないかね。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
で、そこはまた拔目ぬけめのない所謂いはゆる政商せいしやうなどは莫大ばくだいもないかねけてちやう卓子たくしかこむ。そして、わざとける。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
け将棋専門で五十両百両といったような大金を軍資金としてかせぎためていた伴天連の催眠術者でした。
「この首をけてもいい、この命を賭けてもいい、おれは確かにあのパンタン人(パリー人)を知ってる。」
そこで、彼は相手に競走を申し入れ、ポンチ酒を一鉢けた。当然それは彼のものになるところだった。デアデヴィルは化け物馬を完膚ないまでやっつけたのだ。
船員も漁夫もそれを何千匹のふかのように、白い歯をむいてくる波にもぎ取られないように、縛りつけるために、自分等の命を「安々」とけなければならなかった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
わたしは自分の名誉をけたる今夜の冒険について、あまり多く考えるひまを持たないほどにいそがしく働いた。わたしははなはだ遅くなってから、ただひとりで夕飯を食った。
兄貴のフェリックス——けをしよう。僕も、苜蓿うまごやしなら食べるよ。お前は食べられないぜ、きっと。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
さア、やれ、よるよ、くろづくめのきものた、るから眞面目まじめな、嚴格いかめしい老女らうぢょどの、はやをしへてたも、清淨無垢しゃうじゃうむくみさをふたけたこの勝負しょうぶける工夫くふうをしへてたも。
胎内で小児が動くようになれば母は一種の神秘な感に打たれてその児に対するしたしみを覚えます。分娩の際には命をけて自分の肉の一部をくという感を切実にいだきます。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
おれが命をけて助けてやった、あの次郎に奪われようとしている。奪われようとしているのか、あるいは、もう奪われているのか、それさえも、はっきりはわからない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
アルカージナ け金は十コペイカよ。ドクトル、わたしの分、たて替えておいてちょうだい。
「では、むすめは、いのちをけて恋いした、雪之丞に、逢わずに死んだというわけか——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ましてけ事の場合には尚更そうで、ナオミは私と決戦すると、始めから気をんでかかり、素晴らしい勢で打ち込んで来るので、此方こちらはジリジリとし倒されるようになり
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二つのプロバビリティを比較するとき、後者が前者よりも大きいという可能性は存在する。もし私がいずれかにけねばならぬとすれば、私は後者に賭けるのほかないであろう。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
帰ると、また実験室に行き、夕方にはやめて階上に来て細君や姪とけ事をしたり、謎をかけ合ったり、もしくはシェクスピアかマコーレーを声高に読む。その中に夕食になる。
「人生に、やり直しはない、ないものにけるのは無意味だっていったのはあなたよ」
一人ぼっちのプレゼント (新字新仮名) / 山川方夫(著)
純小説にけた自己がたうてい持ち切れなくなつたので、その重荷を下したまでだ。
ヴェルレーヌ、李白りはくに至っては典型的なる純情のニヒリストで、陶酔の刹那せつなに生をけ、思慕エロス高翔こうしょう感に殉死しようとするところの、まことの「詩情の中の詩情」を有する詩人であった。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
これを買って店頭みせさき公然おもてむきに致しておりましても、たのしみを妨げる訳はないから、少しもおとがめはない事で、隠れて致し、金をけて大きな事をなさり、金は沢山あるが退屈で仕方がない
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ヴィヨンを気取り、カサノヴァを気取る此の軽薄児も、しかし、唯一筋の道を選んで、之に己の弱い身体と、短いであろう生命とをける以外に、救いのないことを、良く知っていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わたしはつまらないけ事に昂奮する細君の顏や樣子を見てゐるのも氣辛きづらいし、湧き返るやうな場内一帶の騷しさにも堪へられなくなつて、そのまゝふらりと人込ひとごみにまぎれて門を出て
畦道 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
それに自分の一生をけるようなつもりでさえいたのに、気がついた時にはもういつの間にか二人は以前の習慣どおりの夫婦になっていて、何もかもが有耶無耶うやむやになりそうになっている。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
よし! そんならけをして、勝ったほうがしまいまでむことにしよう——ほら、あそこに二人電車を待ってる女がいるだろう? あのなかの茶色の外套を着たほうが先きに電車に乗るか
字で書いた漫画 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
さて法水君、僕の心像鏡的証明法は、遺憾ながら知覚喪失オーンマハトだ。だいたい廻転椅子がどうだろうがこうだろうが、結局あの蒼白く透き通った歯齦はぐきを見ただけで、僕は辞表をけてもいいと思う。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)