じゃ)” の例文
見送ってぼんやりと佇んでいると足立駅長が洋服にじゃの傘をさして社宅から来かけたが、廊下に立ってじっと私の方を見ていた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
何処で何う聞き出して来るんですか、矢っ張りじゃみちへびね。日本橋の金輪さんの娘さんの縁談の時なぞも先方むこうかくしていたことを……
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
十数年前大坂表で、赤格子九郎右衛門一味の者が、刑死されたと聞いたとき、そこはいわゆるじゃの道はへびで、眉唾まゆつばものだと思いました。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それじゃ僕から説明して上げましょうか。これでも貴女ぐらいの程度には苦労しているつもりですからね。じゃの道はへびですよ」
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
此方から参ったのは剣術つかいのお弟子と見えてやっこじゃの傘をさして来ましたが、其の頃町人と見るとひどい目に合わせます者で
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし、塗りの下駄にじゃの目傘のお蝶を怪しむものはなく、やがて彼女は、小石川の切支丹坂を下りて獄門橋まで一息に歩いて来ました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、そんな不愉快な日ばかりもなかったのは、若葉の道をじゃがさをさしかけて、連れ立って入湯おゆにゆくような、気楽さも楽しんでいる。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
背戸せどに干した雨傘あまがさに、小犬がじゃれかかって、じゃの目の色がきらきらする所に陽炎かげろうが燃えるごとく長閑のどかに思われる日もあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分から顛倒てんとうしていて突当った人を見ると、じゃの道はへびで、追廻す蝶吉がまた追廻す探索は届いて、顔まで見知越みしりごしの恋のあだ
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弟定次郎がじゃの道はへびで支倉の悪事に感づいた事が、思えばこの事件の起る原因だったのだ。支倉は彼の脅迫を恐れて貞を殺したのだろうか。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
しかし鬼でもない、じゃでもない、やっぱり人間じゃ。その呼吸さえ飲み込むと、鬼のよめでもじゃの女房にでもなれるものじゃ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「そうか、なかなか禅味のある話でおもしれえや。じゃが出るかへびが出るか知らねえが、じゃおれがひとつ当たってやろう」
「そいつは気の毒だ。岡っ引だって鬼やじゃじゃねえ、早くそういって来さえすれば、何とかお前一人の身の振り方ぐらい考えてやったのに——」
かうなると、探索の範囲もよほど広くなるわけであるが、流石さすがじゃの道はへびで、手先は、づ近所の新宿に眼をつけた。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「いや、笑い事じゃござんせん、全く以て昔から今まで紀州の女は、執念深いで評判じゃ、いったん思い込むと、それ鬼になった、じゃになった」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実は鬼が出るかじゃが出るかと思つてゐた。見知らぬ国へ飛びこむのだ。何に出てこられても仕方がないと観念してゐた。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
あるの幼虫には背の前部に左右二つの大きないちじるしいじゃの斑紋があるが、この虫は敵に遇うと、たちまち体の前部をちぢめて太くする。
自然界の虚偽 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
村内でも工面くめんのよい方で、としもまだ五十左右さう、がっしりした岩畳がんじょうの体格、濃い眉の下にいたじゃの目の様な二つの眼は鋭く見つめて容易に動かず
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
じゃがさがはねて、助六すけろくが出るなど、江戸気分なもの、その頃のおもちゃにはなかなか暢気のんきなところがありました。
おおかた、義理も人情もわきまえない、じゃのようなおひとだったのでございましょう、ばちがあたったのでございますよ
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なほ大なるを宇波婆美うわばみといひ、極めて大なるをじゃといふなり、遠呂智とは俗に蛇といふばかりなるをぞいひけむ云々
のみならずまだ新しい紺暖簾こんのれんの紋もじゃだった。僕らは時々この店へ主人の清正をのぞきに行った。清正は短い顋髯あごひげやし、金槌かなづちかんなを使っていた。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山口県の北の海岸部には、蛇籠じゃかご祈祷きとうといって、じゃを竹籠のなかに入れて、水の底にしずめるという方法もあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
晴天に大きなじゃ傘をひろげたようであったのが、ずんずん小さくなって、黒い丸い窓のように見えるまで狭くなり、やがて黒い目玉ほどになった。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つまり底だけ残して中をくり抜くのですからそのつもりに型を一旦押し込んでそっと抜き出すとちょうどお饅頭の上へじゃが出来たようになります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
両々ゆずらず、神謀鬼策しんぼうきさくじゃの道はへび、火花をちらす両雄の腹芸はらげいというところだが、話が出来すぎているようだ。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
じゃの道はへびさ。それに、あたし、光丸さんと踊りながら、あのが、妊娠してることに気づいたよ。踊るのが苦しそうだったし、肩で息ばかりしてたわ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「行け行け。」白熊しろくまは頭をきながら一生懸命向ふへ走って行きました。象はいまごろどこかで赤いじゃの目のかさをひろげてゐるはずだがとわたくしは思ひました。
月夜のけだもの (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
まあじゃの道はへび、という工合いの附合いをしておりまして、そのひとのアパートはすぐ近くでしたので、新宿のバアが閉鎖になって女給をよしましてからも
ヴィヨンの妻 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いわゆるじゃの道はへびのたとえの如く、犯人の事情に精通しているものはやはり彼らの仲間であることから、比較的罪の軽い犯人の中の気の利いたものを選抜して
放免考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
姉もさしたに妹もささしょ同じじゃの目のからかさを——と盆踊りの唄にはずみをつけて、つぎつぎの梯子はしご酒を飲み歩くのも素性のわるい若い衆だけではなかった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
その代り世間の人からは、全く、鬼かじゃのように憎まれて来ました。私はついこの頃まで、お金さえあれば、どんなに憎まれてもかまうものかと思っていました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いいでしょう。これを朝子さんがはいて、じゃかさをさしている姿が目に浮んできてね、こんな下駄がはける人は仕合せだと思ったわ。きれいな人は、とくね。」
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
は何時の間にか太くたくましく成ッて、「何したのじゃアないか」ト疑ッた頃には、既に「そいたいのじゃ」というへびに成ッて這廻はいまわッていた……むし難面つれなくされたならば
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これまで自分の本心を明さないで、始終あざむき通しに欺いてきた上に、最後に自分が死の覚悟をする手段として、相手の女を手に懸けようとする? 俺の心は鬼かじゃか。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
町と村との境をかぎった川には、あし白楊やなぎがもう青々と芽を出していたが、家鴨あひるが五六羽ギャアギャア鳴いて、番傘とじゃがさとがその岸に並べて干されてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
父母を養うべき働きもなく途方に暮れて、罪もなき子を生きながら穴に埋めんとするその心は、鬼とも言うべし、じゃとも言うべし、天理人情を害するの極度と言うべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
吉原の鳶職は四番組で、江戸の川柳せんりゅうに「浅草に過ぎたる物が二つあり、じゃまとい、加藤大留」
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
「女房のふところには鬼がむかじゃが栖むか」と云う文句を聞くと、それがいかにも性慾的にかけ離れてしまった女夫めおとの秘事を婉曲えんきょくながら適切に現わしているのに気づいて
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「アハハハハ、それはもう、じゃの道はヘビですよ。わたしは五日ばかり前の晩の、ここのお庭でのできごとを、何もかも知っているのです。だからこそ、お伺いしたのですよ」
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
じゃの道はへびとやら——かならず何んとか、渡りをつけ、うまくさばいて下さるに相違ない——相手も女ながら、泥棒渡世をしている身、黄金を山と積んだなら、どこまでも
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
道はじゃだにを経て東山の峰を分け、滑石峠すべりいしとうげにかかって山科へ下りるのであります。峠の見晴らしは素晴らしいのです。この峠を少し下った処に山桐やまぎりの大木が一本つっ立っています。
蝶が飛ぶ 葉っぱが飛ぶ (新字新仮名) / 河井寛次郎(著)
外面如菩薩げめんにょぼさつ内心如夜叉にょやしゃなどいう文句は耳にたこのできるほど聞かされまして、なんでも若い女と見たら鬼かじゃのように思うがよい、親切らしいことを女が言うのは皆なますので
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
たとえば塗下駄ぬりげたや、帯や、じゃがさや、刀のさやや、茶托ちゃたくや塗り盆などの漆黒な斑点が、適当な位置に適当な輪郭をもって置かれる事によって画面のつりあいが取れるようになっている。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこはきっと大きな家を壊した跡なのでしょう。地面にくいが一面に立ててあって、じゃやっこ、その他いろいろの傘が干し並べてありました。大きな字のあるのは商家からの頼みでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「なんとも思っていないよ、俺はお前さんが、鬼でもじゃでもかまわないよ」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
春雨はるさめ格子戸こうしどしぶじゃひらきかける様子といい、長火鉢の向うに長煙管取り上げる手付きといい、物思う夕まぐれえりうずめるおとがいといい、さてはただ風に吹かれる鬢の毛の一筋、そらけの帯のはしにさえ
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
紺餅こんがすりを着てじゃかさを差して、ちょっといい男でしたわ」
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
……赤い舌を出した麦藁のじゃをひさぐので知られている。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
じゃの道はへびだと感心した。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)