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苫
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とま
ふりがな文庫
“
苫
(
とま
)” の例文
漁船の上は、すっかり、
苫
(
とま
)
を敷きならべ、中に、食糧や、夜具や、そして豊田から運び出した重宝の一部だの、すべてを積み隠した。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
崩れた石垣の上から覗くと、其處には
苫
(
とま
)
を掛けた船が一隻、人が居るとも見えず、上げ潮に搖られて、ユラユラと岸を
嬲
(
なぶ
)
つて居ります。
銭形平次捕物控:080 捕物仁義
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
項
(
うなじ
)
を
立
(
た
)
てた
苫
(
とま
)
も
舷
(
ふなばた
)
も
白銀
(
しろがね
)
に、
珊瑚
(
さんご
)
の
袖
(
そで
)
の
搖
(
ゆ
)
るゝ
時
(
とき
)
、
船
(
ふね
)
はたゞ
雪
(
ゆき
)
を
被
(
かつ
)
いだ
翡翠
(
ひすゐ
)
となつて、
白
(
しろ
)
い
湖
(
みづうみ
)
の
上
(
うへ
)
を
飛
(
と
)
ぶであらう。
氷柱
(
つらゝ
)
の
蘆
(
あし
)
も
水晶
(
すゐしやう
)
に——
城崎を憶ふ
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
ゆうべは小屋に備えてある
衾
(
ふすま
)
があまりきたないので、厨子王が
薦
(
こも
)
を探して来て、舟で
苫
(
とま
)
をかずいたように、二人でかずいて寝たのである。
山椒大夫
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
「俺と
伯父
(
おじ
)
さんとは、これから
陸
(
おか
)
へ往って来る、お客さんが、飯がすんだら、
蒲団
(
ふとん
)
をかけて、
苫
(
とま
)
を立ててあげろ、苫を立てんと風邪を引く」
参宮がえり
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
▼ もっと見る
苫
(
とま
)
をかかげて外へ眼をやると、水も空も同じやうにしつとりと青藍の色に濡れとほり、まん円い大きな月が静かにちぎれ雲の上で踊つてゐた。
独楽園
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
山陰道筋の鉢屋を
苫
(
とま
)
とも、
蒲
(
かま
)
とも云ったのは、薦を携帯しているが故に薦僧であり、またその薦を苫として小屋がけの屋根を
葺
(
ふ
)
くが故に苫と云い
くぐつ名義考:古代社会組織の研究
(新字新仮名)
/
喜田貞吉
(著)
それから、
苫
(
とま
)
と
筵
(
むしろ
)
をいくらでもさらって来い、そうして、左っ手の垣根から
船縁
(
ふなべり
)
をすっかり
結
(
ゆわ
)
いちまえ、いよいよの最後だ、帆柱を切っちまうんだ
大菩薩峠:18 安房の国の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
其船の船頭は
目腐
(
めくさ
)
れの中年の男で、今一人の若い方の船頭は頻りに荷物を運んで居た。髪を束ねた
上
(
かみ
)
さんは
苫
(
とま
)
やら
帆布
(
ほ
)
やらをせつせと片付けて居た。
朝
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
此方
(
こちら
)
は猿子橋の
際
(
きわ
)
に汚い
足代
(
あじろ
)
を掛けて、
苫
(
とま
)
が掛っていて、籾倉の
塗直
(
ぬりなお
)
し、其の下に
粘土
(
ねばつち
)
が有って、一方には
寸莎
(
すさ
)
が切ってあり、職人も大勢這入って居るが
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
市の中学からおそらく一週間ぶりに帰った子供はこの一夜を父母と同じ
苫
(
とま
)
の下で明かそうとするのであろう。
写生紀行
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
気のきいた船頭が、幕や
苫
(
とま
)
で囲いをして用をたさせると、まるで、源平両陣から
那須与一
(
なすのよいち
)
の
扇
(
おうぎ
)
の
的
(
まと
)
でも見るように、は入る人が代るたびごとにヤアヤアと
囃
(
はや
)
す。
旧聞日本橋:17 牢屋の原
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
眼の前にぐいと五大力の
苫
(
とま
)
を
葺
(
ふ
)
いた
舳
(
へさき
)
が見え、厚く積った雪の両端から馬の首のように
氷柱
(
つらら
)
を下げている。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
舳の三角になったところに日除の
苫
(
とま
)
を掛け、日の出から日没まで、東北のほうばかりを眺め暮していた。
重吉漂流紀聞
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
いそに
漂着
(
ひょうちゃく
)
したる丸太や竹を
梁
(
はり
)
や
桁
(
けた
)
とし、
芦
(
あし
)
を
結
(
むす
)
んで屋根を
葺
(
ふ
)
き、
苫
(
とま
)
の破片、
藻草
(
もぐさ
)
、松葉等を掛けてわずかに
雨露
(
あめつゆ
)
を
避
(
さ
)
けたるのみ。すべて
乏
(
とぼ
)
しく荒れ果てている。
俊寛
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
苫
(
とま
)
をかむった四個の舟、煙を吐いている一個の川蒸汽、浮かんでいるものといえばそれだけであった。
畳まれた町
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
川のうえの魚ぶねは、その
苫
(
とま
)
を
魚鱗
(
うろこ
)
のように列ねて、橋桁の下も、また賑やかな街をつくっている。
煩悩秘文書
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
下り船は左右の舟ばたで船頭が竿をさす。時々岸辺の葦に船が触れてサラサラと淋しい音がした。雨が来ると
苫
(
とま
)
をふいた。夜船のことだから船中に小田原提灯をともした。
鳴雪自叙伝
(新字新仮名)
/
内藤鳴雪
(著)
鳥居の下から舟を雇つて潮來へ向ふ、
苫
(
とま
)
をかけて帆あげた舟は快い速度で廣い浦、狹い河を走つてゆくのだ。ずつと狹い所になるとさつさつと眞菰の中を押分けて進むのである。
水郷めぐり
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
夏中
洲崎
(
すさき
)
の
遊廓
(
ゆうかく
)
に、
燈籠
(
とうろう
)
の催しのあった
時分
(
じぶん
)
、夜おそく舟で
通
(
かよ
)
った景色をも、自分は一生忘れまい。
苫
(
とま
)
のかげから漏れる鈍い
火影
(
ほかげ
)
が、酒に
酔
(
え
)
って
喧嘩
(
けんか
)
している
裸体
(
はだか
)
の船頭を照す。
深川の唄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
しばらく彼は書記官としての自分の勤めも忘れて、大坂
道頓堀
(
どうとんぼり
)
と淀の間を往復する川舟、その屋根をおおう画趣の深い
苫
(
とま
)
、雨にぬれながら
櫓
(
ろ
)
を押す船頭の
蓑
(
みの
)
と
笠
(
かさ
)
なぞに見とれていた。
夜明け前:03 第二部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
雨の三十間堀へ、
苫
(
とま
)
を掛けた伝馬船が一艘、ゆっくりと入って来るのが見えた。
しじみ河岸
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
それはたくさんの蛇を殺して土中にうずめ、それに
苫
(
とま
)
をかけて、常に水をそそいでいると、毒気が蒸れてそこに怪しい
蕈
(
きのこ
)
が生える。それを乾かして、さらに他の薬をまぜ合わせるのである。
中国怪奇小説集:10 夷堅志(宋)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
象潟
(
きさがた
)
の猟師のひなびた
苫
(
とま
)
ぶきの家、佐野の舟橋、木曾の
桟橋
(
かけはし
)
などのありさまは、どれひとつとして心
惹
(
ひ
)
かれないところはなかったが、そのうえなお西国の名所・歌枕を見たいものだと思って
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
川くまを廻り来る船は
苫
(
とま
)
をかかげて、櫓声ゆるく流を下す、節おもしろき船歌の響を浮べ、白き霧は青空のうちにのぼりゆく、しかも
仍
(
なほ
)
朝日子
(
あさびこ
)
の出でむとするに向ひてかの山の端を一抹したる
松浦あがた
(新字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
日がさす、雨がふる、いずれにも無論のこと
苫
(
とま
)
というものを
葺
(
ふ
)
きます。
幻談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
二人が土手で騒いでいる声を聴いて、中洲の蘆間を分けて出て来たのは、
苫
(
とま
)
の代りに帆で屋根を張った荷足り船で、艪を漕いでいるのは、弁天娘のお玉だが、若殿六浦琴之丞の姿は見えなかった。
悪因縁の怨
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
これをまた
苫葺
(
とまぶ
)
きとも呼ぶのは、舟の
苫
(
とま
)
などもこの葺き方だったからで、
田舎
(
いなか
)
ではまた
逆
(
さか
)
さ
藁
(
わら
)
ともいって、ふつうの
住居
(
すまい
)
にはきらってこうは葺かず、ちょうどその反対に根本のほうを
軒先
(
のきさき
)
に向けて
母の手毬歌
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
わたしは
画
(
え
)
の中の仙境がここへ出現したのかと思った。この時船はいっそう早く走って、まもなく舞台の人が見え、赤い物や青い物が動いて舞台の側の河の中に
真黒
(
まっくろ
)
に見えるのは、見物人の船の
苫
(
とま
)
だ。
村芝居
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
苫
(
とま
)
を突きぬいて、川中へ飛び込んで仕舞ったです。
大利根の大物釣
(新字新仮名)
/
石井研堂
(著)
秋の田の刈穂の庵の
苫
(
とま
)
を荒み我衣手は露にぬれつゝ
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
黙々とした
水夫
(
かこ
)
、おびえた夢に
苫
(
とま
)
をかぶっている旅客、
人魂
(
ひとだま
)
のような魚油燈、それらを乗せて、船脚は怖ろしいほど
迅
(
はや
)
くなっている。
鳴門秘帖:04 船路の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
崩れた石垣の上から覗くと、そこには
苫
(
とま
)
を掛けた船が一
隻
(
せき
)
、人が居るとも見えず、上げ潮に揺られて、ユラユラと岸を
嬲
(
なぶ
)
っております。
銭形平次捕物控:080 捕物仁義
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
そん時だ、われの、顔は
真蒼
(
まっさお
)
だ、そういう
汝
(
おめえ
)
の
面
(
つら
)
は黄色いぜ、と
苫
(
とま
)
の間で、てんでんがいったあ。——あやかし火が通ったよ。
海異記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
尤
(
もっと
)
も抽斎をして不平に堪えざらしめたのは、栄玄が庶子
苫
(
とま
)
を遇することの甚だ薄かったことである。苫は栄玄が
厨下
(
ちゅうか
)
の
婢
(
ひ
)
に生せた
女
(
むすめ
)
である。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
湖のなかにも小舟が右に左にあたふたと動いていた。それは皆俗に
杭州舟
(
こうしゅうぶね
)
と云っている
苫
(
とま
)
を屋根にした小舟であった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
それにヂリヂリと上から照り附けられる
苫
(
とま
)
の中も暑かつた。
盲目
(
めくら
)
の婆さんは、
襦袢
(
じゆばん
)
一つになつて、
濡
(
ぬら
)
して
絞
(
しぼ
)
つて貰つた手拭を、
皺
(
しわ
)
の深い胸の処に当てゝ居た。
朝
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
市の中學から恐らく一週間ぶりに歸つた子供は此一夜を父母と同じ
苫
(
とま
)
の下で明かさうとするのであらう。
写生紀行
(旧字旧仮名)
/
寺田寅彦
(著)
と
固
(
もと
)
より荷足船が参って居りまするから、これへ小三郎音羽の二人に安吉を乗せ、
苫
(
とま
)
を掛けて
粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分):02 粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分)
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
苫
(
とま
)
をはぐって一艘の舟から現われた泰軒は、お艶のその後のとらわれの次第、場所、そしてそこに乾雲丸をもつ隻眼隻手の客丹下左膳がひそんでいることなどを話したのち
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
しとしとと来た雨の夜泊の船中で、
寝
(
い
)
ねがてた
苫
(
とま
)
の雫の音を聞いていると翁の胸はしきりに傷んだ。翁は拾って来た娘の家の庭の小石を懐から取出して船燈のかげで検めみる。
富士
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
さきに
苫
(
とま
)
や
筵
(
むしろ
)
を巻きつけておいた
船縁
(
ふなべり
)
へ向って、やや斜めに
摚
(
どう
)
と落ちかかりました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
八
むらさき
艶
(
にほ
)
ふ武蔵野の原、
九
塩竈
(
しほがま
)
の
和
(
な
)
ぎたる朝げしき、
一〇
象潟
(
きさがた
)
の
蜑
(
あま
)
が
苫
(
とま
)
や、
一一
佐野の
舟梁
(
ふなばし
)
、
一二
木曾の
桟橋
(
かけはし
)
、心のとどまらぬかたぞなきに、
猶
(
なほ
)
西の国の歌枕見まほしとて、
一三
仁安三年の秋は
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
苫
(
とま
)
は既に
取除
(
とりの
)
けてあるし、舟はずんずんと出る。
幻談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
そこの
苫
(
とま
)
の陰には、船頭の妻とも見えぬ
嫋
(
なよや
)
かな病人が、つかね髪を木枕にあてて、白い
面
(
おもて
)
をなかば、夜具の
襟
(
えり
)
にかくして寝ていた。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「それで、大方の話はわかつたが、
苫
(
とま
)
の三七郎から預つた、何んかの大事さうな書き物はどうした、無事だつたのか」
銭形平次捕物控:278 苫三七の娘
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
苫
(
とま
)
も何も吹飛ばされた、恐しい音ばかりで雨が降るとも思わねえ、
天窓
(
あたま
)
から水びたり、真黒な海坊主め、船の前へも後へも、右へも左へも五十三十。
海異記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
暑くないやうに、一ところ
苫
(
とま
)
が
葺
(
ふ
)
いてあつて、
其処
(
そこ
)
に長火鉢や茶箪笥が置いてある。炭取には炭が入れられてある。いつでも茶位入れられるやうになつて居た。
朝
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
刀を持ったなりドブリと綾瀬川へ飛び込むと、
葮
(
よし
)
葦
(
あし
)
の繁った処に一艘船が
繋
(
つな
)
いで居りましたが、
苫
(
とま
)
を揚げて
立出
(
たちいで
)
たは荷足の仙太郎で、
楫柄
(
かじづか
)
を振り上げて惣兵衞の
横面
(
よこつら
)
を殴る。
粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分):02 粟田口霑笛竹(澤紫ゆかりの咲分)
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
昭青年だとて、先にあてがあるわけではありませんが、差当って今の取り
做
(
な
)
し方としては、これ以外に無かったのでした。あたりを
見廻
(
みまわ
)
すと、幸い、
苫
(
とま
)
で四方を包んだ船がある。
鯉魚
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
苫
漢検準1級
部首:⾋
8画
“苫”を含む語句
苫舟
苫田
苫屋
苫船
苫小牧
苫屋根
黒苫
苫掛船
苫裏
苫被
苫葺
苫茅
苫数
大苫辺尊
苫掛
苫家
苫前
白苫
片苫
大苫邊尊