ふさ)” の例文
旧字:
いづれも模造の品物を並べたうしろ一面、金砂子の鳥の子紙を張つた仕切壁に、紅葉山人の俳句短冊二枚を入れたふさつきの雲板をつり
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
で、私は後へ引退ひききがった。ト娘の挿したかんざしのひらひらする、美しいふさ越しに舞台の見えるのが、花輪で額縁を取ったようで、それもよしさ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとえば「雀の毛槍」などは、私等がいてもてあそんだのは、もっと茎が長々として花のふさが大きく、絵にある行列のお供の槍とよく似ていた。
やさしいニンフ達は、波打った羽毛はねの黒いふさのついた兜を、いつでもパーシウスの頭にかぶらせることが出来るように、用意していました。
それから猫に赤い首玉を入れて鈴をつけて、女の襟と袖口と帯とに赤い線を少し引いて、頭にはふさのついたかんざしを一本けた。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
門の外に、八重桜の老木があって、ふっくりとしたふさのような花を揉付もみつけるようにつけていた。お力がその下まで来た時
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勤行ごんぎょうの時間には、柄の曲がった籐杖とうづえにもたれて、黒い線と銀のふさのある白い腕章をつけ、教会堂の入り口に見張りをしてる、彼の姿が見受けられた。
最初の朝、金のふさのついた帽子をかぶせられて、おばあさんに伴われながら、私はその幼稚園の門の前まで行った。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「酒はおれたちで造るんでどっさりある。それに帽子はすじの入ったふさつきのでも女たちがこさえてくれる。」
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
たけは一尺ばかり、細く裂いた布が、ふさのように上から垂れ下り、それがほとんど丸い形にまでふくれている。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
晩飯に私は海産のぜん虫——我国の蚯蚓みみずに似た本当の蠕虫で、只すこし大きく、一端にあるふさから判断すると
蝶蝶のやうに飛びあがり飛びくだるお手玉といつしよにお蕙ちやんの顔がうなづくたんびに紅白だんだらに染めた簪のふさ蟀谷こめかみのあたりにはらはらとみだれる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
戦争の気配もないのに、大砲の音が遠くできこえ、城壁の周囲まわりに立てた支那の旗が、青や赤のふさをびらびらさせて、青竜刀の列と一所に、無限に沢山連なっていた。
三つ輪に結つてふささがつた被布ひふを着るおめかけさまに相違は無い、どうしてあの顔で仕事やが通せる物かとこんな事をいつてゐた、己れはそんな事は無いと思ふから
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
マタイ伝九の二〇、ルカ伝八の四四には「御衣みころもふさ」とあります。ユダヤ人の上衣には四隅に総がつけてありました(民数紀略一五の三八、マタイ伝二三の五参照)
◎赤いふさのついた防寒帽をかぶって蒙古少年が歩いてる。蒙古人の居るところ目立って野犬が多い。
クロンウェルが二本の蝋燭ろうそくの一本を吹き消したように、彼はタンブルの殿堂へ行って窓掛けのふさに難癖をつけた。彼はあらゆることを見、あらゆることを知っていた。
ふさで絞った幕の背後に御簾を高く捲き上げられてあったのを、お君は今まで気がつきませんでした。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
或時は高さ三碼にも達する巨大なふさづきの毬を形つくり、純金の壮麗な箒でもつて蔽はれ、その香芬は、灼熱した太陽の威烈のもとに謂ひ知れぬ歓喜を漲らすのである。
卓上演説 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
それはあたかも古い腐った棺桶に金鍍金きんめっきをして、新しい灰色のふさで飾られたようなものであった。
阿父さんの小ボブは襟巻を、ふさを除いて少くとも三尺はだらりと下げて、時節柄見好いように継ぎを当てたり、ブラシを掛けたりした、擦り切れた服を身に着けていた。
にわかにふさの長い珠数じゅずに持ちかえ、父母にもすすめて、朝夕お題目をあげて、父母は何の事かわからぬが子供に甘い親なので、とにかく次郎右衛門の言いつけどおりに
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
人のこころの縒総よりふさ、まことと嘘、芝居と生地、その中のたった一筋を取出してこれぞそのしんと保証してみたところでふさの正体の説明になるわけのものではありません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かぜすこいてりましたが、そらには一てんくももなく、五六もあろうかとおもわるるひろ内海いりうみ彼方かなたには、ふさくにひく山々やまやまのようにぽっかりとうかんでりました。
頬には一束の毛がふさのようにむらがっている。ひげは白く太い。——しかしその獰猛どうもうさを一番に語っていそうなのは、しなやかな丸太棒とでもいいたいようなその四肢だった。
黒猫 (新字新仮名) / 島木健作(著)
電燈はふさになったり大きなたばになったりして、空中いたるところから萌え出ながら、昼よりもずっと明るい、稀薄な、金色こんじきの神々しい光を広間いっぱいにふるわせている。
神童 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
外国の小説らしい本が半ば開けられて、そこにちやんと赤いふさのついた枝折しをりが挟んであつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ヴィオロオヌは、古靴をひっかけ、一時いっとき寝台の間をうろつき廻る。こっちでは一人の生徒の足をくすぐってみたり、あっちでは、もう一人の生徒の頭巾ずきんふさをひっぱったりする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
飾りにらしている二、三列の長いふさによって特に不快な印象を強く与えるものだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
苦力頭は軍隊使用の苦力らの取締役のようなもので、胸には徽章きしょうをつけ、手には紫のふさの付いているむちを持っている。丁のような人の眼にも、それがうらやましく見えたのであろう。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで再び旅籠を下してやると、今度は重く、やうやく引上げてみると、殿様は片手に縄をしつかとおさへてドッコイショと上つてきて、片手には平茸を三ふさほどぶらさげてゐる。
土の中からの話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
段々引裂かれて半分近くまでもはす削掛けずりかけのようにふささがってる帯を平気で締めていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ところへまたも、一群の正規兵が、隊伍たいご粛々しゅくしゅくと、目の前を通りすぎた。ふさつきの立て槍を持った騎馬隊と鉄弓組の中間には、雪白の馬にまたがった眉目びもくするどい一壮士の姿が見えた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今それを学名で書けば Brassica oleracea L. var. botrytis L. である。(botrytis とは群集してふさをなしている状を示す語)
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
あらかじめ訪問日を問合さず突然に来た事を謝して取次を頼んで居ると、ほそやかな姿の少し白髪しらがのある四十五六歳の婦人が、薄鼠色の服を着て黄金きんふささがつた小さな手提革包てさげかばんを持ちなが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
其の葉の隙から時々白く、殆ど銀の斑点はんてんの如く光って見える空。地上にも所々倒れた巨木が道を拒んでいる。攀上よじのぼり、垂下り、絡みつき、輪索わなを作る蔦葛つたかずら類の氾濫はんらんふさ状に盛上る蘭類。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
入口に掛けたる厚き幕はふさに絞らず。長く垂れて床をかくす。かの足音の戸の近くしばらくとまる時、垂れたる幕を二つに裂いて、髪多くたけ高き一人の男があらわれた。モードレッドである。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふちに大きい花模様があって、金糸銀糸のふさを垂れている真っ紅な緞子どんすの窓掛けをかかげて私は美しい死人をうかがうと、彼女は手を胸の上に組み合わせて、十分にからだを伸ばして寝ていました。
鶴をとらえた鷹はその功によって紫のふさをつけて隠居させる規定。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私の頭の上でふは/\とふさがさばけるのを感じようとして、わざと頭を振つて歩いて見たりした。京言葉を使ふのにも、さして気まり悪くなくなつた。塩風に吹かれて黒かつた顔色も幾らか白くなつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
赤いふさある天鵞絨びろおどの帽子を
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
黄金きんふさうづまり
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と、お珊が二度ばかり勧めたけれども、騒立さわぎたつらしい胸の響きに、烏帽子のふさの揺るるのみ。美津は遣瀬やるせなげに手を控える。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またほこりもはいった。羊の毛みたいに大きなふさをなした埃もあった。しかし彼はそんなものに気を留めなかった。
私などもまだ播州ばんしゅうにいたころ、大きな西洋釘せいようくぎに紙のふさを附けたものを、地面に打付うちつけているのを見たことがあるが、あぶないといって持つことを許されなかった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
船首へさきに竜の彫刻ほりものがある。その先からふさが下がっている。月光に照らされて朦朧と見える。魔物のように速い速い。六人が櫂を漕いでいる。一人が梶を握っている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
葡萄の棚より露重げに垂れ下る葡萄を見上みあぐれば小暗おぐらき葉越しの光にそのふさの一粒一粒は切子硝子きりこガラスたまにも似たるを、秋風のややともすればゆらゆらとゆり動すさま
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
初々ういういしき大嶋田結ひ綿のやうに絞りばなしふさふさとかけて、鼈甲べつかうのさし込、ふさつきの花かんざしひらめかし、何時よりは極彩色ごくざいしきのただ京人形を見るやうに思はれて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
頂きはしばしば四つのふさで飾られてある。糸かがりが面白いのみか、笠の裏側がまた美しい。色々な布で色々な形の裏をつける。皆綿入わたいれで裁縫の手並てなみをここでも見せる。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すべてその所作しわざは人に見られん為にするなり、即ちその経札きやうふだを幅ひろくし、ころもふさを大きくし、饗宴ふるまひの上席、会堂の上座、市場にての敬礼、また人にラビと呼ばるることを好む。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)