結縁けちえん)” の例文
(玉日、そなたはわしに救われ、わしはそなたに救われた、この結縁けちえんから、わしら夫婦は、何を生まねばならないか)といおうか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
建久けんきゅう九年十二月、右大将家うだいしょうけには、相模川さがみがわの橋供養の結縁けちえんのぞんだが、その帰途馬から落ちたので、供養の人びとに助け起されてやかたへ帰った。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
問題はしげくまた末遠く、とてもその一端を究めるだけの、時すらもここには無さそうに思われるが、念ずるということもまた結縁けちえんである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
垂しより已來このかた本尊ほんそん現化げんげの秋の月はてらさずと云所も無く眷屬けんぞく結縁けちえんの春のはなかをらずと云ふ袖も方便はうべんかどには罪有る者をばつがた抑々そも/\義長の品行おこなひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
再び人間と人間とを結合させ、人間と自然とを結縁けちえんせしめねばならぬ。二つの事実が一層私のこの思想に根拠を投げる。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「今日は是非行かねばならん用事があるのだ。そうもして居られない。だが、そう聴いた以上は素通りもなるまい。せめて結縁けちえんのしるしなりと、どれ」
茶屋知らず物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今の時世ときよに、またとない結縁けちえんじゃに因って、半日も早うのう、その難有ありがたい人のお姿拝もうと思うての、やらやっと重たい腰を引立ひったてて出て来たことよ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例へば結縁けちえんの説教を聽きに行つた日の暑さの描寫なぞも、今までよりはつきりと感じられるであらうと思ふ。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
高源寺の住職の夢に地蔵尊があらわれて、我れは寺内の墓地の隅にあって、土中に埋めらるること二百余年、今や結縁けちえんの時節到来して人間に出現することとなった。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、僕は敵国人の行動を報告すべき重大任務を有するし、又とても脱走が成功するとは思わない。今は少しでも彼女と魂をあいせて、未来の結縁けちえんを祈るばかりだ。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
広沢は自分の書いた物で、仏様に結縁けちえんが出来る事なら、こんな結構な事は無からうと思つて、安受合やすうけあひ引請ひきうけた。そして僧侶ばうずを待たせておいて直ぐその場で書き出した。
法然が亡くなった後は善恵房ぜんえぼうを頼んでいたが、結縁けちえんの為めに四帖の疏の文字読みばかりを受け
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かくの如きの物語、六道りくどうちまた娑婆しゃばにあらはし、業報ごっぽう理趣ことわりを眼前に転ず。聞く煩悩即菩提ぼんのうそくぼだい六塵即浄土ろくじんそくじょうどと、呉家祖先の冥福、末代正等正覚まつだいしょうとうしょうがく結縁けちえんまことにかぎりあるべからず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
十一二位から頭髪あたまって出家になるのも仏の結縁けちえんが深いので、誠に善い御因縁で、通常なみの人間で居ると悪い事ばかりするのだが、う遣って小さい内から寺へ這入ってれば
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
弥陀の像有り浄土の図ある者は、礼敬らいきょうせざるなく、道俗男女、極楽に志す有り、往生を願う有る者は、結縁けちえんせざるし、と云って居るから、四十以後、道心日に募りてみ難く
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さすれば上高地の小峡谷は、日本アルプスの順礼のためには、結縁けちえんの大道場である。
上高地風景保護論 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
当家においては御両家の結縁けちえんのためにこそ御加勢もいたしつれ、さる不義非情の御加勢は決してできぬこと、良人おっとに相談するまでもなくその義は堅くお断わり、ときっぱりとはねつけつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
次には北国を廻りましたが、とても、自分のような半出家の者は国々を歩いてどのようなとうとい知識にも逢い、結縁けちえんをも願い、そのあいだには名所舊跡を見て胸のうちを慰めよう、それにまた
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかしながら自分はでき得るかぎり多くの隣人と結縁けちえんしたい。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
浅からぬ随喜結縁けちえんの思いをなしたとある。
春のひと夜の結縁けちえんせうぜむ杖と
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
結縁けちえんうたがいもなき花盛り
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
否、工藝と模様とには離れ得ない結縁けちえんがあると云ってよい。否、模様化された世界に工藝が活きるとさえ云ってよい。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
さて、おなご衆さん、わしはゆうべ持っとる金をすっかりつかい果した。今朝の朝飯代が無い。あんたの仏道の結縁けちえんにもなる事だから、この旅僧に一飯供養しなさい
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ふもとの西明寺の庫裡くりの棚では、大木魚の下に敷かれた、女持の提紙入ハンドバックを見たし、続いて、准胝観音じゅんでいかんのん御廚子みずしの前に、菩薩が求児擁護ぐうじようご結縁けちえんに、紅白の腹帯を据えた三方に
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道中にも片足満足な草鞋わらじすてぬくらい倹約つましくして居るに、絹絞きぬしぼり半掛はんがけトつたりともあだに恵む事難し、さりながらあまりの慕わしさ、忘られぬ殊勝さ、かゝる善女ぜんにょ結縁けちえんの良き方便もがな
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
法然は重衡卿から贈られた鏡を結縁けちえんのために贈り遣わしたということである。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……しかしおとと、この善信は遠国へ流さるるとても、決して、悲しんでたもるまい。念仏弘世ぐせのため、衆生しゅじょうとの結縁けちえんのため、御仏の告命こくみょうによって、わしは立つのだ。教化きょうげの旅立ちと思うてよい
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前世に佛法の結縁けちえんがあればこそ人とも生れたのだろうが、たま/\人間を受けた時に佛の道を修行して善人とまではならなくとも、せめて世の中のなさけをでも知っていることか、こんな大悪人になって
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
したがって「民藝品たること」と「美しい作たること」とには堅い結縁けちえんがあるのです。これに反し貴族的な品が美しい作となるのは極めて困難なのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
真個まことに、ああいう世にまれな美人ほど、早く結縁けちえんいたして仏果ぶっかを得たためし沢山たくさんございますから。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寂照が願文がんもんを作って、母の為めに法華ほっけ八講はっこうを山崎の宝寺にしゅし、愈々本朝を辞せんとした時は、法輪さかんに転じて、情界おおいに風立ち、随喜結縁けちえんする群衆ぐんじゅ数を知らず、車馬填咽てんえつして四面を成し
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして本尊に、御自身の念持仏ねんじぶつ——胸にまんじの彫ってある阿弥陀如来あみだにょらい像をおさめて——今生の衆生しゅじょう結縁けちえんと、来世の仏果ぶっかのために施与せんというのが、安楽寿院創建の御願ぎょがんとされるところらしい。
「さあさあ、皆さんや、これから上人様がお手ずからお名号をお授け下さる、結縁けちえんのお方はこれより一人ずつお通り下さい、お受けになったお方は、あちらからもとのお席へお直りなさるように」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
工藝の美と民藝との間に固い結縁けちえんがあることを示してくれます。この真理は将来とても変りがないはずです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
じつ土手どて道哲だうてつ結縁けちえんして艷福えんぷくいのらばやとぞんぜしが、まともに西日にしびけたれば、かほがほてつて我慢がまんならず、土手どてくことわづかにして、日蔭ひかげ田町たまちげてりて、さあ、よし。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
菩提ぼだいの悲願に結縁けちえんのため
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
才なき者も愚な者も、ことごとくその法界のさ中に活きているのである。それ故この法性に在らば何人も美に居る人以外ではない。拙な者も拙なままで美に結縁けちえんされているのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
結縁けちえんしょう。年をとると気忙きぜわしゅうて、片時もこうしてはおられぬわいの、はやくその美しいお姿を拝もうと思うての。それで、はい、お婆さん、えッちらえッちら出て来たのじゃ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尽きぬ魅力が私の心を誘う。ここにこそ工藝と模様との裂き得ぬ結縁けちえんが示されてある。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
其処そこで自動車の中へ番傘を二本まで、奥の院御参詣結縁けちえんのため、「御縁日だとこの下で飴を売る奴だね、」「へへへ、お土産をどうぞ。」と世馴れた番頭が真新しい油もまだ白いのを
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔から聖人たちが質素な生活と健全な生活とには深い結縁けちえんがあると教えているのを想い起します。贅沢や遊びはとかく悪の原因になることを工藝の世界でも学ぶことが出来るのであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
如何いかんとなれば、乘客等じようかくらしかころしてじんさむとせし、この大聖人だいせいじんとく宏大くわうだいなる、てん報酬はうしうとしてかれ水難すゐなんあたふべき理由いはれのあらざるをだんじ、かゝ聖僧せいそうともにあるものは、この結縁けちえんりて
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
先生様が言わっしゃるには、伝もない、おしえもない。わしはどうした結縁けちえんか、その顔色かおつきから容子ようすから、野中にぼんやり立たしましたお姿なり、心から地蔵様が気に入って、明暮あけくれ、地蔵、地蔵と念ずる。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)