こぶ)” の例文
「灰色のざらざらした者ではございますが、は小さくていつも笑ってゐるやう。頭には聖人のやうな立派なこぶが三つございます。」
月夜のけだもの (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
それから中一年置いて、家康が多年目の上のこぶのように思った小山の城が落ちたが、それはもう勝頼のほろびる悲壮劇ひそうげきの序幕であった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やがて、こぶみねのてッぺんにある、天狗てんぐ腰掛松こしかけまつの下にたった竹童ちくどうは、頓狂とんきょうな声をだしてキョロキョロあたりを見まわしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肩や腕の肉が、こぶのように盛り上る。這うように動く。見物は讃嘆の声を呑んで、見守っている。われに返ったように、ざわめく。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ゆさぶる膝の手応えは太根を張った大松の木のこぶかと思われるばかり、なかなか微動を揺りだすことも絶望に見える有様であった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
衣服きものを剥がれたので痩肱やせひじこぶを立てているかきこずえには冷笑あざわらい顔の月が掛かり、青白くえわたッた地面には小枝さえだの影が破隙われめを作る。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
とさけびましたが、もうっつきませんでした。両方りょうほうのほおへ二つこぶをぶらげて、おいおいきながら、山をくだって行きました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それから大川端の白鷹正宗の問屋を訪うてそこの主人の額にこぶのある大入道から新聞の種を引出さうとあせつてゐるうちに電氣が來た。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「ああ痛え、ひでえめにあわしゃあがる」出平は額をさすりさすり起き上がった、「まるでつむじ風みてえな奴らだ、ああこぶが出来た」
厚さ三尺ないし八尺、黒竜江の氷は、なおその上に厚さを加えようとして、ワチワチ音を立て、底から表面へこぶのようにもれ上ってきた。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
こぶだらけの黒松が、五六本行列はしてゐるものゝ、その木と木の間ががらんとして、森にあるべき茂味しげみといふものがまるでない。
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
いや、鬼というものは元来我々人間よりも享楽きょうらく的に出来上った種族らしい。こぶ取りの話に出て来る鬼は一晩中踊りを踊っている。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
北海道歌志内うたしなの鉱夫、大連だいれん湾頭の青年漁夫、番匠川ばんしょうがわこぶある舟子ふなこなど僕が一々この原稿にあるだけを詳しく話すなら夜が明けてしまうよ。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こぶかのように起伏しており、森や林が飛び散っていたが、春陽を受けてそれらの物象は、紫ばんだ陰影と、黄ばんだ日向ひなたとを織っていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
仕事を探すにしても、女中の口より外にはなく、しかも赤ん坊というこぶがついているものだから、何処へ行ってもねられた。
小さきもの (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
反絵はふと上をあおぐと、榧のこずえの股の間に、奴隷の蜥蜴とかげ刺青ほりものが青いこぶのように見えていた。反絵は蜥蜴をねらって矢を引いた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
道理どうれで頭にこぶが出来てらあ。そんな不作法な頭あ、るなあ骨が折れていけねえ。今日は勘弁するから、この次から、ね直して来ねえ」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その頸が遠く飛んで岩木山の上に落ち、岩木山の肩にはこぶみたいな小山が一つついているのが、その東嶽の頸であったという人があります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大木の根元の幹は六抱えもある巨木で、肌は粗い亀裂破ひびわれがしていながら、ところ/″\駱駝らくだの膝のようなこぶをつけています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
岩は殆ど峭立きったったようにけわしいが、所々には足がかりとなるべき突出とっしゅつこぶがあるので、それを力に探りながら徐々そろそろと進んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
座蒲団なんてえものもなく、荒削りの松板にぢかに坐っている上にあっちこっちにぶっつけるもんだから頭じゅうこぶだらけ。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
医師も呼吸器病ぐらいに考えて呑気に構えているうちに、とうとうそのこぶの頭が紙みたいに薄くなるまで膨れて来て、やがてボカンと破裂する。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「光陰」のタッチの軽快、「こぶ」のペエソス、「百日紅さるすべり」に於ける強烈な自己凝視など、外国十九世紀の一流品にも比肩ひけん出来る逸品と信じます。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
もし、その差別けじめをクッキリとつけることが出来れば、もう木のこぶの貴方のところへは、私、二度とはまいりますまいが……
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その形は、ちょっと『八島』や『千代田』に似ているが、ふなばたが、ひどくふくれて、いかめしい恰好をしている。そしてみよしに、大きい鋼鉄のこぶがある。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
ペルシア語の小山 kuh(クフ)は「きゅう」や「こう」に縁がある。アイヌの「コム」もやや似ている。この「コム」は小山であり、またこぶである。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし、年をとるにつれて、樹皮がこぶだらけになり、凹凸おうとつができる一方、たくさんの短い枝が幹にあらわれるのである。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
ただ幸いなことに河合も山木も、おでこにこぶをこしらえたぐらいのことで、生命に別条はなく、一方、張もネッドも、すぐ砂の中からはい出した。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
植物のいぼであるこぶがいっぱいできてる一本の大木が、その石の山から数歩の所にあった。男はその木の所へ行って、その幹の皮を手でなで回した。
こぶだらけな枝を四方に張って、野生そのままに自由に成長している景色が遙か続くのを見ることは、誠に興味が深い。
私は、そう思いながら、気持ちよくその男を見ていたのだが、その男は、木のこぶのような拳をふり上げながら、めし屋の主婦を相手に叫んでいるのだ。
もしまた誤って柱に行き当りひたいこぶを出して泣き出すことあれば、これを叱らずしてかえって過ちを柱に帰し、柱を打ち叩きて子供を慰むることあり。
家庭習慣の教えを論ず (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
縁先えんさきの左横手に寄って柘榴ざくろふしている。この柘榴は槙にも劣らぬ老木である。駱駝らくだの背のこぶのような枝葉の集団が幾つかもくもくと盛りあがっている。
たま/\學校から歸つて來て見ると、老爺さんは鏡に向つて眉間みけんこぶを氣にして居ます。なんでも其瘤は非常に大きなニキビの塊だといふことでした。
その枝はこぶだらけで、奇妙な形をしており、ふつうの木の幹ぐらい大きく、よじれて地面につくほど垂れさがり、それからまた空中にのびあがっている。
「おめさまの留守にな、この子の奴が縁側から這いずり落ちて、コレまあこんなかいこぶをこしれえただよ!」
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
「新聞が邪魔になるのは私等わしらに限らぬと見える。御夫人方にも目のこぶじゃの。面倒なら停止をさそうか。」「そういたして頂きましょうか、ねえ。貴女あなた。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時あちらの隅の方に居た紳士で象皮ざうひ病か何かでおとがひと喉とがこぶで繋がつた男が僕等の横を通つて帰つて行つた。女達は目を下に伏せてをのゝく様な身振をした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
この「赤い」床屋さんはこぶの多いグル/\頭の、太い眉をした元船員の男だった。三年食っていると云った。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
背が低い上に、肉が垂れ下る程もデブデブえ太っていて、その上傴僂で、背中に小山の様なこぶがあるのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
縫い合わせた痕が醜く幾重にも痙攣ひきつって、ダブダブと皺がより、彎曲わんきょくしたくるぶしから土踏まずはこぶのように隆起して、さながら死んだふかの腹でも眺めているような
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「いつかの朝、顔をこぶだらけにして帰って来たでしょう、あの時吉原で、袋叩ふくろだたきに逢ったんですって……言ってくれるなと言ったから言いませんでしたがね。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
うッかり外を歩くと女が打突ぶッつかって来て女のこぶが七つも一緒に出来るというくらいの若旦那だが、すましてゝ其様そんなに安く売る身体じゃアねえと云ってるくらいのもので
「黙らないか。二十八年前三千両の御用金を盗んだ四人組の一人、その左の耳のこぶを取った疵痕きずあとが何より証拠、浜松様の御屋敷に聞き合せての上だ、間違いはない」
あんまりなまけたのでむかしわたくし先祖せんぞ神様かみさまなぐられまして、ごらんのとほ身体中からだぢうこぶだらけになりました
崖には杉の大木にまじって象皮色のけやきの幹が枝をひろげ、こぶだらけのいたやはさいのように立ち、朽ちはてたえのみはおおかた枝葉を落しつくして葛蘿かずらにまかれている。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
一体ならば迎いなど受けずともこの天変を知らず顔では済まぬおまえが出ても来ぬとはあんまりな大勇、汝のお蔭で険難けんのんな使いをいいつかり、忌々いまいましいこのこぶを見てくれ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
眞急な崖へこぶのやうにいくつもぼくぼく出た所に、草鞋で踏んだ樣に土のついたあとがある。瘤へ手を掛け足を掛け登る。お秋さんはそこの窪みに獨で枯木をいて居た。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
頬は肉付いて、むツくらこぶのやうに持上り、眼は惡くギラ/\して鷲のやうに鋭い、加之おまけに茶目だ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
今日は先生から呶鳴どなられた上、むちで頭をひつぱたかれて、細長いこぶをこしらへて帰つて来ました。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)