わざわい)” の例文
天の与える物を取らずんば、わざわいその身に及ぶということがありましたね、あのがんりきというイケすかない野郎の手をかりて、ウブで
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
法海和尚は「今は老朽ちて、しるしあるべくもおぼえはべらねど、君が家のわざわいもだしてやあらん」と云って芥子けしのしみた袈裟けさりだして
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この手紙を開きよみていわく、これを持ち行かばなんじの身に大なるわざわいあるべし。書きえて取らすべしとて更に別の手紙を与えたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
山の手の寺院にあるもの、幸にして舞馬ぶばわざわいまぬかれしといへども、移行く世の気運は永く市廛してん繁華の間に金石の文字を存ぜしむべきや否や。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
貴女のお家にわざわいを致しましたのは……お兄様やお姉様を殺しましたのは、今氷になっているあの美留藻の魂が、貴女に乗り移ってた事……
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
家のぎっしりとつまっている所の狭い街の中に住んでいるとしたならば一度猛火に遭遇した場合には必ずそのわざわいを受けなければならないのだし
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
運の悪いいろいろの事情にわざわいされていたことも考えあわせ、また大器晩成流の家風をも念頭ねんとうに置いたために、深く考えても見なかったのである。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
... すると存外うまく出来たんだ——あとで考えるとそれがわざわいもとさね」「それからどうした」と主人はついに釣り込まれる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風つじかぜとか火事とか饑饉とか云うわざわいがつづいて起った。そこで洛中らくちゅうのさびれ方は一通りではない。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
両国広小路の地本問屋じほんどんや加賀屋吉右衛門から頼まれて大阪の絵師石田玉山が筆に成る(絵本太閤記)と同一趣向の絵を描いた、その図の二三がわざわいして
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
う云う時勢であるから、私はただ一身をつつしんでドウでもしてわざわいのがれさえすればいと云うことに心掛けて居ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
伊弉諾神いざなぎのかみは、そのあとで、さっそく十拳とつかつるぎという長い剣を引きぬいて、女神のわざわいのもとになった火の神を、一うちにり殺してしまいになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
金沢町の油屋の一人娘お春というのは、今年十九のやく、あまり綺麗過ぎるのと、美人にありがちの気位の高いのがわざわいして、その頃にしては縁遠い方でした。
到頭強情で、正太郎をおぶって連れて帰った。さア一つわざわいが出来ますと、それからとん/\拍子に悪くなります。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すでに彼は寺田屋事件の直前、その煽動家的資質がわざわいして従前の同志から除名されていた。「浪士組」組織後はもとの関西同志から裏切者として指弾された。
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
兵火戦乱のわざわいから免れることができるなら、これに過ぎた町の幸福しあわせはない、ついては町役人は合議の上で、十三か町の負担をもって、翌日浪士軍に中食を供し
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一に、そのこころざしを罰し、わざわいを事前にふせぎ、世の禍根を除くため、であろうと、まず推測いたすな。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
下賤げせんの者にこのわざわいが多いというのは統計の結果でもないから問題にならないが、しかし下賤の者の総数が高貴な者の総数より多いとすれば、それだけでもこの事は当然である。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それが先生をわざわいしてゐるのだとおもひます。賢明な先生が何故あんな態度でゐらつしやるのでせう。私はあの当時Tにあてゝ下すつた手紙ですつかりが解つたやうな気がします。
S先生に (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
しかして羅瑪のわざわいまぬかれず。しかれども一日も王者なかるべからず、また一日も教なかるべからず。それ教なるもの人心をおさむるの具なり。心正しければ身おさまる。身脩れば家ととのう。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
しかる時は、汝らは友を苦めその子供をして目潰れるほどのわざわいに陥らしむとの意となるのである。六章二十七節の筆法と照り合せるとき、この見方の方が正しいように思われる。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
人類は幾多の世紀をけみするうちに、いつしかピラミッド形に積まれてしまった。そして高きにある者と低きにある者とを問わず、このピラミッドの内部に置かれた者こそわざわいである。
京都から西の国々の風土は自然の恵みを授かることが深く、天のわざわいを受ける度が少いので、名もない町家や百姓家の瓦や土塀どべいの色にまで、旅人の杖をとどめさせるに足る風情ふぜいがある。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そう自分ばかり責めるのは、早くめた方が、あなたのためにいいですよ。たとい貴方が、全印度の富をことごとく持ってらしったところで、世の中からわざわいをなくすわけにはいかないでしょう。
わざわいもさいわいも運命じゃないか。なぜそんなに心配するのです。」
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「汝は汝の学業に勉めよ。然らずんば汝の上にわざわいあらん。」
上野寛永寺うえのかんえいじの楼閣は早く兵火にかか芝増上寺しばぞうじょうじの本堂も祝融しゅくゆうわざわいう事再三。谷中天王寺やなかてんのうじわずかに傾ける五重塔に往時おうじ名残なごりとどむるばかり。
永「お前は以前もと大家たいけと云うが、わざわいって微禄して困るだろう、資本もとでは沢山は出来ぬが十両か廿両も貸そう」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは大層な波で、船体が三十七、八度傾くと云うことは毎度の事であった。四十五度傾くと沈むと云うけれども、さいわいに大きなわざわいもなくただその航路をすすんく。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「アリストートルいわく女はどうせろくでなしなれば、嫁をとるなら、大きな嫁より小さな嫁をとるべし。大きな碌でなしより、小さな碌でなしの方がわざわい少なし……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火をわざわいといいましたろう、あのくらい、隔てなく愛するものはこの世にはありません、ひとたび火の洗礼をこうむった人には、微塵も未練みれんというものが残らないではありませんか
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「私の家におおきな白蛇しろへびが来て、わざわいをしようとしております、どうかってください」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのおかげで、地の上にはありとあらゆるわざわいが一どきに起こってきました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
もし猛獣、毒蛇をして一舟の中に戦わしめば、人いずくんぞそのわざわいこうむらざるべけんや。しかして諾威の舟アララに漂着する、数月のひさしきを経たりといえり。これあに理をもって論ずべけんや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
◯かくてエホバとサタンとの対話の結果、サタンは神の許可を得ていよいよヨブにわざわいを下すのである。その災は前後二回にわかたる。前の災は彼の所有物に関するもの後の災は彼の生命の脅威きょういである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
空襲の頻々たるころ、この老桜がわずかわざわいを免れて、年々香雲靉靆あいたいとして戦争中人を慰めていたことを思えば、また無量の感に打れざるを得ない。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かつ当時流行の有志者が藩政をもっぱらにすることなくして、その内実は禄を重んずるの種族が禄制を適宜てきぎにしたるがゆえに、諸藩に普通なる家禄平均のわざわいまぬがれたるなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わざわいも三年置けばと申すたとえの通りで、二十五歳にじゅうごの折に逃げて来ました其の時に、大の方は長くっていかぬから幾許いくらかに売払ったが、小が一本残って居りましたから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
千金の堂陲どうすいに坐せずとのことわざもある事なれば、好んで超邁ちょうまいそうとして、いたずらに吾身の危険を求むるのは単に自己のわざわいなるのみならず、また大いに天意にそむく訳である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きに安堵あんどして、今では颯々さっさつとそんな事を人に話したりこの通りに速記することも出来るようになったけれども、幕府の末年には決してうでない、自分からつくっわざわい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ自他の関係を知らず、眼を全局に注ぐ能わざるがため、わが縄張なわばりを設けて、いい加減なところに幅をかして満足すべきところを、足に任せて天下を横行して、はばからぬのがわざわいになる。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
孝助は仮令たとえ如何いかなるわざわいがあっても、それを恐れて一歩でも退しりぞくようでは大事を仕遂げる事は出来ぬと思い、刀にそりを打ち、目釘めくぎ湿しめし、鯉口こいぐちを切り、用心堅固に身を固め、四方に心を配りて参り
こは政府の苛きにあらず、愚民のみずから招くわざわいなり。愚民の上に苛き政府あれば、良民の上には良き政府あるの理なり。ゆえに今わが日本国においてもこの人民ありてこの政治あるなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
刻々とせまる黒き影を、すかして見ると女は粛然として、きもせず、狼狽うろたえもせず、同じほどの歩調をもって、同じ所を徘徊はいかいしているらしい。身に落ちかかるわざわいを知らぬとすれば無邪気のきわみである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども彼の命をあやめにかかったわざわいは、余の場合におけるがごとき悪辣あくらつな病気ではなかった。彼は人の手に作り上げられた法と云う器械の敵となって、どんと心臓をかれようとしたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども詩で染めた色彩と、散文で行く活計かっけいとはだいぶ一致しないところもあって、実際を云うと、これがために下宿を変えて落ちついた方が楽だと思うほど彼は洋杖にわざわいされていなかったのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それと云うのも彼ら自身が金のしゅであるだけで、他の徳、芸の主でないからである。学者を尊敬する事を知らんからである。いくら教えても人の云う事が理解出来んからである。わざわいは必ずおのれに帰る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それがわざわいの元で、互の顔を見ると、互にはじいたくなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)