火焔かえん)” の例文
ところが、ちょうど彼らがこの教会の橋まできたとき、ヘッセ人はぱっと飛びあがり、一閃いっせん火焔かえんとなって姿をかきけしたのである。
彼は五日市町で一睡もしなかったし、海を隔てて向うにあかあかと燃える火焔かえんを夜どおし眺めたのだった。うかうかしてはいられない。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
云い終ると、孔明は、やがて下流のほうに、火焔かえんが天をがすのも間近であろうと、玄徳を促して、樊口の山頂へ登って行った。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神谷の言葉に彼方かなたながめると、いかにも、森の中の怪屋のあたりとおぼしく、一団の火焔かえんが、大きな狐火きつねびのようにメラメラと燃えている。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
(うろついて、手にしているたくさんの紙片を、ぱっと火鉢に投げ込む。火焔かえんあがる)ああ、これも花火。(狂ったように笑う)冬の花火さ。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
兵法ひょうほうに曰く柔よく剛を制すと、深川夫人が物馴ものなれたるあつかいに、妖艶ようえんなる妖精ばけもの火焔かえんを収め、静々と導かれて、階下したなる談話室兼事務所にけり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ボイルはこれに対しては、金属を熱するときの火焔かえんのなかから何かしらある物質が出て、それが金属にくっつくのではないかと考えたのでした。
ロバート・ボイル (新字新仮名) / 石原純(著)
やがてその日も暮れました。夜に入って風は南に変ったとみえ、百万遍、雲文寺のかたの火焔かえん廬山寺ろざんじあたりの猛火みょうかも、次第に南へ延びて参ります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「うん。なぜといって、敵機は、火焔かえんに包まれているわけでもなく、むしろ悠々と地上へ降下姿勢をとっているといった方が、相応ふさわしいではないか」
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは一種の発作のように、突如として彼を襲い、彼の心の中で一つの火花をなして燃え上がり、たちまち火焔かえんのごとく彼の全幅をつかんだのである。
格納庫の巨大な建物が、火を吹いているので、その凄まじい大火焔かえんが、水晶のような氷の肌に映じて、実に壮観。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
面色は青ざめはてて、その息ごとに、その鼻から、その目から、忿怒ふんぬ火焔かえんきでぬことが不思議であった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
さながら、あかいインキをながらすごとく、またしげなくげられた金貨きんか燦然さんぜんとしてぶごとく、火焔かえん濃淡のうたんよるあおざめたはだうつくしくいろどっていました。
火事 (新字新仮名) / 小川未明(著)
然しトルストイは最後の一息を以ても其理想を実現すべく奔騰ほんとうする火の如き霊であると云う事が、墨黒すみぐろの夜の空に火焔かえんの字をもて大書した様に読まるゝのです。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
生きようとは思わないのだから、こわいものはない。剣をれば死ぬ気だから、じぶんをまもろうとしない。攻め一方の、じつに火焔かえんのごとく激しい剣法であった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
並木の通りを荷物の山を越えて逃げ雷門へ来て見れば、広小路もはや真赤まっかになって火焔かえんうずを巻いている。
やがて米国の東の海岸に沿うた地方は日が暮れた、その時は早や火焔かえんの大きさが、半時間前よりは二倍になり、その明るさは先ず四倍とも云うべき様になっていた。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
八百の間ことごとく火焔かえんにつつまれ、それを越えようとすれば黒鉄くろがね身体からだでもとけてしまうという火焔山では、孫悟空は羅刹女らせつにょ芭蕉扇ばしょうせんにあおられてひどい目にあった。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
と、どうしたことか四日目の晩、船はにわかに火を発して見る見る火焔かえんにつつまれてしまった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
離すまいとすれば肩が抜けるばかりだ。自分は七番目の梯子の途中で火焔かえんのような息を吹きながら、つくづく労働の困難を感じた。そうして熱い涙で眼がいっぱいになった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのさいみことには、火焔かえんなかちながらも、しきりにひめうえあんじわびられたそうで、そのかたじけない御情意おこころざしはよほどふかひめむねにしみんでるらしく、こちらの世界せかい引移ひきうつって
ところでこの夜袴広太郎は、城之介のために誘拐され、傾城塚の中にいた筈だが、その運命はどうなったかというに、女達と一緒に火焔かえんをくぐり、塚から外へ逃げ出したのであった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一度燃えついた火焔かえんのいきおいは、積みあげた木の間にいまわっていた。湿りけをぱちぱちとはじきだすのだ。あぶりだされてまっ赤になった戸田老人は、あきらかに生気を取り戻した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
花鳥、果実、獣などやると、次に水とか火焔かえんとかを稽古し、最後に人物をやる。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
空襲のサイレンとともに背負ってごうへ入る。いざというときはこれだけを持って火焔かえんの中を逃れようと覚悟していた。むろん最後の場合には、原稿は僕の肉体とともに消え去るであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
幼いころに浅草寺せんそうじの虫干しで見た地獄絵のような、赤いおそろしい火焔かえんがめらめらと舌を吐くさま、ふりみだした髪の毛から青い火をはなちながら、その火焔の中へとびこんでゆく女の姿
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
のちには閉口して白い丸石を囲炉裏いろりに焼き知らぬ顔をして食わせて見ると、火焔かえんを吹いて飛びだして去ったとか、またはそのたたりで大水が出たのが年代記にあるところの白髭水しらひげみずだなどと
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
物語をしながら上下左右自由自在に絵を描いて行く、白狐びゃっこなどは白い粉で尾のあたりからかいて、赤い舌などもちょっと見せ、しまいに黒い粉で眼を点ずる、不動明王の背負う火焔かえんなどは
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
席と席とは二三尺を隔てて、己の手をかざしているのと、奥さんに閑却せられているのと、二つの火鉢が中に置いてある。そして目は吸引し、霊は回抱する。一団の火焔かえんが二人をつつんでしまう。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すさまじい火焔かえんの中に、あの数人の全裸体の美少女が、右往左往するさまは、まるでそれが火の精であるかのように、美しく彩られて、海浜都市のKの丘の上に、妖しい狂舞が続けられていた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
彼女はひいひい火焔かえんのような息をはずませていたが、痛みが堪えがたくなると、いきなりねあがるように起き直った。それでいけなくなると、蚊帳かやから出て、縁側に立ったり跪坐しゃがんだりした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
地獄変相図にあるような大火焔かえん車が一台、縁がわから座敷へはいるとみるや、六尺あまりの赤鬼、青鬼、鉄棒をつきならして飛びこみ、やおら主人庄兵衛のえりがみとってその火焔車にほうりあげ
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
病人の左右の耳から青龍が出て口より火焔かえんを吐き、清行に向って云うのに、自分は生前尊閣の諷諫ふうかんを用いなかったゝめに左遷のき目を見、筑紫の空に流寓るぐうして果敢はかない最後を遂げたのであるが、今
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
火焔かえんうちに坐してけがれし祭典まつりする悪魔の王が
爛々らんらんたる火焔かえんはきすっくたったる
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
船頭はンまりをつづけ、ただだけを鳴らしていた。しかし岸をたどり歩いて、兇暴な火焔かえんと人群れの影はどこまでもくッついて来る。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怪物の両眼はまるで青いほのおのように燃えているではないか。彼の情慾じょうよくにつれて、その火焔かえんが刻一刻燃えさかって行くではないか。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
嘘の三郎の嘘の火焔かえんはこのへんからその極点に達した。私たちは芸術家だ。王侯といえども恐れない。金銭もまたわれらに於いて木葉の如く軽い。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
おおらかな感銘のただよっているのもつかで、やがて四辺は修羅場しゅらじょうと化す。烈しい火焔かえんの下をくぐり抜け、叫び、彼は向側へつき抜けて行く。向側へ。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
やがてその日も暮れました。夜に入つて風は南に変つたとみえ、百万遍、雲文寺のかたの火焔かえん廬山寺ろざんじあたりの猛火みょうかも、次第に南へ延びて参ります。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
ボイルはこの場合に熱する火焔かえんのなかから何かある物質が出て、金属にくっつくのではないかと考えたのでした。
ラヴォアジエ (新字新仮名) / 石原純(著)
それをきっかけに、空魔艦のねらいはますます正確になっていって、一機またつづいて一機もうもうたる火焔かえんにつつまれ、いずれも地上におちていった。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白雪 (じっと聞いて、聞惚ききほれて、火焔かえんたもとたよたよとなる。やがて石段の下を呼んで)姥、姥、あの声は?……
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人々は、半狂乱になって、我先に、こちらへけてくる。それが、火焔かえんの明りではっきり認められた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
こんもりとした常磐木ときわぎはやしの、片面かためんだけが火焔かえんらされて、あかるくているのがえました。
火事 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さながら火焔かえんに包まれたように輝いている遠い小窓や、さてはくろずんできた運河の水を、機械的にながめていたが、とりわけこの水を注意深く、じっと見入っているようであった。
次は火焔かえんという順序で段々と攻めて行くのである。この不動様の三尊を彫り上げるということは彫刻の稽古としては誠に当を得たものであって、この稽古中に腕もめきめき上がって行くのです。
恐しい火焔かえんが闇をつんざいた。轟然ごうぜん! 轟然! 轟然‼
梟谷物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いたのは錆刀さびがたな、身をかわして火の閃条を切りはらったが、なんの手ごたえもなく、ジャリン! とふたたび鳴っておどる火焔かえん車輪独楽しゃりんごま
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまやテッド博士以下を赤い火焔かえんせしめ、『宇宙の女王クィーン』号の救援隊をここに全滅せしめてやろうと、かれは覆面の間から、ぎょろつく目玉をむきだし
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)