すこし)” の例文
取調べの結果、机の上には遺書と見るべきものが置かれてあって、他殺らしい形跡がすこしも認められなかったので、翌日埋葬を許可された。
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
神の台前に出ることに何の関係もないことです、教会の皆様を思ふ私の愛情は、すこしも変はることが出来ないです、老女おばさんは何時いつまでも老女さんです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
両手で頬杖ほおづえしながら匍匐臥はらばいねにまだふしたる主人あるじ懶惰ぶしょうにも眼ばかり動かして見しが、身体からだはなおすこしも動かさず
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
遊女から振られた腹癒はらいせに箪笥たんすの中にくそを入れて来たことなどを実験談のようにして話しているが、まだ、少年の私がいてもすこしも邪魔にはならぬらしい。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
かれかべもない小屋こやつくために二ばかりのあひだすこしかへりみるいとまがなかつたほどこゝろいそがしかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ただ二人、ねやの上に相対し、新婦はきっ身体からだを固めて、端然として坐したるまま、まおもてに良人のおもてみまもりて、打解けたるさますこしもなく、はた恥らえる風情も無かりき。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上略当夜お良は所夫おつとの身に怪我過ちのあらざるやうにと神に祈り仏に念じ独り心を痛めしが、やがて龍馬は一方を切抜け逃去りしと新撰組の噂を聞きすこしは安心したけれども
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
改め越前守殿何故に天一樣を似者にせものと云るゝやと尋ければ越前守されば似者に相違なきは此度將軍へ伺ひしにすこしおぼえなしとの御事なれば天一は似者に紛なしと云ふなりと山内是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夫はこれほどの志望こころざしになうに、すこしも不足のない器量人であると、日頃の苦悩も忘れ果て、夫の挨拶のことばの終りに共にうやうやしく頭をさげると、あまりの嬉しさに夢中になっていたために
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
則ち今度の土地解放なるものがすこしも小作人の現在組織の行詰まりより来る痛切なる自覚せる欲求に基づいて手放され獲得したる結果でなく、温情的に与へられたる土地であるのだから
狩太農場の解放 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
イヤ許す、其様そんな事はすこしかまはぬ、トントンうぢやナ。井上「ア、うもいたうござります、さう無闇むやみにおたききなすつちやアたまりませぬ。殿「まアだまつてれ、アヽこれ余程よほどねつがある。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
母の肉身しんみの弟ではあつたが、顔に小皺の寄つた、痩せて背の高い母にはすこした所がなく、背がずんぐりの、布袋ほていの様な腹、膨切はちきれる程酒肥りがしてゐたから、どしりどしりと歩くさま
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と余計な返答に及んだが、私はすこしもたじろがない。
懸河けんが滔々たう/\たる老女の能弁をひげを弄しつゝ聴き居たる篠田「老女おばさん、其れは何事ですか、わたしにはすこしもわかりませぬが」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しか自分じぶんでもとき自分じぶん變事へんじおこらうとすることはすこし豫期よきしてなかつた。かれ圍爐裏ゐろりそばで、よるむしつめたにあたりながらふとかはつてついとにはた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
また、医学の書生の中にもすこしも医学の勉強をせず、当時雑書を背負って廻っていた貸本屋の手から浪六なみろくもの、涙香るいこうもの等を借りて朝夕そればかり読んでいるというのもいた。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
つかんで息絶いきたへたりお光はほつと長息といき夜具やぐかい退のけてよく/\見れば全く息は絶果たえはてて四邊は血汐ちしほのからくれなゐ見るもいぶせき景状ありさまなり不題こゝに大藤おほふぢ左衞門は娘が出しをすこしも知ずふしてを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
浮いたところのすこしもない、さればと云つて心鬱した不安の状もなく、悠然として海の廣みに眼をる體度は、雨に曝され雪に撃たれ、右から左から風にめられて、磯馴の松の偏曲もせず
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それを思うと、君は腹立たしい気になるかも知れぬが、僕は然し、北沢が投書を依頼したという人にはすこしも興味を感じなかったのだ。それよりも北沢の唯一ゆいつの目的が知りたくてならなかった。
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
案内して是より直に汝が家へ老衲を連れて行ては呉れぬか、とすこし辺幅やうだいを飾らぬ人の、義理すぢみち明かに言葉渋滞しぶりなく云ひたまへば、十兵衞満面に笑を含みつゝ米くごとく無暗に頭を下げて、はい、唯
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
助七はそれらの事にすこしも心づかず
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「何もおつしやつて下ださいますな」と篠田は目を閉ぢつ「現社会の基礎にをのを置きつゝある私共が、其の反撃にふのは、すこしも怪むに足らぬことで御座います」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ひとさわやかなみどりあたへられた大根だいこんも、いく成長せいちやうしてもつよめる晩秋ばんしうけてにひつゝくやうにしてやつなゝめひろがるのみで、すこしでもたかのぼることを許容ゆるされてらぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
浮いたところのすこしもない、さればと云ツて、心欝した不安のさまもなく、悠然ゆつたりとして海の広みに眼を態度こなしは、雨にさらされ雪に撃たれ、右から左から風に攻められて、磯馴の松の偏曲ひねくれもせず
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
して見るとすこしも精神異常の徴候はあらわれて居らなかったのであって、そのような時機にはたとい暗示を与えても自殺をせぬというのが僕の説なのだ。ところがそれを狩尾君は人間実験で破ったのだ。
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ば爲ん物と朝暮思ひ消光くらしけるが長三郎は若きに似氣にげなくうきたるこゝろすこしもあらで物見遊山は更にもはず戸外おもてへ出る事をきらひたゞ奧まりたる一室ひとまこもり書籍をひもと讀事よむことを此上もなき快樂たのしみと爲しつゝ月日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)